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第二話 覚めない夢?

 

 それにしても、学校でのあれこれも懐かしかったな。


 当時、オレは苛められていたんだと思い出したよ。

 だけどさ、殴られても痛くないんだよ。

 まあ、痛いフリはしたけどさ。

 考えてみればオレのステータスからすれば、学生の筋力など知れたものだ。

 そんなの食らって痛みとか出るはずもなし。

 そもそも夢だから痛くないんだろうし。


 けど、ちょっとイラっとしたな。


 この夢には迷宮が無いからやれないが、あったら引きずり込んで迷宮の餌にしちまうところだ。

 てか、作れないかな、迷宮。

 何時覚めるか判らんが、こうして当座の金も用意したんだし、迷宮も作れるなら作ってみたい。


 現代世界に迷宮か。


 なんかそんな小説見たな……遥か昔に。

 そういうのも思い出せるとか、この夢、本当に最高だぜ。


 おっとここだ。


 この廃ビル、そのままなんだな。

 当時の夢のせいか、もう忘れていたはずのあれこれが思い出せるってのも良いな。

 そういや、ここでもカツアゲされたんだっけか。

 てか、近隣の不良連中の溜まり場だったよな。

 今日は誰も居ないようだが、また溜まるようなら一網打尽にしてやるぜ。


 よし、ここに決めた。


 《迷宮創造クリエイト・ダンジョン


 ふむ、とりあえず50層ぐらいで良いか。

 そうして、浅階層は迷路にして、軽い罠も仕掛けるか。

 袋小路を大量に拵えて、正解はただひとつってか。


 10階層からはそいつに加えてモンスターも配するか。

 とは言え、オレはモンスターとは言えども、配下が殺られるのは嫌なんだ。

 だからあちらのオレの迷宮には殆どモンスターは出ない。

 あいつらは裏方として働いてくれているが、表には出さないんだ。

 もっとも、脳筋のモンスターは希望に沿わせてやったが。


 だから損耗率はかなり低いんだ。


 あくまでも罠と迷路がメインの迷宮で、だからこその難易度の高さの割りに指定ランクが低いんだ。


 まあそうだよな。


 迷宮と言えばモンスターってぐらいで、そいつを倒さないとレベルは上がらないんだから。

 確かにお宝は結構設置はしてたが、冒険者の経験にはならない迷宮として有名だったんだ。

 それでもモンスターの脅威が殆ど無いから力の無い職でも潜れるってんで、盗賊連中御用達になっていて、あぶれた盗賊達の救済迷宮とか言われててよ、その方面での人気が高かったんだ。


 だからかな、オレの迷宮は高レベル冒険者達が敬遠というか、他から討伐されていたんだよ。

 確かに人類の敵だけど、あそこは埒外とか以前、酒場で聞いた事がある。

 そうしてオレの方針が正解だと思ったのさ。


 迷宮は滞在生命体が多ければ多い程、獲得ポイントが多くなる。

 確かに殺せばもっと増えるが、別に殺さなくてもポイントは獲得出来るんだ。

 そんな訳でオレの迷宮には連日、たくさんの新米冒険者や盗賊連中がやって来てたんだ。

 そうして数日の滞在で何かしら得て帰っていく。


 そしてまた潜りに来るのだ。


 もはや常連となった者達も多く、それだけに獲得ポイントもかなりの量だった。

 そいつをオレはかなり還元してやったが、それでもポイントは増えるほうが多かった。

 今はステータス封鎖しているからいくらか判らんが、100万ぐらい溜まってないかな。


 まあ、どうでも良いけど。


 それにしても、目覚めたら消えちまう迷宮だとしても、やっぱりオレには迷宮が必要だ。

 そうさ、オレはダンジョンマスター、人類の敵なんだからよ。


 さてと、餌を蒔かないとな。

 まずは金か。

 万札を1枚ずつ、そこいらに置いておくか。

 そうして少しずつ奥に引き込んでやろうな。

 とりあえず300万ぐらい使っちまうか。


 通路に1枚、小部屋に10枚。

 さて、どうなるかな。


 ◇


「さとしく~ん、ぼくお小遣い欲しいなぁ」


 現れたな苛めっ子。


 かつてこいつに小遣い全部巻き上げられていたんだったな。

 現在の財布の中には1000円札が3枚。

 これが今月の小遣いだ。

 金貨売った金は倉庫の中に入れてある。

 あんなの見せる訳にはいかないんだよ。


 かつてならこいつに全部盗られ、泣きながら帰ってたんだったな。

 どうせ夢なんだし、リベンジぐらいは良いよな。


「なんだ」

「おやぁ、どうしたの、反抗期? ひゃははははっ……オラ、舐めてんじゃねぇぞ、コラ。おとなしく言っているうちに出せばいいものを。オラ、とっとと出せよ」

「だが、断る」

「てめぇぇ」


 遅いな。

 こんなに遅かったのか。

 これが人間の……いや、学生の筋力から出るパンチなのか。

 遅い、遅過ぎるぞ。


 パシッ……


「おやぁ、やる気なのぉ、ふーん……覚悟はいいな、てめぇ」


 胸倉を掴みに来る手を跳ね除け、懐に潜り込んで肘打ち。

 これ、何とかっていう拳法の技だったよな。

 あれ、吹き飛んだぞ。

 ああそうか、今のオレの力でそれなりに撃てば、必然的にそうなるか。

 全力には程遠いが、そこまで手を抜いてないしな。


 おーい、生きてるかぁ……いかん、瀕死だぞ。


 《回復術》


 弱々しい生命の灯火が段々と強くなっていく。

 破裂した内臓が復活し、千切れた血管が修復され、折れた骨が復元していく。

 やれやれ、実に脆いな。

 ひとまず回復したので、胸倉を掴んでゆさゆさと揺らす。


「おい、しっかりしろ。戦いはこれからだぞ」

「ゲホッゲホッ……お、お前、何時の間に、こんな」

「オレが猫を被っているのを良い事に、何時までもしつこく絡みやがって。いい加減堪忍袋の緒が切れたんだ。今日はその落とし前を付けさせてもらうぞ」

「そ、そんな、嘘、だ、ろ」

「死ぬまでいたぶってやる。クククッ」

「待て、待ってくれ、なぁ」

「くひひっ、楽しみだなぁ。久し振りの殺しか、くふふっ」

「止め、助け、なぁ、もう、手を出さないから。頼むよ、なぁ」

「ちっ、折角のオレの楽しみを。ならな、もう手は出さないな」

「出さない、約束する。だから、殺さないで」

「今までにせしめたオレの金、色付けて返してもらうぞ」

「そんな、アレはもう使っちまっ……ああ、判った。払うから、殺さないで」


 500円玉つまんで曲げたら、素直になる事なる事。

 いやぁ、爽快だな。

 かつての自分の敵討ちが、夢でやれるとはな。


 曲げた硬貨をくいっと直し、あいつの元に投げてやる。


「約束を破ると次はどうなるか。そのコインが物語ってくれたろ」

「判った。払う、払うから」

「そいつはくれてやる。オレの言葉を忘れない為に、お守りにでもしてろ」

「ああ、判った、よ」

「まあ、自販機に入れようにも変形しちまってるから無理だろうけどな」

「なるべく早く払うよ。だから、なあ、殺さないよな」

「ああ、どっかに悪人は居ないものか。殺しても誰も文句言わないような極悪人は居ないものか」

「猫被りすぎだろ。くそぅ、オレはすっかり騙されたぜ」

「金利は情けで付けないでおいてやる。その代わり、キリ良くな」

「ああ、判った」

「じゃあな」


 いやぁ、爽快爽快。

 でもちょっと残念。


 折角の夢なんだし、いたぶって殺すってのも良いかなと思ってたんだよね。

 もちろんその時は迷宮の中に連れ込んで、時々水や食い物を投入してさ、狂うまで遊ぶつもりではあったけどさ。

 対象指定で外に出られないように設定して、強制転移で3階層ぐらいに転送する罠を出入り口に設置してさ、エンドレスな迷宮を体験させたかったんだが、あまりにも不甲斐ないから軽く萎えちまった。


 あんなのにやられてたのか、当時のオレは。


「これは封印していたが……《経過年数表記》」


 《貴方がダンジョンマスターに就任して、1458年と128日が経過しました》


 もうそんなになるのか。


 未練だと封印してからもう千年が近いのか。

 忘れよう忘れようと思っているうちに、本当に忘れていたが、もうそんなに過ぎていたんだな。


 この夢が覚めたらもう……そうだな。


 だから頼むぞ、なるべく覚めないでくれよ。

 誰の手柄にしてやるかは、覚めた後で考えよう。

 だから今しばらく、このままで居たいものだ。


 もっとも、装備無しでも、そこいらの新人には殺れまいな。

 自己回復力の壁を突き抜けるような奴じゃないと、いくら無抵抗でもオレは殺せない。

 そんな拷問みたいな殺し、オレはごめんだ。

 オレはそんな性癖じゃないんでな。

 しかも、色々な加護があるから、そいつを無効化するような相手が望ましいが、そんなの居るのかねぇ。

 最悪、火山にでも飛び込まないと無理かねぇ。


 それはそうと、一応、念の為の暗示という名の洗脳を施しておいた。


 こいつは《洗脳術》という、ダンジョンマスターの固有スキルになる。

 レベルが上がるにつれて、少しずつ開放されたスキルのひとつになる。

 全くもう、とことん人類の敵なんだなと思ったよ。

 なんせ人を貶めるスキルをいくつも授かるんだからよ。

 確かに自分でも色々な事をやって様々なスキルを得たが、獲得したスキルはまだまともな代物だけだ。

 そりゃ《詐術》とか《装術》とか《惑術》とかも覚えたが、あくまでも世渡りのスキルでしかない。

 だけどダンジョンマスターが得られるスキルは半端無い物ばかりだ。


 初期はまだ良かったよ。


 《転移術》とかすごくまともに思えたものだ。

 だけどその次が《催眠術》でさ、まだこれも許容範囲だと思ったんだ。

 だけども《改造術》と来て《洗脳術》と来て《不老術》と来た時に諦めたんだ。


 こういうものだってな。


 それからはスキルを熟練する方向に舵を切り、様々な実験を行ってきた。

 冒険者もどれだけ殺したかな。

 浚いに行かなくても向こうから来てくれるんだもんな。

 被検体には苦労しなかったよ。


 そうこうしているうちに《回復術》が開放されて、瀕死で回復、瀕死で回復と、コストパフォーマンスが上がったんだ。

 だけどさ、対象がそのうち皆狂っちまうんだよな。

 だから最終的には配下の餌になっちまってたけどさ。

 そうして色々やっていると《錬金術》が開放されたんだ。


 その時だよ、金貨の偽造に熱中したのは。


 こちらの世界の情報も、ダンジョンポイントをかなり使えば入手も可能だったからさ、金貨の情報を得たんだ。

 本当はオレの家とか周囲の情報が欲しかったけど、そういう物は得られなかったんだ。

 無関係のあれこれしか得られなくて、だからこそオレは心底熱望した。


 今、夢だけどそれが叶ったんだ。

 嬉しくない訳が無いだろう。

 だけど、こんなぬるま湯な世界だったんだな。

 念願は叶ったけど、何か……

 刺激に慣れたせいか、何か物足りない世界だな。

 

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