第五話 このままなのかな?
ゴジゴジ(汗
家に戻って風呂に入り、夕食を経て部屋に入る。
そのままベッドに横たわり、さっきまでの事を思い返す。
溜まっていたストレスと渇望はすっかり消え、余韻が心地良い。
素体倉庫の中身も2桁になった事だし、しばらくは追加は無しで良いだろう。
それよりこれからどうするかだな。
まさかこんな事になるとは思いもしなかったが、なってしまったものは仕方が無い。
とは言え、この世界では未だ認知されていない存在だからなぁ。
わざわざ自分から人類の敵とか告げるとか、そんな脳筋じゃない。
となればだ、このまま流れるままに流れるしかないのかな。
なるべく目立たないように。
◇
かつてやっていた、授業という名の強制学問。
だけど今のオレが見ると実に容易い代物だった。
レベルの向上と共に知能が向上したんだろうか。
難解な魔術術式の解読なんかがやり易くなったし。
そういや、回復もあっさり使えたな。
という事は、オレの持つ他の魔術も使えるって事か。
《灯火》……ポッ……
指先に点る魔術の明かり。
ふっと吹くと消える淡い魔術だが、使えるのは確認した。
苛められっ子の癖に嗜んでいたタバコだったな。
確か興味から始まり、そして発散へと到るだったか。
机のカギを開けて取り出してみる。
ショートキープか、懐かしいな。
かつてのままに、窓型換気扇を回し、その下で点火する。
「灯火」
ふふ、これは便利だな。
ああ、こんな味だったんだな。
懐かしいが、身体には変化が無い。
こんな薬物に侵されるような脆い身体じゃないからな。
状態異常無効は健在のようだ。
つまり、酒にも酔わないのか?
それはちょっと嫌だな。
あの酩酊感が懐かしいのに、もう味わえないのか。
いや、いけるはずだ。
となれば……
《呪術・状態系スキル停止》
うおー、クラクラする。
うん、これがタバコの効果だったな。
はぁぁぁ、うん、これだこれだ。
しっかし自分に呪いまで掛けてやる事じゃないな、クククッ。
「解除」
ああ、何も感じなくなった。
あっさりと解毒されたらしい。
つまり、二日酔いにならないか。
よしよし、これでいこう。
またもやレモンジュースのお世話になり、ベッドに潜り込む。
そして今日の事を思い出しながら、健やかな眠りに就く。
楽しかったなぁと思いながら。
◇
この学校の不良グループが行方不明になったという噂が広がっている。
そのせいか、身辺に怪しい影があるようだ。
恐らく捜査員だとは思うが、元々被害者のオレに対するアプローチは無い。
いかに思い切ろうと、普通は苛められていた者が苛めていた者をまとめて相手になど出来はしない。
やれるのなら最初から苛められたりはしないからだ。
目障りなので軽い誘導で他の学校のグループとの抗争って話に持っていく。
捜査員達を誘導しまくっていたら、それが捜査方針にまで及んだらしく、怪しい影は消え失せた。
そうなれば、またぞろ噂になるのは怪しい地下の話。
警官が突入するも、底が判らないぐらいに深いという話。
そのうち機動隊出動になるかも知れず、足りないなら自衛隊になるかも知れないって噂だ。
そんな中、中に入ったらお金が落ちていたという噂が広まっていく。
宣伝はしないとな。
それと共に、入り口付近に適当にばら撒いておく。
そうして階段の途中にもばら撒き、下に行くにつれてたくさんのお札が散らばっている有様。
実はお札を拾った奴限定で、入り口の転移の罠が発動するようになっている。
3階層に強制転移になるから、頑張って出るんだね。
だけどお札を捨てないとまたぞろ同じ場所に戻される事になる。
欲が勝つか生存本能が勝つか。
さて、ちょいと見てみるかな。
あーあ、消えちまったな。
お札をネコババした警官だけが消え、他の面子は地上に戻ったようだ。
それにしても、ステータス確認したらやたら増えていたよ。
特に迷宮ポイントとか、予想の7倍もあってビックリだ。
となると、あの迷宮って予想以上に盛況してたのか。
道理で討伐の話が出ない訳だよ。
費用皆無で新米や盗賊の育成施設があるようなものだ。
それを消した国は責任を持って、施設を作れと言われたらどうしようもないわな。
もっとも、存在して1400年余りの巨大な迷宮を、そう簡単に攻略出来るとも思えないがな。
あれは50階層に到達したら、その次は100階層に転移するんだ。
そうして最下層の一歩手前まで攻略して、そしてようやく51階層に到達する。
そこからつらつらと攻略して、99階層をクリアして初めて、最下層への転移装置に辿り着くんだ。
そんな構造にしたのは、51階層から99階層がプライベイトエリアみたいになっちまっているせいだ。
モンスター達が暮らす村を拵えていたんだが、種族ごとに村を作っていたらそいつらが繁殖して増えていったんだ。
だから今では階層ごとに国みたいになっちまって、お互いの交流をしながらも繁栄している有様だ。
だから地上ではもう絶滅したと言われている種族なんかも、あの迷宮の中にはたくさん住んでいる。
そいつらの住まいは最下層の一歩手前をクリアしないと行けないようにしてあるが、もし、そうなったら恐らく、彼ら全員が戦闘に参加するに違いない。
だって彼らにとって、あそこは既に故郷になっているのだから。
しっかし、あそこのモンスター達は地上とは別物になっちまっているな。
小奇麗なゴブリンとか、スリムなオークとか、甘党なオーガとか、人間共が知ったら新種とか言うんだろうな。
そういや、サトウキビの畑は甘党のオーガ達に任せているが、あんまり横抜きするなよな。
そりゃ多少は構わんが、以前様子を見に行ったら、仕事そっちのけで横抜きしてたもんな。
あいつら、オレを見て慌ててさ、クククッ。
戻りたいと確かに思ってはいたが、思い出すと向こうにもかなり未練があったんだな。
オレは既に向こうの住人になっちまっていたのかも知れないか。
そうだよな、こっちで17年、向こうで1400年余りだ。
どちらが長いとか比べ物にならんか。
となると、単なる郷愁が肥大したに過ぎなかったのか。
◇
学校行事は難なくこなすものの、どうにも気力が怪しい今日この頃。
やはりオレの故郷は既にあちらになってしまっているようで、どうにも戻りたくて仕方が無い。
やっと帰れたと思ったその時には、既に過去の妄執になっていたとは、実に滑稽な話じゃないかい。
ああ、きっと、コンタの奴、オレを探しているぞ。
いつもオレべったりで、何処に行くにも同行してたってのに、オレが居ないもんだからあちこち探しているに決まっている。
せめてあいつだけでも同行になれば良かったのに、可哀想な事になっちまったな。
「お前、夏休み、何か予定あんのか? 」
聞いてきたのは最近、友達になった奴。
苛めが無くなってから、遠巻きにしていた奴らが近付いてきて、そうして自然と仲良くなった結果だ。
当時、オレがもっとしっかりしていたらこの境遇だと思えば、過去の自分が情けなくて仕方が無い。
ボッチと思っていたのは単に、巻き添えを恐れていただけだったなんてな。
嫌われていたとばかりに思っていたが、単に苛めのせいだったなんてな。
「特に予定は無いが、何かあるのか」
「ならよ、VRゲームやんねぇか? 」