二人の時間
フェイの前に立つ少女ーー風歌は、不思議そうにフェイを見つめていた。
(なんで子供がこんな所に?)
風歌がフェイを見て子供と思うのは無理も無い、フェイの容姿は傍から見れば小学生くらいにしか見えないからだ。
その一方で、フェイは風歌の容姿に魅入られていた。
透き通るような白い肌、吸い込まれそうな黒い瞳、肩まである漆黒の髪。
風歌のあまりの美しさに、フェイは一瞬にして囚われてしまった。
「名を教えてくれ」
「へっ?」
フェイはおもむろに風歌に近づくと、風歌の両手を強く握り締めた。
「お前の名を、教えてくれ」
「……人に名を尋ねる時は、まず自分から名乗るのが礼儀よ」
当たり前の事でしょ? とでも言いたげな風歌に、フェイはますます風歌に惹かれていった。
「俺の名はフェイだ、フェイ・オーリス=ルディアだ」
「ミルフィア、私の名前はミルフィア・ブランシーナよ」
風歌はフェイに本当の名前を言わなかったーー否、言えないと言った方が正しいだろう。
どうして言えないのかは、もう少し先の話だ。
「ミルフィア、良い名前だ」
「本当に? ありがとう!」
理由はさておき、風歌はこの名前が大好きだった、だから嬉しくて自然と笑みが零れた。
それを見たフェイも、嬉しそうな表情を浮かべた。
「……ところでフェイが私をここに連れて来たの?」
場の空気が和んだところで、風歌はフェイが来てから疑問に思っていたことを聞いてみた。
フェイの容姿からして敵だとは到底思えなかったが、表情が曇り、手を離してしまったフェイに、風歌はほんの少しだけ不安になった。
そして少しの間を置いて、フェイは口を開いた。
「ミルフィアを連れてきたのは俺じゃないが……その原因を作ったのは間違いなく俺だ」
「えっ? どういう意味?」
眉間に皺を寄せて聞き返す風歌に、フェイはこうなった経緯を全て話した。
その間、風歌は黙ってフェイの話を聞いていた。
「ーーという訳で、ミルフィアはツィアに間違えられて捕まった」
フェイが話し終えると、風歌は何故かニッコリと微笑んだ。
「良かった、それを聞いて安心したわ」
風歌の言葉にフェイは怪訝そうな表情を浮かべた。
「ミルフィアは、怒ってないのか?」
「怒る? どうして私が怒らなきゃいけないの?」
風歌はまたも不思議そうに今度は首を傾げた。
「俺のせいで何の関係もないミルフィアを、危険な目に遭わせた。 助けに来るのが少しでも遅かったら、今頃どうなってたか……」
そう言ったフェイの表情は沈痛なものに変わった。
「……ミルフィア?」
風歌はそんなフェイの顔を見ていられなくて、無意識の中にフェイを抱き締めていた。
「フェイは全然悪くないよ、こうして私を助けに来てくれた。 だからそんなに、自分を責めないで」
静かで優しい口調で話しながら、風歌は自分の指をフェイの髪に絡ませながら頭を撫でていた。
そんなフェイの顔は真っ赤に染まっていた。
抱き締められているせいでもあったが、一番の理由はちょうど風歌の谷間にフェイの顔が当たっていたからだった。
(……このまま押し倒そうか)
いくら身体が小さなフェイでも立派な男なワケで、胸に顔を挟まれて何とも思わないハズが無かった。
(……やめておこう、あいつらに知られたら何を言われるか)
フェイは頭を横に振って、不埒な考えを薙ぎ払った。
「どうしたの、フェイ?」
「いや、なんでもない」
真っ赤な顔を見られないよう、フェイは風歌から離れて背を向けた。
そんなフェイの行動に首を傾げながらも、風歌はこの先どうするかを考えていた。
(とりあえず状況は把握できたから良しとして、これからどうしよう? フェイを助けてあげたいけど、この世界で好き勝手にやるわけにはいかないし……)
だが考えが纏まらないうちに、風歌は突然小屋の外に飛び出していった。
「ミルフィア?」
フェイも何事かと、慌ててその後を追った。
第七話、お楽しみ頂けたでしょうか?
今回は少しばかり、話が長くなってしまいました。
これでもかなり縮めたんですが……
それでは次回をお楽しみに!