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おいおいおいっ! なんてこった!


(おいおいおいっ! なんてこった!)


 ユナは目の前の光景に心の中でそう叫んでいた。


 今回このパーティーでの任務はダンジョン深層部での偵察だった。

 国にはたくさんのダンジョンが存在するが、中でもユナのいるダンジョンは、近ごろ深層ボス討伐が国をあげて計画されている。


 ダンジョンは上層部、下層部、深層部と大きく区切られ、難易度は深層部に行くに連れて難しく、危険を伴う。

 もちろん深層ボスがいる場所は深層部の更にその先。

 最難関地帯である。


 ボス戦に向けて、いかに体力を温存した状態で辿り着くことが出来るか。

 そこが攻略の鍵となる。

 その為、深層部がどのような地形なのか、ボスのところまでの最短ルートだったり、どういう魔獣が現れ、どういう傾向があるか、その攻略方法などなど、事前に調べなくてはいけない事がたくさんある。

 その調査の仕事が、ギルドに依頼されているのだ。


 ギルドは、冒険者達に仕事を与える、国に認められた大きな組織である。

 冒険者達はそのギルドに申請し、登録することで、ライセンスカードを発行してもらい、そこで初めて仕事を請け負うことを許される。


 基本的にギルドは、ライセンスカードに登録された情報を確かめ、能力に見合った仕事を任せている。

 個人ではなく、パーティーの場合でも総合的なレベルを見極め、それに合わせて仕事を任せていると思われる。

 なぜなら、弱い冒険者、弱いパーティーに難しい仕事を任せても、無駄死にさせるだけだからだ。


 そして今回のパーティーはそんなギルドに()()()()()選ばれた人達のはずであり、深層部からボスのいる部屋までの調査を請け負っていた。


 そんな重要な任務に、入社一年目のペーペーが行ってもいいのだろうかと、ユナは少し疑問にも思っていた。

 ユナ自身、深層には二回ほど足を運んでいたが、いつもベテランの先輩が同行してくれていた。

 しかし、今回は一人である。

 それも、ポジションは専門外である後衛ポジションの魔女である。

 足手まといになる可能性が充分にあった。

 

 が、そんなユナの考えは深層部中盤に入ってきてから一気に消し飛ぶ事となる。






「ゴーレムだ! それも三体同時っ!」


 ユナ達の前に「ゴオオオォ」という大きな音をたてながら、巨大な土人形が姿を現した。

 光が乏しい空間の中、ゴーレムの赤い目の光が異様に際立って見える。

 土埃が舞っているのか、呼吸をするたびに鼻の中に土の臭いが入ってくるので、反射的にむせそうになった。


「うぉぉおおおおおおっ!」


 視界があまり良くない中、前衛アタッカーのダニスが雄叫びを上げながら、威勢よくゴーレム達に向かって走って行った。

 動きの速いこちら側に比べ、体が大きなゴーレム達は動きが鈍い。

 が、その分繰り出される攻撃一つ一つにパワーがあり、何よりも体が頑丈だった。


「ゴキンッ!」


 ダニスが振るった剣の刃がゴーレムの足にヒットすると同時に、鈍い音をたて跳ね返される。


「ぐあぁっ! くそっ!」


 どうやら足を削いで動きを止めようという算段だったようが、全く効かなかったようだ。

 むしろ剣の方が刃こぼれでもしてしまったのではないかと、ユナは心配になる。

 ダニスは自分の渾身の一撃が全く刃が立たなかったことに、だいぶメンタルを削がれた様子だった。


 レオもタンクとして必死にヘイトを取り、こちらに注意を引き付けていたのだが、相手が手強い上に三体もとなると、その効果は保てない。

 攻撃されたゴーレムの視線が動き、次の瞬間、困惑した表情で一瞬動きを止めてしまったダニスに大きな拳が向かい始めた。


「危ないっ!」


 ユナはそう叫んだ。

 ダニスにゴーレムの攻撃が迫る中、レオが瞬時に飛び出し、間に入って攻撃を食い止めようとする。

 が、流石に無謀すぎた。


水の(ウォーター)(アフロース)!」


 ユナはレオを援護するように、ドーム状に成形した水のバリアで二人を覆う。

 一ヶ月で獲得した、水魔法系の防御魔法である。

 が、短時間で発動しただけあり、完全な強度では無かった。


 ゴーレムのパンチが起こした風圧がバリアに当たり、ドーム状の表面を震わす。

 次に、ゴーレムの拳本体がバリアに到達したところで、その力に耐えかねユナの魔法が消滅した。

 勢いを殺しきれなかったパンチがレオの盾に当たり、頑張って耐えようとするも、虚しく二人の姿は吹っ飛んでいく。


「ドドォーン!」


「キャーッ!」


 二人の体が水晶で覆われた壁にめり込むのとほぼ同時に、斜め後ろから女性叫び声が響いた。


「ヒーラーっ! 早く二人に治癒魔法を!」


 ゴーレム達を視界から外さぬような角度で、斜め後ろに控えているエミリーに向かってユナは叫ぶ。

 吹っ飛んだ二人の体は、重力に負けて地面に叩きつけられ、立ち上がる様子はない。


 微かに動いている様子はあるので死んではいない。

 いや、これくらいで死なれては困るのだが。

 しかし、どう考えても戦闘に直ぐに戻れる状態ではなさそうだった。

 頼みの綱は、ヒーラーであるエミリーの治癒魔法である。


(直ぐに回復しなくては!)


 しかし、一向にエミリーが動く気配がない。


「ヒーラーっ!」


 自然と強い口調でユナはそう叫んだ。

 これは非常事態だと、本能が警告を鳴らしている。

 なのに…………。


「ふぇっふぇっふぇーーーーーーんっ」


 斜め後方からドデかい泣き声が、ダンジョン深層部の空間に響き渡り始めた。

 あまりの事態に、ユナは自分の耳を疑い、完全にゴーレムから視線を外して後ろを振り返った。

 目線の先には、膝が崩れ落ち泣き喚く少女がいた。


(ウソ……でしょ……)


 ユナは茫然と立ち尽くし、嗚咽を隠す事なくボロボロと涙を流すエミリーを見下した。


(仮にも、ギルドからこの仕事を請け負った、パーティーのヒーラーだろうが!)


 同業には厳しいユナである。

 相手がいくら美少女であっても、ここは命の危機が迫った戦場である。

 甘やかすつもりはさらさら無い。


(清楚系ヒーラーっ! お前のプライドどこいった!)


 が、クライアントの信頼第一である為、説教したい気持ちをグッと堪える。

 何よりも、今は緊急事態だ。

 怒る時間すら命取りになるので、非効率な事は避けなくてはならない。


 ユナは現実逃避したくなる精神を、心の中でガシッと掴む。

 今ここで逃げ腰になったら、間違いなく命が終わるだろうという死への直感があった。

 せっかく安定した職業についたのに、こんなところで死んでは報われない。


「召喚士っ! ゴーレムの動き食い止めててくださいっ!」


 使い物になりそうな戦闘員は、もはや一人だけである。

 あわあわしながら何もしていない召喚士テオに向かって、ユナは叫ぶ。


「むむむむっ無理ですよぉぉぉぉーっ!」


「私も援護しますからっ!」


 ユナは「この根性無しが!」という言葉を飲み込みながら、ゴーレム達の足元に魔法陣を出現させる。


氷の(アイス)拘束(ガーディオ)!」


 凍てつく氷が、ゴーレム達の足を凍らせる。

 ゴーレム達を足止めしたユナは、泣き叫ぶエミリーの手を有りったけの力で引っ張り上げ、他二人の元へ走る。

 ゴーレムの動きの遅さが功をそうし、次の攻撃が来るまでに二人の元へたどり着くことが出来た。

 メガネ召喚士テオもなんだかんだ言いながら、必死に役割を果たそうと闘い始めた。

 と言うより、恐怖に支配され死に物狂いになっている。それでも、働かないよりはマシであろう。

 テオのそんな様子を確認したユナは、ゴーレムから視線を逸らし、いちるの望みをかけて負傷した二人に叫ぶ。


「お二人っ! まだいけますかっ!」


 来る前に散々治癒魔法は使うなと言われていたが、これは緊急事態。

 肝心なこのパーティーのヒーラーが使い物にならないこの状態では、どうしようもない。

 それに、ユナには負傷者を前にして治癒魔法を使わないという選択肢は存在しなかった。


回復(ヒーリング)!」


 ユナは二人の治療に専念し始めた。

 が、ゴーレムの次の攻撃は直ぐそこまで迫っている。


「うぉぉおおおおっ! 僕もう限界ですぅぅっ!」


 テオがそう叫ぶ。


(お願い、間に合って!)


 治癒魔法で応急処置を施した二人の体は、完治はしていないもののだいぶ痛みは和らいだはず。

 ユナは習得したてでまだ慣れていない魔法の連発と、治癒魔法のダブルワークでだいぶ魔力を消耗してしまった。

 心許ない戦いっぷりではあるものの、ぶっ通しでここまで耐えてくれているテオも、だいぶ限界が来ているはず。


「すみません。あとは頼みます」


 ユナは治癒魔法で回復させた二人にそう伝える。


 が、………。


「……無理だ。僕の剣じゃ歯が立たないっ」


「俺の盾もあと一回でもあの攻撃くらったら粉々になる……」


(おいおいおいっ! なんてこった!)


 どよーんとしたオーラが、二人を覆っている。

 ユナはゴーレムの攻撃が迫っている事も忘れ、思わず頭を抱えて上を見上げるのだった。


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