ユナ・マヨルカの物語
絶体絶命。
ユナ・マヨルカは迫りくる死への恐怖と、押さえきれられない怒りの中にいた。
ダンジョン任務中に現れたゴーレム三体を前に、同じパーティーの冒険者達は再起不能となっている。
「……無理だ。僕の剣じゃ歯が立たないっ」「俺の盾もあと一回でもあの攻撃くらったら粉々になる……」
戦意が消失してしまい、どんより空気を纏っている剣士とタンク。
「ふぇっふぇっふぇーーーーーーんっ。こわいよぉ〜〜〜〜」
ただワンワンと泣き散らすだけの似非ヒーラー。
「うぉぉおおおおっ! 僕もう限界ですぅぅっ!」
パニック状態で頼りない召喚士。
(おいおいおいっ! なんてこった!)
カオスな光景は、ユナを絶望の淵に立たせるには充分すぎた。
このままでは全員が殺される。
(死ぬ? 私、死ぬの?)
(そんなの、そんなの絶対に嫌!)
絶望の暗闇に真っ赤な炎が灯る。
まだ何も成せていないではないか。
最強のヒーラーとして、七聖人に選ばれたい。
そう思ってずっと頑張ってきたのに、まだ何も爪痕を残せていない。
なのに、こんなところで死ぬの?
(冗談じゃない!)
死んでたまるかと、ユナは生き抜くために動いた。
「日頃の恨み、ここで消化させてもらうっ!」
そう叫び、巨大な岩の化物に向かって駆け出したユナの手には、なぜか一振りの剣が握られている。
小柄な体を飛躍させ喉が潰れそうなほど叫びながら、舞うようにして剣をゴーレムの体に落とす。まるで、元から剣士であったかのように違和感のない動き。
ユナは青い瞳を猛獣のように鋭く光らせながら、ゴーレム三体を相手に互角以上の戦闘を繰り広げていく。
確認しておくが、これは決して剣士の物語ではない。
一人の少女が、理不尽な世界で生きながら、最強のヒーラーに成るまでの物語である。