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漆黒の魔女  作者:
第1章
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4.魔女の日常





アルに魔女として会ってから3日が経った。あの後二人で話した結果、私のことは誰にも話さないことになった。そのお陰で私は今も鳶色の髪と緑の眼でここにいれるわけだけど・・・。

そして、私の身元は街に住んでいて既に身内は他界しているという設定にした。

これは宰相であるルクシウスこと、ルークがそれなりに怪しんだからだ。

まぁ、それは至極普通なことだから仕方がない。異常なのはアルとフェルだ。

ほら、今朝も来る。大きな音と声がドアの前で止まったかと思うと、すぐにそれに勝るとも劣らない音でドアが叩かれた。

「はぁ、どうぞ。」

私の部屋に勢い良く入ってきたのは、この国の王と騎士団長。

「ディア、今日こそは俺と食事をするだろう?」

「いや、ディア魔術師長にはぜひ、騎士団の稽古を付けでもらいたく!」

ずっとこの調子だ。よく、3日も飽きずに同じことができる。

「取り合えず、フェルさんは敬語をやめて下さい。様を付けて呼ぶのもです。敬語をやめるなら今日は騎士団の方へ行き、職務を果たしましょう。」

「本当か!?」

一瞬で敬語が外れた。適応力ってすごい。

「えぇ。」

フェルは破顔して私の部屋を出て行った。

「ディア。俺との食事は?」

アルが少し不満気に言った。

「時間がとれたらします。とれない可能性が高いので、陛下も騎士団の方に来ますか?」

落胆していたと思ったら、一瞬にして笑顔になった。

「俺が行ってもいいのか?」

「何か駄目な理由でも?」

「ない!職務を終わらせたらすぐに行こう。」

「えぇ。」

アルは風魔法で消えた。恐らく、王の執務室に行ったんだろう。そもそも何故アルが私を毎日食事に誘うのか理解が出来ない。

「はぁ。」

すると後ろから笑い声が聞こえた。

「ディア様も大変ですね。」

「もう、マリー。見てるだけじゃなくて助けてよ。」

マリとはここ数日でかなり仲良くなった。実は人見知りだったらしい。

「私には無理ですよ。あんなにディア様を慕っている殿方を止める術はございません。」

「二人共そんなことはないと思うけど。」

「さぁ、早くお仕度をして下さいませ。騎士団の皆様が首を長くしてお待ちのはずですわ。」

「そう、ね。」

私は職務怠慢と言われないために、仕立て上がったばかりの魔術師長のローブを着て訓練場に向かった。


訓練場に着くと既に騎士達は剣を振り、魔術師達は魔法を展開していた。

騎士と魔術師の大きな違いは3つある。1つ目は、魔術師は剣を振らず、魔法だけで戦うのに対し、騎士は魔術と剣技、そして体術も使用する点だ。次に2つ目は、魔術師は必ず魔法学校を出ているらしい。騎士になるためには実力試験しかないらしいのだが、魔術師になるには魔法学校の卒業資格と成績、実力試験が必要らしい。私はその辺どうなっているのかしら。そして3つ目は、魔術師は精霊を使役出来るということだ。個人の能力によって差があるが、精霊を使役出来た者が魔術師となれる。

だが、騎士団と魔術師を纏めるのは騎士団長でその上が魔術師長になるらしい。ちなみに、騎士団長と魔術師長は一応上下関係があるらしいが、発言権は同等で宰相と同じ立場を持つ。

私は突然の中途雇用なのに、偉い人になってしまったらしい。こんなことが国の中枢機関で有り得て良いものなのか・・・。

そんなことを考えてフラフラしていると、フェルに捕獲された。

「ディア、早速稽古をつけてくれ。」

「わかったわ。」

「全員集まれ!今日は、ディア様にも稽古をつけて頂く!各々、技を磨くように!」

恐らくフェルは皆の前では私に敬語を使うのだろう。マリが言っていた様にここでは上下関係が大切らしい。

「「「「はっ」」」」

すごい、声も手の角度も揃っている。流石、王国騎士団。

「まずは、誰かディア様と手合わせをしたい者は居ないか?」

スッと一人手が上がった。ローブを着ていることから、魔術師だろう。年は私と同じくらいか少し上の男性。

「私が手合わせをお願いしたい。ロン=マーシュです。お見知り置きを、ディア様。」

「ロンか。ディア様、ロンはここにいる魔術師の中でもかなり腕の立つものです。よろしいですか?」

「もちろんです。ロン、よろしくお願いしますね?」

「はっ!お願い致します。」


審判はフェルが務めることになった。他の騎士や魔術師は見て学ぶということで、観戦。

私とロンは握手を交わした。その際、ロンが唐突に口を開いた。

「俺はお前を魔術師長とは認めない。この前のはまぐれだ。すぐに化けの皮を剥がしてやる。」

敵意剥き出しの目。これは大変そうだな。

「それでは、開始!」

なんて呑気に考えていたら、試合が始まった。


取り合えず、いつも通り浮いた。あのままだと見られ過ぎて体に穴が開くと思ったから、なんてことは誰にも言えない。

「お先にどうぞ。」

「チッ。」

ちょ、舌打ち!?観戦してる側にはわからないみたいだけど、私には聞こえているからね!

「水よ、我が想いに応え我が望む形となれ。水矢(ヒュドールヴェロス)。」

そんなことを考えていると、水の矢が私に向かって飛んできた。

ロンは水魔法らしい。当たれば良い攻撃になりそうだけど、魔力にムラがある。

「当たらないか。それなら!

我が望むのは刃、流れる水はその姿を変え我を守る剣となれ。水剣(ヒュドールクシフォス)。」

すると、次は水で出来た刃物が飛んできた。私を殺す気で攻撃してきてるのは評価できるけど、単調な攻撃ばかりだ。

「避けてばかりでは、何も変わりませんよ?」

「それでは、反撃をさせてもらいましょうか。」

ロンが水なら、私も水で対抗しようか。同じ属性で戦う場合は魔術師の魔力の量や質によって決まる。

「水よ、我が想いに応え我が望む形となれ。水矢(ヒュドールヴェロス)。」

私はさっきロンが唱えたものと全く同じ術式を唱えた。

「俺が唱えたものと同じものを。バカにしているんですか?」

「侮っていると怪我をしますよ?」

「何をっ!」

ロンは必死に避けている。

「案外大したことがないんだな。」

全て避けたロンが笑っているのがわかる。

(アネモス)。」

私は風魔法を使い、フィールドを乾かした。

「これは!?」

水が乾いたお陰で、フィールドの凹凸がはっきりとわかるようになった。

「俺が撃ち込んだ方が地面のえぐれ方が浅い、だと?どういうことだ?」

何をそんなにわめくのだろうか。

「ロン、確かに貴方の水矢(ヒュドールヴェロス)は私と同じように地面に着弾しました。何故、えぐれ方に差が出ているかなんて簡単です。貴方の魔力より私の魔力の方が上だっだ、それだけです。」

「そんな、バカな。」

「それと、貴方の魔力にはムラがあり過ぎです。もっと全てを均等に凝縮するべきです。」

「うるさい!」

忠告を逆ギレって・・・。いい根性してるわ。

「これで、お前なんて終わらせてやる!」

魔力の波動が変わった。何かしてくるわね。

水暴馬(ヒュドールヒッポス)!」

ロンが出したのは精霊だった。


「あぁ。水暴馬(ヒュドールヒッポス)ね。」

『暑い、ここは好かん。』

水暴馬の声がただ漏れ過ぎる。

「何だ、その呆れた様な目は!」

『眠い。水が欲しい。』

そしてこの水暴馬、やる気が無さ過ぎる。

「いや、別に。ただ、」

「ただ、何だ!?」

「・・・それは試合が終わってからにするわ。」

「チッ。」

ま、また舌打ち!?本気で腹が立ってきた。

「お前は使役精霊を出さないのか?いや、出せないのか?」

『お前だって出せるだけだろ。』

ロンがバカにした様な口調で言ってくる。けれど、水暴馬の声ばかりに反応してしまう。

使役精霊、か。でも、精霊王なんて出したら大問題になるだろうし。仕方がない、あの子に頼もう。

「わかったわよ。精霊を出せばいいのでしょう?」

私は魔力を集中させた。

一角獣(モノケロース)。」

その瞬間、フィールドに角を持った白馬が現れた。


一角獣(モノケロース)だと・・・。そんな高位の精霊を一体何処で!?」

「飛んでたら会っただけよ。」

実際、本当にそうだった。話すと妙になつかれて今では呼ぶとすぐに来てくれる様になった。

『ディアナ、久しぶり。元気だった?』

えぇ。貴方は?

『こっちも元気。ディアナ、髪と眼が変?』

これは、まぁ。色々あったの。

『ふーん。で、あれを倒せば良い?』

そうなんだけど、動けなくなる程度で良いわ。

『わかった。』

「じゃあ、ロン。反撃するわね?」

一角獣が瞬時に終わらせたのは言うまでもない。


「両者そこまで。勝者、ディア様。」

一角獣からの一撃で伸びるとはだらしがない。

周りからは歓声が上がっていた。

「俺、初めて一角獣(モノケロース)を見た。」

「お、俺も。」

「ロンが一方的なんて、信じられん。」

一角獣(モノケロース)に触れられないかな。」

これは鍛えがいがあるかもしれない。そんなことを思っていたら、一角獣が目の前にいた。

『もう終わり?』

えぇ。ありがとうね。

『ううん。また呼んで。』

ぜひそうするわ。

『ディアナ、楽しい?前より笑ってる。』

そう、ね。楽しいかもしれないわね。

『それならよかった。じゃあ、俺はもう行くね。またね、ディアナ。あ、水暴馬(ヒュドールヒッポス)のこと見てあげてね。』

わかってるわ、またね。

そうして一角獣は姿を消した。


まずは一角獣が言った通り、水暴馬をどうにかしなくてはいけない。ロンはその後でも良いだろう。

「ディア、やっぱりお前はすごいな。」

「フェルさん。すいません、少しはしゃぎ過ぎました。」

「いや、あいつには良いお灸になっただろう。」

「そうですかね。あ、それよりも、水浴び出来る所ってありますか?ちなみに、馬なんですけど。」

「馬の水浴び場?そんなだだっ広い場所はないが・・・。」

じゃあ、仕方ないか。

水暴馬(ヒュドールヒッポス)、おいで!」

「お、おい!ディア、そいつは知らない奴には狂暴で!」

『俺を呼ぶのは誰だ。』

「私よ。」

『誰だお前。』

「私がわからないと言うの?」

「おい、ディア。お前誰と喋って?」

『その魔力、まさか!』

「えぇ。わかれば、そこに座ってくれる?」

水暴馬は座って頭を下げた。

「嘘だろ?」

『闇の魔女。出会えて光栄です。』

「その呼び方をされるのは久しいわね。」

『精霊達は、この名前をよく使います。』

「そうらしいわね。雨を降らせてあげるから少し待ってね。」

「ディア?お前、まさか水暴馬(ヒュドールヒッポス)と?」

「フェルさん。取り合えず、皆を屋根の下に移動させてもらえませんか?これから雨が降りますので。」

「あ、雨?」

「はい、指示をお願いします。」

「わ、わかった。おい、皆、屋根の下に早く入れ!一雨来るらしい!」

皆は頭にクエスチョンを浮かべていたけど、素直に従ってくれた。


水の精霊王。居るのでしょう?真名は、呼べないの。出てきてちょうだい。

『ディアナ。』

ごめんね。真名を呼ぶと、皆に見えてしまうから。

『構わない。用は?』

雨を降らせて欲しいの。この水暴馬が元気になるくらいの。そう言って、私は水暴馬の頭を撫でた。

『わかった。お前も濡れてしまう、早く屋根の下に。』

ありがとう。

私は急いで屋根の下に行った。


「ディア、本当に雨は降るのか?」

「もちろんよ!もうすぐ降るわ。」

フェルにはすごく不思議な顔をされた。

「それにさっき水暴馬(ヒュドールヒッポス)と話してなかったか?」

「そう、ね。」

「話せるのか!?」

「何となくね。」

「いや、あれは何となくじゃないだろ。」

「そう?あ、ほら。雨が降って来たわ。」

「おぉ!本当だ。あれ、水暴馬(ヒュドールヒッポス)が何か嬉しそう?」

「えぇ。水暴馬(ヒュドールヒッポス)はね、そもそも水辺や水中で暮らす精霊なの。今日みたいな暖かい日に陸上にいたら、体力の消耗が激しいのよ。だから、雨を降らせたの。」

元気になってよかったわ。

「お前、雨を降らせたって!?」

「あ、いや、私の力じゃないわよ?ただ、お願いしただけで。」

「お願い・・・。俺も願えば、雨を降らせれるのか?」

「日頃の行い次第じゃないかしら。」

「だよな。ディア、気付いてるか?」

突然、フェルがこっちを笑いながら見た。

「敬語が消えてる。」

「え、あ!本当だ!」

指摘されるまで気付かなかった。

「そっちの方が地なんだろ?その方がいいぞ。俺にさん付けも不要だしな。」

うっ。地ってバレてたんだ。

「ごめん、ありがとう。フェル。」

「おう!」

「あ、忘れてたけど、ロンは風魔法で医務室に送っておいたから。」

「おぉ。ありがとな。」

「いや、まぁ、伸びちゃったのは私のせいだから。」

「それもそうか。」

私達はお互いに笑いあった。




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