第24話:決意
副店とメールをしてると意外な面が見えて、何だかくすぐったかった。今まで一緒に仕事をしてたのに、全然知らなかったんだなぁ、と思う。まるで私は恋する少女に戻ったみたいだ。
そんなんだから、私はどんどん気持ちが副店に流されていって…もう、たっちゃんに嘘は付けないだろうと確信した。
『今日は俺が寂しいから、一緒にいて』と副店からメールがきたとき、私は断ることが出来なかった。
そして10時過ぎ。家の前にマフラーの音を響かせて1台の車が停まった。
「お疲れ様です。」ドアを開けて私がそう言うと、副店は少しだけ笑った。
適当に車で辺りをぐるぐるして、くだらない話をした。副店の知らない部分を知っていくだび、私の気持ちも加速して行った。正直、副店が何を考えてるかはわからない。遊びのつもりなのか、それとも…。
「彼氏にばれてないの?」
「…時間の問題、かな。」
「別れるの?」副店に問われて私は言葉に詰まった。たぶん、そんな結果になるだろう。考えていたはずなのに、そんなことわかっていたはずなのに、凄く怖くなった。
「俺、お前結構つぼなんだよね。」どこかの駐車場に車を停めて、副店は静かに話始めた。「つぼって…どこが?あたし、本当に平凡な人間なんですけど。」
「お前はわかんなくていいけど、かわいいんだよね。」何でこの人はこんなにすらすら恥ずかしい台詞を言えるんだろう。照るてる私が馬鹿みたいだ。
「それはあたしの嫌な部分見てないからです。あたし、わがままだし、喜怒哀楽激しいし…。」
「そんくらい見てればわかるよ。でも、全然嫌にならないんだけど。」俯いてる私の顔を副店は下から覗いた。思わず私は目を反らす。
怖かった。このまま流されてしまいそうで…。
「本当はもっともっとわがままなんです!」
「そんなのどうでもいいけど。」私の必死の反論もあっさりと副店は打ち消した。
「お前、俺のこと気になってるでしょ?」悪戯っぽく、でも真剣な表情で副店は私に問い掛けた。
「あ、あたし、彼氏いるから…。」質問の答えにはなっていないが、私はそうとだけ言い返した。直接あの質問に触れなかったことの意味を、鋭い副店なら気付いただろう。
副店を気になってる気持ちがあっても、私はまだたっちゃんの『彼女』なわけで…たっちゃん以外の人に好きだとか、そんなこと言える立場じゃないんだ。
でも、本当は迷ってる。副店を気になってる気持ちはあるけど、たっちゃんを好きだって気持ちが失くなってしまったわけではない。たっちゃんとはもう別れてしまうだろうけど、だからといって副店と付き合うなんて考えはできなかった。
私は大きな信頼がないと人と付き合っていけない。
今自分の気持ちに1番正直になるなら、私は…どちらからとも離れたかった。裏切ってしまった後ろめたさがあるから、たっちゃんとはもうやっていけない。
たっちゃんを傷つけることになるのに、自分だけ新たな恋に進めない。それに、副店とうまくやっていく自信もない。
私は一時の感情に流されて自分の気持ちを見失ってるだけだ。冷静に考えればわかる。
ドキドキしたのは久しぶりだった。新しいことを知っていく楽しさ、嬉しさ。全て時間が経てば薄れていってしまう。残るのは『安心』だ。
今は副店に恋をしている気持ちになっても、その気持ちが一生続くとは限らない。
副店は私を家まで送って笑って帰って行った。きっと最後だと悟って。
その日私はたっちゃんに最後の嘘をついた。
「明日会いたいな。」と。