第11話:選択
「何したの?元気ねぇこと。」私の頭を撫でながら龍樹さんは優しく問い掛けた。これで、彼女に隠れて会うのは何回目だろう…。
「…香織が昨日来たの辛かったか?」
「…うぅん。」私は首を横に振った。それも私が鬱になってる一つの理由だけど。
「俺、香織と別れるよ。」
「えっ…?!」突然の一言に私は一瞬息が止まった。別れるって…それって私が望んでた答えなのかな?人を傷つけて自分だけ幸せになっていいのかな?
「あたし、そんなつもりじゃ…」
「俺と付き合いたくない?」
「そういうことじゃなくてっ…」私は言葉に詰まった。そんな質問されても困る。私は龍樹さんが好きだから、自分だけの龍樹さんになってほしいって思ってる。でも、彼女から奪うつもりで一緒にいたわけじゃない。いつも自分の中で矛盾した気持ちが渦巻いてた。答えなんか出せそうにない。
「ひなた…?」心配そうに私の顔を覗き込む龍樹さん。私は自分の中の感情を抑え切れずに泣き出していた。
「人の幸せ壊すなんて考えたことなかった…。あたしはそんなことできない人間だと思ってた。なのに…最低だね、あたし。」
「…ふぅ。俺、ひなたが好きだよ?」
「…?」さりげなく告白されて私はキョトンとする。
「好きじゃなかったら、こんなことしてないよ。だけど…ひなたは若いしいつ気持ちが変わるかわかんないでしょ。正直、それが怖いってのはある。まぁ、気持ちがひなたにあるから香織とは別れるつもりだけど…。」
「だ、だって…香織さんのこと好きじゃないの?別れていいの?」
「ひなたが好きだから、やっぱり香織には冷たくなってるんだ。香織も気付いてると思うし。まぁ、香織のこと嫌いになったわけじゃないから、正直泣かれたりすっと辛いけど、もう付き合っていけないから…うん、別れるよ。」そう言うと龍樹さんは私のことをギュッと抱きしめた。
「でも、やっぱり…あたし、自分だけ幸せになるなんてダメな気が…」
「俺がひなたを選んだんだ。ひなたが悪いわけじゃないよ。」香織さんの悲しむ顔が一瞬脳裏を過ぎった。でも、私は今目の前にいるこの人が愛しくてしょうがなかった。
「あいつを傷つけたのは俺だ。ひなたはなにも負い目を感じることはないよ。だから、あいつの分もひなたが幸せにして?」少し照れたように笑う龍樹さんが可愛くて、思わず私は苦しくなるほどきつく抱きしめてしまった。
神様ごめんなさい。他の人を傷つけてしまった分、龍樹さんを大切にするから。ずっとこの罪を背負っていくから。だから、龍樹さんの全部を私に下さい。
龍樹さんの胸で泣きじゃくりながら、私は心の中でそんなことを思っていた。