第32話:運命のいたずら
4月最後の日。
偶然なのか必然なのか、運命のいたずらなのか。…私は会いたくてでも会いたくなかった人に出会った。
本当にただの道端で、なんの約束もしていないのに出会うことなんてあるんだ…。お互い立ち止まってただ見つめ合っていた。距離は3メートルくらいだっただろうか。
散々言いたいことがあったくせに、私は何も言えずにただ副店を見ていた。副店に真っ直ぐ見つめられると、全て見透かされそうで怖い。
なんで黙ってるの?病気はどうなったの?
私は心の声で問い掛けた。もちろん、返事はないけど。
なんて声をかければいいかわからなかった。どんな言葉なら副店を傷つけずに済むか、副店はどんな言葉を待ってるのか、全然わからなかったから。何か言わなきゃって考えれば考えるほど、どうして言葉ってやつは出てこないんだろう。
一体どのくらいの時間お互い見つめ合っていたんだろうか。だんだん息苦しくなってきた。
副店の目は私を責めるようにも見えないし、愛しい人を見る目でもなかった。なんの感情もこもっていない、無関心な目だった。
謝りたいけど、そんなのはきっと自己満足だろう。どうしようもなくなって…先に目を反らしたのは私だった。
そして副店は俯いてる私の横を、何も言わずに通りすぎた。変わらない匂いがした。
本当にごめんなさい。こんなとき謝れる私じゃなくて。こんなとき笑える私じゃなくて。
ただ目を反らした私は本当に子供だ。
私の目からは冷たい涙が流れた。静かにすうっと地面に落ちていく。周りの人に見られないように、私は下を向いたまま歩き出した。
何も言わずに通りすぎた、それが副店の優しさだったと思う。泣いてる私の横を副店の車が通りすぎた。マフラーを響かせて。
マフラーの音に掻き消されるほど小さな声で、私は
「ありがとう。」と言った。