はらぐろ
目が覚めると、私はベッドの上にいた。もしかして、おしゃれ着で寝てしまったのだろうか。せっかく家着とわけて、洗剤も変えてお手入れをしているのに、しわになってしまう。
そうあわてて身体をみると、ゆるいTシャツに、半ズボン、そしてやや大きいシャツが羽織られていた。
着替えた記憶はない。私が部屋をみまわすと、床に見慣れないものがあった。
人間ほどの大きさで、ひょろっとした身体は小さくまるまっている。
ひとまず足でつついてみた。
「うー、タオルケット独り占めするんじゃないよー」
ユキはラグの上とはいえ、床の上で眠っていた。半そでTシャツとジーンズで、よく寝られたものだと思う。私に上着をかけていたので、もしかしたら風邪でもひいたのかもしれない。
私は上着を脱ぎ、元の持ち主にふわっとかけてやる。
重力に従い、服はふわりと着地した。
ユキは空気の動きを敏感に感じ取ったのかもしれない。
目をかっと見開き、ばさりと跳ね起きた。
「うわあ!!」
思いがけなった行動に、私はそう叫ぶしかない。普通は、このシチュエーションなら、かけるものを得た眠りこけている人間は、ぎゅっとかけるものを掴んで、すやすやと丸まって眠るはずだ。
「あ、おはよ、ユカイ」
「おはよじゃないよ、なにひとんちで寝てんの」
「なりゆきじゃないかな」
「いうにことかいて成り行きかよ」
腹が立ったのでベッドのうえから枕を放り投げてやる。ユキの顔面に見事ヒットした。
「もー。ちゃんと着替えさせたんだから勘弁してよね」
「・・・・・・はい?」
「服しわになるの嫌だろうから、洗面所にかけといたよ。あとで洗濯するなりなんなり」
やつが言い終わる前に、私はタオルケットを投げた。
「てことはあれか、あんたは私が酔いつぶれて眠ってる間に。私を着替えさせたと、そういうわけか。しかもこの服、クローゼットから出してるからあさったってことだよなあ…?」
「ユカイさんどうどう、ちゃんと目をつぶって後ろから着替えさえたんだから」
「てめえふざけんなあ!」
「ごっへ、お助け!」
ユキの声を聞いても、手や足は緩めてやらない。
「あはは、トモダチに言いふらさないだけありがたく思え!」
ユキはうわあああといながらも、こちらに抵抗しようとはしない。
多分ユキは、悪気はないし、親切心から行ってくれたのだと思う。着替えはそうであるし、ユキが人知れずかえれば、施錠はどうするのかということになる。私を起こすのははばかられたとみるべきか。
それに、眠りこけていた私をどうにでもできた。なにもせずにいる健全な男子というプレミアムな存在なのだなと、私は思い込むことにした。
私には、どうやらユキが必要らしい。
記憶がおぼろげな昨夜、友人から言われた言葉も、どうやらフィクションではなく。実際にあったことらしい。
それが私には嬉しかった。
――大好きだ。ユカイのことが。このうえなく大好きだ。
みため面倒見がよく、誰にでもやさしいが、裏では腹黒、毒舌、見下しや。弱みを握っても自分は見せず、そのくせ誰かに愛されたがってる。愛してないのに愛を求める。信用しないのに信じてくれと言っている。
毛色は違うけれど、性質は同じようなものだと感じた。表に出している人格が正反対なぶん、内面が似ていても、ドッペルゲンガーのような薄ら寒さは感じない。
私はユカイを求めるし、ユカイは私を求めるだろう。
汚い自分をさらけだしても、離れないと示しているからだ。
だから私は私のままでいられるし、彼女も彼女のままでいられる。
私は普通にならなくても、このままでもいい。
なんて、ユカイに言ったら、離れないまでも変な目でみられそうだからやめた




