不器用な思い
腕のなかにある体は小柄だ。酒をのむように仕向けたユカイの顔は、やや赤い。どうやら、アルコール耐性がつかないのは相変わらずらしい。
思うようにからだが動かないので、彼女は不満げだ。
「はなしてよー」
「やだ」
「はなせばかユキ」
「いーやだ」
「はなせー!!」
じたばたと暴れるが、なにぶん酔っぱらいだ。十分あしらうことができる。
ユカイも体力の無駄だと感じたのか、不意に抵抗するのをやめた。
「……なんではなしてくれないの」
ユカイの問いに、さて、なぜ自分はわざわざ飲ませたのだろうかと自問自答する。
「酔っぱらってさっさと寝てくれたらいいなーって思ってたんだけどさ、案外寝なかったね」
さらりとなんでもないふうにいってみたが、ユカイは聞き捨てならなかったようだ。
「だれか寝るかバカ!むっつりスケベ」
これはひどい言われようだ。誤解されて友人関係にヒビを入れたくはないため、精一杯抵抗を試みる。
「別にやらしいことしないよ」
「まじめと定評のユキくん、じゃあなんで酔わせて眠らせようとしたのかな、あと今のこの状況はなにかな?」
「年頃の男の子が年頃の女の子をぎゅーってしてるね」
「……ユキはなに考えてるの?」
「なにも」
ユカイはやや辟易したようだ。
「……強いていうなら、ユカイの幸せ」
ユカイは緩慢に首を動かし、私の顔をみた。
「帰り道といいさっきといい、ユカイはどうも破壊衝動にかられてるみたいだからさ。全部言ってみ?」
だめ押しのように、ユカイを抱きしめる力を強くする。自分の指を組んで、手のひらは彼女に触れないようにした。
「はははっ」
突如大きめの笑い声が腕のなかから聞こえてくる。動揺を見せないようにして様子を伺うと、彼女は口元だけ笑っていた。
「ユキにはかなわないなあ」
私にとって、私を振り回すことを許した存在が、こんなにも弱気になっていた。