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思い出した!後




「ハジェ!」



 目を覚ました時に聞いた声は、気を失った時に聞いた声と全く一緒だった。

 ぼんやりした視界でミントグリーンの髪が揺れるのをとらえて、ポツリと呟く。


「兄さん…」

「ハジェ、よかった!急に倒れたから心配したよ」

「っ、兄さん、苦しいよ…」



 ベッドに寝かされていた身体を起こせば、少し癖のある柔らかな髪を大袈裟に揺らして兄さんが堪え切れないというようにガバリと抱きしめてきた。本当にシスコンな兄さんだな。

 けど、私のことで大袈裟に慌てたりする兄さんが可愛いな、なんて思うから、やめて欲しいとは思わなかったりする私も、それなりにブラコンなのかもしれない。



「ハジェ、痛いところはないか?気分はどうだ?」

「どこも痛くないし、気分も悪くないよ」



それどころか、スッキリしてくらいだ。



「本当か?どこかに違和感を感じたりしていないか?今回は遠出だったから、知らない間に体調を…」

「壊してないよ。本当に大丈夫だから、心配しないで。多分、少し疲れてだだけだから」

「そうなのか?」



 兄さんは私の言葉に、疑ったような心配したような目を向けてくる。本当に心配性なんだから。



「本当に大丈夫。けど、ちょっと疲れてたみたいだから、少し休むよ」

「うん、そうした方がいい。夕食の時間になったら起こしてあげるから、ゆっくり眠るといいよ」



 布団に入り直す私の頭を兄さんが優しく撫でて、おやすみと一言言って退出してくれた。

 兄さんが出ていったドアがカチリと閉まるのを確認してから、私は頭に手をやり、大きな溜息をついた。



「…………ありえない」



 船着場で兄さんに抱きしめられて、前世のことを思い出すなんて。

 しかも、その記憶で、この世界が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界だって知るなんて。

 しかもしかも、兄様は攻略キャラの一人で、私はヒロインをサポートするお助けキャラなんて。



「兄さんが学校に通い始めるのは3日後…」



 ということは、ゲームが始まるのは3日後。

 展開が早すぎるよ!もっと早くに前世の記憶が蘇ったとしても、特にすることはなかったけど、心構えが違う!

 私、ちゃんとヒロインサポート出来るかな…。



 確か、私の役割は攻略キャラの好感度を教えることと、どうすれば攻略ルートに進めるのかと、攻略キャラの好感度を上げるためのアイテムを渡すこと。

 攻略キャラの好きなものを見抜いて渡すくらいなら、少しとはいえ貿易の交渉に携わった経験から不可能ではないと思う。

 だけど、好感度なんてどうすればわかるの?これ無理だよね?



 もしかして、前世の記憶が戻ったことで、攻略キャラの好感度が見えるようになったとか…?

 いやでも、さっき兄さんを見た時に、そんなものは一切見えなかった…。



 どうしよう!私のせいで、ヒロインと攻略キャラの恋が成熟しないかもしれない!!

 どうしよう、どうしよう!ヒロインちゃんを含めあのゲームの登場人物は全員好きだったのに!

 私がポンコツなばかりにヒロインちゃんの幸せな顔が見れなくなるなんてあんまりだ!



 どうしよう…何かいい方法はないかな…。

 一応、攻略キャラの全ルートは覚えている。

 なら、好感度うんぬんは置いておいて、ルートイベントだけ進めればどうにかなるのかな。

 とりあえず、好感度上がりそうなものを渡して、フラグ立ててイベント発生させればどうにかなる…?



「攻略キャラって、誰だっけ…?」



 兄様に、王子殿下のカルノア様、たくさんの令嬢と噂が絶えない公爵子息、隣国の王子殿下、隣国の王子殿下の付き人。

 よかった。全員会ったこともあって、なんとなく好きなものも把握できている人たちだ。これならなんとか好感度を上げることは協力出来そうだ。



 だけど…上手くサポート出来るか本当に不安だ。

 不安を打ち消すために、夕飯だと呼びに来た兄さんに抱きついてみた。



「っ、どうしたハジェ?もしかして、兄さんがいなくて寂しかったのか?」

「そうじゃないけど…。なんとなく抱きつきたくて」

「そうか。いいよ、兄さんにならどれだけ抱きついても」



 理由も言わずに抱きついたのに、兄さんは少し驚いただけで私を抱きしめ返して、優しく頭を撫でてくれる。

 やっぱり、私もブラコンなんだろうな。優しく頭を撫でてくれるカッコいい兄さんが大好きだ。

 そんな兄さんには幸せになってもらいたい。

 もし、ヒロインが兄さんを選んだら、ちゃんと恋愛エンドを迎えれる様に私は全力でサポートしたいと強く思う。



「兄さん」

「ん?」

「私、頑張るね!」

「うん。なんだかよくわからないけど、きっとハジェなら上手く出来るよ」



 柔らかい兄さんの言葉に、上手く役を全う出来るかどうかという不安は消えていった。

 兄さんが出来るって言ってくれたんだ。きっと出来るよね。

 よし!元気も出たし、明日からはヒロインちゃんをサポートするための準備に取り掛かろう。



「兄さん、ありがとう!兄さんのおかげで元気でたよ!」

「そうか、それは良かった。やっぱり、ハジェは元気に笑っていた方が可愛いよ」

「えへへ、ありがとう兄さん」



 兄さんの笑顔に、へにゃっと笑い返せば、兄さんは何故か苦笑を漏らす。あれ?私なにかしたっけ?



「ハジェは可愛いよ…。けど、その顔は俺以外の前ではしないでほしいな」

「どうして?」

「ハジェを狙う輩が増えたら困るからだ」



 真顔でそんなことを言ってのける兄さんに吹き出してしまう。



「あはは、そんなことありえないよ兄さん」



 今までたくさんの幅広い年代の人達と仕事で会ってきたけど、私に対してそんな素振りを見せた人は一人もいない。

 兄さんのシスコン具合には笑うしかない。



「そんなことはない。ハジェはこんなに可愛くて素直でいい子なんだ。兄妹じゃなければ、俺はハジェに求婚する自信がある」

「ありがとう兄さん。私も、兄さんが求婚してくれたら、きっと即結婚してるよ」



 大真面目に冗談を言ってくる兄さんに、笑いながらこっちも冗談で返す。

 私に求婚するなんて言えるのは、私が妹だからだ。

 じゃなきゃ、こんな野生児と言われるほど活発で、女らしさのかけらもない私に求婚をする人なんてそうそう現れない。



「はぁ…。どうして俺とハジェは兄妹なんだ。兄妹でなければ…!」



 私の背中に回った力に力を込めて、本気で悔しがる兄さんが面白くて声を出して笑ってしまう。

 大丈夫だよ兄さん。あと3日すれば、本当に好きだと思える人に出会えるかもしれないから。

 そうなれば、兄さんのシスコンも少しはマシになるかな。少しだけ寂しい気もするけど、もう17歳になったんだし、そろそろ妹離れは必要だよね。



「さ、兄さん。早く夕食を食べて3日後のために準備しよう」

「………はぁ。わかったよ、ハジェと離れる用意なんてしたくないけど、ハジェが手伝ってくれるならするよ」



 諦めた様に笑ったあと、兄さんは私の頭をポンポンと撫でて私に手を差し出す。



「夕食に参りましょうか、お嬢様」

「ええ、エスコートは任せましたわよ」

「お任せください」



 冗談にのって重ねた私の手を握り返した兄さんはすごく絵になる。

 兄妹の欲目を抜きにしても兄さんはかっこよくて、貴族の令嬢様達がキャーキャーいう理由がよくわかる。



「そんなに見つめられると照れるんだけど?」

「痛っ、」



 改めて兄さんの顔をまじまじと見ていたら、兄さんに軽いデコピンをされる。

 照れた様子もないのに、何が照れただ。兄さんは重度のシスコンなのに、たまにこうやってスキンシップを取ってくるから困る。

 軽いと言っても、デコピンされれば痛くないわけはない。



「兄さんはやっぱりかっこいいなって思ってだだけなのに、ひどいよ」

「え…。もう一度言って?俺がなんて?」



 おでこを撫でながら呟いた言葉に、兄さんは一瞬固まってから無垢な子供の様にキラキラした目で私を見てくる。

 聞こえてたくせに白々しいな。



「兄さんは本当にシスコンだなって言っただけー。お腹すいたから早く行こ」

「はいはい」



 おどける私に仕方ないなという顔をして、兄さんは私の手を引いてダイニングまで連れていってくれる。

 夕食を食べた後は、兄さんの荷造りの手伝いだ。そしてそれが終われば、ヒロインちゃんをサポートするための用意に思考を巡らす。



 まずは攻略キャラの好感度を上げるために、アイテムを用意しないとダメだよね。

 兄さんの欲しいものは大体予想がつくけど、カルノア様や他の方々とは最近会っていないから今欲しいものを完璧に予想するのは難しいな。

 本人に直接会って話せば、なんとなく相手の欲しいものはわかると思うんだけど…。

 優秀な兄さんと違って、一般庶民で、一商売人でしかない私が会いたいと言って気軽に会える相手では無い方々なので、直接会うのは不可能に近い。



 うーん…ストーリーとかルートの分岐点とかは全て覚えてるのに、どうして好感度アップアイテムだけ思い出せないのか…。

 思い出すんだ私!きっと思い出せる!

 残された時間は後3日。それまでに思い出しておくんだ!



 ……。



 あ、そういえば、私ってどうやってヒロインちゃんと会うんだっけ…?




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