明日から求職です。
周りの視線が、痛い。
目の前には何故か土下座している、明日入試本番を迎える教え子。
ちなみに男子中学生。
…何をしているんだこいつは。
頼むから、周りの視線が痛すぎるから、土下座を辞めてくれ。
てか、土下座する時間があるんやったら勉強して欲しい。
「…えーっと?これ、何してんのか聞いた方がええ?それとも無視する方がええやつ??」
「聞いてください!」
「…え、なんでそない食い気味なん…。え、じゃあ、なにしとん?」
「土下座しちょる!」
「んなこたわかるわっ!!なんでしとんのか聞いとんねん!」
「…頼みたいことが……」
「え?なに?そんな土下座せなあかんくらいのもんなん?え、怖いんやけどなに?てか、そろそろ土下座辞めてくれん?聞いたげるからとりあえず。」
「いや、土下座しても良い言われる自信ないで、このままで。」
「土下座してもあかんお願いってなんなん!?え、怖いんやけど?てか、ほんま周りの目!!周り!!」
周りの目を、見て欲しい…。
一体土下座するほどなんて、何を頼みたいのか。
「明日入試やないですか、俺…」
あっ…これは本当に土下座のままでいくらしい。
「え?あぁ、そうですね…。ぜひともその明日のために土下座やなくて勉強して欲しいんやけど。」
「で、もし受かったらお願いあってな?」
「あぁ、なるほど…って!そこまでせなあかんの!?合格+土下座が必要なお願いってなんなん!?え!?」
「俺と…俺と結婚前提で付き合ってください!!!」
「…………は?」
「だから、俺と……」
「いや!!2回も言わんでええ!!おまっ…え?は?いやいや待て待て待て。ちょい待て。お前は私をムショに入れたいんか!?てかそれ以前に私ここクビになりかけとんぞ今っ!見てみぃ室長の目ぇ!」
室長の目が怖い。
明らかに、お前何やっとんねん…という目だ。
すみません室長、でも、私これと言って何したわけでもないんです。
「違いますって!俺は先生が好きだから…」
「あらぁ」
「誰ですか今あらぁとか言うたん!あらぁどころの騒ぎちゃいますわ!あぁぁぁぁ…室長すんません、私のせいですかね…なんか、別方向にやばい子に育ててもうたかもしれません…。」
「…で、先生返事は?」
「あ!の!ねぇ!!!お前は私をムショに入れたいんか!NOに決まっとるやろが!」
「じゃあ俺が18になったらいいッスね?」
なんでこいつはここまで自信満々なのか…。
てか、18まで待つ気なのか。
そもそも何がええんじゃ…。
「ダメだ会話が出来ん…。NOです。」
「なんでなん!?先生俺の事好き言うたやん!」
「おだまりこまり!!??確かに言うた…言うたけどよ?そういう意味の好きやないことなんてわかるやろ!?」
「俺が同じや思えば同じやん!!」
「いやなんでそこでジャイアン出てくるん!?」
「とりあえず」
「とりあえず!?!?」
「付き合ってください!!!」
「また戻るんかいっ!!!!」
あぁ、頭も痛いし視線も痛い。
その時、様子を見ていた室長から声が掛かる。
「須磨先生、ちょっと奥に……」
「あぁぁぁぁぁぁ…あかんこれは終わった…」
「んじゃ!俺明日頑張ってくっから〜!!」
「…おっおま…。この状況で帰るんかい。……はぁ、教え子に受からんで思うの初めてやわ。てか、どなんしてくれるんこの状況。」
「須磨先生……」
「あっ…はい……」
嵐を巻き起こしたまま、風のように去っていく教え子の姿を見送る。ここで会うのは今日が最後だったかもしれんな。
さらば、教え子よ…。
「いやぁ、青春ですねぇ」
「いや!!青春ちゃいますよ!?こんなデッドorデッドなムショ直行なのが青春言うんなら巻き込まんといてくださいって話ですって!!!」
これを青春というのだろうか…。
いやおかしい。
私も数年前ならピカピカの女子高生。
青春盛りだったはずだが、こんな青春は知らない。
「須磨先生……」
「ひえっ…」
明日から、職探しになるかもしれない。
「え?じゃあ俺の奥さんになればいいじゃないっすか!」
「あん!?!?!?」
お読みいただきありがとうございました。
何故か突然湧き上がった
「こんなデッドorデッドでムショ直行なんが青春言うんなら、そんな青春巻き込まんといてください!!!」
というセリフから生まれました。
このあとの展開は是非とも皆様にご想像いただけましたらと思います。