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異世界で 生き残る術 考える

この小説ではことあるごとに視点が切り替わります。

それを皆様がどう思われるか分かりませんが、今後も様々な主要キャラで話が進んで行きます。

どうか、ご了承下さい。

     


           『たまには別視点もいいんじゃないかな ~あすか~』



なんだかんだであの服装のままわたし達は町の入り口付近まで来て今こっそり着替えてる最中なんだけど、後ろにいる翔ちゃんが『俺は何を言ってたんだ………』とかなんとか色々とぶつぶつ呟いてるのがちょっと不気味。でも確かにさっきの翔ちゃんはいつもとは違ってたなぁ。いつもの翔ちゃんならあんなこと言わないのに。

 楓ちゃんをその……て、て、天使なんて言っちゃったりなんかしちゃったりしちゃってさ!ズルイよ楓ちゃんだけ!わたしも『一緒に生きよう』って言ってもらったけど晃ちゃんと一緒にだったし、どっちかって言えば天使の方がいいよ!


 ……あ、でも取り方によってはプ、プ、プロポーズみたいにも聞こえないかな!?


 っていうか何で楓ちゃんは『このままでもいい』なんて言っちゃったのかなぁ。おかげでここに来るまですっごく恥ずかしかったよ!翔ちゃんはニコニコしてたけど。

 ……ううん、でも楓ちゃんが言わなかったらわたしが言っちゃってたかも。もしくは晃ちゃんが。

だって好きな人に『他の男に見せたくない』なんて言われたらやっぱり女の子としては舞い上がっちゃうし、その人が喜んでくれるならたいていのことならやってあげちゃおうと思っちゃうし。

それにしてもわたしより恥ずかしがりな楓ちゃんがよくあんなこと最初に言ったよねー。

 「おーい、まだかー?」

 あ、色々考えててわたしだけまだ着替え終わってないや。

 「待ってー。もうちょっとー」

 みんなを待たせちゃダメだし早く着替えちゃわないと。


―――よし、終わり!

 「ごめん、もういいよー」

クルッと翔ちゃんが振り返る。見た感じはあのいっつも『かったるい』とか『めんどくさい』とか言ってる翔ちゃん。

 「よし、じゃあそろそろ中に入るからな。あと、周りのものが珍しくてもあんまキョロキョロしないようにな」

 「どうして?」

 「決まってんだろ。周囲の目が恥ずかしいからだ」

“女の子の”晃ちゃんの質問の答えで確信した。やっぱりいつもの翔ちゃんだ。

 「わかったな、日向」

 「なんでわたしだけ名指し!?」

 「お前が一番キョロッキョロしそうだからだ」

 ………うぅ、少しは自覚してるから言い返せない。楓ちゃんと晃ちゃんは笑ってるし。

 「よっしゃ、行くとするか」


わたしは少し走って翔ちゃんの右隣に並ぶ。たいてい四人で歩く時はわたしが右、晃ちゃんが左で、楓ちゃんがわたしと翔ちゃんの少し後ろくらいに並んで歩くんだけど…今見たら晃ちゃんじゃなくて楓ちゃんが翔ちゃんの隣にいる。

 なんかホントに楓ちゃんどうしたんだろ。『こっち』に来てから積極的になってる気がするなぁ。晃ちゃんが少し不機嫌そうだけど……まぁ、いっか。私の位置は変わらないし!

 「どんな所なんだろうね!」

 「う~ん、こっから見る限りだとちゃんと人っぽいのがいるぞ。結構沢山」

 「ふーん。相変わらず翔は目がいいね。ボクなんて何かが動いてるようにしか見えないよ」

 「まあ両方とも2.0あるから。昔から目だけはいいんだ」

 「じゃあ耳や鼻は悪いんですか?」

 「いやそりゃお前…言葉の綾ってやつだよ。目以外も大丈夫だって」

 「クス、わかってますよ」

 「でも翔ちゃんって結構聞き間違えとか多くない?」

 「そうかぁ?自分ではあんまり気になんないけどなぁ」

 「この前わたし達が遊ぶ時に、わたしが駅の『待合室』で待ち合わせって言ったのに『抹茶アイス』と間違えてずっとアイス屋さんを探してたよね」

 「そんなん誰でも間違えるだろ!似すぎだよ!」

 「文脈から把握しなよ。そういやボクが罰ゲームで『ショートケーキ』を買ってきてって言ったのに『消毒液』を買ってきたこともあったよね」

 「え、いやだからお前それは…」

 「『手持ち無沙汰』を『手持ち豚さん』と間違えて『そんなのがいたら可愛いだろうなぁ』とも言ってましたよね」

 「あーもーうるさいうるさい!全部お前らの滑舌が悪いんだよ!」

 「……まあそれならそれでいいけどさ、じゃあ言い間違えはどうするの?翔はそっちも良くあるけど」

 「言い間違え?てかさ、聞き間違えもそうだけどそんなもん誰にでもあるだろうよ」

 「否定はしませんけど、翔さんはとみに多いと思いますよ」

 「そんなことはないっしょ。俺は将来アナウンサーになれるんじゃないかってくらい早口言葉が得意だぞ」

 「違う違う、言葉を『噛む』んじゃ無くて『間違える』んだよ。例えば……わたしが覚えてるのだと、お地蔵様に向かって『なんまいだ~』じゃなくて『南無阿弥陀仏!』って言ってたよね。しかも全力で」

 「ボクは『アディオス!』じゃなくて『アディダス!』って言われたことがあるよ。しかも全力で」

 「数学の先生に指された時に証明問題の答えを『~です』じゃなくて『~である!』と言っていたこともありましたっけ。しかも全力でした」

 「……わかった。俺が悪かったからこれ以上封印した記憶を呼び覚まさないでください」



 やっぱりわたし達の会話ってどうしても翔ちゃんが話の中心になっちゃうことが多いなぁ。考えてみると結構な割合なんじゃないかな。えっと……多分7割くらいだ。

 …っていうかいつの間にわたし達はいつもの会話になっちゃったんだろ。ホントならもっと緊張してなきゃいけないはずなのに。

 「おぉ、結構賑わってるなぁ」

お話とか考え事とかに気をとられて気付いてなかったけど、もうかなり町の様子が見えるとこまで来てた。え~っと、なんか木で作られた開くのが大変そうな大きい両開きの門があって、それを過ぎるとちょっとした広場みたいになってるけど、今はなんにもない。因みに門は最初から開きっぱなし。ちょっとだけ無用心だなって思ったりもする。

 「どうやらこのまっすぐの道は大通りみたいだね」

 「お店が沢山ありますね。あとお買い物をしているお客さんも」

 「この道をずーっといくと出口があるみたいだな。もしかしたら入り口かもしれないけど」

三人とも中の様子が見えるみたいだけどわたしはそんなに目がよくないから見えない。ちょっと翔ちゃんに聞いてみよっと。

 「ねぇねぇ、どんな人がいる?体格とか服装とか」

 「体格は…あんまり俺らと変わらないみたいだぞ。なんか妙に色んな色の頭があるけど。服装までは良く見えん。つーかもうチョイだから我慢しなさい」

翔ちゃんが頭をポンポンってしてくれたけど…今のは完全にちっちゃい子にすることだった。嬉しくなくはないけど、ちょっと微妙な心情。それにどうせだったらそのまま撫でてくれても良かったのに。

 あれ、なんか人の声が聞こえてきた。あ!もう門超えてた!

 うぅ、ボーっとしてたから気付かなかった。

 「…日本語、だよな」

 「…日本語、ですね」

 「…日本語、だね」

日本語?

 「何が日本語なの?」

 「周りから聞こえてくる言葉が、です」

言われてみれば……聞こえてくるのは『安いよ安いよぉ!!何が安いって何もかもが安いよぉ!!』とか『奥さん!ぼくは…ぼくはもう!!』とか『駄目よお肉屋さん!私には夫も子供も……!!』とか日本語ばっかりだ。でもそれを言ってるのはどう見ても日本人じゃない。さっき翔ちゃんが言ってたみたいに髪の毛の色が赤とか青とか緑とか金とかの人ばっかりで日本人みたいな黒の人はいないみたい。でも、ここならわたしの髪の毛も目立たないからちょっといいかも。

 「ってことは言葉が通じるってことでしょ?良かったよね!」

 「……ああ、うん、まぁ日向の言うとおりだな。ポジティブに行こっか」

 「え、えぇ、そうですね」

 「でもなーんか都合が良過ぎるような気がするけど」

 「気にしない気にしない!」

晃ちゃんはまだ不満があるみたいだけど、こんなことわたし達が考えてもわかんないんだから前向きに行かないとね!

 「もうなんでもいいよ。いつまでもこんなとこに突っ立ってても目立つだけだからそろそろ歩き始めるぞ。あ、もっかい言っとくけどあんまりキョロキョロするなよ!特に日向」

 「わかってるよ!」

 もう、なんで翔ちゃんは私ばっかりに言うかなぁ。わたしだって高校生なんだし、単純に年齢だけならわたしは6月生まれなんだから、7月生まれの翔ちゃんよりおねーさんなんだよ?たまには文句くらい言ってみようかな。

 「わたしの方が翔ちゃんより年上なんだよ?わたしを子ども扱いしないの!」

 「あーわかったわかった。わかったから早く行くぞおねーちゃん」


 ……ちょっとイイかも。


 「あ、あの私にも『姉さん』と…」

 「ボ、ボクにも『お姉ちゃん』って…」

 「お前ら何に目覚めちゃったの!?だいたい秋月、お前は確か10月生まれだっただろ!それに晃、お前は『弟にしたい男子生徒』ナンバーワンだったろうが!しかも3月生まれ!」

 「「えぇーー」」 

 「『えぇーー』じゃない!!ああもう、行こう日向。あんなやつらほっとこう」

 「あ、う、うん!」

そういって歩いていく翔ちゃんの隣に並んぶ。

 「ちょ、ちょっと、翔はともかくなんであすかも!?」

 「置いていかないでくださーい」

後ろから二人の声が聞こえる。ふふーん、お姉ちゃんは私だけだもんねー。





          『たまには別視点もいいんじゃないかな ~晃~』



 「さーて、これからどうすっかなぁ」

翔の言うとおり、ボク達にはこれからのアテって言うものがない。この世界の常識みたいなのも知らないし知り合いもいない。周りの買い物客がお金みたいなものを渡して商品を受け取っていたのを見たから、どうやら物々交換とかじゃなくてちゃんと『貨幣』がある社会らしいけど、そのお金をどうやって稼ぐかもわかんない。

それに今ボク達はすごく目立ってる。服とか髪の毛の色とかで。周りの人からの視線がちょっと痛いけど翔はもう開き直ってるみたいだ。楓は恥ずかしそうであすかは全く気にしてないように見える。


 「翔さんは何か考えとかあるんですか?」

楓が翔に話し掛けると翔は『う~ん』と唸り、腕を組んだ。

こういった頭を使うような時はボクやあすかはあんまり口を出さない。別にボクもあすかも勉強が出来ないってわけじゃないんだけど、翔や楓は純粋に頭がいい。頭の回転が早いっていう感じなのかな。

 「あるっちゃあるんだけど…適当だよ?」

 「全然構いませんよ」

 ……もう思いついたんだ。適当でも何でもボクじゃ無理。

 「とりあえず、真っ先に思いつたのは泥棒になることかな。食い物なり金なりを適当に盗んでいけば生きていくことくらいは出来るんじゃね?もちろんバレなきゃの話だけど。………つってもコレが一番無理そうな選択だけどさ」

 「そうですね。この町はあんまり大きな町じゃありませんし、いつまでもバレないなんてことは無いでしょうから」

 それに倫理的にもね。

 「次はアレだな、誰か優しそうな人に俺らの境遇を話してどうにかしてもらうってやつ」

 「……いきなり『他の世界から来ました』なんて言ったって絶対に信用してもらえませんよ?」

 「わたしが道端で急にそんなこと言われたら走って逃げるよ」

 「ボクだったら警察呼んでから走って逃げるよ」

 「そのまま言うわけ無いだろ!俺だってそんなやついたら殴って警察呼んで走って逃げるよ。……あ、いや、でもお前らなら行けそうな気もするな」

 「わたし達ならって、どうゆう事?」

 「いやさ、いきなり変なことを言い出したヤツが中年で小太りのオッサンだったら絶対に無理そうだけどさ、そいつが女で可愛かったらなんか大丈夫な気がしない?」



―――可愛い。



 ……うん、やっぱり異性から、それも好きな人からそう言ってもらえるのはすごく嬉しいな。それに女の子扱いしてもらえるのも。

 ――とはいってもボクもあすかも楓もみんな自分の容姿がいいのは自覚してるんだけどね。自惚れとかそんなんじゃなくて、ちゃんと客観的に見て。

 そりゃあさ、アレだけ告白されたりチヤホヤされてれば誰でも気付くよ。確かあすかは高校に入ってからの一週間で20人近くの人から付き合ってくれって言われたって言ってたし、楓なんてボク達と仲良くなってから数日間、ラブレターや呼び出しが無かった日がなかったくらいだからね。ボクだって男の子の格好をしてたから女の子からばっかりだったけど、それでも何回も呼び出された。


 ……でもその度に翔が羨ましそうに『俺も顔が良ければなぁ~』とか言ってたけど、それがすごく癪だった。


ふと横を横を向いて翔の顔を見ると、真剣そうな顔をしてその実全然真剣なことを考えてないような顔をしている。いや、もしかしたら本当に真剣なことを考えてるのかかもしれないけどさ。でもその横顔を見てると色んな文句が浮かんでくる。


 ……そもそも翔は鈍感過ぎるんだよ!なんで自分がモテてる事に気付かないんだよ!!っていうか顔悪くないよ!!!


 目つきが(とてつもなく)悪くて怖いから友達が出来にくいっていうのは確かにあるけど、あすかと楓が言うにはそれがいいんだっていう女子もいるらしいし、女の子から告白されないのだっていっつも周りにあすかと楓がいたからなんだよ!自分の学校の一番人気と二番人気の女の子が好きな男の子に告白する女の子なんてあんまりいないよ!!どっちが一番でどっちが二番なのかわかんないけど!

 翔は不真面目だけど頭もいいし、運動神経だって目立たないようにはしてるけど他の人よりいいことくらいすぐにわかるし、顔だって悪くない。いや、むしろいいほうなんだよ。

 それでモテないわけ無いじゃん!?なのになんでそう思ってるんだよ!!

 ……いやいや、気付いてたら気付いてたで不味いよね。

 というか、ボクからのは別として、何であすかと楓の好意に気づかないのかが全くわかんない。ボクに言わせれば『あんだけ露骨なのに何で気付かないの?』って感じ。

 あんだけ露骨ならいくらボクが男の子のフリをしてて女の子からモテてたからって『あすかと楓はボクのことが好き』なんていう考えは普通出てこないよ!!


 あーーもーーなんか色々と考えてたら段々イライラしてきた!!


 「翔のバカッ!!」

 「突然なんで!?」

 「晃さんの言うとおりですよ。その…私達の容姿がいいと言ってもらえたのは嬉しいんですけど、翔さんは相手が可愛い女の子だったら何でも信じるんですか?」

楓が途中は恥ずかしそうに、最初と最後は冷ややかにという器用な言い方で翔にそう言う。別にボクはそうゆうつもりで怒ったわけじゃないんだけど……ま、いっか。

 「信じはしないよ。ただ、殴って警察呼んで逃げるってことをしないだけ」

 「じゃあ何するの?」

 「腕のいい脳外科医を紹介する」

 「もっとダメじゃん!!」

 「ええぃ、落ち着け日向。冗談だっつーの!」

 ………ホントに冗談なのかな。

 「あくまでコレは最終手段だって。他の案が全部失敗した時用だ」

 「他にも何かあるの?」

 「あったり前田のクラッカー」

 「古っ!!ネタが古すぎるよ!!」

さっきからあすかは突っ込んでばっかりだ。……でもスルーしたらしたで翔が切なそうな顔をするからなぁ。

 「よし、冗談はここまでにして現実的な話をしよう」

そういって翔が真面目な顔をしたけど……ホントにどっからどこまでが冗談だったんだろう。とりあえず『可愛い』の前なのか後ろなのかが知りたい。

 「一番いいのはどっか公的な機関に助けを求めることだと思うんだ。例えば……警察とかさ」

 「あ、確かにそれはいいですね。……いえ、ですがこの町にそのような警察はあるんでしょうか?」

 「ああ、そこが問題なんだよなぁー」

 「え?何々?どうゆうこと?」

楓は翔のあの言葉だけで全部理解したみたいだけど……何ですぐにわかるのかな。やっぱり楓は頭良過ぎだよね。それを思いつく翔もだけど。あすかはボクと同じでさっぱりみたいだ。

 でもなんで警察だと大丈夫なんだろ。それに翔が言ってる『問題』の意味もわからない。

 「どうして警察なら大丈夫なの?それになんで楓ちゃんは警察が無いかもって思ってるの?」

 「そうだよ。そこらへんの人にボク達の事情を話すのと警察に話すのとじゃ何処が違うのさ。警察に行っても相手にしてもらえずに門前払いくらうと思うんだけど」

ボク達が質問すると翔が『それはあれだよ』と前置きをした。ってことは翔が説明してくれるんだ。てっきりまたいつもみたいに楓に任せるのかと思ってたけど、珍しいこともあるものだなぁ。


 「そりゃただ警察に行って『他の世界から来ました』なんて言えば晃の言うとおりになるだろうよ。でもそうじゃなくて……そうだな、『記憶喪失』ってことにしたとしたらどうだ?そうすりゃ向こうだって無理に追い払うことなんて出来ないと思うんだよ。なんてったってあっちは『公的機関』だからさ、嫌々ながらも色々と教えてくれるだろうよ。……まぁこっちの世界の警察が俺らの世界の警察みたいに『市民の安全が第一』みたいな感じになってればの話だけど」

 あーなるほどなるほど、そうゆうことか。


確かにそこらにいる人に『記憶喪失です』なんて言っても見捨てられるだけだからね。所詮他人だし。

でも警察だったらそんな人でも相手をしなきゃいけないからか。しかもその相手がお金も無い、家も無い、自分の名前もわからないなんて人だったら病院に連れて行くなり保護するなりしなきゃいけないし。

でも、まだ楓が言ってた『そのような警察なんてあるでしょうか』の意味がわからない。

 「じゃあ翔が言ってた問題って何?なんで警察が無いかもしれないの?」

ボクがそう質問すると翔は、あすかに今ボクが考えてたことを話してる楓の方をチラッと見て、軽く溜息をついてから説明を始めてくれた。多分面倒だから楓に頼もうと思ったんだろう。

 「どうやって説明したらいいかなぁ。―――よし、じゃあさ晃、周りの人の服装をどう思う?俺達の世界のと比べて」

 服装?ここの人の服装は……なんていうか、この前見た中世のイギリスが舞台の映画に出てきた人みたいな服を着てる。薄いベージュ色の布を服に仕立てました、みたいなの。男の人はズボンで女の人はスカート。別に汚れてたり汚かったりはしないんだけど、何度も何度も洗ってるからなのか色あせて見える。ボク達の世界みたいに色とりどりの服ってわけじゃないしアクセサリーみたいなのも目につかない。ただ髪の毛は色んな色があるけど。

 あ、でもチョコチョコ『ボク達の世界』にもあるような服を着てる人が居るなぁ。って言っても作りが単純なTシャツとかワンピースとかだし、色も落ち着いたものばっかりだけど。ロゴとかもないみたいだし。

 「なんていうか、ボク達の世界より裕福じゃないのかな。綺麗な服を着てるのは他の人よりも裕福そうな人だし」

 「そうだろうな。それが『この世界』全てに言えることなのかこの町に限ってのことなのかはわからないけど。あ、でも城があったことを考えると多分後者か」

 ってことは―――。

 「あんまり裕福じゃない町に警察なんていう組織があるかどうかわかんないってこと?」

 「それもある」

 それ“も”あるって……まだ何かあるの?

 「晃が今言った事の可能性自体、無くは無いけど結構低めなんだよ。集落とかならまだしも町ってものが成立してる以上治安を維持する組織が全く無いってわけじゃないだろうし。貨幣制度だって確立してるみたいだしさ」

 あぁそっか。

 「だけど、その組織がどんな性格なのかわかんないんだよ」

 「性格?どうゆうこと?」 

 「つまりだな、その組織の性格が昔の日本の治安維持法とか治安警察法とかみたいなのかもしんないってこと」

 「なんでいきなりそんな考えがでてくるの?」

 「ここが裕福じゃない理由を考えたら『重税』って単語がでてきたんだよ」

 ……なるほど。国民に『重税』なんてものを課すような国の警察なんて優しいものじゃないって事か。その分福祉が充実してるってわけでもなさそうだし。

 「もちろん、ココがどっかに治められてるんじゃなくて独立した感じの町っていう可能性もあるけどさ。でも仮にそっちだとしても警察なんて組織はそれほど立派なモンじゃないと思うよ。無一文の俺達が言うのもなんだけど貧乏そうな町だし」

 だから楓は『そのような』警察って言ったのか。……なにその推察力、翔とは別の意味ですごすぎる。



 『誰かとめてーーーーーーーーー!!!!』



 ――――――――ん?何かあったのかな?

そんなことを思って正面のまっすぐな道に目をやると、人ごみの中からいかにも悪そうなやつが『どけオラァァーーーー』とかなんとか聞き取り辛い言葉を叫びながら、明らかに女物のカバンを抱きかかえながら走ってきた。

そしてそのまま翔の肩に

ドンッッ!!

とぶつかってさっていく。



―――――――――――ゴツッ!!!



 「あがぁっ!!」

その拍子に翔は軽くよろけて近くの木で出来た柱に頭をぶつけた。

そしてそのままの態勢で翔の動きが止まった。

 「ったく……なんなんだろう今の奴は。翔、大丈夫?……………翔?」

 「…………ククク」

 あ、この無気味な笑い方は……あと3秒くらいかな。

 「クック……」

あと2秒。

翔がスゥーーと大きく息を吸った。

あと1秒。



0。

 「待てコラァァァァーーーーーーーーーーー!!!!」

 ほら、キレた―――え?何この速さ!?

翔があの悪そうな男を追いかけるために走り始めたんだけど………いまビュンッ!!って音がした気がする。っていうか翔の踏み切りのせいで地面が掘れたよ!?

 ―――あぁ、そっか。ボク達良くわかんないけどスゴイ身体になってるんだっけ。あれだけ高くジャンプできるんだから速く走るくらい、なんて事は無い…のかな?




そんなことを考えてるうちに何時の間にか翔が右手でピクリとも動かない男の後頭部をメリメリと掴んで、左手でさっきまで男が持ってたカバンを持ってこっちに向かってきていた。……なんか少し怖い。周りの人は拍手したり『おーすごいなー』とか言ってるけど。………でもよそ見してて見てなかったから何が起きたかわかんないな。

 「今何が起きたの?翔が走ったところまでは見てたんだけど」

 「え~っと、ですね、すぐに追いついた翔さんがあの男性の背中に…その…飛び後ろ回し蹴りを…」

 「……え?あのスピードで?」

 「…あのスピードで、です」

 「…あの人鞭打ちとかで死んでないかな。もしくは背骨が折れたりとか」

 「…多分…きっと…恐らく…翔ちゃんも手加減したと思うよ」

周囲からの賞賛が恥ずかしいのか、少し顔を赤くした翔が男をズルズルと引きずりながらボクたちのところに到着した。あ、翔が右手を離したから男が顔面から地面に…。しかもピクリともしないんだけど……。

男の方を見向きもせずに翔は右手をプラプラと振ると、その手で木の柱にぶつけたところを擦りながら息をついて軽く笑った。

 「ふぅ、これにて一件落着ってとこだな」

 「「「………」」」

なんだか少しこの男が気の毒に思えてきた。


 「ハァ…ハァ…こっちにカバンを抱えた男が走ってこなかった!?」

 ん?なんか後ろから女の人の声が…。

 「あ!!私のカバン!!あなたが取り戻してくたの!?」

 「ええまあ。はい、どうぞ」

そういって翔が女の人にカバンを渡す。じゃあ引っ手繰りにあったのはこの人なのか。

 「ありがとう!!ホンットにありがとうっ!!この中に大事なものが入ってて……あぁ良かった!!!もしこのカバンを獲られたままだったらもう私路頭に迷うところだったのよ!!」

そう言って女性はカバンをギュッと抱き締める。どうやら状況が状況なだけに、翔と初めて会った人が必ず経験する『目つきの悪さへの恐れ』を感じてはいないみたいだ。

だって翔の目つきの悪さは自他共に認めるほどだからね。『初対面でこっちから話し掛けられない人No.1』で二位以下をありえないほど大きく離してのダントツ一位に輝いた事は記憶に新しい。それにたしか……『敵に回したくない人No.1』でもダントツ。

 ………え?ミスター?フフン、それはボクが一位に輝いたよ!翔は確か……三位だったね。後は……公表されないほうで『お兄ちゃんになって欲しい人No.1』だったかな。まあその気持ちは判らないでもない。翔は意地悪だけど、何だかんだ言って結局最後には助けてくれたりするし。


 ……あ、よく見たらこの人、ちょっときつそうな人だけど綺麗だ。すれ違ったら振り返っちゃうくらいかな。それに周りの人よりもいい服着てるし。もしかしたら翔この人に見惚れて―――ないや。むしろあれは『なんかもうめんどくせぇ』とか思ってる顔だ。

 「そうですか。じゃあ俺達はこれで」

 「あ!ちょっと待って!!」

若干翔が嫌そうな顔をした。

 「あなた達は私の命の恩人とも言える人だから、ぜひともお礼をしたいんだけど…」

 「謹んでお受けいたします!」


 「「「「…………え?」」」」


 切り変わるの早っ!!なにその超いい笑顔。どれだけ嬉しいの?それにこういうのって普通は一回やんわりと断って、それでも相手が引き下がるから引き受けるもんじゃないの?ボク達三人どころか女の人も『え?』って言ってたじゃん。

 「そ、そう、良かったわ。……じゃあ申し訳ないけど一度家に戻ってもいいかしら?もってる荷物を置いてきたいのよ。付いてきてくれる?」

 「わかりました!」

そして女性はクルッと後ろを向いて、翔がそれに着いていく。

 「ちょっと待ってよ!この人はどうすんの!?」

あすかが翔に向かってそう言うと、翔が何か言う前に近くの男の人が『そいつは俺達が処理しとくから行っていいぜー』と言ってくれた。みると周りの人もウンウンと頷いている。


 ……………処理?


 「ありがとうございます」

と、翔は周りにニ、三度軽く頭を下げると再び女性に着いていく。そしてボク達三人はその後ろを着いていく。周りの人は皆良い人らしく、ボク達の通行を邪魔しないように横にずれてくれた。


 「……ねぇ晃ちゃん、普通男の人ってさ、初対面の女の人に『お礼がしたい』って言われたらついて行くの?」

歩きながらあすかがボクにそう尋ねる、

 「ボクは女なんだけど…まぁ人によっては行くと思うよ」

 「…それは一体何が目的で…「おーい、秋月ぃー」は、はい!!」

 突然翔に呼ばれてビクッとしつつ楓は翔の所に行くとなにやらヒソヒソっと耳元で囁かれた後何かを受け取って、そこで止まってボク達の到着を待っていた。…む、なんか楓の顔が赤い。

 「…楓ちゃん、顔が赤いよ」

 「え!?べ、別に全然そんなことないですよ!?」

 そんなことあるよ。どうせ翔の顔が近くにあって恥ずかしかったとか耳に翔の呼吸を感じてとかそんなのでしょ。

 「そ、そんなことより!翔さんから伝言があります。えっとですね、『あの女の家では俺の話に合わせてくれ』って言ってました」

つまり、翔はあの女の人に色々と聞くってことなのかな。

 「…ねぇ晃ちゃん、普通男の人ってさ、女の人とどっか行く時って下心とかないの?」

 「だからボクは女なんだけど…まぁ人によってはあると思うよ」

 「確かにあの女の人と何かあったら困るんだけどさ、お礼をするって言ってる人を最初から利用するつもりなのってどうなのかな…」

 「……翔らしいよ」

 「…なんと言うか、期待、みたいな物は無いんでしょうか」

 「そんなものが翔にあったらとっくに楓かあすかの彼氏になってると思うんだけど」

 「「………」」

無言になる二人。

 「と、とにかく!わたし達は翔ちゃんの話に合わせればいいんだよね!」

無理矢理気合を入れるあすかとは対象的に、楓は申し訳なさそうにして言った。

 「あの…伝言はまだあるんです。その…『日向はボロが出そうだから黙っててくれ。ご褒美上げるから』…と」

『コレです』と言ってあすかの手をとって、その上にピンク色の包装がされた飴玉を一個乗せる。

 「ひどっ!!翔ちゃんはわたしをなんだと思ってるんだろ!?」

 う……流石にコレは…ちょっとあすかが可哀想だ。

 けど翔の気持ちもわからないでもないから何も言わないでおこっと。楓も黙ってるってことは同じ事を考えてるんだろうし。

プクッと顔を膨らましたあすかが飴の袋をピリッと破いた。……あ、ちゃんと食べるんだ。

そしてそれを口の中にいれると、『あ、ピーチ味だ♪』という言葉と共にさっきまでの不機嫌そうな顔が一瞬で溶けた。

 「まったくもう……これで味がハッカとかだったら暴れてるところだったよ!」

そう言いながら飴を口の中でコロコロと転がすあすかの表情は、不機嫌そうな顔を作りつつも幸せそうな感じが隠し切れていなかった。

 「……ヒソヒソ(本当にあすかってボク達と同い歳?)」

 「……ヒソヒソ(法律上はそうです)」

 「なになに?何の話ー?」

緊張感の欠片もないままこんな感じでボク達は歩いていた。




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