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聖女のオムニブレイド  作者: 嵯峨野広秋


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解放せよ

 うす暗い地下室。


こくな命令だよな」


 その男の声で、オーロラは目をさました。


「こんないい女の監視をあてがわれて、なにもするななんてな」

「カミーラ将軍の厳命げんめいだ。冗談ではなく、下手なことをすると首が飛ぶぞ」


 ゆっくり記憶がよみがえる。

 あのとき……カミーラに負けたのか。そして捕縛ほばくされた。

 怒りに我を忘れ、失念していた。

 あの女が、特殊なバラの香気で身を包んでいたことを。筋肉の動きがにぶり、思考力も落ち、ときには失神さえ引き起こす一種の毒。それは空気を吸わないように気をつけてもだめで、皮膚から直接入るということも知っていたのに……。

 これから自分は殺されるのか?

 それもいい、とオーロラは思う。己の死だけでは贖罪しょくざいできないほど、殺しすぎていることだけが問題だが。


 手首をしばられ、両腕をつるし上げられている。


「なあ……ちょっとぐらい」何かを見つけたのか、男があわてて口を閉じた。となりにいる見張りの男とともに姿勢をただし、右手を前に伸ばして、そこからひじを曲げて心臓の手前にこぶしを持ってくる〈敬礼〉のポーズ。

 上官か?

 いや、このバラのにおい……


「さがれ」


 冷たい声で部下を外へ払う。

「カミーラ……」

「安心しなさい。今は、バラの香気をおさえていますから」

「なぜナルデを」

 うっ。

 とっさに、唇の位置をずらし、それが重なり合うことはけた。

 両足はしばられていない。

 強い蹴りが、下腹部に入った。舞踏会に出られそうな真っ白いドレスに身を包んだカミーラが、一歩ひき、自分のおなかをさする。

「〈カミーラ・クラスタ〉において離反は死罪。後継の〈レディ・エリーツ〉でもそれは同じことです」

「どうしてそんなルールにした。それでは、『死ぬまで自分にしたがえ』と言っているのと同じではないか」

 語気つよく大声をあげながら、悟られぬよう、その音の反射で自分がいる場所の状態をさぐる。あまり広くない空間。今、外に出ている見張り二人の他は、兵士、囚人ともに誰もいないようだ。


「オーロラ……もう私から逃げるのはやめて」


 溺愛できあい

 これが、組織をはなれた理由の一つだった。


「世の中の男はどれもくだらない! 近寄られるだけで、ああ、ぞっとする! 私には、あなただけがいればいいの……」


 話をききながら彼女に向けるオーロラのまなざしは、きびしい。

 そこには軽蔑、失望、敵意、憤怒のすべてがあった。


「いいでしょう」


 カミーラは背を向けた。そして肩ごしに言う。


「いずれあなたの気も変わる。それまではここに禁じます。待っていなさい……私はこの帝国を手に入れる。そしてそれを」


 おくります、と言い残し、階段を上がっていった。

 続いて、足音。やはり二人しかいない。開けはなされたままの鉄格子の扉が、再び閉められた。

 いい子にしてたか? と、若いほうの兵士がおどける。上下にしごくように、ひわいに腰にさげている剣の刀身を上下させた。

 もう片方の中年の兵が、何かに気づいた。こっちも、腰にさやをつけ帯剣たいけんしている。


 十字架。


 ペンダントの先端で、それがひかえめに光っている。

 さっき、カミーラの強引な口づけを回避したときに、首元から露出したらしい。

 ゆっくりした動作でカギを開け、オーロラの息がかかる距離まで近づき、あらためる。

「ま、こんなものに刃物を仕込んでるわけもねぇが」指で鎖の部分をつまみ、値踏みする商人の目つき。「一応」

 先刻、カミーラを蹴り上げた足。

 今度は、ちがうものを狙っていた。

 剣。

 そのさやだ。

 下からの衝撃に驚いた生き物がはね上がったかのごとく、剣が、空中に打ち出された。

 それが彼女の手におさまってからの行動は、はやい。 

 うっ血するほど強く縛られていた手首の太いナワを切り、自由を、最小限のダメージを与えて見張り二人を制圧した。殺してはいない。殺す理由がないからだ。しかし、おそらく、カミーラは彼らに容赦しないだろう……


(あるいはここで、ひと思いに殺すか)


 ナルデの顔。

 ナルデが見つめていた命。

 それを思い出した。


(死なずにすむ幸運が、彼らにあればいい)


 ふところから白い頭巾を取り出し、顔の露出を少しでもかくすようにそれを巻く。

 盗んだ剣を、ローブの中へ。

 これで、どこから見ても修道女しゅうどうじょだ。よほど注意力のあるものでなければ、まずオムニブレイドだと見抜けないだろう。

 上からまぶしいばかりのあかりが届く階段を見上げたとき、思わぬことが起こった。


「あざやかだね。おねーさん」


 少年の声。


「わるいけど……ボクも助けてくれないかな?」


 じゅうぶんに注意を払ったうえで、ここには誰もいないと確信していた。 

 背が小さく、金髪。人なつっこい笑顔を浮かべている。

 まさか気配を消していたのか。天性でそういうことができる、生まれついての盗賊のような者がいるという噂は聞いたことがあるが……。あやしい者に対するような用心ぶかい目を向けるオーロラに、純真な瞳を返す。


「きっと、役に立つよ」


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