第29話:同棲
4月に入り、私はアルバイトで新しい仕事に就いた。そして時間に少し余裕ができ、私とたっちゃんは同棲することにした。私はたっちゃんを少しでも安心させてあげたかったし、もう喧嘩したり疑ったりするのが嫌だったから。
たっちゃんも私も少しずつ昔の自分達を取り戻していた。こんなことを言っちゃいけないかもしれないけど、一度失いかけたからこそ相手の大切さに気付けたと思う。
もし、私に愛情がなかったとして、同情でたっちゃんと別れないにしても、私は別に不幸せなわけじゃない。たっちゃんの泣き顔を見て、他の人と付き合っていくほうがよっぽど辛い。好きとか愛してるよりももっと大きな気持ちが存在する気がした。そんな言葉見つからないけど。
最近、副店からメールが来た。正直びっくりしたし、動揺した。いくら私の気持ちに整理がついていても、相手がそうじゃないときもある。
副店は私じゃないと駄目だと言ってきた。けれど私は『副店は私じゃなくても大丈夫。たっちゃんは私じゃなきゃ駄目だから、私は副店を選べない。』と返した。副店からの返事は来なくて、納得したのかどうかはよくわからなかった。だけど私はそれ以上メールを続けることをやめた。相手が納得するまで話すのが本当は正しいことなのかもしれない。けれど私は何度も相手を傷つけるのが嫌だった。
何回好きだと言われても、もう私には断ることしか出来ないから。
それに、メールをしていること自体、たっちゃんに失礼な気がした。私はアドレス帳から副店の名前を消した。メールも着信履歴も何もかも。
別にたっちゃんに隠すつもりでそうしたわけじゃない。たっちゃんを選んだんだから、副店のことはきれいさっぱり忘れなきゃいけないと思った。それが私なりのけじめだ。
副店に謝るのはこれが最後にしよう。
私は心の中で『ごめんなさい』とつぶやいた。