5 友の助け
そのとき、玄関が開き、カウベルが鳴った。そちらに視線を移すと、友達の遠山夜空がいた。
「久しぶりー、加奈」
「お迎えありがとう、夜空。ちょっと待っててね。今、上がるから。それから、一緒に出かけましょう」
私の返しに、ぱちくりと目を瞬かせた夜空であったが、店内に松岡がいたのを悟り、成程と頷いた。
「お、いいね! 女性二人で飲むんなら俺も混ぜてよ。綺麗な女の子二人になら、俺、大奮発しちゃうからさ」
「いえ、松岡さん。これは女子会なので。そこに割って入るとか不粋でしょ、普通に」
鋭い目で松岡を睨む夜空。その目力には、妙に迫力があった。
どうして彼女がそんなに迫力あるのか、短大時代からの付き合いのある私は知っている。
高校までは、千葉でヤンキーをしており、大層やんちゃをしていたのだ。
やんちゃってのは、早い話、喧嘩も含むってやつね。おまけに、実家が合気道の道場をやっていて、三段の腕前らしい。
短大デビューとともに猫をかぶったのだが、性根はソレである。野獣のような眼光も納得だ。
「あ、あはは……確かに、それもそうだね。うん、不粋だったね、俺。じゃあ、俺は遠慮しよっかな。二人で楽しんでおいでよ」
松岡は夜空に危険な香りをかぎ取ったのか、さっと目を逸らした。
睨みを利かせると普通に怖い。夜空が美人だけに尚更だ。彼女がカワイイ系女子なら、睨みもマイルドになっていたはずだが、美人の一睨みは殺気がマシマシになる。
私はまたガリガリと音を立てて、豆を擦り、それをコーヒーメーカーに入れ、ドリップする。自分の分と、夜空の分の二人分。そこには当然、松岡の分はない。
ドリップが終わり、白いラウンドテーブルに夜空の分のコーヒーを置く。
「それ飲んで、ちょっと待っててよ。あと小一時間で上がるから」
「ん、わかった。お茶しながら、店内を見てるから、気にしないで」
このお店には、出窓近くにラウンドテーブルと、それを囲むように猫足のアンティーク調の丸椅子があり、ちょっとしたカフェスペースになっている。常連さんは、そこに座り、私がサーブするグァテマラ産SHBの珈琲を飲んでもらったりして、まったりとくつろいでもらっている。補足すると、中々高い珈琲豆なんですけどね。
そのラウンドテーブルに、夜空と松岡が向き合うように座っていたのだが、どうやら居心地が悪くなったらしく、松岡はレジカウンターにやってきた。そこで、私と二人でどの商品を卸してもらうか、商談に入る。
そうそう、これでいい。余計な松岡の口説きとかいりませんから。
小一時間、私はパンフレットを見ながら、こじゃれた雑貨をチョイスし、松岡に伝えた。彼は注文のメモを取り、サービス値段の卸値を提示してくれた。
私はそれに納得して、書類にサインをして、つつがなく商談成立となった。それから松岡は「それじゃ!」と言って、そそくさと退店していった。彼はよほど夜空と相性が悪いのだろう。彼女が来てくれて助かった。来なかったら、未だに松岡と飲みに行く、行かないで押し問答をしていただろう。それを思うと、友に感謝だ。
「さって。いい時間だし、上がりましょうか。それで、二人でご飯を食べましょう?」
私が言うと、夜空は陳列棚にあったシステム手帳を持ってきた。これはまぁ、ドイツ製なのだが、いいのだ。この店は「北欧雑貨中心」ですので。
それをお友達価格で会計し、お店の紙袋に詰めて手渡した。紙袋には、「ヤンソン」というこのお店ロゴが入っている。
「いや……割引してくれるのは嬉しいけど、いいの? 四割も引いて?」
「ん。まぁ、儲けはほぼゼロになっちゃうけれど、松岡を追っ払ってくれたから。そのお礼も含めてみました」
「そんな余計なことはいいんだよ! アタシもアイツ気に食わなかったし。それより、定価で売れっての!」
う、うわぁ……出たな、夜空の荒っぽい口調が。ちょっと頭に血が昇ると、元ヤンキーの地金が出る。
私はちょっと思案し、妥協案を出す。
「それじゃあさ。夜空が夕飯を奢ってくれるってことで、どうかな?」
夜空はうーんと唸ったあと、「わかった。それでいいよ」と口にした。