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第2話:不覚

「おい、ひなたん飲むペース落ちてきたんでねぇのぉ?」

「絶対みんな飲み過ぎですってぇ。」

そう言って私は隣に座る加藤さんの肩を叩いた。今日は仕事が終わった後、ガソスタのみんなでカラオケに来た。

てか、みんな歌うより飲んでる…?一人涼太さんだけはお酒が飲めないからって歌いまくってるけど。

「ひなたちゃんも何か歌え。」

「えぇ−、恥ずかしいから先に龍樹さんが歌って。」

「大丈夫や。俺は今からだから。」

龍樹さんも若干ハイになってるみたい。私は文句を言われないうちに適当に曲を入れた。

「何、この歌誰が入れたんですか?」

ふと、画面に目をやるとそこには私の好きな歌の題名が表示されていた。

思わずマイクを持ってる人を確認する。

…龍樹さんだ!てか、上手い。

私、歌上手い人弱いんだってばぁ…。

別にこの程度で人を好きになるわけじゃないけど。…まぁ、きっかけになったりはするんだよね。でも!龍樹さんは絶対にない。この前聞いたんだ、涼太さんのお姉さんと付き合ってるって。別に嫉妬も何もなかったし、どうでもいいことなんだけど。…今だけはかっこいいって思っても罰は当たらないよね?


「意外とひなたちゃん歌うまかったなぁ。」

「意外ってなんですか。」

帰りの車の中、後部座席に座っていた私はぶうっと頬を膨らませた。

「はは。またみんなで行きてぇなぁ。」

「うん、また連れてってくださいね。」

私が座席の間から顔を出して言うと

「おめぇは連れてかねぇ。」

と運転してる涼太さんがにやにや笑いながらつっこんだ。本当にこのバイト先は楽しくてしょうがない。

「今日はひなたちゃんの失恋パーティーだからな。」

「失恋したんじゃなくて、私からフったんです。」

「だから最初からやめとけって言ってたベ。」

「うっ。」

…確かに。いろいろ龍樹さんには相談してて、やめた方がいいって言われてたんだよね。その場の雰囲気に流されてあの人を拒めなかった私が悪いんだ。付き合うことにしたって龍樹さんに報告したとき、呆れたような顔されてショックだったの覚えてる。だから次は龍樹さんの意見はしっかり聞いておこうって思ったんだ。てか、こうやって改めて考えてみると龍樹さんの存在って大きいな。

「なんだ?静かになった。」

「あっ、考え事してた。」

「大丈夫だ、ひなたちゃんならすぐに次が見つかっから。ほら、涼太とかいるべ。」

いたずらっぽく笑うと、龍樹さんは涼太さんを指差した。

「ぜってぇ、やめてくれ。」

さぞかし嫌々そうに涼太さんは言う。

「ひどーい。」

私は運転席を後ろから蹴り飛ばした。私だって涼太さんより龍樹さんの方がいいもん。…なんて不覚にも思ってみたり。彼女持ちの人好きになるなんて絶対嫌だけど。

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