第30話:捨てる
「えっ…」一瞬私の体は固まった。それは、携帯の画面に驚く内容が書かれていたから。
たっちゃんとの同棲の話しが着々と進む、4月後半。元々働いていた店のバイトの子からメールが届き、くだらない話しをしている時だった。『そういえば、副店入院するっぽいよ。』何通目かのメールにそう入っていた。1ヶ月くらいから頭痛が酷くなり、最近になって病院に行ったら『脳に腫瘍ができている』とわかったらしい。
そう…1ヶ月前は私がたっちゃんを選んだ時だ。そういう病気はストレスでもなるんだろうか。もしかして私のせい…?
私は最後の台詞を思い出した。『副店は私がいなくても大丈夫』確かにそう言った。それは、私の勝手な判断。
副店は他の誰かでも大丈夫な気がした。副店は私がいなくてもひどく傷ついたりはしないだろうと。もし、この病気が私のせいだとしたら、私はどうするべきなんだろう。
どのくらい酷い病気なのかはわからない。だけど、心配だった。すぐにでも連絡を取らなきゃと思った。でも、私にはかけてあげる言葉なんて何もない…。
茫然としていた私はドアの開く音で、はっとした。
「ひなた、全然進んでねぇべー。」手にジュースを持ってたっちゃんは、やれやれと笑った。
「ごめん、メールしてたら夢中になって。今から急いでやるから。」私は携帯を鞄に突っ込んで、たっちゃんの部屋を片付け始めた。
これから一緒に住むために、今日はたっちゃんの部屋の荷物をまとめに来た。
「あっ、これ…。」私が見つけたのは、テレビの下に置いてあった何通もの手紙。記念日に私が書き続けた手紙だ。
「たまに読み直したりしたー?こんなとこに隠して。」
「読んでたよ。何回も。」
「本当にー?」私はいやらしく笑って手紙を開いた。そして気付いた。たっちゃんが何度も読み直していたこと。きっと、私が浮気を告げたとき。
手紙には涙の跡が残っていた。少しシワが寄ってて、握り絞めたようになっていた。
手紙に目を通していると思わず私も泣きそうになった。
素直に永遠を誓っていた頃。何の疑いもせず、ただ2人の幸せを願っていた。手紙の最後には必ず『大好きだよ』と書かれていた。
こんなこと書かれていたら、私が浮気するなんてちっとも考えられないだろう。たっちゃんは、信じてた人に裏切られてすごく傷ついたんだ。私も信じてた人に裏切られる辛さは知っている。
たっちゃんは強いね。
「もう、この手紙に嘘はないよ。ずっとたっちゃんの傍にいる。」私がそういうとたっちゃんは力いっぱい私を抱きしめた。不安を打ち消すようにすごく強く。
大切なものがいくつかあったとき、やっぱりそれはどれかを捨てなきゃいけないときもある。誰だって全てを失いたくないだろうけど…。
私はたっちゃんだけを幸せにする。もう、副店を幸せにしてあげれる力はないんだ。どちらかを捨てるしかないなら、私は副店を捨てる。
だから、ただ病気が酷くないことを祈る。副店を誰かが支えてくれることを願うよ。