表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/27

タイトル回収です

「どーするのー。殺っていいのー?」


 一連の流れには丸きり興味なさそうな様子で、エスティアが訊ねる。というかエスティア、もう飽きてるね?


「ああ、殺せ」

「駄目!」

「ええぇー?」


 真逆に分かれたわたしとヘルゼクスさんの答えに、エスティアは面倒そうに唸る。


「ヒルデガルド様! お聞き分けください!」

「嫌です! 自分の意思をさくっと無視されてはいそうですかとは言いたくないです!」

「貴女のためです。私は主より貴女を護り、支え、教え、導く命を与えられています。一体何が不服だというのですか」


 不服しかないよ!? だって話し合う機会さえ潰されたからね!

 よし、分かった。協力者として招くのは一旦諦めよう。でも、命は諦めない。だってアルディスさんの主張は理解できるし、最終的にはきっと共存できるから。

 なら、これでどうだ!


「――わたしは、彼が気に入りました」

『はっ!?』


 揃って上がる疑問の声。


「だから、彼のことは連れて帰ります」


 ヴァルフオールに連れ帰っちゃったら協力者になるか死ぬしかないって? そうだけど、ここに残したらもう死一択しかなさそうなんだもの! 可能性が生まれるだけ勘弁してほしい。


「な、何を言っているのです! そのようなことを……正気ですか!」

「勿論です。協力者として招けないのは分かりました。だったら、わたしの部屋に囲うだけの存在として、彼を捕らえます」


 相手の意思を無視した無茶苦茶な主張だけど、ヘルゼクスさんはさっきアルディスさんを――人間の存在を奴隷としてなら許すのだと、そう言った。それならむしろ、こちらの主張の方が彼の中では処理しやすいはず。


「な、そん……っ。お考え直しください! 尊き御身に人間ごときを触れさせるなど、あってはならない! お望みならば戻り次第人員を手配しましょう。ですから」


 要らないって!

 にっこりと微笑って、わたしはヘルゼクスさんの言葉を遮る。


「わたしは、彼が、気に入りました」


 こういうのってほら、ただの個人の好みになるから。反論なんか不可能である。


 一言発してから絶句したまま硬直しているアルディスさんへを見ると、ばっちり視線が合った。瞬間、彼は赤面して狼狽を露わにする。

 なんというか、こう……必要があってやったことだけど、これまでの色々が微妙に彼にも説得力を与えているっぽい。


「聖騎士アルディス。これから貴方はわたしのものです。――無駄な抵抗をやめ、わたしのハレムに降りなさい!」

「あれ? ヒルダハレムなんて持ってたっけ」


 そこは突っ込んじゃ駄目なとこよ、エスティア!




 まあその……アルディスさんを生かしてヴァルフオールに招くことには成功した、うん! 道中めちゃめちゃ気まずかったけど。というかヘルゼクスさんが何気なくアルディスさんを殺しにかかること一、二……数えたくない。


 そんな訳で、私室に辿り着いて一息つくのぐらいは許してほしい。

 さて。とりあえず。


「改めて自己紹介をしましょうか」


 部屋の扉の前で所在なさげに佇んでいるアルディスさんを振り返り、そう声をかける。


「わたしはヒルデガルド。魔神の肉片の一つを依代にして生まれた魔族です」

「アルディス……だ。元、聖騎士だ」


 名前のところで不自然に区切ったのは、クセで家名を名乗りかけたのを飲み込んだせいっぽい。当たり前だけど、すごく警戒されてる。


「ええとそれじゃあ……お風呂から行きましょうか」

「風呂!?」

「あ、入浴の習慣なかったりします? でも絶対入った方がいいので、慣れてください」

「な、なくはない。そうではなくて! い、言っておくが俺が貴様に従って付いてきたのは言うなりになるためではなく」

「あ、分かってます分かってます。とりあえず生き延びるためですよね」


 ヘルゼクスさんがアルディスさんを殺そうとしたのと同じぐらい、アルディスさんはわたしたちから逃げようとしていた。個人的には逃げてもらってもよかったんだけど、負傷したアルディスさんが逃げられるほど二人は甘くなかったのだ……。

 わたし? 二人を出し抜けるほど強くも賢くもないです……。


 煌神や魔神にいい様に使われるぐらいなら死んだ方がマシ、というのは本心だろう。でも生き物というのはそんなに容易く命を捨てられるようにできていない。命を捨てるってことは……つまりそれだけの苦痛がある、ということ。


 わたしたちに捕らえられたアルディスさんにとって、まだ死を選ぶ状態ではなくなったという、それだけ。


「……そうだ」

「なので、とりあえずお風呂に」


 一応頑張って治癒してみたけど、煌気の強いアルディスさんには効きにくかったのだ。まずは体を清潔にして手当てをしないと。

 じっとわたしを見詰めた後、アルディスさんは息をつく。


「分かった。従おう」

「あ、アルディスさん一人だと殺されかねないので、わたしも扉の前にいますね。中には入らないのでご安心を」

「……別に、入りたいなら入ればいいだろう。遅いか早いかの差だ」

「は?」


 何が?


 呆けた一瞬後、手を取られて強く引かれた。次に感じたのは背中にひやりとした壁の感覚。至近距離にアルディスさんの顔。

 ちょ、近い近い!


「望むなら、それぐらい従ってやる。男の俺にとっては多少の屈辱以上の意味はない。……せいぜい夢中にさせてやる。寝首を掻かれないよう覚悟しておけ」


 ……?

 …………。

 !!


 いや、えっと、待って!? ああそうか、アルディスさんにも言ってなかった!


「誤解ですそれは!」

「誤解?」

「ヘルゼクスさんに言ったのは、ただの方便なので。ただほら、ああ言っておけばわたしの趣味の問題になるから押し通せるかなー、と。貴方に手を出そうとか……あれ? 出されようとか? どっちでもいいか。――とにかく、そういうことは一切考えていないのでご安心を!」


 まあ、無償じゃないけど。アルディスさんには別にやってほしいことがあってですね。


「……考えていない、だと……?」

「はい。まったく」

「会う度服を脱がしにかかってきた女が、今更」

「あれはお父様の肉片を回収するためです」


 アルディスさんも見てたよね?


「……」

「だから――」

「……す、れろ」

「は?」


 絶望の滲む低い声で何事かを呟かれたけど、よく聞き取れなかった。


「今のッ、会話はッ。全部忘れろ――ッ!!」


 ……黒歴史ですね、分かります。


 重々しくうなずいたわたしの前で、アルディスさんは羞恥に赤くなった顔を片手で覆い、その場で脱力して崩れ落ちた。

 復活できるまでそっとしておこう。




 湯浴みを済ませさっぱりして、身なりを整えたアルディスさんは三割ほど男前度が上がった。色々酷い状態でも美形だって分かるぐらいの人だもんね。こざっぱりしたら余計そうなった。

 ……ん? というか、身綺麗になっただけじゃなくて、ちょっと傷減ってる……?


「何だ。じろじろと見て」

「怪我、少し治ってます?」

「ああ。自分で塞いだ」


 なるほど。さすが聖騎士。治癒系も修めてましたか。


「……その。尊厳を守る扱いをしてくれたこと、感謝する」

「アルディスさんもわたしにマントをくれたので、お相子ということで」

「そうだったな」


 初対面の出来事を思い出してか、アルディスさんの表情が苦くなる。

 無理もない。彼にしてみたら、そこから人生が急転落下したわけだから。


「では、改めて聞きたい。貴女の目的は何だ。なぜ俺を助けた?」

「わたしが貴方が敵じゃなくなる可能性を信じているから、ですかね。それともう一つ、打算もあります」

「今の俺に価値はないぞ」

「いいえ。貴方が人間であることが重要なんです。しかも聖騎士。思うに、その称号結構なエリートの証ですよね?」

「……そうだな。人がなれる最高位の職業だろう」


 やっぱり。煌神に連なるような印象の名前だもの。


「貴方の存在が、これから人を懐柔させやすくしてくれる」

「今の魔族の状況なら、猫の手でも借りたいか。――そして俺たち人を先兵として使い潰す気か! 貴様も!!」


 煌使たちにとっての人の立ち位置をはっきりさせられた直後だけに、アルディスさんの反発は大きい。

評価ありがとうございます!

ということで、鼻歌交じりにノリノリ執筆です。

人間って複雑だけど単純な生き物だと思うんですよ!

た、単純な方が幸せなこともありますよ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ