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桜の国のコトノハ使い  作者: 冬華白輝
本編・基礎作り編
4/26

異世界へ出発しました

「・・・んーと、夢?」


 なわけないか。ここまでハッキリと創造主様の眷族の証である文様が手の甲に刻まれているんだし。


 きっと私が目を覚まして、すべて夢だと思いこまないようにする措置でもあったんだろうなぁ。


 寝ていたっていう感じはしないけど目覚めはスッキリ。私ってこんなに寝起きが良くなかったハズなんだけど・・・これって創造主様の眷族になったから、創造主様の言葉を借りて言うなら“なんちゃら補正”ってヤツなんだろうけど。


 創造主補正?いや、創造主になったわけじゃないし・・・あ、アレだ、眷族補正!うん、それが一番しっくりする。


 おっと、眷族補正とかはとりあえず措いといて、現実に戻んなきゃね。今日でおばあちゃんの顔を見るのも最後になるし・・・。


「よし、じゃあ・・・とりあえず制服に着替えて、お葬式の準備しなくちゃ」


 ぱちん、と両頬を叩いて、私は布団の上に立ちあがった。



***



 お葬式はお通夜ほどの人は来なかったけれど静かに悲しみを共有できた。


 親族は私しかいない状況だから葬儀屋さんが難しい手続きは全部やってくれて、おばあちゃんが亡くなってすぐに凍結された銀行口座から葬儀費用を引き出してくれたのも葬儀屋さんだ。


「じゃあ、私達はこれで」


 火葬場で葬儀屋さんが頭をさげた。おばあちゃんの遺骨が入った壺を持ち、私も深々と頭をさげる。


「色々、お世話になってありがとうございます」


「いえ、まだ高校生ですもんね。わからなくて当然ですよ。・・・あの、気を落とさずに。まずはゆっくり先のことを考えてくださいね」


 親身になって相談に乗ってくれた葬儀屋さんが微笑みをうかべてそう言ってくれた。


「はい。・・・大丈夫です」


 もう、先のことは決まってる。私はこの生まれ育った世界を捨てて、別の世界に行くんだ。


 葬儀屋さんと別れた私は、その足でおじいちゃんのお骨も納めてある納骨堂に向かった。霊園や墓地とは違い、ロッカーのようなものに骨壷を納めて位牌をその前に置くだけの簡易なモノ。


 生前におばあちゃんとも相談してあって、お墓は作らず、管理もしっかりとしてくれるこの納骨堂におばあちゃんのお骨も納めることで納得していた。


 普通は四十九日で納骨するらしいけど、私は未成年だし、管理もどうやったらいいのかわからないしで不安だからすぐに納骨するということで話はついていた。


 納骨堂の職員さんと少し話をして、おばあちゃんのお骨はおじいちゃんお骨の隣に納骨した。


「じゃあ、よろしくお願いします・・・」


「はい、お任せください」


 基本的に遺族はお参りだけで、管理は全て納骨堂にお任せとなっている。


 レンタルの場合は管理費がかかるらしいけど、そこはおばあちゃんがおじいちゃんが亡くなったときに一緒に自分の分も買ったから何も問題はないって職員さんが言っていた。


 たぶん、私が一人残されたときのことをちゃんと考えてくれていたんだと思う。



***



 家に帰ってきた私は、ぼーっと天井を眺めていた。


「・・・あ、この家の管理はどうしよ・・・」


 一応、持ち家だし手放すのにも手続きが必要だよねぇ。


「あぁ、それなら大丈夫」


 独り言に返事があって、私はビックリしてぱたん、と後ろにひっくり返った。


「あ」


「大丈夫?ユメちゃん」


 真上から見下ろしてきたのは、昨晩“夢の狭間”とやらで話をした創造主様。


「えーと、夢の狭間じゃなくても会えたんですか・・・」


「うん、眷属になって力が繋がったからね」


 ということはアレだ、この文様があるから創造主様と会えるわけね。そう―――。


「眷族補正ですねー」


「おお、良いネーミングしたね!」


 にっこにこの創造主様。どうやらお気に召した模様・・・ほんっとに日本のサブカルチャー好きなんだなー・・・。


「で、この家のことで大丈夫って、どういうことですか?」


「うん、ユメちゃんの希望次第だけど・・・ダミーを置くことは出来るよってコト」


「ダミー、ですか?」


「そう。俺の眷族になったってことは、俺も自由にユメちゃんの情報を使えるってことで、ユメちゃんと全く同じ存在を造り出すことができるんだよね。・・・ただし、魂を入れれば別人になるし、魂を入れなければ人形と同じだけどね」


「なるほどー・・・じゃ、行方不明ってことにならずにすむんですねー?」


「うんうん。ユメちゃんは賢いね。・・・おばあさんがもう少しの間存命だったら、君の夢は叶うはずだったのになー」


 あ、もしかして、それも私が選ばれた理由だったのかな・・・。


「創造主様は、私の夢を知ってるんですか?」


「眷属になったからねぇ。・・・なりたかったよね、介護福祉士さん」


 そうなのだ。早くに両親を亡くし祖父母に育てられた私は老人介護を真剣に学びたいと思っていた。それしかおじいちゃんとおばあちゃんに恩返しできる方法がないと思っていたから。


 当然問題になってくるだろう体力面には自信が持てなかったけど、その不安すらもどこかに飛んでいってしまうくらいにやる気でいた。


「なりたかったですねぇ・・・でも、その代わりに四季の世界を豊かにするって目標ができましたから!」


「・・・ふふ。本当に君は心が綺麗だね。そんなところが俺は気に入っているよ」


「そんな・・・」


 心が綺麗だなんて言われても、困っちゃうよ。


「俺は創造主で、君はその眷属だ。誤魔化すことも嘘をつくことも君にはできない。・・・だから、君が今どんな心情なのかも手に取るようにわかるんだよ」


 わー・・・。


「プライバシーのしんがーい」


「あはは!ほんっとに面白い。今さら俺にプライバシーに侵害とか言うの~?心の中にもぐり込まれちゃったばっかりなのに」


 あぁ、そうだった。


「ふほーしんにゅー・・・は通じないんでしたっけ?」


「心の中に、ということだったらね。・・・でも、今は、住居不法侵入になるのかな?」


 確かに。と1つ頷いて、私は創造主様をひたと見つめた。これだけは訊いておかねばなるまい。うむ。


「創造主様・・・お茶とコーヒーと紅茶、何がいいですか?」


「うん、何を訊かれるかわかってても脱力の質問だね。・・・えーと、日本茶が良いなぁ。今、マイブームなんだよね!日本!」


 あ、それでサブカルチャーをいろいろと・・・。うん。なんか、日本のアニメ最高デースとか叫ぶ外国のアニオタさん達を思い浮かべてしまった。


 いや、私も結構なアニオタだから、人のことは言えないけどー。あ、ちなみに演歌も好きです。


「あ、ホント?俺も演歌好きー」


「いやいや、モノローグに返答しないでくださいよー」


 ちなみに誰が好きかと訊いたら、結構、おばあちゃんと趣味が似ていたのにはちょっと笑ってしまった。



***



「はー・・・ごちそうさまー」


「お粗末さまでしたー」


 創造主様は私が淹れた日本茶とお茶うけにと出したおせんべいを平らげて、満足気に笑った。


「じゃ、行こうか」


「あ、はい」


「君のご希望通り、行方不明になったと思われない程度にこの家の管理をしながら手放す手続きをする影を作る。それでいーい?」


「はい、大丈夫です」


 私の希望はなるべく通そうとしてくれて、創造主様は細かな部分まで確認してくれた。ホントにありがたい。


「あと、重要な案件を持った訪問者以外はそれとなーく追い払っておくよ。なんで訪ねて来たか忘れちゃう感じの暗示をかけるから」


「はい、お手数おかけします」


「ああ、気にしないでー。全自動だから」


 ですよねー。お忙しい創造主様がいちいち出張ってはいられないだろうし。納得。


「じゃ、行きましょう!ささっとやっちゃってください!」


「うん、漢字の漢と書く“オトコ前”だよね!見た目は柔らか美少女なのに。ギャップ激しいけど、そこが君の魅力かな」


「あはは・・・」


 何度ももったいないと言われてきたけど、魅力って言われたのは初めて。なんだか嬉しい。


「ふふ、惚れちゃダメだよー?」


「惚れませんよー。分不相応すぎです」


「でも、これから行く四季の世界の住人は良い奴等ばかりだから、好きになっても大丈夫だよー?」


「そんな気持ちが持てれば素敵ですねー」


 四季の世界に骨をうずめる覚悟はある。だけど、向こうの人とそんな関係になっても良いもんかと思っていたから、創造主様の許可が貰えてホッとした。


「うんうん、ユメちゃんは美人さんだから、絶対に周りが放っておかないと思うな!・・・頑張ってね」


「はい、頑張ります!」


「・・・じゃあ、目を閉じて。転移するよ」


「はい」


 創造主様に言われる通りに目を閉じ、転移の力にその身を任せる。


 ふわりと身体が浮く感じがして、意識が遠のく。


「―――バイバイ、皆」


 何も言わずにこの世界からいなくなっちゃうこと許してね。そして、私のことは早く忘れてください。


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