第9話:泥沼
どうしよう…。
朝目が覚めて、昨日のことを思い出した私はまず最初にそう思った。
本当に普通の顔で会ってくれるかな…嫌われてないかな。
私は重い気持ちで布団から出る。
まず、会ったら何て言おう…。
話題、話題…。
歯磨をしながらテレビを見て必死に話題を捜す。
自分から言い出したことだとはいえ、何もなかったかのように接するなんて、100%無理に近い。やっぱり仕事辞めるときに告白するべきだったかな…。でも、昨日は私のわがままに付き合ってもらったんだから、今更後悔なんて無しだよね。いつも通り、普通に話しかければ、きっと龍樹さんも笑ってくれるよ。
「ふぅ。」
私は息を整えて家を出た。沢山の不安を背負って…。
「おはよう、ひなたちゃん。」
スタンドに着いて即効、龍樹さんに挨拶された。私が悩んでたことはなんだったんだ…。
「あっ、おはようございます。」
ワンテンポ遅れて挨拶をした私に、龍樹さんはいつものように笑いかけた。『いつも通り』それがすごく嬉しくて、すごく切なかった。
ねぇ、龍樹さんは昨日のこと何でもないことに出来るの?私は昨日のことちゃんと覚えてるよ。龍樹さんが言ってくれた言葉一つ一つ。なかったことになんかできない。全部鮮明に覚えてて私を苦しめるよ。
「あー、ぷよぷよとか昔はまりました。」
「俺は今はまってっからね。」
龍樹さんが自慢げにみんなに言う。
「たっちゃん、ぷよぷよ強いっすよね。」
どうやら対戦したことがあるらしい涼太さんは笑いながら言った。
「あたしも久しぶりにやりたいなぁ。」
「俺様には誰も敵わねぇよ。」
威張って言う龍樹さんを冷めた目で私が見ると、龍樹さんは八重歯を見せて笑った。そんな仕草一つに私の胸は高鳴る。息苦しくなって私はその場を離れ、使用済みのタオルを回収しに行った。そんな私の態度に気付いたのか、龍樹さんはさりげなく私の近くに来る。
「ぷよぷよやりたいのか?」
「うん、やりたいですねぇ。」
どうにかこうにか笑顔を作って私は龍樹さんに返事を返す。
「明日仕事終わってからぷよぷよやりに来るか?」
「えっ?」
「嫌なら、別にいいけど。」
私は龍樹さんの言葉が何を意味しているのか、何となく気付いていたんだと思う。これから関係が始まっていくんだろうって感じながらも私は断ることが出来なかった。
「行く…。」
どんな関係でもいい。龍樹さんと一緒にいたい。正直、そう思った。