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戦国放浪記~別にシリアスではない~  作者: 夏月
第一章「飛ばされました」
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邂逅

 途中、息を切らしながらも、ノンストップで一時間ほど歩みを進めた。

 その間、周囲には田畑しかなかったと言っていい。その代わり映えしない風景に若干焦りが生じ始めたところで、待望の町を発見した。

 見るからに、檜色だった。

 高層の建物などは一つも無く、似たり寄ったりな木造りの家々は精々屋根材が瓦か板か、はたまた藁かといった具合で連なっていた。その中世的景観を見てようやく確信した。

 即ち、俺は別の世界に来たのだ。


「……よし!」

 深呼吸をし、気合を入れ直した。

 今更5Wなどいらない。今大事なのは1Hであり、生きる為にどうやってこの地に根を下ろすかだ。差し当たってこの町では金と情報が欲しい。

「とは言え、この服装は浮くよな。どうしよう」

 自分が着ている服を見て、このまま町に入っていいものかどうか迷った。

 遠目から町の住人を見ると、大部分が着物を身に付けており、例えば俺が、「いやー、今日も武将一人をノックアウトしたで候」とか言いながらナチュラルに町の中に入って行っても、二十一世紀の洋服は異彩を放ちまくるに違いない。って言うか、その言動も異彩を放ちまくるだろう。かと言って、森・面具ヒューマンからパクッた甲冑を身に着けて町に入っても、ほぼ同等の注目を集める筈。


「あ。もしかして森・面具ヒューマンがキレてたのって、俺の服装も一枚噛んでいたのか?」

 確か無礼者とか言っていたよな。ただ単に、態度云々の話じゃなかったのかもしれない。

「まあその事はいいや。でもそうなると尚更この時代の服が欲しいな」

 この馬と甲冑で交換出来ないかな? それとも一旦人気の無い民家にでも行って交換してもらうか? 

 ……いや、駄目だな。得体の知れない恰好をした俺に怖がってそれどころじゃなくなるだろうな。

 うーん、じゃあ夜を待つか? んでもって洗濯干ししてある服を失敬して、その代わりに換金性のある物を置いておくとか。でも夜まで何処で待てばいい? ブチギレた森・面具ヒューマンの追手に見つかるかもしれない。考えれば考えるほど、八方塞がりだ。


「ええい、分からん! もういい、町がそこにあるんだから、行けばいい!」

 虎穴に入らずんば虎子を得ず! 何とかなるさ!

 そう思いつつ腹を括り、勇んで町に入ったはいいが、案の定多くの奇異の目を向けられた。

 有名人よろしく、俺の一挙手一投足が町の住人に何かしらの刺激を与えるらしく、歩いてはひそひそ話をされ、馬を撫でては感嘆の声を上げられる。ハッキリ言って、居心地が悪い。


 ……もうアレか、いっそ裸になるか。

 そもそも、服なんて着ているから奇異の目で見られるんだよ。人間は裸で生まれてくるじゃないか。もし裸になって人前に出るのが犯罪というのなら、人間は生まれた瞬間現行犯逮捕だ。母親からスポーンと生まれ出た瞬間に手錠を掛けられるという事になる。そんな蛮行、許されないだろう。であれば、それから数十年して成人になろうとも、同じ人間である以上、裸で人前に出ても許されるに違いない。おお、正しく完璧な理論だ。そう考えると何かテンションが上がってきた。よし、いっちょやってみっか!


「おーい、そこの男。こっちに来い」

 丁度ズボンに手をかけたところで、目の前の店の中から出てきた、年の頃は五十前後だろう恰幅の良い中年の男に手招きされる。……チッ、何だよ。せっかく脱ごうとしたのに。

「俺ですか?」

「そうだ。露出狂一歩手前のお前だよ」

 その失礼な物言いに思わずシカトしてやろうと思ったが、折角の声掛けをスルーする訳にはいかない。ぐっと堪えて、中年男性に近寄る。

「何でしょうか」

 俺がそう言うと、中年男性は何とも言えない笑みを浮かべて俺に言葉を投げ掛けた。


「お前、この時代の人間じゃないな」


「っ!」

 その言葉を聞きた瞬間、反射的に後ずさり、すぐにでも逃げられる態勢をとった。

「待て待て、別に何をする訳でも無いぞ」

 中年男性は開いた距離を詰めず、僅かに声を大にして俺にそう言ってきた。

「……そう、ですよね。いや、すいませんでした」

 そう言い、頭を下げる。

 目の前の中年男性が何者かは分からないが、俺が別の時代から来たという事を知っている。恐らくは俺の服装から判断したのだろうが、そんな荒唐無稽な事実を下せる以上、この人もまた時代転移に関わっている事は想像に難くない。そこまで考えた時、思わず首を傾げた。

 はて。情報の塊とも言えるであろうこの人に対し、俺は何故逃げようとしたのだろう。自問するが、どうにも自答出来ない。我ながら不思議だった。


「なあ、少し話をしないか?」

 その言葉を聞き、一先ず考えを打ち消して中年男性を見ると、親指をクイッと後ろの店に向けていた。周囲にある家その他と比べれば大きく、瓦葺きのそれは現代眼からすれば豪奢では無いが、ドヤ顔で指し示す中年男性を見るに、相当な資産価値を持つ建物なのだろう。

「はい、是非」

 そのありがたい申し出に対し、俺としては断る理由が無い。一も二も無く飛びついた。

「よし、じゃあ決定だな。おーい、誰か馬の面倒を見てやってくれ」

 俺の横で大人しくしているトラボルタを見て、中年男性は店の中に向けて声を張り上げた。一連の態度を見るに、この中年男性は店主かそれに近い地位の人間なのだろう。

「こっちだ。来てくれ」

 中年男性はすたすたと店の裏口に向かって歩みを進める。俺はその後について行った。



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