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桜の国のコトノハ使い  作者: 冬華白輝
本編・基礎作り編
3/26

夢の中で会いました

「やぁ、こんばんは」


 にこやかに声をかけてきたのは、金色の短髪に紅い瞳の男の人。片目には切り傷のような痕があり、そちら側の瞳の色だけ少し濁っている。


「え?あ、こんばんはー・・・って、え?」


 ここはどこ!?私は誰!?・・・という冗談は置いといて、ホントにここはどこ?そして貴方は誰?


「ここはねぇ、夢の狭間」


 へー、夢の狭間・・・って、心読まれた?!


「あはは。いやいや、この世界自体が君の心だから何もしなくても感じとれちゃうんだよね。俺は君の心に干渉して入り込んでいるんだよ」


 って、不法侵入じゃん!


「不法、と言われてもねぇ・・・。いくら日本が法治国とはいえ、心の中に入り込んだらダメって法律ないでしょ?」


 う。そりゃないけど・・・。


「で、誰?」


 あ、やっと声が出た。あれ?なんかおかしいなー・・・いつも聞こえる自分の声と違う。


「あ、俺はねー、創造主カナン。・・・いつも聞こえる声は身体の中を反響して聞こえる音だろう?今聞こえている音こそが君の本当の声だよ。あぁ、他の人に聞こえている声、ってことね」


「・・・えーと、いろいろツッコミたいところはあるんだけど・・・創造主?」


「うん、創造主。・・・あ、今、イタイ人だとか思ったでしょう?・・・ちょっと失礼」


 クツクツと笑った、自称・創造主のカナンさんはそっと私の手を取る。


 その瞬間、流れ込んできたのは膨大な情報。目の前がチカチカとスパークして、身体がふらつく。


「おっと・・・大丈夫?結構ギリギリだったかな?」


「結構ギリギリじゃないです、無茶苦茶アウトでした!」


 倒れそうになるところを支えてくれた“創造主様”に私はくってかかった。


「ふふ、ごめんごめん・・・でも、信じてもらえた?」


「夢オチってことじゃないなら、信じますけど・・・」


 そう。これが私の夢だっていう場合もある。夢は記憶処理のうんちゃら~っていうのを聞いたことはあるけど、どこかで読んだ物語の内容を改ざんして夢で見ちゃってるってこともありえるし。


「あー、ありがちだもんねぇ・・・でも、これは現実であって夢でも君の想像の産物でもないんだよ」


 すう、と目を細めた創造主様から途端に威圧されて、私は表情を強張らせた。


「っ、でも・・・」


「うん、証拠はないよね、何一つ。・・・でもね、これから俺が提案することを真剣に考えて欲しいんだ」


「てい、あん?」


 って何だろう?


 私が聴く態勢になったのを確認すると、創造主様は拳を突き出して、ぴ、と人差し指を立てた。


「まず、君を選んだ理由。君の心がとても素直で綺麗だったのと俺の力との相性がとても良かったから。そして、君は先日なんとも丁度良く天涯孤独の身となり、学校も辞めて友人達とも縁を切ろうとしている」


「・・・あぁ、はい。そうですね」


 心が綺麗とかともかく、天涯孤独になったのは事実なので頷くと、次いで創造主様は中指を立てた。ちょうどピースをしているみたいで少し笑える。


「ふざけてるんじゃないんだってば」


 じろり、と睨まれて私は肩を竦めた。


「あ、ごめんなさい。心で思っていることがダダ漏れだったんでしたね、ここ」


「もう・・・で、先程見せた記憶の中にもあったと思うけど、俺は創造主であり様々な世界を造り出して管理をしている。その中の一つに“四季”っていう世界があってモデルはこの“日本”なんだけど、春夏秋冬の4つの国がある」


「へぇ、春の国とか夏の国とかってことですか?」


「そう。春の国は桜の国、夏の国は海の国、秋の国は楓の国、冬の国は雪の国って呼ばれてる。わかりやすいだろ?」


「そうですね」


 私が頷くと、創造主様は薬指を立てる。


「ここからが本題。この四季の世界で春をモチーフにした桜の国は常春の国で、国民性も良く言えば穏やかなんだけれど、まぁ簡単に言うとお人好しの国なんだよね」


「ぶっちゃけますね、創造主様」


「あはは。自分で造っておきながら、あちゃー、これは失敗した!と思ったね。お人好しすぎて、他の国にいろんな物を搾取されまくっちゃったんだよ」


「えと、戦争とかですか?」


「いやいや。戦争以前の話。桜の国には軍隊が無くてね、日本みたいに自衛隊っぽいものがあるだけなんだよ。えーと、そう!永世中立国ってヤツ?」


「・・・モデル日本なのに、スイスですか・・・」


「いや、なんか、そういう国もあった方が良いかなーなんて思って。で、搾取ってさっきは言ったけど、どちらかというと、提供?の方があってると思うんだよね」


「っていうことは・・・国レベルの『幸福な王子』ですか」


「あぁ、そんな物語もあったねぇ。まさにソレだよ。素晴らしきかな、博愛の精神・・・国王だけじゃなく国民全員がそんな感じだから、自分達が極貧でも他の国が潤ってれば満足してるんだよね」


 それってどうなんだろう?心は幸せなのかもしれないけど、報われてない。


「他の国はどう思ってるんですか?」


「・・・それが当然、的な?あ、でも、悪いとは思ってるみたいなんだけど、桜の国に返せるだけのモノがないというか、他の国も桜の国からの援助がないと生きていけない感じで・・・」


「秋、だから楓の国か、その国は実りの秋っていうくらいだし、いろいろ作物とか採れないんですか?」


「楓の国はメープルシロップの産地で・・・」


「って、カナダじゃん!!」


 日本、どこ行った!!一応使っていた敬語すら忘れて、私は叫んだ。


「でもさー、楓っていったらメープルシロップじゃない?」


「創造主様、意外とこだわりますね・・・」


「そりゃ、自分が造る世界だしねぇ。というわけで、楓の国はメープルシロップの主産地で、他の特産物は小麦。だからホットケーキの国なんだよね!」


 呆れてものが言えないっていうのはこういうこと?


「栄養偏りまくりじゃないですか」


「そうなんだよねー。でも、今更変えようと思っても俺の力は強すぎて四季の世界が壊れてしまうし。色々問題はある世界だけど、気に入ってはいるんだ。・・・だからね、お願い。君の力を借りたい」


「それが、提案ですか?」


「そう。・・・俺の力と相性の良い君が、四季の世界を豊かにして欲しい。・・・何も、技術を伝えろとか言ってるわけじゃない。“日本の四季”で当たり前のことを伝えて欲しいだけなんだ」


 おばあちゃんに育てられた分、昔の日本の話とかは色々聞いていたし、そこらの高校生よりかは四季に敏感だったとは思う。


 でも・・・。


「伝えるだけで良いんですか?」


「うん。君の言葉に俺の力を宿らせる。・・・強力すぎる俺の力も君の器を通せば程良くなるだろうし、ちゃんと調整もするから君の意思でその力を使えるようにする」


「私が悪いことにその力を使ったら?」


「君はそんなことしないだろ?・・・とはいえ、リミッターはかけさせてもらおうかな。そうじゃないと君が不安だよね?・・・だから、良心に反しないことに限る、っていう条件付けをしよう」


 それなら大丈夫そうだ。


 私、いつの間にか四季の世界に行く気になってる。でも、私が行くことでその世界が豊かになるのなら・・・。


「創造主様」


「・・・ん?」


「もう、わかってますよね、私の答え」


「うん。・・・でも、声に出して言って欲しいな。それで契約としよう」


 契約かぁ。これでぜーんぶ夢でしたってことになったら、かなりショック。


 だって、自分の機械音痴や体力の無さでこの先のことを何にも考えられない状態だったのに、こんな私が役に立てる所に連れて行ってくれるっていうのよ?


 あ、でも一つだけ不安なことがある。私の体力の無さだ。


「私、向こうで伝道師みたいなことをするんですか?」


「あ、それを言ってなかった。一番大事だよね、ソレ。・・・君を桜の国に“コトノハ使い”として送る。“コトノハ使い”っていうのは俺達創造主一族の加護を受けた存在しかなれないってことになってる」


「なるほどー。じゃあ、私は桜の国にいながら“日本の四季”を伝えれば良いんですね?」


「そう。桜の国の賓客扱いになるだろうし、生活面は気にしなくていいと思うよ。極貧だけど。君の力ですぐに国力も取り戻すだろうから、しばらくの我慢だね。

 ・・・それに、旅をしなくても君の力は四季の世界の隅から隅まで届くようにしておくから安心して」


 本当に至れり尽くせりだ。


「サービス良いですね、創造主様」


「まぁ、俺のお願いを聞いてもらって、今君が生きているこの世界を捨てさせるわけだし」


「でもこの世界で私はこの先どうやって生きて行けばいいか途方に暮れたままでしたから、渡りに船というか・・・」


「それでも、だよ・・・上位世界から下位世界に器ごと移動させるっていうのは昔からよくある話で、異世界召喚、勇者補正?とかいうヤツだよ、ん?転生補正?あ、いやそれは別の人間になって生まれ変わるタイプの方だっけ」


「創造主様、日本のサブカルチャーにお詳しいですね・・・。そして、私はたぶん勇者でもなければ転生者でもないですよね?異世界召喚は微妙にひっかかってると思いますけど」


「あれぇ?・・・ま、良いか」


 良いのか。そうか。


「あ、でも、おばあちゃんの納骨までは待ってもらえますか?」


「もちろん、大丈夫だよ。君が“もうこれでやり残したことはない”って言葉にしてくれれば、契約を履行しよう・・・これは、その証だよ」


 そう言って創造主様は私の手の甲に触れる。するとそこには下の尖ったお皿の上に丸いモノが浮いているような文様が現れた。それは青白い光を放っていてとてもキレイ。


「わぁ・・・」


「それは俺の眷族たる証。身を守る呪も刻んであるからね。じゃあ、また後で迎えにくるよ」


 創造主様の言葉が徐々に遠ざかり、私は唐突に浮上するような感覚になってプツリ、と意識が途絶えた。


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