第19話:送別会
時間は11時過ぎ。店の近くのカラオケで私の送別会が行われた。
バイトの女の子達は出れなくて、女はパートさんだけしかいない。でも、うちのパートさんは若いし、いつも下ネタを話したり、相談にのってくれたりして私は好き。
「ひぃ、酒飲んでる?」若干ハイになってる店長に突っ込まれて、私は慌てて酒を飲み干した。私は酔いやすいから、2杯までしか飲んじゃ駄目って、たっちゃんに言われてるんだけど。でも、散々心配だって言ってたくせに、メールの返事もくれやしない。おまけに、急に自分も遊びに行くとか言い始めるし…。私は小さくため息をつく。
「お前、もう携帯見んの禁止な。」
「えっ、あ、はい。」副店にそう言われて、私は情けなく返事をした。
確かに私の送別会なのに、携帯ばっかり見てるのは失礼だよね。私はテーブルの上に出していた携帯を、鞄の中にしまった。
「ひぃが主役なんだから、もっとテンション上げないと駄目だー。飲め飲め。」周りのみんなに責められて、私はついに3本目のお酒に手をかけてしまった。
「やっぱそうこなくちゃな。」
…みんな笑ってるから、とりあえずいっか。
「ひぃ、歌います!」私はマイクを手に取り、頭をブンブン揺らしながら熱唱した。みんなが笑ってくれるのが嬉しくて、つい調子こいてしまう。
「お前大丈夫か?」歌い終わった後、お疲れ気味の私に副店は優しく声をかける。いつも冷たいのに、今日は優しいんだな…。私は大丈夫と言ったものの、実際かなりグロッキーだった。だいぶ酔いが回ってきてる。
「トイレ行くか?」平気なふりをしてるのに、副店には見透かされてるみたい。みんなは騒いでるけど、副店だけは私を気遣ってくれていた。
正直すごく嬉しかった。やばいよ…。
そんな時、部屋の電話が鳴って、みんな一斉に時計を見る。私も時計を見ようとして、振り返る。その瞬間ぐらっときた。
「わっ。」そして、その頭はそのまま副店の膝の上に持って行かれた。
「お前はもう大人しくしてろ。」副店はそう言って私の頭を撫でてくれる。何故か懐かしい感じがした。
そういえば最近、たっちゃんにしてもらってないな…。
「あと、このまま行っていいわ。俺、部屋の近くまで連れていくから。」私の家の近くまで来た所で、副店は運転してた坂神さんにそう言った。飲酒運転にならないように、みんな酒を飲まない坂神さんに送ってもらっていた。私は大丈夫と言いたいところだったけど、とても一人で歩けるような状態ではなかった。諦めて私は副店に肩を貸してもらって、帰ることに。
「すみません。」
「いーよ。」いつにもなく優しい副店に、私はドキドキされっぱなし。エレベーターの前で立ってるとき、
私ははっと携帯を取り出した。画面を開いてびっくり。メールは1通も届いてなかった。もしかして寝ちゃったのかな…。
「そんな寂しい顔すんな。だから、見るなって言ったのに。」
「…。」今まではこんなことなかったのに…でも、まだ2時半だし、きっとたっちゃんも盛り上がってるんだ。無理矢理そう思ってもなんだか悲しかった。ほっとかれてる気がして。
「寂しいの?」
「…うん。」
「…一緒にいてあげようか。」嬉しくて涙が出そうだった。でも、断らなきゃって頭ではそう思った。なのに私は、揺らぐ気持ちを押さえられずにいた。
私は縦に首を振った。