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煌神、降臨しました!?

 笑みを消したお父様は、床を蹴る。集中的に足の筋力を補助した、省エネ、かつ最大限の効果を生んで魔力を使う。


「!」


 目の前にはもう、ルーグゼオンの顔がある。お父様はすでに右腕を振り抜いていて、その手刀には鋭い風の刃が纏われていた。


 首が落ちる所なんか、もちろん見たくない。……けど、意識を逸らすのは止めた。

 見なくちゃいけない。自分の選択として。


 いつかきっと、わたし自身が誰かの首を落とさなきゃいけないときが来ると思うから。

 風の刃は首の肉に食い込んで――


「む」

【あれ】


 お父様は警戒の声を上げて、わたしにも違和感が伝わってきた。

 そのまま腕は振り抜かれて、ルーグゼオンの身体は吹っ飛んだ。


 ……でも、切れてない。

 事実ルクセリオは空中で態勢を整え、手と膝を突いて床に着地。すぐに立ち上がる。


「やれやれ。己の血を分け与えた肉とは言っても、移るのは随分と窮屈なものなのですね」


 言って、首のあたりの髪を掻き上げる仕草をした。

 ただ、ルーグゼオンの身体だと、そこに髪はないけれど。


「メージエーラ……」

「お久し振りですね、ヴレイスベルク。我が半身」


 言って煌神――メージエーラは自分とお父様を見て、苦笑する。


「わたくしは女となり、貴方は男となって分かたれた。そのわたくしたちが真逆の性を持って邂逅するとは、何とも不可思議なものですね」

「ふん。不思議でも何でもない。ただの偶然だ」


 お父様はメージエーラの言葉を、鼻で笑って流した。

 態度には表れていないけど、内側にいるわたしには分かる。


 お父様、焦っていますね……?


(この肉体で、メージエーラの使う煌使の肉体に勝てるか、分からん)

【やっぱり!】


 向こうは意図的に血の量を調節して、自分が使うために生み出した器だもんね!? 極少ない肉片だったから、たまたま煌神の目をすり抜けたわたしとはわけが違う。


「ここしばらく、貴方が心臓を留守にすることが多いのは分かっていましたから。近く、こうして見えるとは思っていましたよ」

「ちっ……」


 圧倒的優位に立ってるのに、本当に警戒解いてないんだ。


「さあ、散歩は終わりです。大人しく我が手の中で、静かに息をしていれば良い」

「いつまでも己の思い通りになると思うな、痴れ者が!」

「うふふ。わたくしの思い通りにならなかったことなど、これまで一度もない。起こり得ぬことを想像しろとは、何とも無駄な話」


 小馬鹿にするように笑って、メージエーラは軽く手を振った。空間が歪んで、一振りの剣が現れる。

 視線も向けずに、メージエーラは柄を過たず掴んだ。


 ……掴み損ねたら、ちょっと面白かったのに。つい、そんなことを考えてしまう。

 メージエーラに対して好感がないからだな。でも性格は悪い。これはわたしの心の中に仕舞っておこう。


(お前は本当に、余裕があるな)

【内側にいるからでしょうか。プレッシャーとか感じないんですよ】


 まずくないって思ってるわけじゃないよ? ……本当だよ?


【でも、お父様。状況も変わったし、ここは撤退あるのみかと】


 別にルーグゼオンやメージエーラを倒しに来たわけじゃないからね。アルディスさえ連れて帰れれば、仕切り直すのは可能でしょう。


(連れて逃げるのは、現実的ではない)

【え】


 ま、待って。何その不穏な言葉。


(そいつも覚悟をしていただろう。ここで口を封じねば、ヴァルフオールの場所が知られる。そうでなくとも、楽に殺してやるのは慈悲と言うもの)


 メージエーラ本人が乗り出してきたのは、ヘルゼクスさんにも予想外だったのかも。多分、掛けられてる口封じの呪紋もメージエーラなら解除できる……気がする。力の差で。


(ヴァルフオールの場所が知られれば、待っているのは虐殺のみだ)

【っ……!】


 否定できない。

 でも、でも――!!


 迷っている間に、お父様は魔力を風の刃にしてアルディスを見る。そのお父様の動きを見て、メージエーラも何をしようとしているかを察したようだった。


 力強く床を蹴る。


「逃しません」


 メージエーラにとっても、アルディスの持つ情報は価値があるんだろう。お父様が殺す前にと、こちらを仕留めに掛かってくる。


 メージエーラが持つ輝く剣の刀身に、魔法陣が浮かび上がった。応じて周囲の気温がぐっと下がり、氷の粒が光を反射してきらきらと輝く。


「ちィッ!」


 作り上げた風の刃を、お父様が放った。

 軌道上にあった氷の粒が切り裂かれて消失したけど、アルディスまでは届かない。そして削った分も、すぐにメージエーラの煌気によって補充される。


 優美とさえいえる動きで、メージエーラは手を振り上げた。氷が一気に集合し、巨大な冷気の塊になる。

 一粒一粒が鋭利な角を持っているから、これはもう、氷の巨大トゲハンマー……。


「はッ!」


 柄を握った両手に力を込め、メージエーラは氷トゲハンマーごと剣を振り下ろす。


 お父様が、火を使って相手の冷気を減衰させようとしているのが分かる。でもそれじゃあ多分無理! 質量が違い過ぎる。お父様も分かっていると思うけど!


 力じゃダメ。だったら……。

 脳裏に一閃、映像が走る。ヘルゼクスさんが人々を地面に押さえ付けた重力操作。


「悪くない!」


 わたしの思考を読み取ったお父様が、すぐさま魔法を切り替える。


「!?」


 あらぬ方向から重力が懸かったメージエーラの一撃は、やや軌道を逸らした。纏っている質量が大きいだけに、外れた軌道を修正するのも難しい。


 それでも面は脅威。やや軌道を逸らしつつも、まだ当たる範囲を見事に見切ってお父様は身を屈めてやり過ごした。


 その隙にと、視線がアルディスを向いたので。


「それはナシ!」


 つい、力を込めて叫んでしまった。

 って今、口から言葉が出た! 入れ替わってる!


 やばやばやばっ。わたしにメージエーラの相手は無理だって!


「何をやっているのだ、お前は!」

【ごめんなさーい!】


 すぐさま、お父様と交代。

 いやでもだって、わたしアルディスを助けに来たんだもん。殺しに来たんじゃないから!


(状況を見ろ。あれのことは諦めよ!)

【分かってるけど、諦められません!】

(この……!)


 お父様は苛立った感情を向けて来るけど、メージエーラの追撃に言い合いをしている暇はなくなった。

 重力操作と身体能力をフル活用しつつ、どうにか一撃一撃を捌いていく。


(では、どうする!)

【……実は、一つだけ考えている手はあります】


 ものすっごく人任せで、不確定だけど。――同時に、確信もあるんだよね。

 ただ、わたしとルーグゼオンの身体能力差的に、チャンスは思いっきり意表を突いての一回だけだと思う。


(よかろう)


 え、何が?


(これより、我はお前の思考を読まん。機を得たと思ったなら、お前の意思で行動を起こせ!)


 一方的に宣言をして、お父様はわたしにも向けていた意識をメージエーラへと全振りした。


「おや? 逃げないのですか?」

「癪なのでな。貴様の余裕を打ち砕いてから撤退するとしよう」

「それは、楽しみなこと」


 やれるものならやってみろという、お父様の言葉じゃないけど癪な余裕で笑われてしまう。

 うん! わたしも打ち砕いてやりたいです、お父様!


 表の攻防はお父様に任せて、わたしは内側で集中してみる。

 多分大丈夫……だと思うんだけど、全然見込みがなかったら別の手段を考えないといけない。


 よく集中して。感じ取れ。大丈夫、できるはず。

 だって『それ』は、わたしと同じものなんだから。しかも考えが正しければ、もう近くにあるはず。


 ややあって、意識の中で触れたのが分かった。

 やっぱり、近い!


 認識した途端に、こちらに向かって来る速度が上がった。わたしが呼応したときに、向こうでも何かしらの反応が起こったんだろうか。

 何にしてもありがたい。

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