表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漆黒の魔女  作者:
第1章
4/19

3.魔女の花





王城に入ってから気になっていたけど、ここは昔に比べて神聖な気に溢れている。どうしてだろうと気になり、私は神聖な気が強い方へと歩いて行った。

「ここよね。」

辿り着いたのは箱庭の様な場所だった。

「うわぁ、綺麗。いろんな地方の季節の花を魔法で調整して咲かせているのね。」

その中に1輪、目に留まる花があった。

「セレスの花。」

この世界の象徴である花。そして、私の最も好きな花。

「だけど、何故ここに。」

私は手を伸ばして触れようとした。

「ディア。」

けれど、それは突然の声で遮られた。


「アルファード陛下。」

私を呼んだのは陛下だった。

「アルでいい。お前はその花を知っているのか。」

もちろん、誰よりも知っている。

「はい、魔女の愛した花ですよね。でも、何故ここに?この花は、魔女でないと育てられないのでは・・・。」

そう。セレスの花は私の魔力を糧として育つ。だから、私の力が育成には不可欠なはずだ。

「俺が植えたんだ。まだ俺が王位に就く前、6歳の時に魔女から貰って。」

「魔女から貰った?」

「信じられないだろう。だが、俺は本当に魔女から直接貰ったんだ。あの日は満月の夜で、俺の母親が死んだ日だった。」

満月の夜、男の子、セレスの花。

「その日俺は泣くことを許されなかった。だから深夜にこっそりとここに来たんだ。そこで、俺は母を想って泣いた。その時、空から銀髪をなびかせ漆黒の眼をした魔女が降りてきたんだ。そして俺の話を聞いて慰めてくれた。魔女は去り際に俺に1つ種をくれた。そして、これを目印にまたここに来ると約束をしてくれた。」

そうだ、あの日。確かに私は男の子にセレスの花の種をあげた。種に私の魔力を込めて。

どうして忘れてしまっていたんだろう。すごく申し訳ない気持ちになる。

「だから俺は毎日夜になるとここに来るんだ。魔女が来たことがすぐにわかるように。」

「花が咲いてから毎日ですか?」

「あぁ。呆れるか?来もしない魔女を待ち続ける俺に。」

「そんなこと、ないです。私は待ち続けるアル陛下のことを尊敬しますし、魔女はきっと来ると思います。」

私はしっかりと蒼い眼を見つめて言った。

「そう言われたのは初めてだな。」

アルが笑った。笑った顔もロードと同じ雰囲気だった。

「じゃあ、お邪魔はしたくないので私はこれで。」

「あぁ。」

「失礼します。」


私は風魔法で与えられた部屋に戻っていた。何故、自分はあの約束を忘れてしまっていたんだろう。

そうだ、あの日はアルに会って帰ったら精霊の子が熱でうなされていたんだ。危険な状態ですぐに処置にかかって・・・。でも、そんなのは言い訳にしかならない。

何時間座っていたんだろう。気付けば、もう少しで日付が変わる。私はマリに用意してもらったワンピースを脱ぎ、魔法で6歳のアルと会った時と同じ服装になった。

そして、部屋を飛び出した。

まだアルが居るのかどうかもわからなかった。だけど、早く行かなければいけないと思った。

もうこれ以上は待たせられない。私は風魔法を展開させた。


私は本来の姿で空を舞っている。

「いた。」

アルはセレスの花の近くのベンチに一人で座っていた。

私は静かに下へ降りていった。




夕方、ディアに言われたことがずっと頭の中に響いている。自分でもわかっていた。魔女はきっと来ないんだと。でも、ディアに言われてまた魔女が来ることを信じることが出来た。彼女には感謝しなくてはいけない。しかし、ディアの言葉。あの様に言うということは俺の見当が外れたのだろうか。

自分一人では答えの出ないことを考えながら、そろそろ帰ろうと俺は腰を上げた。

「もう帰るの?」

俺の視線の先にはずっと待ち望んでいたヒトがいた。



私が話しかけてからアルが全く動かない。もしかして、私が見えていない?そんなことはないよね?

「あの。」

「魔女なのか。」

声が被ってしまった。

「貴方はあの時の男の子よね。約束を守るのが遅くなってごめんなさい。」

アルがいつの間にか目の前に立っていた。

「本当にあの時の魔女なんだな。」

「えぇ。」

その瞬間、抱き締められた。

「会いたかった。あの時、言えなかったことをずっと伝えたかった。」

言えなかったこと?

「ありがとう。そして、名前を教えて欲しい。」

名前。私は名前をロード以外の人間には教えたことがなかった。名前は魔女を縛る鎖になる。だから、本当に信じた者にしか教えない。

ロードは最期まで誰にも私の名は教えなかったらしい。

「俺の名前はアルファードだ。アルと呼んで欲しい。」

抱き締める力が少し強くなった。

「アル。」

名前を呼ぶとアルの肩が少し震えた。

「魔女が名前を教えるということの意味を貴方はわかる?」

私は優しく問うた。

「わかっているつもりではいる。」

「そう。魔女にとって真名はとても、とても大切なものなの。」

「無理に聞くつもりはない。」

アルは少し、悲しそうな声色になった。

「そんな悲しそうにしないで。まだ今は貴方に真名を教えることは出来ない。でも、貴方がこれから私に誠意を見せてくれるのなら、私は貴方にいつか真名を教えると約束するわ。」

「誠意とはどうすれば良い?」

「それは自分で考えて。でも、私がこの約束をしたのは貴方で2人目よ。」

「最初は?」

「ロードとこの約束をして最終的に真名を教えたわ。だけど、彼は私が姿を消してからもその名で私を縛ることはしなかった。自分が滅ぶことをわかっていても、私を呼ばなかった。」

そう、自分が死ぬとしても彼は私を縛らなかった。

「俺もそうなると誓おう。自分の名にかけて。」

ロードが言ってくれた言葉。ここでまた聞けるとは。

『我が名にかけて誓う。ディアナ。』

懐かしい声が聞こえる。貴方の意思はちゃんと受け継がれているよ、ロード。

「ど、どうした!?やはり、俺と名前を教える約束をするのは嫌だったのか!?お願いだから泣かないでくれ。」

私はいつの間にか泣いていた。

「違うの、アルは悪くない。これは私の問題。」

私は安心させる様に、アルに微笑んだ。


未だにアルに抱き締められている。不思議と嫌な感じはしない。むしろ落ち着く。きっと、ロードを思い出すからだと思う。

「漆黒の魔女。」

「何?」

「本当はもう1つ言いたいことがある。」

私はアルを見上げて首をかしげた。

「俺と結婚して欲しい。」

「な、な、な、何を言って!?」

「初めて会ったあの日からずっと俺はお前のことを、」

「ちょ、ちょっと待って!初めて会ったあの日って6歳の!?」

「悪いか、好きなものは仕方がないだろ。」

いや、まぁ、確かにそうなんだけど。

「だから、俺と結婚して欲しい。」

蒼い眼と目が合う。

「アル、知ってるとは思うけど、私は魔女なんだよ?人間じゃないんだよ?」

「だから何だ。魔女と結婚してはいけないなんて決まりはない。」

「いや、でも!」

「俺だってすぐに結婚してもらえるなんて思ってない、長期戦は覚悟の上だ。」

「だとしても、王様は早く結婚しなければいけないでしょ!?」

「だから、今年1年が勝負なんだ!」

1年が勝負?

「何で、1年?」

「それは・・・こちらにも色々と事情があるんだ。」

「・・・そう。」

王様だし、先代から何か言われているのかもしれないわね。

「取り合えず、口説いてもいいか?」

「え?」

アルは私の答えを待たず喋り始めた。

「6歳のあの日、初めて会ったあの日から俺は貴女のことが忘れられなかった。そしてその想いは日に日に大きくなって、」

「わ、わかったから!それ以上はストップ!」

さっきから何なの、恥ずかしすぎて顔から火が出る。

「わかってくれたのか!?」

「違うわ!結婚はしない!」

「何故!?」

何故って・・・。まだ2回しか会ったことないのに。

「そんなに私と結婚したいなら、私を貴方に惚れさせてみなさい!1年後もしも、もしも私が貴方に惚れたらちゃんと考えます!」

「本当に?」

「魔女は嘘はつかないし、約束は守るわ。」

「そう、か。だが、16年間1度も来なかったから約束は忘れ去られなかったことになったのかと思った。」

「そ、それは、ごめんなさい。だけど、今回はちゃんと覚えてるから。」

何でそんなに嬉しそうな目で私を見るの!?

「じゃあ、覚悟してろ。絶対、俺に惚れさせてやるから。」

そうして、私とアルの奇妙な関係は始まった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ