第三幕 光明
戦慄の一夜が明け、皇帝と謁見を交わすヘクターの前に現れた人物とは……
第三幕 光明
ソフィアは気がついた時、辺りを埋め尽くす熱気と硝煙に思わず咳込んだ。自分の家が燃えて、瓦礫の山になってしまったと気付いたのはそれから少し経ってからだった。
―――一体何があったの? 目が覚めたらヘクターがいなくて、表を見たら街の方から火の手が上がってて……そうよ、空が割れてそこから大きな鳥のような……魔物が現れたんだわ。
ようやく事態を理解し始め、彼女はゆっくりと身体を起こす。
―――私は……なんともない、無傷だわ。でもどうして?
あの時、目が覚めてからヘクターが心配で眠れなかった。昼間も少し態度がおかしかったし、ベッドに入るまでずっと棚の上の剣を気にしていた。なにか落ち着かない、またどこかへ行ってしまうのかなって、不安になった。
それから私も剣が気になって、なんとなく手に取った時、あれはただの剣じゃないと感じた。とても暖かい、懐かしいような感覚。そして私を守ってくれる。まるでヘクターから受けている愛情をそのまま形にしたような、そんな印象を受けた気がした。でもその後は大きな黒い炎が窓の外に見えて……訳が分からないまま私は気が付いたらここに居た。
そうだ、ヘクターは?
「ヘク……」
彼の名前を呼ぼうとした時、やや離れた位置でヘクターの声が聞こえた。誰かと話しているようだった。
「ではクルニールは無関係なのか?」
彼はあの折れた剣を構えていて、その周りには先程ソフィアが目にした大きな鳥のような、だが決して鳥ではなさそうな大きな魔物が彼を取り囲むように飛び回り、更に地上ではクルニールの兵士達がなにやらおぼつかない足取りでヘクターに迫っていた。そして、彼の傍らには……
「あれは、魔物?」
驚いた事に彼の会話の相手は空を飛び回る巨大な魔物に似た、赤い翼を持つ巨大な鳥のようだった。
「あの魔物達を仕向けたのは王国の手の者と見て間違いないだろう」
どうやら巨大な赤い鳥は他のモンスターとは違い、ヘクターに敵意を持ってはいないようだった。むしろ彼に協力し、護ろうとしてくれている。ソフィアはそんな風に考えながらヘクターを見守っていた。
やがて封を切ったように空の一部がゆがみ始め、空間が分かたれる。そこから現れた黒い鎧の騎士がヘクターへと向かって歩みを進める。
この時、ソフィアは言い知れぬ不安な気持ちに駆られた。「あの騎士は危険だ」彼女の五感が悲鳴を上げ、離れた所に居るのにも関わらず、黒い騎士からの強力な重圧を感じずにはいられなかった。
そしてヘクターとその騎士は戦いを始めた。先手を打ったのは赤い魔物だったが、黒い騎士はひるみもせずにヘクターたちを追い詰めていった。
「ヘクター……」
ソフィアはまだ力の入らない身体に鞭打ち、大木によしかかりながら立ち上がる。そうしている間にも騎士の放つ漆黒の炎がヘクター達に襲いかかる。彼らは既に万事休すといった状態だった。地面に倒れて身動きの取れないヘクターを騎士がいたぶり、とどめを刺そうと大きな槍をふりあげる。
「そんなこと、させないわ!」
その瞬間の彼女に迷いはなかった。大切な人を守りたい、唯一の愛する人を助けたい。その一心で彼女は走り出していた。
「ソフィア!」
大声を張り上げてヘクターは目を覚ました。
「夢か……」
彼が見た夢は妻が自分の代わりに命を落とす。それを何も出来ずにただ眺めているだけの自分。相手に抗う事も出来ず、阻止する事も出来ない自分。妻は自分の腕の中で息絶えていく。そんな内容だった。しかし、それは夢の中だけの出来事ではなかった。意識がはっきりとしてくると昨夜の一件の記憶が明らかになっていき、身体の痛みは無数の傷跡がある事を物語る。
「夢じゃ……ないんだな」
ヘクターはしばしの間黙り込んだあと、
「レーヴァ、いるのか?」
身体を動かさず、天井を見つめたままで静かに問いかける。返事はすぐに返ってきた。
「ああ、目が覚めたのか」
室内はベッドが二つ置かれ、豪華な装飾の施された照明が壁に連なっており、中央には大きなシャンデリアが垂らされている。
「ここは客間か。レーヴァ、街はどうなったんだ? あの騎士は?」
「あの騎士は我々を追い詰めた後、突然手下共を引き連れて立ち去って行った。何故かは分からないが、ずいぶんと諦めの良い引き際だったな」
「そうか……」
きっと何かしらの理由があるのだろう。しかし、ヘクターは考える気にはなれなかった。
「お前の妻だが…」
「やめろ」
ぴしゃりと言い放ち、ヘクターは目を閉じる。彼の心中を察したレーヴァが、
「勘違いするな」
となだめる。
「お前の妻は死んではいない、傷もすでに癒え、この城のどこかで眠っているだろう」
ヘクターは驚いて目を見開き、表情にはみるみる笑みがこぼれ始める。
「本当か? 本当にソフィアは生きているのか? 無事なんだな?」
「本当だ。だが…」
レーヴァが何か言いかけるのと同時に扉がノックされ、二人の会話は遮られた。
「失礼します」
そう言って皇帝の側近である近衛兵が部屋の中へと入ってきた。
「ヘクター様、陛下がお呼びです」
「動けますか?」と付け加えて近衛兵はヘクターに着替えを渡す。
「ああ、大丈夫だ。五分後に行くと伝えてくれ」
「はい」
はきはきとした口調で答えた後、部屋を出ようとした近衛兵は思い出したように「あっ」と声を上げて振り返った。
「ヴァングリフ将軍がお戻りになられました。陛下とご一緒にお待ちです」
「将軍が?……そうか、わかった」
「では」
そうして近衛兵はドアの向こうへと去って行った。
「ヘクターよ、その将軍とは何者なのだ?」
近衛兵が部屋から出て行くのを待ってからレーヴァが尋ねる。ヘクターは手渡された衣服の袖を通しながら答える。
「俺の…いや、俺とダリルの師みたいな人だ。俺達に剣を教えてくれて騎士団では幾度となく命を救われた。そして、俺とソフィアを巡り合わせてくれた」
着替えを終えたヘクターはレーヴァテインを持って部屋を出る時、
「俺なんかより将軍の方が、ずっと神剣にふさわしいんだろうな」
自分自身に言い聞かせるように言った。
長い廊下を抜ける最中、ヘクターは思いの他身体の痛みが軽くなっているような気がした。
「レーヴァ、これも竜人の力なのか?」
視線を手に握ったレーヴァテインへと向けてヘクターは問う。
「そうだ。だが竜人の治癒能力を持ってしてもこの程度しか回復しないとは、あの騎士の力、恐ろしいな」
ヘクターは再び視線を落とし、「ああ」と一言だけ答えて歩みを進めた。
やがて突き当たりに大きな扉があり、それを越えると謁見の間へとたどり着いた。そこは床中に大理石が敷き詰められ、中央には赤く良質な素材の絨毯が轢かれている。絨毯の脇には兵士達が等間隔に整列し、その先の玉座には白髪を後ろへ流し、繊細な造りの王冠を頭上に誇る初老の男性が座っている。そして横には鋼鉄の鎧に身を包み、まるで獅子のように逆立った金髪を蓄えた、年の頃は四十をゆうに越えているだろう、しかし年齢に全く似つかわしくない体格の良い男が腕を組んでヘクターを見据えている。腰にはその体格にぴったりの分厚く巨大な青龍刀を備えている。ヘクターは二人の前に膝まづき、レーヴァテインを傍らに置く。
「遅くなりました。陛下、将軍」
一礼した後、二人に視線を送る。
「うむ、怪我はもう良いのか?」
陛下と呼ばれた初老の男性がヘクターに語りかける。
「はい、大事ありません」
「久しいな、ヘクター」
今度は腕を組んでいる男がヘクターに声をかけた。
「お久しぶりです。将軍」
ヘクターが答えたのを聞いて、「この男が将軍か。なるほど、良い面構えをしている」とレーヴァは感じたままをヘクターに囁いた。
「昨夜の件、報告を受けて心配したぞ。だが良く無事でいてくれた。流石は我が帝国騎士団の小隊長と言ったところだな」
皇帝の言葉に、ヘクターは「いえ」とだけ言って首を振る。
「敵が城から姿を消し、街にドラゴンのような魔物が現れた後、兵の一人が街のはずれに巨大な炎を見た。まもなく魔物達は街から忽然と姿を消し、何人かの兵士が炎の元へ向かうと、お主とその妻ソフィアが発見され、すぐさま保護された」
皇帝の説明により、レーヴァの放った炎のおかげで命を救われた事をヘクターは知る。
「ソフィアの、妻の容態は?」
ヘクターが声を荒げて陛下に問う。
「報告によれば命の心配はないようだ。ただ、肉体的に問題は無いにもかかわらず、一向に目を覚まさないとの事だ」
「目を…覚まさない?」
「うむ、何か精神的な問題だろうか、原因は全く掴めていないようだ」
更に皇帝は少し息をつき、眉間にしわを寄せて、
「直接の関係があるのかは分からないとの事だが、ソフィアの全身にうっすらと黒いあざのようなものが浮き上がっているとの報告もあった」
と重々しく告げた。
「あざ? しかし昨日まではそのようなものは……」
そこまで言ってからヘクターはハッとした。そしてレーヴァテインに向かって、
「レーヴァ、何か知っているか?」
と少し焦って問いかける。彼のその様子を皇帝と将軍は目を丸くして見ている。
「ヘクター、なにを……」
皇帝は少し間の抜けた声を出すが、ヘクターは見向きもせずに傍らの折れた剣に向かってなおも語りかける。
「レーヴァ、答えてくれ」
それまで黙っていたヴァングリフも、
「おい、何を言ってるんだお前は」
とヘクターに歩み寄って彼の肩を掴んだ。
その時、折れた剣から炎が立ち昇り、レーヴァが姿を現した。突然の出来事に皇帝は固まる。兵士達もどよめき、口々に騒ぎ始めた。
ヴァングリフは反射的に身構えてレーヴァとの間合いを取る。近衛兵が皇帝の周りを固め、騒いでいた兵士達もやがて落ち着きを取り戻し、槍を構えてレーヴァを取り囲むように隊列を組む。
「ヘクター、これは一体どういう事だ!」
ヴァングリフが青龍刀を構えて冷静な口調をヘクターに向ける。
「将軍、待って下さい。彼は……」
ヴァングリフの口ぶりに気押されたのか少々焦って弁解しようとするが、将軍も兵士達も全く聞く耳を持たないと言った様子で、じりじりとレーヴァとの距離を詰める。その表情は怒りを抱えているようだ。だがそれも当然だろう。彼らの街を焼き、多くの人々の命を奪っていった翼を持った魔物ワイバーン。その邪なるものによく似た姿のレーヴァを同一視してしまう事は、今の騎士団にとっては当たり前の反応だと言えよう。
「みんなも待ってくれ、彼は違うんだ!」
ヘクターは立ち上がり兵士達に向かって叫ぶが、誰も足を止めるものはいない。謁見の間はまさに一触即発といった状態だ。
「グウウウゥゥォオオオオォォ!」
その緊迫した空気を弾き飛ばしたのはレーヴァの咆哮だった。空間そのものを揺るがすレーヴァの叫びに兵士達はパニックを起こして騒然となる。ヴァングリフでさえ簡単に動く事は出来なかった。そして今まで黙り込んでいたレーヴァが部屋中の者に向かって口を開く。
「騒ぐな、人間共」
時を止めたように皆ピタリと固まる。
「私を昨夜の魔物と同一視するのは構わん。貴様らにとっては私もただの魔物にしか見えまい。しかし、私は奴等ほど甘くはないぞ。簡単に貴様らの刃が届くとは思わない事だ」
兵士達や皇帝は何も言う事が出来ずにただレーヴァの言葉に耳を傾ける。しかしヴァングリフだけは未だギラリとした眼光を放ち、今にもレーヴァに飛び掛りそうな勢いだ。
「説明させてください。陛下、将軍」
ヘクターは慌ててヴァングリフの前に立ち、レーヴァとの衝突を防ごうと彼をなだめる。
「彼の名はレーヴァ、炎の神剣レーヴァテインに宿るドラゴンです。そして私は先の任務の折、命を落としかけたところをレーヴァとの『魂の契約』によって救われ、敵を退けました。彼が言うには私と彼は一心同体。同じ目的を持つ運命共同体のようです」
最初は疑惑の眼差しを向けていたが、まんざら嘘ではないと思ったのだろう、将軍は刀を納め、皇帝も兵士達に剣を引くように命ずる。ヘクターはレーヴァとの出会いを、そして昨夜の出来事を知りうる限り皆に語り出す。
「なるほど、にわかには信じがたい話だがヘクターの話が事実なら、たった一人の生還者となったことも、昨夜の事も説明がつくな。ヴァングリフよ、お主はどう思う?」
ヴァングリフはしばし黙り込んでから、
「私もまだ確信は持てませんが、今目の前にいるドラゴンを見てしまったからには信じる他無いでしょう。それに神剣は竜騎士ラディアスの死後、誰にも修理する事が叶わないまま、ルフォートの祠に封印されたといいます。見た目にはただのガラクタですが本物だとすれば相応だとも思われます」
兵士達は再びざわめき出すが、レーヴァへの疑いは晴れているようだ。
「ただ、一つだけ分からない事があります」
ヴァングリフは静かに言う。
「なんだ? 申してみよ」
皇帝はヴァングリフを促し、ヘクターはゴクリと唾を飲み込んでヴァングリフを見るが、レーヴァは黙ったままだ。
「ヘクターが竜の力を手に入れてドラゴンと共に戦ったのなら、そう簡単に魔物共に遅れを取る事など無いハズです。しかし発見された時にはヘクターはかなりの傷を負い、更に彼の妻ソフィアも不可解な状態で保護されている」
そう言ってヘクターに振り返ったヴァングリフの目を、ヘクターは直視する事が出来なかった。
「ヘクター、一体誰がお前達をあそこまで追い詰めたのだ。ソフィアを人質に取られたのか? そうでなくてはただの魔物などに遅れを取るお前では無いだろう?」
ヘクターは多少口ごもり、やがて言いづらそうに答えた。
「昨夜、私達に重症を負わせてソフィアをも手にかけたのは……クルニールの騎士です。奴は魔物を率いて帝国に攻め込んできました。目的は恐らく私の持つレーヴァテインだと思われます」
「なんと! クルニールだと?」
皇帝が驚きの声を上げる。兵士達もそれに便乗して動揺をあらわにする。
「まさかとは思っていたが、やはりクルニールか……」
ヴァングリフは舌打ちをして溜息を漏らす。
「ヘクター、お前を退けた騎士というのはそのワイバーンとやらよりも更に強大な力を持っていたというのか?」
皇帝は震える声で尋ねる。
「……はい、私とレーヴァが共に立ち向かってもまるで歯が立ちませんでした。その者は黒い鎧で身を固め、魔力を有した巨大な槍をいとも軽々と使いこなしていました」
ヘクターは言い終えた後、ぐっと奥歯を噛み締めた。やりきれない想い。それは隣で黙ったままのレーヴァも恐らく同じだろう。
「黒き鎧の騎士か……」
皇帝の一言の後、謁見の間はしばしの沈黙に包まれた。
やがて何かを考え込んでいたヴァングリフが口を開く。
「聞いた事がある。数年前に王国の騎兵団に入隊した男の話だ」
思い出しながら語りだすヴァングリフに皆が耳を傾ける。
「男は全身を漆黒の鎧で纏っており、手には身の丈をゆうに越える巨槍を持ち、更には不可思議な術をも使うという。瞬く間に騎士長の座につき、軍事に至っては王と同等の権力を手にしたと聞く。ただの噂に過ぎないと思っていたが……」
皆、固唾をのんでヴァングリフの話に聞き入っている。
「おそらく、その男と見て間違いないでしょう。奴の持つ槍によってソフィアは……」
ヘクターは自分の身代わりになり、床に伏したままの妻を想う。その様子を見たからか、ずっとだんまりを決め込んでいたレーヴァがこの時、やっと口を開いた。
「ヘクターよ、お前の妻を蝕んでいるのは『夢魔の刻印だ』」
突然のレーヴァの言葉にヘクターは首を傾げ、次の言葉を待った。
現在帝国において、伝説の戦いについての信憑性はもはや無いに等しい。ヘクターが持ち帰るまでは神剣の存在でさえ信じる者は少なかった。それどころか今では神官や司祭達ですら『竜騎士ラディアスと邪神との戦い』をただのおとぎ話としか認識していない。その為、今はレーヴァの言葉以上に真実に近いものはないだろう。
そもそも、伝説とは人から人へと語り継がれるもの。ヘクターや兵士達といったこの世界に生きる人々の認識している戦いの伝説と遥か昔の人々が目の当たりにした戦いとの間には、大きなへたたりがあるだろう。
「レーヴァ、詳しく聞かせてくれないか」
ヘクターだけでなく皇帝やヴァングリフにしても、その意見には相違なかった。
「覚えているだろう、あの黒い騎士にはいくつか不可解な点があった。一つは私の炎を受けても傷一つ負わなかった鎧。あれは恐らく『魔装具 ヨルムンガンド』だろう。そして手にしていた魔力を持つ巨槍は『魔槍 ミストルティン』。共に人が造りだせる物でも扱える代物でもない」
「ヨルムンガンドに、ミストルティン……」
ヘクターは黒騎士との戦いを思い出す。決して届くはずのない間合いから向かってきた巨槍、ワイバーンを一撃で黙らせたレーヴァの炎が全く通用しなかった鎧、この二つの出来事だけでも人間がなせる業ではない事はヘクターにも明白だった。
「二つ目は、その二つを使いこなして私とヘクターを仕留めた魔力だ。自然界においてドラゴンを越える魔力を持った人間など存在するハズがない。だが奴は私を越える魔力を持ち、圧倒的な力で我らを叩き伏せた」
―――そう、そうだ。俺とレーヴァの攻撃を受け止め、弾き返して更に追い討ちをかけたのは鎧の力でも槍の力でもない。奴が放った魔術のような、レーヴァの技とよく似たものだった。あの時、レーヴァは言っていた。ドラゴンと契約して竜人となってもあの力が使えるようになるわけではない。しかしあの騎士が放ったのは紛れもなく魔力を使った術だった。
ヘクターは黒い騎士の正体よりも、相手の持つ魔力の謎になんとも言い知れない不安な気持ちを抱いた。
「三つ目は奴の目的だ。当初は我々の命を奪う事だと思ったのだが、奴は突然去って行った。それが叶う状況にも関わらずだ」
「それが分からない今、またいつクルニールが攻め込んでくるかも予測がつかないな」
ヴァングリフが腰に手を当てて煮え切らない様子を見せる。
「ドラゴンよ…レーヴァといったか、先程の『夢魔の刻印』というのは一体なんだ?」
皇帝が問いかけた。ヘクターもそれに続いて、
「そうだ、一体ソフィアに何が起きているんだ?」
とレーヴァに尋ねる。
「お前の妻の身体にはうっすらとあざの様なものが浮かび上がったと聞いたな? だがそれはただのあざではない。ミストルティンの魔力によりもたらされた一種の呪いとでも言ったところか」
「呪いだと? じゃあソフィアがいずれ命を落とす事になるとでも言うのか?」
ヘクターがレーヴァに迫り、声を荒げる。
「いや、死ぬ事はない。『夢魔の刻印』とは体のあざがやがて鮮明に浮き上がり、その人間の身体を依り代として夢魔を召喚する為のものだ。刻印を刻まれたものは命を身体へと残し、精神のみを夢魔によって奪われてしまう。見た目には眠っているだけだが二度と目覚める事は出来ないであろう」
ヘクターは言葉を失った。先程ソフィアの無事を聞いた時感じた安堵感はどこかへ行ってしまい、再び自責の念に囚われる。
―――俺の……俺のせいだ………
すでに放心状態にあり、心ここにあらずのヘクターをよそにヴァングリフがレーヴァに質問をした。
「どうすればその刻印とやらは消えるんだ? 何か方法があるだろう?」
ヘクターはうつろな目でレーヴァを見る。レーヴァは少しだけ考え込んだ後ヘクターを一度見据えてから、
「詳しくはわからんが、可能性があるとすればミストルティンの破壊だろう」
力強く言う。
「つまり、黒い騎士を倒すしかないという事か」
ヴァングリフは複雑な表情で呟く。
「勝てる見込みはあるのか?」
皇帝は確信をつく質問を投げかける。それは同時にヘクターが知りたかった事でもあった。
しかし、レーヴァは首を横に振り、
「今の時点では勝てる可能性は皆無に等しいだろうな」
無常にもヘクターに現実を突きつける返答だった。それはヘクターだけでなく、皇帝やヴァングリフ、兵士達も落胆の色は隠せなかった。
「ちっ、お手上げか。ドラゴンでも勝てない相手に俺達人間が逆立ちしたってかなうわけがない」
ヴァングリフが叱咤する。皇帝も口をつむぎ、ヘクターに至ってはただ黙ってその場に立ち尽くしてしまっていた。
その様子をしばし見守っていたレーヴァは、やがて口元に笑みを浮かべ、
「人間達よ、一つ忘れてはいけない事がある」
と言って翼を一度羽ばたかせる。そして続けざまに一言。
「お前達にはヘクターと私、竜の力がついている」
その一言に、皆が希望のまなざしをレーヴァに向ける。
「現時点では確かに勝ち目はない。それは変わらない。しかし、神剣の力を取り戻せば私も封じられた力を発揮する事が出来るだろう。さすればヘクターも奴に遅れを取る事はない。奴を打ち負かすなど造作もないハズだ」
「神剣の力を取り戻す? その折れた剣を修理するということか?」
皇帝が半信半疑といった様子で尋ねる。ヘクターは錆びついて輝きを失ったレーヴァテインを見つめ、レーヴァの言葉の意味を考える。
封印された力……レーヴァにはまだ余力があるということか?
「それも必要だ。だがそれだけでは神剣は力を発揮しない。異なる五つの『宝玉』を集めるのだ。そうすれば神剣の真の力は引き出される。現在のレーヴァテインはただの器だ。中身のない器から生じる力は微々たるものでしかない」
「器……つまり今の神剣は中身が空の状態で、宝玉を集める事で器に力が注がれ、神剣に宿っているレーヴァの力も増していく。更には契約をかわしたヘクターの力もレーヴァのそれに伴い、強力なものとなっていく…そういう事か」
ヴァングリフは無精ひげをさすりながら要点を確認し始める。レーヴァの口から語られた内容に関心を持ったようだ。
「しかし、かつての英雄ラディアスでさえ全ての宝玉を集める事は叶わなかったと聞く。ドラゴンよ、あなたはそれをご存知なのか? 『宝玉』の在り処に心当たりが?」
皇帝はレーヴァに尋ねる。それに続きヴァングリフも、
「そうだ、伝説によると戦いが終わった後、神剣は人間の手に、そして宝玉は四体の古代竜達にゆだねられたとされている。今でも四体のドラゴンが守っているのか?」
レーヴァに向かって質問を繰り返す。レーヴァは二人の疑問を一手に受けるも、躊躇することなく余裕を感じさせる声で答える。
「ドラゴンは長命だ。恐らくは今でも四つの宝玉を守り続けている古代竜が各地に存在しているだろう、居場所については心配ない。レーヴァテインと宝玉は共に互いを呼び合う。宝玉への道は剣が示してくれるだろう」
兵士達から安堵の笑みがこぼれる。皇帝も納得したのか背もたれによしかかり、ふう、と息をついた。だがヴァングリフは真剣な表情を崩す事無くヘクターに問いかける。
「ヘクター、クルニールの脅威が収まらない今、騎士団が帝国を離れる訳にはいかない。宝玉を捜すのはお前の役目だ。出来るな?」
ヴァングリフの言い方には何か意味を含んでいるようにレーヴァは感じた。そして案の定ヘクターの口から出た返答は皆を落胆させるものとなった。
「将軍、陛下、申し訳ありません。レーヴァテインを修復し、宝玉を集め、黒い騎士に打ち勝つことは、私には出来かねます……」
兵達は出鼻ををくじかれたように騒然となる。ヴァングリフは何も言わず軽く目を閉じて二、三回首を横に振る。
「ヘクターよ、理由を聞かせてはくれないか? お前程の男が一体どうしたと言うのだ?」
皇帝は全く解せない様子でヘクターに問いかける。ヘクターはうつむいたまま顔を上げずに答える。
「私は……先の任務の際に部下を全て失い、親友が目の前で命を落とすのをただ見ている事しか出来ませんでした。そればかりか昨夜の戦いでは黒い騎士に抗うことも出来ず、私をかばった妻は奴の手にかかり……」
レーヴァもヴァングリフもヘクターの心情には感づいていたのだろう。皇帝や兵士達でさえヘクターを批判できる者は誰一人いなかった。
「あの騎士への恐れもあるのかもしれません。しかし、次に奴と対峙した時、たとえ神剣の力を取り戻していたとしても奴に勝てる自信が私にはないのです。私が戦うことで誰かが命を落としてしまう事にはもう……耐えられません……」
ヘクターは拳を握りしめ、熱くなった目頭から涙がこぼれないよう必死にこらえた。
「ヘクター……」
皇帝はそれ以上は何も言えずに口をつむいだ。
「申し訳ありません。私はこの神剣にはふさわしくない男です……失礼します」
ヘクターはレーヴァテインをその場に残し、立ち上がってから一礼して謁見の間を後にした。ヘクターが部屋を出た後、残されたレーヴァにヴァングリフが問いかける。
「レーヴァよ、お前の目から見てもあいつはふさわしくないか?」
レーヴァは身体を炎へと変え、神剣の中へと戻る最中、
「それを決めるのは私ではない。ふさわしいかそうでないかは……ヘクター次第だ」
そう言って姿を消した。
「ふっ、いい事言うじゃないか」
レーヴァが姿を消した後、剣を拾い上げたヴァングリフが口元に笑みを浮かべる。
謁見の間を後にしたヘクターは城内の治療院へと向かい、その中の一室で眠るソフィアの元へと向かった。螺旋階段を下り、長い廊下を抜けると無機質な扉が向かい合わせに三つずつ並んでいる。ちょうどすれ違った医師にヘクターが尋ねる。
「すまない、妻の、ソフィアの病室は?」
「こちらですよ」
医師は左側の一番奥の扉を開く。そこは窓が一つだけしかなく、昼間でも薄暗い陰湿な部屋だった。ベッドの上には静かに眠るソフィアの姿があった。
「ソフィア……」
医師が去って行った後、ヘクターはベッドの脇にある椅子に腰掛けてソフィアの手を握る。
「許してくれ……ダリルばかりでなく君までもこんな目に合わせてしまった。俺が不甲斐無いばかりに……」
ソフィアは何も答えないでただ静かに眠り続けている。ヘクターは彼女の指から手首にかけて黒いあざが浮き出ているのを発見した。
「これが夢魔の刻印か、やがて全身に広がりソフィアはもう二度と……」
そこまで言ってヘクターは顔を伏せる。
―――許してくれ、俺はあの騎士には勝てない。どんなにあがいてもあいつの強大な力の前では俺なんて虫ケラ同然なんだ。たとえレーヴァテインが力を取り戻しても……
「まだ、迷っているの?」
一瞬、ソフィアの声が聞こえた気がしてヘクターは顔を上げるが、彼女は先程と変わらずに眠り続けている。
「まだ迷っているの……か」
ヘクターに聞こえたのは心の声だった。遠い記憶の中、まだヘクターがヴァングリフの元で副隊長として大隊にいた頃の事。経験と実力から考慮され、またヴァングリフからの勧めもあり、ヘクターは約二年前に第二小隊の隊長に抜擢された。
しかしこの時、ヘクターは悩んでいた。まだ将軍の足元にも及ばない自分が隊長となり、一つの部隊を率いる事。部下を統率し、任務を遂行する事など出来るのだろうか?
ヘクターは答えが出せずに悩み続けた。
その時、すでに深い関係にあったソフィアがヘクターに言った言葉。
「ヘクター、まだ悩んでいるの? あなたなら大丈夫よ、きっと」
その一言は不思議とヘクターの心の闇を取り除き、迷いを断ち切ってくれた。
「君のおかげで俺は前に進む事が出来たんだな」
ヘクターはその事を思い出しながら、彼女の大切さや重要さを改めて実感した。
「君はもう一度俺にその言葉を言ってくれるのか? 今の俺にはもう……何もないんだぞ?」
目を覚まさないソフィアに語りかける。答えが返ってこないことは分かっているが、ヘクターは声をかけずにはいられなかった。そうでもしていないと自分の存在が消えてしまいそうに思え、胸が激しく締め付けられる。
耳鳴りがするほどの静寂に包まれた部屋の中で、ヘクターはただソフィアを見つめていた。
どれくらいの時間が経っただろうか、不意にガチャっと音を立てて扉が開き、ヴァングリフが現れてヘクターに声をかけた。
「ヘクター、やはりここにいたか」
「将軍……」
突然声をかけられてヘクターは飛び上がった。
「ついて来い」
ヴァングリフは言い残して扉の向こうに姿を消す。いつもと違う鬼気迫る口調の彼をヘクターは慌てて追いかけた。
廊下へ出ると神剣を片手に持ったヴァングリフが「行くぞ」と言って歩き出し、ヘクターもそれに習い歩き出した。
二人が行きついた先は騎士団の訓練施設だった。ここは普段多くの兵士達で溢れ、教官の罵声が飛び交う、いわば城内の戦場といったところだ。城の中庭に位置しており、十分な広さを兼ね備え、壁には剣や槍、斧、短刀といった武器がいくつも連なっている。
ヴァングリフは床に神剣を置き、ヘクターに振り返る。
「ヘクター、剣を取れ」
「え?」
状況を把握できていないヘクターに向かってヴァングリフは更に続ける。
「久々に稽古をつけてやる。さあ剣を取れ」
そう言ってヴァングリフは巨大な青龍刀を抜き、鞘を脇へと放る。ヘクターは言われるがままに何十本と連なった剣の一つを取り、ヴァングリフに向き直って構える。
「何だそのツラは? 微塵も気迫を感じないぞ。貴様のねじ曲がった根性、俺が叩き直してやる。遠慮せずにかかって来い」
ヘクターは何も言い返せずにたじろいでいる。その様子に見かねたのだろう。
「来ないのか、ならば俺が仕掛けるしかないな」
そう言って地を蹴り、ヴァングリフが鋭い袈裟斬りでヘクターを牽制する。
ヴァングリフの青龍刀から見れば、今ヘクターが手にしている長剣は細く弱々しいといえる。ヴァングリフの斬撃を受け止め続けるのはとても困難を極めた。
「くっ!」
何度かヴァングリフの攻撃を受け流し、弾き、避けていたヘクターだったが、やがて疲れを見せたのか、一瞬の隙をついたヴァングリフの切り上げによってキンッ!と高い音を立てて剣を弾き飛ばされてしまう。宙を舞った剣はやがて鋭い音と共に床へと突き刺さる。
青龍刀を肩に乗せてヘクターを見下ろしながらヴァングリフは、
「なんてザマだ。情けないなヘクター」
皮肉めいた言葉をヘクターに向ける。ヘクターは片ひざをついたままヴァングリフから目をそらしてうつむいた。
「貴様がそんなでは死んでいった仲間達に顔向けが出来んな」
「くっ……」
ヘクターはこぶしを握り締める。
「今の貴様にはこの折れた剣の方がお似合いだ」
ヴァングリフは床に置かれたレーヴァテインをヘクターの方に蹴りつける。
「拾え」
更に続けて言われたヘクターはそれを見つめながらも手に取ろうとはしない。自分には持つ資格はないと言いたげに剣を取らないヘクターに向かって、ヴァングリフは容赦なく青龍刀を振り下ろした。
ヘクターはよけきれずにとっさにレーヴァテインを掴んで打ち下ろされた刃をなんとか受け止める。
「将軍、もうやめてください!」
「何をだ? 貴様はこの期に及んで何に怯えている!」
ヴァングリフは叫びながら次々と渾身の一撃を叩きこんでくる。その威力はレーヴァテインを掴むヘクターの手が次第に痺れを覚え、感覚を失う程強烈なものだった。
「私は……もう何も失いたくはないのです」
「護れないからもう戦わないと言うのか! それではダリルも浮かばれんな」
「将軍!」
親友の名を出され、気の緩んだヘクターの手からレーヴァテインを弾き、彼の眼前に刃を突きつけてヴァングリフは冷ややかに告げる。
「いっそこの場で死ぬか? その方がダリルも喜ぶかもしれんな」
ヘクターは刃を向けられた恐怖よりも己自身の力の無さを悔やみ、将軍に何を言われても反論できなかった。
―――将軍に殺されるならそれもいいかもしれない。どうせ生きていたって・・・
ヘクターの心中とは裏腹に、ヴァングリフは刀を納める。ヘクターが「なぜ」と言う前に彼は背を向けた。
「ふん、お前を殺したらソフィアが悲しむからな。俺はあいつに恨まれたくはない」
ヴァングリフは頭をボリボリとかきむしる。
「将軍、私には無理です」
ヘクターは心のままを告げる。
「私にはソフィアを目覚めさせることは……あの騎士に勝つことなんて叶わない。いっそのことソフィアの側で……」
言い終える前にヴァングリフが振り返り、ヘクターの胸ぐらを掴んで彼を持ち上げる。
「うっ、ぐう」
抵抗できないほどの怪力で首が絞まり、息が出来ないヘクターはただもがくばかりであった。そして次の瞬間、ヴァングリフの大きな拳がヘクターの顔面にめり込む。
ヘクターは二、三メートル程床の上を転がった。口の中が鉄の味でいっぱいになり、思わずその場に吐き出す。真っ赤な血だまりが広がる。
「だから貴様は馬鹿なのだ!」
すかさずヴァングリフの罵声が飛ぶ。
「ダリルの死も、ソフィアが呪いを受けて眠りについたのも、全ては何者かによってもたらされた災いだ。それを己の罪に転化して自分を攻めるのはもうやめろ!」
ヴァングリフの言葉がヘクターの胸に強く響く。
「良く考えろ、ソフィアがお前を守ったのはそんな事をさせるためではないだろう?」
叫び続けるヴァングリフ自身もまた、帝国の危機に不在だったことを悔やんでいるのだった。ヘクターはこの時始めて彼の気持ちを少しだけ汲み取る事が出来た気がした。
「お前が前に進まない限り、何一つ解決などしない。思い出すんだ。お前がどうして力を求め、騎士団に入ったのか。その力を誰の為に、何の為に使いたかったのか」
ヘクターの目からは自然と涙が溢れていた。
―――そうだ。ソフィアやダリルだけではない。ここにも自分を想ってくれる人がいた。そして、守らなければならない人はまだたくさんいるんだ。
ヘクターは瞳を閉じる。涙を拭うのも忘れていた。
「それでもまだ前に進めない言うのならその時は、俺がまた殴ってやる」
そう言い残してヴァングリフは去っていった。ヘクターはその背中を見つめながら、
「ありがとう・・・ございます」
小さく震える声で言った。
二人のやり取りをじっと見守っていたレーヴァは、感情の波が通り過ぎ、やっと落ち着いたであろうヘクターの前に姿を現した。
「その頬、痛むのか?」
ヘクターは何も言わずに首を振る。そしてレーヴァをまっすぐに見据えたその瞳には、一片の迷いも感じさせなかった。
「なあレーヴァ、おれは強くなれるのか? あの黒騎士に勝てる位に強くなれるのか?」
それは質問と言うよりも確認しているようにレーヴァには感じられた。レーヴァは「ふっ」と笑みを浮かべて答える。
「当然だ。お前は誰と契約したと思っている? 力を取り戻した私と共にいれば、もはや誰にも遅れは取らないだろう。無論、あの騎士にもな」
「そうか……」
ヘクターもまた、口元に笑みを浮かべて立ち上がる。
「行こう、俺達で力を取り戻すんだ」
ヘクターは青く澄み渡った空を見上げた後、レーヴァに向き直る。
「ふふっ、そう来なくてはな。まずは神剣の修復が必要だ。『剣聖 オルザ』を探すのだ」
「剣聖……オルザ?」
「かつての英雄ラディアスと共に神に戦いを挑んだ人物。剣の腕はラディアスをもしのいだと言われている。神剣を修復できるとすればそやつを除いて他にはいないだろうな」
しかし、ヘクターは釈然としない表情をレーヴァに向ける。
「でもそんな昔の人間だったらとうに寿命を迎えているだろう?」
「剣聖オルザは戦いの後、ある者との契約により不死人となった。そして再び神剣を扱う人物を待ち続けているという。今もこの世界に存在しているはずだ」
「不死人……か」
「レーヴァテインが生み出されたとされているクジェート山脈という所がある。そこに何かしらの手がかりはあるだろう」
ヘクターはこの時、自分はいつもレーヴァに言われるがままにしか行動していない事に気付く。しかし、彼を頼らずに誰を頼れるだろう。今はこのドラゴンがもっとも力強い味方だと言う事をヘクターは理解していた。
「頼むぞ、レーヴァ」
ヘクターはレーヴァのたくましい身体にそっと手を触れる。
「足を引っ張るなよ、ヘクター」
二人はもう一度、互いに笑みを浮かべた。
次話から、ヘクターがフォルティアの各地を旅してまわります。様々な出会いと別れが彼を更なる試練へと誘い込んでいく。その中で、彼は何を思い、何を感じるのでしょうか……