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ユカイ  作者: 香枝ゆき
9/9

はらぐろ

目が覚めると、私はベッドの上にいた。もしかして、おしゃれ着で寝てしまったのだろうか。せっかく家着とわけて、洗剤も変えてお手入れをしているのに、しわになってしまう。

そうあわてて身体をみると、ゆるいTシャツに、半ズボン、そしてやや大きいシャツが羽織られていた。

着替えた記憶はない。私が部屋をみまわすと、床に見慣れないものがあった。

人間ほどの大きさで、ひょろっとした身体は小さくまるまっている。

ひとまず足でつついてみた。

「うー、タオルケット独り占めするんじゃないよー」

ユキはラグの上とはいえ、床の上で眠っていた。半そでTシャツとジーンズで、よく寝られたものだと思う。私に上着をかけていたので、もしかしたら風邪でもひいたのかもしれない。

私は上着を脱ぎ、元の持ち主にふわっとかけてやる。

重力に従い、服はふわりと着地した。

ユキは空気の動きを敏感に感じ取ったのかもしれない。

目をかっと見開き、ばさりと跳ね起きた。

「うわあ!!」

思いがけなった行動に、私はそう叫ぶしかない。普通は、このシチュエーションなら、かけるものを得た眠りこけている人間は、ぎゅっとかけるものを掴んで、すやすやと丸まって眠るはずだ。

「あ、おはよ、ユカイ」

「おはよじゃないよ、なにひとんちで寝てんの」

「なりゆきじゃないかな」

「いうにことかいて成り行きかよ」

腹が立ったのでベッドのうえから枕を放り投げてやる。ユキの顔面に見事ヒットした。

「もー。ちゃんと着替えさせたんだから勘弁してよね」

「・・・・・・はい?」

「服しわになるの嫌だろうから、洗面所にかけといたよ。あとで洗濯するなりなんなり」

やつが言い終わる前に、私はタオルケットを投げた。

「てことはあれか、あんたは私が酔いつぶれて眠ってる間に。私を着替えさせたと、そういうわけか。しかもこの服、クローゼットから出してるからあさったってことだよなあ…?」

「ユカイさんどうどう、ちゃんと目をつぶって後ろから着替えさえたんだから」

「てめえふざけんなあ!」

「ごっへ、お助け!」

ユキの声を聞いても、手や足は緩めてやらない。

「あはは、トモダチに言いふらさないだけありがたく思え!」

ユキはうわあああといながらも、こちらに抵抗しようとはしない。

多分ユキは、悪気はないし、親切心から行ってくれたのだと思う。着替えはそうであるし、ユキが人知れずかえれば、施錠はどうするのかということになる。私を起こすのははばかられたとみるべきか。

それに、眠りこけていた私をどうにでもできた。なにもせずにいる健全な男子というプレミアムな存在なのだなと、私は思い込むことにした。

私には、どうやらユキが必要らしい。

記憶がおぼろげな昨夜、友人から言われた言葉も、どうやらフィクションではなく。実際にあったことらしい。

それが私には嬉しかった。



――大好きだ。ユカイのことが。このうえなく大好きだ。

みため面倒見がよく、誰にでもやさしいが、裏では腹黒、毒舌、見下しや。弱みを握っても自分は見せず、そのくせ誰かに愛されたがってる。愛してないのに愛を求める。信用しないのに信じてくれと言っている。

毛色は違うけれど、性質は同じようなものだと感じた。表に出している人格が正反対なぶん、内面が似ていても、ドッペルゲンガーのような薄ら寒さは感じない。

私はユカイを求めるし、ユカイは私を求めるだろう。

汚い自分をさらけだしても、離れないと示しているからだ。

だから私は私のままでいられるし、彼女も彼女のままでいられる。

私は普通にならなくても、このままでもいい。

なんて、ユカイに言ったら、離れないまでも変な目でみられそうだからやめた

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