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第25話:さよなら

約束通り、次の日の夜、私はたっちゃんと会うことになった。とりあえずいつも通りに食事を済ませ、私は話を切り出すタイミングを伺っていた。

「今日はあんまり食わなかったな。調子悪いのか?」

「んー。」私は曖昧に返事をする。

たっちゃんに会ってちゃんと事実を話すつもりだったのに、あまりにもたっちゃんがいつも通りだから言えなくて…。今からたっちゃんを傷つけるんだ。そう思うと胃がキリキリしてご飯が食べれなかった。

「どうする?そろそろ帰るか?」

「ううん。…話したい。」

「じゃあ、いつもの駐車場行く?」優しく問い掛けるたっちゃんに胸が苦しくなり、私は一瞬声が出せなくなった。

「ん?」たっちゃんの目線を感じて、慌てて私は首を縦に振る。たっちゃんは駐車場へと車を進めた。

駐車場に行くまでたったの5分しかないのに、その時間がとてつもなく長く感じて…逃げてしまいたかった。今たっちゃんに嫌われる、恨まれるその現実から逃げたかった。

私は涙が出そうになったけど必死に堪えた。私が泣く立場じゃないから。切羽詰まった私の様子に、さすがにたっちゃんも気付き始めてるみたいだ。言わなきゃ。早く。

「…。」声にしたら涙が出てしまいそうで、私は痛いくらいに下唇を噛んだ。今言わなきゃもう言えなくなる。わかってるのに、声に出すのが怖くて…たっちゃんに伝えるのが怖くて…たっちゃんを失うのが怖い。

「何したの?」

「…。」

「ひなた。」私の名を呼ぶたっちゃんの声が『早く言って』と言ってるように聞こえた。

「…浮気した。」

「はぁ?」

「ごめんなさ、い…。」言葉の途中で涙が溢れた。泣いたら余計嫌われる。わかってるのに、涙が止まらない。何、私被害者ぶってんの…泣きたいのは私じゃないのに。

「お前が泣くのは意味わかんなくね?つか、誰と?」その質問に私は首を横に振る。

「いいから言え!お前は俺の質問にだけ答えろ。」たっちゃんの怒鳴り声が車の中に響いて、私はびくっと肩を揺らした。

「…副店。でも、あたしが悪いの!」

「何お前あいつのことかばってんの?好きなのか?」

「ちがっ…。」

「お前からいったってことか。…まったく、やってくれたもんだ。」呆れてため息を着いたたっちゃんは、取り出した煙草に火を付けた。

私には謝ることしかできなくて…そしてひたすら泣いていた。

呆れられた、嫌われた…本当にたっちゃんを失うんだ。そう思ったら胸が締め付けられるように苦しくって、息ができなかった。目の前が真っ暗で怖くてまた泣いた。

たっちゃんは煙草を吸ってる間ずっと外を見ていた。もう、憎たらしくて私の顔なんか見たくないんだろう。あれだけ永遠を誓っておいて、つい最近まで好きだって言っておいて、私は裏切ったんだから…。

失ったら死んでしまうってあれだけ思ってたのに、何でこんなことをしてしまったんだろう。自分が子供で情けなくなる。

煙草を吸っている合間にため息をつくたっちゃんを、私は怖くて見ることが出来なかった。

苦しいから、早く私を捨ててほしかった。この状況が辛いから、早く一人になりたかった。こんなに近くにいるのに、もう触れないなんて…。

たっちゃんは無言のままアクセルに足をかけた。あぁ、本当にこれでたっちゃんに会うことはなくなるんだ…。嫌だよ…。自分が憎いよ。消えてなくなってしまえばいいのに。

家に近づくにつれて悲しさが大きくなって、どんどん涙が溢れた。思い出が涙と一緒に流れていくようで…。

どうしてこうやって思い出すとき、人は綺麗な出来事しか思い出せないのかな。嫌なとこや喧嘩した日のことは、なかなか思い出せないよ…。

家の駐車場につき、私は鞄に手をかけた。ドアを開けようと左手を伸ばすけど、力が入らなくて開けられなかった。

やだ、やだよ。本当にこれで終わりなの…?たっちゃんを失うの?なんて自分は勝手で馬鹿な人間なんだ。今更私にはもう何も言えないんだから。

「どっちとんの?」静かにたっちゃんは言った。

「えっ…。」たっちゃんをとる。そう言いたかった。でも、私にそんな権利は無い気がして…もう私の思いは綺麗じゃない気がして…そんなこと言えない。

「どっちも、とらない…。」

「何で。」

「だって…あたし、もう、たっちゃんの彼女にふさわしくないよ。汚い、んだもん。こんなことしたのに、たっちゃんに好きだなんて言えないよ。」

「ふさわしいとか、そんなことお前が決める立場じゃねぇだろ。どっちとんだよ。俺は…お前と別れたくねぇよ。」すごく辛そうに、押し潰される様にたっちゃんは言った。私は一瞬涙が止まった。いいの…?許してくれるの…?

「別れたくないっ…」それが私の精一杯の力で言えた言葉。嬉しくて、嬉しくて、涙が溢れた。

それは今日、1番温かい涙だった。

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