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月曜の憂鬱

作者: 皐妃

 「あーあ、まだ月曜か。」

 ぼそっと呟いてみたが返事はない。某RPGの有名な「へんじがない、ただのしかばねのようだ。」といった状況ではなく単に一人だから返事がないのだ。むしろこの状況で返事が来たら慌てて布団へ潜り込んで朝を待つだろう。スマホを見ると今日は月曜だった。いつの間にか進んでいたりしないだろうかという淡い期待はあっさりと崩れた。とりあえず生きるために仕事をしていくらかの収入を得て命を繋いでいるが子供の頃に抱いていたような輝いたものはどこかで落としてしまった。いつの間にか「大人」になったということだろうか。

昔はプロ野球選手になるのが夢だった。自分に夢を与えてくれた存在にいつかなって自分もそのような存在として一生を送るつもりだった。実際高校まではかなり周囲からも期待されていたのだが、高3の夏に事故に遭い、その道は一瞬にして絶たれた。一命は取り留めたが、全身に怪我をしてしまった。相手に過失があるものだったがいくら謝罪されても治療費などを負担してもらっても自分の夢は返ってこない。

夢が叶わないことへのもどかしさが募り、いつしか相手側へ謝罪などは大丈夫です、と保険会社を通じて連絡してもらった。それから大学へ進学しその後就職して今に至る。決して今生きているのが不幸だとか過去を掘り返してどうこう言うつもりはない。今の生活は自分にとって足りているし、自由に生きられていることに感謝している。強いて言えば早く週末になってくれというくらいだ。

 月曜はどうしても憂鬱な気分になる。なぜか過去の思い出したくない記憶が頭をよぎったり、仕事もなかなかやる気になれない。思い出したくない記憶・・・どうしてもあの事故の記憶がまだ頭に残っている。どうやっても消えないシミのようにずっと残っている。どうしたら解放されるかと悩んだ。悩みながら過ごしているといつの間にか金曜になっていた。自分は過去の自分に対しての答えを見つけることができた。

「草野球チームの募集」と書かれたポスターが目に留まりその前で立ち止まった瞬間、高3の自分が話しかけた「野球、やりたいんだろ。俺はもっと野球がしたかった。」幻聴かもしれないが、自分自身にははっきりと聞こえた。過去の自分に対する答えはこれでしか見つからないと確信した。すぐにチーム代表に連絡し、練習に参加してどんどん力をつけていきレギュラーに入るまでになった。

 いよいよ初登板の日、俺はマウンドに上がり一言呟いた。「今、俺は野球をしているぞ。だいぶ経っちまったが許してくれ。」それ以降、月曜になっても記憶がよぎることはなくなったし、高3の俺が話しかけてきたのもあの一回だった。きっと夢を叶えたい気持ちは心の奥底で眠っていたのだろう。

 「あーあ、まだ月曜か。早く土日になって野球してぇな。」その呟きは楽しみに満ちていた。

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