神の世界
時の女神アイオンが女王を務めるアイリーン国は、数ある国の中でとても愉快な国だ。
緑豊かな土地に、澄んだ水と穏やかな気候。
それら全てが合わさり実る作物は、どの国よりも格別に美味しいと評判だ。
争い事が全くない訳ではないが、どんな時でもアイリーンには笑顔と希望で溢れていた。
だがそんな幸福に満ちた日々も、そう長くは続かなかった……
ある日を境に、風の女神アイオリアと雷の神トールが醜い争いを始めたせいで、せっかく育てた作物が駄目になり、次第に国の至るところで食糧が不足し、民は飢えに苦しみ、僅かな食糧を巡り、人々までもが争いを始めたのだった。
「風の女神、雷の神よ! どうかこの争いを鎮めてくれ!」
女王アイオンは、風のアイオリアと雷のトールに、幾度となく説得に当たった。
「それは聞き入れられん! この風の女神が我が下にひれ伏さん限りは!」
「何を戯けた事を申す! 風は姿形無きもの、わらわは誰にもひれ伏したりせぬ!」
我を忘れてしまった二人の耳には、誰の言葉すらも届かず、昼も夜も関係なく争い続けた。
「一体どうすれば、神々の戦いに終止符を打つことができるのだ……」
何の打開策を見い出せないまま、時間だけが無情にも過ぎていき、いつしか人々の希望であった女王は国民の前からその姿を現さなくなった。
そして国民の多くは魔法で他の世界や隣国へとその居住を移し、すっかり荒れ果てた土地に残ったのは、以前として戦い続ける神が二人と、住み慣れた生まれ故郷を捨てきれない年老いた老人たちだけになり
この国の女王であるハズのアイオンは、アイリーンを見捨てたのだ、と人々はみな口々にそう言った。
それから数年の月日が流れた。
相も変わらず神々の戦いは続いていたが、一つだけ変わったことがあった。
二人は必ず朝日が昇る頃に争いを始め、太陽が天に高く頃になると、戦いを止めるようになったのだ。
一日中家に閉じ篭もってばかりいた人々にとって、それはとても喜ばしいことだった。
さらに時は過ぎ……半年後。
今や荒地のアイリーンと呼ばれるようになったこの国に、二人の女がやって来た。
一人は長い金色の髪をした女性、一人はアイリーンでは見慣れない服を着た少女。
「ゴホン、ここがアイリーン? 話と全然違うんだけど?」
カラカラに乾いたヒビ割れの地面、息をしているだけで喉がヒリヒリする空気。
少女は苦しいのか、先程から咳ばかりを繰り返していた。
「仕方なかろう、バカな神どもが激しく争っておったのだから」
その少女の隣で女性らしくも無い口調で金髪女性が話す。
「はぁ、そんなすごい神様を同じ神様のアイオンでも止められなかったのに、私なんかが止められるの?」
少女が横目で金髪女性ーーアイオンを見上げると、彼女はフッと口元に笑みを浮かべた。
「風歌にならできる、これは風歌にしか出来ない事なのだ」
その言葉通り、風歌はアイオンですら止める事が出来なかった神々を糸も簡単に止めたのだった。
人々は神々を止めた風歌を、女神のように崇めた。
本来なら、ここで風歌の役目は終わり、元の世界に帰れるはずだった……
「はぁ? 元の世界に戻れない?!」
風歌がアイリーンに来て、数ヶ月が経ったある日のコト。
風歌が神々を止めたあの日以来、アイリーン復興の為に体みなく働くアイオンに、元の世界に帰して欲しいと申し出たのが始まりだった。
「今ここで風歌に帰られると風のバランスが乱れ、また同じようなことが起きてしまうかもしれないのだ」
「じゃあ……私はどうなるのよ? 一生ここで暮らさないといけないの?」
風歌の必死の訴えも虚しく、アイオンは困惑の笑みを浮かべ、脱兎の如くその場から逃げ出した。
「ちょっ、アイオン?! はぁ……ったく」
心の底から湧き上がってくる怒りと悲しみ、それと同時に本の中でしか知らない世界をこの目で見ることが出来る現実に、心踊らせる風歌がいた。
これが、風歌が魔術師となるキッカケ。
幾つもの出会いと別れが風歌を待ち受けているとは、この時の少女はまだ知る由もない……
「神と魔法と王子様」をここまで読んで下さり、いつも本当にありがとうございます。




