第23話︎︎ 憧れを抱いて
翌朝、俺はまたいつの間にかベッドに寝ていた。ぼーっとする頭に、微かだが昨日の記憶が蘇る。
昨日、あの採石場で魔術の訓練をやっていたら、つい没頭してしまって、MPがすっからかんになったんだっけ。だってさ、すっげー面白いんだもん魔術って。なんで人気ないんだろ。
今俺が覚えている魔術は火、水、熱、風、地、光、闇のレベル5までだ。これはヒューゼントに教えてもらった。ギルドで使う予定だった魔術書の金が浮いたのはありがたいけど、俺、まだレベル2だからね?
実際に使えるのは1頁までの魔術だ。4以上の頁に載っている魔術はグレーで表示されていて使えない。
そもそも魔術の使用制限というものがある。自身のレベルが1であれば、1頁目が問題なく使える。これは冒険者に限らず、魔術書を読んだり、師匠がいれば覚える事ができるんだけど、それ以降はレベルキャップが設けられている。
2頁目以上はレベルが5の倍数で解放されていく。この辺もなんかゲームっぽいよな。
だから使える範囲で色々試した。MPの調整、長時間の維持、同時使用、広範囲展開、凝縮、拡散。ヒューゼントに習った事に加え、漫画やゲームで仕入れた知識も総動員だ。
特に同時使用が面白い。あの大魔導士を知ってる奴なら誰でも試したいであろう、極大呪文。そして禁呪法。
結果から言えば、禁呪法は真似ができた。5つの炎を指に灯す事に成功。もう鳥肌もんだよ。思わず叫んじゃったね。
でも極限呪文の方はダメだった。2種類の魔術を展開する事はできるけど、どうしても混ざらない。だけど面白い現象が起きたんだ。
まず火と熱。熱属性の魔術は温度を操る。だから氷を出すには熱魔術を使わなきゃならないんだ。魔術をマイナスに働かせて、大気中の水分を凍らせる。ここで問題が起きた。
火も熱なんだよね。ある意味同じ属性って事。熱魔術をプラスに働かせると逆の現象で大量の水蒸気が発生する。火は出ないけど、高温にはなるって訳。
これは水魔術にも言える事で、水とプラスの熱を使っても、結局は水同士になってしまう。対極の魔術が存在しないんだ。
光と闇も同じ。光を使えば必然的に闇ができて意味が無い。風と土も対極とは言えないしね。
そこで試したのが火と風。
これは正直ヤバかった。
火を風が煽って、火災旋風みたいに渦巻いたんだ。実験を繰り返してMP切れ寸前だったから大事にはならなかったけど、全力でやったらフレンドリーファイア待ったナシ。大きな戦場とかでしか使えないわ。
あとは水と土。こっちは底なし沼ができた。採石場に大穴開けちゃって、丁度MPも尽きたし陽も暮れたから逃げて来ちゃったけど……今日、どうなってんだろ。ちょっと怖いな。
そんで、やっぱりカンパニーハウスの門でぶっ倒れて、今に至る。
あー……またメイムに礼言っとかないとな。俺を運べるのはメイムくらいだし、2日続けて迷惑をかけてしまった。帰りの気力は残しとかないとダメだね。
まだ重い体を起こすと、ノックが響きイルベルが入ってきた。寝ぼけ眼で見やると、呆れたように笑う。
「おはよう、ルイ。その分じゃ、昨日もやりすぎたのか? 訓練に励むのも良いけど、あまり無理はするなよ。うちの貴重な戦力が減ってしまう」
そう言って背中をバシバシと叩かれた。
「痛い、痛いってイルベル!」
抗議の声を上げる俺にも、笑顔を崩さず頭をぐしゃりと撫でられる。
「お、今日は言い返す気力があるんだな。まだたった2日なのに、凄いじゃないか。やっぱり勇者に選ばれるだけはある。その調子なら、自分で降りてこられるよな? もう朝飯ができるぞ。……今日もキーナが当番だけど、ちゃんと言って聞かせたから。話し合いにも、応じるそうだ」
最後は優しい声音で囁く。俺は少し気まずくて、俯いてしまった。
キーナと、ちゃんと話したい。そうは思っても、相手にも譲れないものがある。思い通りになんていく訳ない。
それでも。
俺はシーツをきつく握って、頷いた。
「分かった。ありがとう、イルベル。俺、ちゃんとキーナと話すよ。同じカンパニーの仲間なんだ。しこりは残したくない」
ベッドを降りて、イルベルにしっかりと視線を合わせた。




