第22話:紙切れ
夕方、店長からメールが届き、離職の手続きをするため私は辞めた店に向かった。つまりそこには副店もいるわけで…私はどんな顔で会ったらいいか、ドキドキしながらドアを開けた。
始めに目が合ったのは副店だった。
「お、お疲れ様です。」明らかに挙動不信な私に対し、副店は顔色一つ変えずに返事を返す。…なんとも思ってない証拠、だろうか。
「おぉ、来たか。この書類なんだ。ちょちょいと適当に書いちゃって。」副店の隣にいた店長が書類片手にそう言った。
「はい。」私はその場でちょちょいと適当に書く。そんな姿を副店が横から見ていた気がした。
書き終わった私はみんなとくだらない話を10分ほどして、帰ることにした。話をしてる間副店の顔を1度も見ることが出来なくて…どんな顔で副店が私の話を聞いているかまったくわからなかった。
「じゃあ、また来ますね。お疲れ様です。」私はそう言うとみんなに手を振り、ドアを閉めた。結局私は最後まで副店の顔を見れないまま。こんなんじゃ『気にしてます』って言ってるようなもんだ。自分に呆れてため息を着くと、後ろから誰かが私を呼び止めた。
びっくりして振り返るとそこには副店が立っていた。
「お前、これ忘れてるぞ。」
「えっ!?」私は慌てて副店に駆け寄る。手渡されたのはただの紙切れだった。困惑した様子で副店の顔を見上げると
「挙動不信すぎるだろ。」と副店は私を馬鹿にした。
「気をつけて帰れよ。」
「はい。」副店は私の返事を聞くと店へと戻って行った。
一体何のために出てきたんだろう…。私に注意するため?疑問を抱えながら自転車に乗ろうとした時、さっき渡された紙切れが手から擦り抜けた。その時、はっと気付いて紙を拾い上げ、ごちゃごちゃに丸まった紙を開いた。中には見慣れないアドレスが書いてあった。
間違いなく、副店のもの。
「なんで…。」
私はその紙切れを捨てることができなかった。
気持ちが動いてしまっている気がした。