純粋無垢な悪意4
食材の入った荷物を取り落とさなかったところは、誰かに誉めてほしい。
「ユカイ」
「なに?」
「最後に掃除したのいつ」
「一週間前くらい?」
これが二次元なら、特に漫画なら、てへッという擬音だか文字だかがユカイの回りに浮いているに違いない。
「いやー、油断してると散らかるよねー」
「油断っていう域越えてると思うんだけどさ、記念に写真とろうか」
携帯を構えると、無言で叩き落とされる。このまま踏みつけられる線も捨てきれなかったので、私はユカイを刺激しないように携帯を拾い上げ、ポケットにしまった。
「女の子の部屋を撮ろうなんていくらユキくんでも無粋じゃないかな?」
「この部屋を女の子の、いや、人の部屋っていう認識をしろというのがまずぐほぇ」
ユカイに鉄拳制裁をされて、私は部屋について意見するのをやめた。
この友人が下宿に人を一度も呼んだことがないのは、この汚部屋が理由に違いない。
食卓用と思われるこたつテーブルには、ノートパソコンやら食料やらが散乱しているし、床は古新聞と古雑誌で埋め尽くされている。勉強用机には図書館で借りたような本が積み上げられ、ベッドは服がつまれている。
「ごはんのまえにさ、ちょっと、かたづけてもいい?」
「ありがとー、助かるー!」
今の言葉を文字化したら、語尾にはハートマークもついたかな。
私は彼女の言葉と笑顔をかわしながら、古新聞をくくろうとした。
「あ、それは捨てないで」
ゆうに二ヶ月分はたまっている古新聞だ。しかも一紙だけでなく、全国紙と地方紙が混じっている。何につかうかは知らないが、それを聞いても教えてくれないだろうという予測はできる。
ならばと大量のコピー用紙に手をつけよう。
「あ、それもだめ」
やや辟易しながら古い雑誌と本の山を。
「それも」
ユカイの主張を全面的に呑むと、けっきょく捨てるものはほとんどなく、段ボールに未処理とマジックでかいて、そこに情報の書かれた有料媒体を放り込むしかできなかった。
「ユキひどい、ごみみたいじゃん」
間違ってはいない。実際にこのままゴミすてばに持っていけば絶対に回収してくれるだろう。とは、言わない。
「だったら早くゴミとそうでないものにわけて。はい、ごみはゴミって書いた段ボールに。いるやつはいるものってかいた段ボールね。でもあとからみるならはやくスクラップにしたほうがいいとおもうよ」
このアドバイスは少なくとも正論であるので、ユカイは反論できないはずだった。ただ、くやしそうにこちらをみてくるだけで、あっという間に表情を変えてしまう。
「さ、しきりなおしてたべよたべよ!」
わかってるのかな、と、おもいつつも、ここは従う方が賢明だ。
「いただきます」
私たちは、白ワインをグラスにそそぎ、かんぱいした。