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桜の国のコトノハ使い  作者: 冬華白輝
本編・基礎作り編
2/26

初めて吐いた嘘でした

いろいろとツッコミどころ満載のご都合主義なお話です。

かるーい気持ちで読んでください。


創造主様は同じくなろうで連載中の小説に出てくる方と同一人物です。

 唯一の身寄りだったおばあちゃんが亡くなった。この日はそのおばあちゃんのお通夜。


 予算の関係で式場は借りず、家の1階部分を葬儀屋さんに整えてもらった。


「かわいそうに」


「あの子、これで身寄りがなくなるんだろう?」


「親戚もいないらしいしね」


「施設に入るとしても、もうあれだけ大きいとねぇ」


 お通夜に参列してくれているご近所の人達の視線と言葉は哀れみ100%。他人事とはいえ、それなりに近所付き合いもしていたから、同情してくれているのだとわかっていても、なんだか嫌な気分。


 確かに私はもうすぐ17歳で、施設に入るにも微妙な年齢だし、働いて自活できなくもない。


 でも、この就職難の時代に、高校中退でしかも女の子にどれだけの仕事があると思う?


 しかも、私って機械音痴で、携帯電話にしても電話とメールを使うので精一杯。デコメ?は?なにそれおいしいの?的な固いメールに、友人達から味気ないと怒られることもしばしば。


 連絡先教えて~、なんて話しかけてくる軽そうな男子からも、お前のメール義務的でつまんないとか言われる始末。


 そんな私がPCオンリーの事務仕事などまず無理。で、コンビニ等のレジ打ちもアウト。


 ファミレスのホールとかキッチンとかならまだ何とかなりそうだけど、最近は注文伺いも手書きじゃなくて端末を使っているらしくそれもアウト。それくらい使えるだろ、なんて思っちゃダメ。本気でムリ。


 努力すれば何とかなる・・・とか、思ってる?そら努力すれば得意、とまではいかなくても使えるようにはなるのかもしれない。でも、就職するのにあたり、一から仕込むどころか、機械音痴を治すところから、なんて悠長なことを言える時代ではない。


 しかも即戦力にならない人間は、履歴書審査の時点ではじかれる。だって、私、無免許無資格だもの。


 というわけで、文明の利器が蔓延るこの世界で、私にできそうな仕事といったら・・・力仕事以外にない。だというのに、私の体力は100m全力疾走で保健室行きという体たらく。


 もぉお!どうすりゃいいのよぉお!!


 なんて叫んでみてもどうにもできないし。・・・あ、キャバ嬢とかならできそう?機械使わないよね?一応、美人の部類に入るらしく10人中6人はキレイだと言ってくれる。微妙って言わないで!自分でもわかってるから!!


 彼氏も何人かはいたけれど、変に機械音痴っぷりが発揮されてメールも返せない、電話も出られない。そのうえ体力も無いからデートしてもすぐへばる。


 ・・・とまぁ、色々あって長続きしたためしがない。私って、本気で不幸の神様に好かれてるんじゃなかろうか。いや、産まれる時代を間違えたんだわー・・・絶対。


伊桜(いざくら)


 おばあちゃんが亡くなった悲しみとは全く別の涙が流れてきそうになるのを堪えていたら、高校の担任が声をかけてきた。


能間(のうま)せんせ・・・」


 能間せんせは昨年度新規採用の先生で、年も近いから生徒達からナメられつつも人気のある先生。


 そんなせんせが担任で、ちょっと頼りないなと思ったこともあったけれど、おばあちゃんが亡くなったという知らせに気を飛ばしかけた私に檄を飛ばしてくれて、その時ばかりは頼もしいと思えた。


「大丈夫・・・じゃ、ないよな?・・・俺に何かできることがあったら良いんだけど」


 大丈夫だよ、せんせ。生徒の人生、背負い込むことない。だって、そんなことしてたらキリがないじゃない。


「・・・じゃあ、せんせ。退学届、書き方教えて?」


「ッ・・・やっぱり、やめるのか?」


 せんせは一瞬息を呑み、次いで悲し気な表情をうかべた。


「学校に通うだけのお金、ないもん。・・・公立だから授業料は無償だけど、教科書代とか修学旅行費とか定期代とか・・・いろいろお金かかるしね」


 私だってホントはやめたくないよ。友達だってたくさんできたし、将来の夢だってある。でも、いろいろ考えたけど、ムリって結論に落ち着くんだ。


「伊桜・・・じゃあ、これからどうするつもりだ?」


「んーと、まずは私が働けるところを探してみようかなって思ってて・・・」


「施設は?」


「この年齢じゃさぁ・・・自活してる人だっているし、ね」


 あんまり甘えるのも良くないと思うのだ。世の中にはもっと大変な人だっているんだし。


「生活保護とか・・・」


「まぁ、それは最悪の場合だよねー・・・」


 せんせの提案は全部一度は考えたことで、どうしても返答は素気無くなっちゃうの。だから、そんな落胆しないでよー。


 私がそう言って微笑めば、困惑した表情のまませんせは次いで顔を真っ赤にした。


「後は・・・お、俺の・・・お、おくさ・・・」


「うん?」


「・・・いや、それはないよな。うん、聞かなかったことにして・・・」


 何かを言いかけて、顔色を赤から青に変えたせんせは、がっくりと肩を落とした。


 っていうか、“おくさ”ってなんだろう?ちょっと気になるような?


「ユメ~!」


 私が首を傾げてせんせを見ていると、弔問客をかき分けて、制服の集団がこちらにやってくる。


美奈(みな)琴美(ことみ)、みんな・・・来てくれたんだ・・・」


 仲の良い2人だけでなく、クラスメイトが揃って来てくれるとは思ってもいなかったので、思わずのどの奥が熱くなっちゃう。


「あったりまえでしょ!・・・ねぇ、大丈夫?」


「私、なにかユメのためにできることあるかな?」


 美奈と琴美に、私は心配させないように微笑んだ。


「大丈夫だよ・・・しばらくは忙しくて連絡もとれなくなると思うけど・・・」


「そんなの!気にしないでいいんだよ!!」


 申し訳ない思いでいっぱいになりながら言えば、美奈がぶんぶんと首を振ってそう言ってくれた。


「ありがと・・・」


 すごく、すごく嬉しいよ。


 でも、学校を辞めるつもりなのはナイショ。もちろん、能間せんせにも口止めをしてある。



***



 お通夜が終わり、能間せんせと一緒に最後まで残ってくれていた美奈達クラスメイトを送り出すと、私はせんせを振り返る。


「今まで、お世話になりました。・・・えと、退学届は・・・」


「あぁ、とりあえず事前に聞いてたから・・・後は、お前の名前を書くだけにしておいた」


 そう言って能間せんせはあらかじめ必要事項が記入された退学届を私に渡してくれる。


 学校に取りに行くのも、出しに行くのも少し勇気のいることだったから、能間せんせの配慮に感謝。


 サラサラと退学届に名前を書くと、ぴらり、とせんせに差し出した。


「はい、書けた。・・・色々と考えてくれてたのに、なんか、ごめん・・・」


「いや、良いよ・・・伊桜の人生だから・・・。クラスの皆にはいつ伝えれば良い?」


「ひと月は黙っててくれる?・・・たぶん、それ以上は不審に思うだろうし・・・」


 その辺りが限度だろうと思って口にすれば、能間せんせは困ったように笑って頷いた。


「わかったよ・・・でも、もし困ったことがあったら、いつでも連絡して来いよ?」


「うん、そうさせてもらうね」


 これは嘘。せんせにいつまでも頼ってたらダメだと思うし。


「じゃあ・・・俺も帰るけど・・・」


「うん、気をつけて帰ってね、せんせ」


 ひらひらと手を振る。


 私も明日のお葬式と納骨のための準備もあるから、名残惜しんでいる暇はなかったりする。


 能間せんせは何度も振り返りながら帰って行った。


「―――私って土壇場では上手に嘘つけるんだなー」


 私はどうにも嘘というのが苦手で、言ってもすぐにバレてしまう質だ。かといって言わなくて良いことを言ってしまうということはないから、人間関係に困ったということもない。


 私は今まで周囲の人々にたくさん助けられたから、人の役に立つ職業に就きたいと思ってた。


 でも、資格を取るにもまずはお金がないとダメだ。少しでも稼げるようになったら、大検でも受けてみようかとは思ってるけど、いつになることやら。


「はぁー・・・おばあちゃんの残してくれた貯金だけじゃ大学なんて夢のまた夢だもんなー・・・」


 まぁ、私1人細々と暮らしていくだけの貯金はあるけれど、なんか色々と手続きとかがあってめんどくさい・・・未成年だから後見人がどうとかって話も聞いたし・・・。


 とりあえずは、おばあちゃんのお葬式と納骨が終わってから考えよう。


 今日はなんだか疲れちゃった―――慣れない嘘なんて吐いたからかな?


 私は何もする気が起きず、そのままパッタリと布団に倒れ込み、いつの間にか眠ってしまっていた。


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