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漆黒の魔女  作者:
第1章
6/19

5.魔女の憂鬱



雨が上がり、訓練が開始されてから少ししてアルがやって来た。

「ディア!」

「アじゃなくて、陛下。」

「よっ!アル。珍しいな、アルが訓練場に来るなんて。って、無視か!」

アルはあろうことにもフェルをスルーして私の所まで来た。

「え、ちょ、アルー。アルさーん、アル陛下ー。」

アルの無視具合が酷すぎて、フェルが可哀想に見えてきた。

「ディア。」

「な、何ですか。」

腰が少し引けてしまうのは仕方がない。それだけアルの目が据わっている。

「どうして敬語なんだ?どうして、アルって呼ばないんだ?」

は?え、目が据わっている原因ってまさか敬語と陛下呼びに問題があるからなの?

「どうしてって、ここで私は魔術師長です。ですから、上司には敬語で話すのが普通だと思うのですが。」

私は陛下の目を見て言った。

「それなら問題ない。」

「え?」

な、何故そんな自信たっぷりに?

「おい、フェル。俺の名前を呼んでみろ。」

「はい?何で?」

「早く、呼べ。」

「はいはい。アル、どうしたんだ?」

「ほら、ディア。お前より位の低い者が俺に敬語を使っていない。これでディアも心置きなく・・・。」

「え、また無視?」

「無理です。」

「何故だ!?」

何故って、そもそもフェルが異様なだけで、私の言ってることの方が正しいし・・・。

「アル!」

私がアルに何と言おうかと迷っていると、ルークさんが急いでこっちに向かってきた。

「どうした、ルーク。そんなに急いで。」

「アル、落ち着いて聞いて下さい。魔女が、漆黒の魔女が見つかりました!」

「「えぇ!?」」

私とアルが声を揃えて驚いたのは言うまでもない。



現在、騎士団との訓練は急遽中断してアルの執務室に来ている。もちろん、話すのは魔女の話だ。

「ルーク、詳しく魔女の話をしてくれ。」

「はい。北の森にて魔女の目撃情報があった様です。容姿は銀色の髪に黒色の目。言い伝え通りの容姿ではあると思いますが・・・。」

「が、何だ?」

「それは・・・。」

ルークさんはチラッと私を見た。

「構わん、続けろ。それにディアは信用できる。」

「はい。実は、魔女が今ここに来てまして・・・。」

「はぁ!?何のために!?」

「それが、アルに会いたいとかなんとか。」

「何で俺に会いたいんだ!?」

「それはわかりかねますが、本物だと思いますか?」

アルが微かに笑った。

「お前はどう思うんだ?ルーク。」

「胡散臭いの一言ですね。」

「言うな、お前も。」

「アルこそ、何か腹で考えている様ですが?」

「まぁ、すぐにわかる。俺は王の間に行こう、そこに魔女を通せ。」

「わかりました。」

「ディア、一緒に来てくれ。」

「はい。」

そうして私は自称魔女さんと会うことになった。


「ディア、お前は魔女の件をどう思う?」

「どう、とは?」

「本物なのかそうではないのか。お前はどう思う?」

・・・・・偽者だと思うと正直に言っても良いのだろうか。

「本物かどうかは分かりかねますが、私個人の意見としては限りなく偽者に近いかと。」

「そう・・・か。」

アルが突然笑った。

「俺も本物だとは思っていない。もし偽者だったなら、魔女が許しても俺は許さないかもしれない。」

「こんな所でそんなことを言わないで下さい。誰かにもし聞かれたらどうするんですか。」

「誰もここにはいない。いいだろう、少しくらい。ほら、自称魔女とご対面だ。」

そして、アルは自ら扉を開けた。


私はアルの隣、つまり王座の隣に立っている。そして私とアルが見つめる先に、一人の少女と男が膝をついている。まず、ここがおかしいと思う。私の場合は魔女ということを偽っていた訳だから、頭を下げるのもわかる。けれど、今目の前にいる自称魔女は魔女という身分を隠していない。魔女というのは、この世の何にも左右されない者だ。その者が特定の者に頭を下げることの意味をわかっているのか・・・。

「顔を上げろ。」

アルがそう言うと二人は顔を上げた。自称魔女というだけあって、髪の毛は銀色、目は黒色だった。

肌は真珠の様に白く、唇は石榴(ざくろ)の様に紅い。俗にいう美人。それが私が思う彼女への印象だった。

「この度は陛下への謁見を許して頂き、誠に感謝しております。」

先に男がしゃべりだした。

「本題に入れ、魔女よ。」

「はい。実は・・・。」

「男、お前に聞いているのではない。魔女に聞いている。」

アルが冷たい声で言いはなった。男は少し顔をしかめたが、すぐに顔を戻した。

「申し訳、ありません。」

男が黙ってしまった。アル、威圧してどうするのよ。

「陛下。」

鈴の様な声が広間に響いた。

「お初にお目にかかります。」

そして、少女はアルを見つめている。

「私の顔に何かあるのか?」

「あ、失礼しました。その、ロード様に似ていて懐かしくてつい。」

少女が微かに微笑んだ。普通の人にはその笑顔が愛くるしく見えるのだろう。けれど、私にはどす黒く見えた。


魔女は孤独な生き物だと私は思っている。

永遠の命と引き換えに、私は多くの命を見送って来た。人は思い出を大切にする生き物だと聞いた。恐らく、魔女もそうだと思う。魔女は自分の見てきたものの全てを記憶している。だから、より思い出に対しての想いが強い。そして、干渉されることを嫌う。

まぁ、私しか魔女がいないから、私の性格故かもしれないけれど。

だからだろうか。今、少女が言ったことに怒りを覚えたのは。ロードが懐かしい?アルとロードが似ている?お前が何を知っていると言うの?私の何を、ロードの何を知っていると言うの!?

その瞬間、魔力が波動となり空気が振動した。

「ディア?」

アルが私の変化に気付いたのか、顔をこっちに向けた。

「すみません、何でもないです。」

『魔女様、怒ってる。俺達、力貸す。』

私の怒りに反応したのか、隠すのが難しくなる程に精霊達が騒ぎ出した。

「ディア、どうしたんだ!?」

『ディアナ、落ち着きなさい。』

また、懐かしい声が聞こえた気がした。私の魔力が安定したからか、精霊達が落ち着いた。

「あの、何かありまして?」

少女がまた鈴の様な声で話す。

「いや、何でもない。」

アルが無表情に答えた。

「そうですか。」

「魔女、名前を教えてもらえるか。」

「もちろんです、陛下。私は、ローシュと言います。こちらの男性は、ダンです。」

「では、ローシュ。まず、俺はお前を魔女だとは信じていない。」

私はびっくりして顔を勢いよく上げた。まさか、そんな直球で言うとは驚きだ。

「では、どうすれば?」

ローシュは少し顔をしかめたが、すぐに微笑む様にアルに尋ねた。

「セレスの花を咲かせて見せろ。もし、咲かすことが出来たなら、俺はお前を魔女と認めよう。」

「魔女に命令するのですか。」

ローシュが笑みを絶やさずに言った。

「命令ではない。確認をしたいと言っているだけだ。」

「わかりました。ところで、セレスの花の種はどこに?」

そう、問題はそこだ。セレスの花は私が姿を消してから、人里離れた場所にしか咲いていない。もちろん、種もすぐに入手できる訳はなく・・・。

「ディア、取ってきてくれるな。」

「はい?」

「一時間以内に取ってきてくれるよな。」

「何故私が!?」

「お前しかいない、頼む。それに、お前もあいつの化けの皮を剥がしてみたいだろう?」

もちろん、最後のは小声だ。

「うっ。わかりました。行ってきます。」

「あの、陛下。ずっと気になっていたんですが、その方は?」

ローシュが私を見て、困った様な表情をしている。

「彼女はセレス王国魔術師長だ。」

「魔術師長・・・。そうですか。」

「あぁ。ディア、頼んだぞ。」

「わかりました。」

私はすぐに風魔法を展開し、種のある場所まで飛んだ。その際、ローシュの口が少し動いたけれど何て言ったのかは聞き取れなかった。

ただ、口の形は「邪魔をするな」と言っている様に見えた。


私は種を取りすぐに王の間に戻った。

「速かったな。」

「最速ですから。それに、私は一応魔術師長ですのでこれくらいは出来ます。」

少し嫌味っぽくなってしまった。

「助かった、ありがとう。」

華麗に笑顔でスルーされてしまった。

「・・・はい。」

そして私はセレスの花の種をアルに手渡した。

「ローシュ、期限は1週間だ。それまでに咲かすことが出来なければ、俺はお前を魔女と認めない。異論はあるか?」

「いえ、わかりました。」

「1週間、ここに滞在することを認める。部屋はこちらで用意をする。そこに滞在するといい。」

「はい。わかりました。あの、ダンも良いですか?」

チラッとアルは、ダンと呼ばれる男を見た。

「好きにしろ。」

「ありがとうございます。」

そうして、自称魔女との対面は終わった。



魔女が来てから1日が経った。王宮内では、どこから情報が漏れたのか魔女がここにいるという噂が流れている。噂だけなら良かったのだが、ローシュは王宮内を勝手に出歩くせいで目撃情報まで上がり、魔女の500年振りの帰還などと言われている。

「やられた。」

私は一言呟いた。

ローシュは恐らく、民衆を味方につけるつもりだ。そうすることで、セレスの花を咲かすことが出来なくてもどうにか出来ると思っている。民衆の心を掴めば、小さな嘘も容易いと・・・。

「ディア!」

「フェル。どうしたのこんな所で。」

「それが・・・。」

フェルが困った様な顔をした。

「魔女が訓練場に来てて・・・。」

「何ですって!?」

それは大変にまずい。何故なら、訓練場はこの王宮で最も外から見えやすい位置にあり人の通りも多い。そして、訓練生達の数と家柄も問題だ。

騎士達は成り上がりでもなれるが、魔術師達は学校を出なければならないことから、貴族の出の者が多い。つまり、それだけ王宮内に発言出来る親を持つ者が多いということだ。

「フェル、私に掴まって!」

「は?何を言って!?」

「良いから!」

「お、おい!?」

私はフェルに抱き着き、風魔法を展開させて飛んだ。


私とフェルが訓練場に着くと、既に人だかりで溢れていた。騎士団の者はもちろん、商人や貴族までいる。

「遅かったか。」

最早、収集のつかない程の賑わいだった。

中心にいる人物はそれを知ってか知らずか相変わらず、笑顔を振り撒いている。

「あれが魔女か。何か、想像していたのと違うな。」

「え?そうなの?」

「んー。何て言うか俺が想像してたのはこう、無駄に笑わないというか媚びないというか、もっと聡明そうっていうか・・・。」

「ふぅん、そっか。」

何だろう、少し嬉しいかもしれない。

「あ、おい、ディア、何笑ってんだよ!」

「何でもない。さぁ、この状況をどうにかしましょうか。」

「どうにかって?」

「簡単よ。雨が降れば皆何処かに行くでしょう?」

「なるほど。」

水の精霊王、またお願いしたいのだけど。

『わかった、今回は私も怒っている。どしゃ降りと嵐、どちらが良い?』

嵐って・・・。少し強いくらいの雨でいいわよ。

『わかった、どしゃ降りだな。』

え、何でそうなるの!?

「ふぇ、フェル、どしゃ降りが来る!避難しなきゃ!」

「どしゃ降り!?こんな晴天なのにか!?」

「早く、屋根の下に!」

私達は走って屋根の下に移動した。その瞬間、ザァーっと強い雨が降りだした。

「また、本当に降った・・・。」

すると、ローシュに群がっていた人達はすぐに散って行き、ローシュはダンという男と二人きりになった。

「フェル、私も彼女を魔女だとは信じていないわ。」

私はローシュ達を見ながら強い意思を目に込めて言った。




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