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大切な 話し合いこそ 的確に






……ん?




すぐ近くに見たことのない鳥が。あ、どうもこんにちは。



上昇終了。太陽がいつもより眩しく感じるZE☆

下降開始。一瞬、天空×字拳を放つかどうか頭の片隅で迷う。



さっきの鳥が遠くに見えた。いってらっしゃい。




地面まであと数m。いくら下が土だとしても、このまま行けば足の骨が粉砕する恐れがある。しかし、今更どうしようもない。


着地。ズダッ!という音と共に地面が少々陥没したものの、俺の身体(主に足)に異変はない。感覚的には2~3m位の高さから飛び降りた時みたいな感じ。痛いことは痛いけどそれほどでもない。


今の音に反応したのか、あいつらが言い争いを止めこちらを見る。



軽く深呼吸。 ふぅ。


大きく息を吸って…










「うええぇぇぇぇえぇぇぇぇえぇぇーーーーーーー!!!!!!」

絶叫。


 「ど、どうしたの翔ちゃん、いきなり叫んだりして。それにさっきの音は何?」

 「え、ちょ、お前ら何も見ててくんなかったの!?」

大きく頷く日向と秋月。まだ先ほどの余韻が抜けていないのか、小さく頷くしゃがんだままの晃。そういやあいつらが痴話喧嘩している間にジャンプしたのは俺だった。

 「いま思いっきりジャンプしたんだよ!そしたらスッッッッゲー高く跳べたんだよ!高かったよ!ヤバかったよ!」

興奮しすぎて語尾が全部『よ』になっている俺がいる。

 「高くって……3mくらい?」

 「全然ちげーよ!えっと…ほら!あの鳥見てあの鳥!俺あいつに挨拶したもん!」

おそらくマンションの三階以上の高さはあるだろう。

三人は鳥を一瞥し、胡散臭いものを見るような目で俺を見た。おやおや、どうやら晃も復活したらしい。

 「いや、嘘じゃないんだって!ほら、これ見ろよ!俺の着地の跡だぞ!」

俺の足のサイズ+αくらい凹んでいる地面を指差す。三人はそれを見てもまだ疑わしそうだ。

 「じゃあいいよ!もっかいジャンプするよ!あ、今度こそ晃も一緒にな!」

そう言って三人のところまで早歩きで行き、無理矢理晃の手を掴んで連れて行く。

 「いいか晃、思いっきりだぞ。手ぇ抜くなよ。あと、かなり高いけど着地は何とかなるから怖がらなくてもいいからな」

 「わ、わかった」

微妙にどもる晃。それがこれから起こる事への恐怖からなのか、俺に腕を掴まれた事で先ほどの日向と秋月への恐怖心が蘇ったからなのかはわからない。

 「よし、じゃあいくぞ。いっせぇのぉー…」

グッと地面を踏みしめる。


 「せっっっ!!!」


マンガであればギュイーーーーンという擬音が使われそうな感じで上昇していく俺と晃。今回は二回目だし、心構えもしていたから回りを見る余裕がある。

高くなっていくにつれてすぐ近くの森の大きさが明らかになってくる。予想通り相当でかい。かなりの高度に達したと思うけど、それでも終わりが見えないほどだ。


上昇終了。少し離れた場所に呆けた表情の晃がいる。高度は俺より数m低い位か。さっき跳んだ時の俺もあんな顔をしていたに違いない。

下降開始。日向と秋月の表情もだんだんと見えるようになってくる。うん、まあ晃と同じ感じだ。


地面まであと数m。今度は怖くも何ともない。


着地。晃のズダッ!の後に俺のズダッ!

うむ、やはり少々痛いな。



少し経ってから…










「「「ええぇぇぇぇえぇぇぇぇえぇぇーーーーーーー!!!!!!」」」

ま、そうなるわな。



 「なんでなんでなんで!?嘘でしょぉ!?」

騒ぐ日向。

 「……信じられません」

唖然とする秋月。

 「ちょっと本当!?今ボク本当に自分で跳んだの!?」

興奮しすぎて声のトーンが変わった晃。より女っぽくなってしまってるけど、これは一体どう言う現象だ?

 「ちょっと落ち着けお前ら。静かにしなさい」

日向と晃をなだめ、秋月の目の前で強く手を叩いて現実復帰させる。

 「な?本当だったろ?」

 「あ、ああ。自分でも信じられないけどどうやらコレは現実らしいな。足も少し痛いし」

『夢なら痛くないはずだからな』と晃はまだ興奮さめやらぬ感じである。

 「楓ちゃん楓ちゃん、わたし達もやってみようよ!」

 「ダ、ダメですよ。そんなことしたらスカートが……だからダメですって!」

 「うぅ~そういえばそうだったぁ。なんで女の子だけスカートなんだろ。男の子もスカートにするべきだよ!」

 いやいや、それは嫌過ぎるだろ。俺のスカート姿とか気持ち悪すぎて吐ける。晃は別だ。

そう文句をたれていた日向が急に『あ!』と言って手をポンと叩いた。どうやら何かを閃いたらしい。堂でもいいが、その仕草はちょいと古過ぎると思うんだよな、俺は。

 「体操着を着ればいいんじゃない?ほら、今日体育あったからちょうどもってるしね!」

 「何を言ってるんですかあすかさん。確かにそれなら大丈夫かもしれませんが遮蔽物が何も無い所でどうやって着替えるんですか。それに翔さんもいるんですよ?」

 晃はいいのかよおいっっ!!

 「そりゃあ恥ずかしいけどさぁ~、翔ちゃんには目をつぶっててもらえばいいんじゃない?それに楓ちゃんは跳んでみたくないの?」

 「それは…まぁできることなら…」

こっちをチラチラ見る秋月。はいはい、わかったわかった。

 「俺はあっち向いてるからその間に着替えちゃえよ。んで俺が見ていないのを晃に俺の向こう側で確認しといてもらえばいいだろ?」

 「うん!ありがとう翔ちゃん!」

 「じゃあ着替えちゃいましょうか」

そういって二人はカバンを漁って体操着を取り出す。でも、着替え始めてしまう前に一つだけ質問。

 「なぁ、なんでさっきからお前らの話には俺の名前ばっかで晃の名前が出てこないんだ?俺が晃に見ててもらうってことはあいつは目を開けてるってことだろ?」

俺が目をつぶってるにしろあいつらの反対方向を向いているにしろ、それを晃が確認するって事はそうゆうことになる。カマをかけてみたんだけど、見事に晃は目を開けてもいい感じの空気になっていた。

そして俺の言葉を聞いた瞬間、ギクッと震える日向と秋月と晃。

 「べ、別に他意はないんだよ!たまたまだよたまたま!」

 「え、ええ。もちろん北条さんにも向こうを向いていてもらいますよ!」

 「そそそそそうだぞ翔!なぁんにも問題ないからな!!!」

 うおぉ、晃の焦り様が半端ないな。まさかココまでとは。

 「…ま、別になんでもいいけどさ」

そういってクルッと後ろを向くと晃も横に並んで俺と同じ方向を向く。あいつらの着替えを見ないようにだ。

 「じゃ、じゃあ着替えるからね。翔ちゃんも晃くんもこっち見ちゃダメだからね」

 「わかったから早く終わらせてくれぃ」

俺がそう言うと後ろから制服を脱いでいるのであろう音がしてくる。学校のツートップが俺の近くで、しかも振り向けば見える位置で着替えているなんて言ういつもなら確実にテンションがマックスになるような出来事だ。

しかし、今の俺には単なる事象としての価値しかない。

 「…なぁ。晃」

 「な…なんだ?」 

空を見上げながら会話を続ける。

「……鼻から上、額から下、こめかみよりも内側のあたりから熱い何かがこみ上げてくるんだ。………止め方を、知らないか?」 

晃からの返事は無かった。でも別に期待していたわけじゃなかったからそのまま空を見上げたままである。俺の心内環境とは裏腹に空は青く澄み渡り、咎人をその罪ごと包み込むかのような包容力を俺に見せ付けていた。



 ああ、気が付かなかった。きょうはこんなにも、たいようが、きれい―――だ―――



 「終わったよー」

涙が出てくる理由は太陽を直視して眩しかったからだと自分を誤魔化すのはどうだろうか、と考えているうちに結構時間が経っていたらしい。

後ろを振り向くと、淡い黄色服を着た秋月、水色の服を着た秋月がそこにいた。しかもジャンプしたときにTシャツがめくれることを考慮したのか短パンの中に入れているため胸が強調されているとか、袖から出ている腕が綺麗だとか、短パンのお陰でスカートの時にはよく見えなかった足が綺麗だとか、もうこの二人が誰のことが好きとかそんなことは関係なくこいつらの彼氏になるようなやつらは著作権侵害かなんかで取り締まられて一遍死んでみたほうがいいと思う。いや、でも晃に死なれるのは嫌だな。どうしよう……ビンタ40発くらいで勘弁してやるか。


 おっと、言い忘れていたけどうちの学校には制服や体育着というものがない。一応標準服という制服みたいなものがあり、ほとんどの生徒がそれを着ているが着用義務は無いので私服でもいいことになっている。ちなみに俺達はクリーニングに出しているとか、前日に雨が降って乾かなかった等の事情が無い限りそれを着ている。そして体育の時間は運動にふさわしいものならばなんでも可だ。

 「じゃあ行くよぉー」

 む?俺がどこかの誰かにうちの学校について説明していたら何時の間にか日向と秋月は少し離れたところでジャンプの準備に取り掛かっていた。てかもう跳びそうだな。

 「いっせーーのぉーー…」



 「「せっっっ!!!」」


声が聞こえたと思ったら二人がギューーーーンと跳んでいった。いや、飛んでいった。

『キャーーー』だの『イヤーーー』だのが聞こえるがドップラー効果と共にそれも無くなっていく。

 おーー下から見るとあんなんだったのか。二人とも足をバタバタしているな。

あの『龍球』って漫画の【まごごそら】と【クソソソ】も最初に【タートルマスター】の修行を受けた後はこんな感じだったのかな。


ヒューーと落ちてきてズダッ!ズダッ!

俺と晃の時と同じように地面がめり込んだ。ただやっぱり女の子だから俺よりも体重が軽いのか、めり込み度は俺が一番だ。どうやら晃も体重が軽いらしい。まぁ、見るからに線が細いし。

 「すごいすごいすごい!!わたしすっごく跳んだよ!!」 

 「私もですよ!!」

二人でキャッキャと騒いでいて全くその場を動かないため仕方なくこちらから声をかける。

 「お~いお前ら、どうだったー?」

その言葉を聞いて二人は俺達のほうに小走りで近寄ってきた。

 「すごかったよ!!あのねあのね!翔ちゃんたちがすっごくちっちゃく見えたの!!」

 ふーん、コイツはテンション上がると語彙が少なくなるのか。さっきから何回も『すごい』という言葉、そしてそれを活用したものを耳にする。

 「秋月はどうだった?足は痛くないか?」

 「ジャンプして上がっていく時は怖かったんですけど、降りてくる時は風がとても気持ちよかったです。足もそれほど痛くはありませんよ」

ニッコリしながらそう言う秋月は幾分冷静らしい。日向は晃相手にまだすごいすごいと言っているみたいだ。

 「でもまさか身体が軽く感じているとはいえ、ここまでの事とは思わなかったな。高くって言っても精々数mくらいだと思ってたよボク」

 「なんというか…この世界では私達の常識は通用しないみたいですね。あれだけの高度から落下すれば普通命がありませんよ。どんなによくても足が粉砕骨折するレベルの高さでしたから」

 「ああ。着地地点を見るとどうやら体重が減ったわけじゃなさそうだから、単純に俺達の肉体が強化されたのかもな」

 「そうですね。落下速度もかなりのものでしたから重力が小さいという線も無いでしょうね」

 「もうなんでもいいけどさ」

軽く溜息をついてからそう呟いた後、ふと思いついた。

 「あれだけ高く跳べるって事はさ、もしかしたらメッチャ早く走れるって事かな」

 「…そう、ですね。上に跳ぶ力を前に進む力にすればいいだけですし、その可能性は高いと思いますよ」

少し考えたそぶりを見せてから秋月は答えた。

 「そっか。後で試してみよっと」

本当は今すぐ走ってみたいんだけど、とりあえずいまだに騒いでいる日向をなだめてからさっさと町に向かわなきゃいけないし。試すのはその最中でもいいだろう。

 「なにはともあれ、とりあえずさっさとあいつらを回収して町に向かうか」

そう言って歩き始めた俺に、『はい』と返事をして秋月がついてくる。どうでもいいけど、この男のちょっと後ろを歩いてくれる感じがなんとなくいいね。さすが大和撫子の化身なだけある。

近寄って声をかけると先ほどに比べて少しは興奮が冷めた様子の日向が返事を返してくれた。

 「そろそろ行こう。いつまでもここではしゃいでいてもしょうがないからさ」

 「うん、わかった!よーし、ぜんそくぜんしーーん!!」

 「……幼稚園児かお前は…」

 「ブッブー。わたしは親が共働きだったから保育園でしたー」

実は全然冷めてなかった日向が幼児キャラで先頭を歩く。なんかもう似合いすぎだ。

そこでなにやら黙り込んでいる晃に気付いた。怒っているとかではなく、どうやら何かを考え込んでいるようだ。

 「どうしたんだ晃。なんかあったのか?」

 「……え?あ、いや、なんでもないぞ。なんでも」

 「そっか。ならいいけど」

そういって歩き始める晃。すでに日向と秋月は進んでいるので俺が一番後ろになった。

まぁ本人がなんでもないと言っているのであればわざわざそれを聞くこともあるまい。面倒だし。なんかあれば自分から話すだろうし。

そう思って俺も三人に着いていく。


―――あ、そういえば。

 「おーい、日向と秋月。お前ら着替えなくてもいいの?そのまま人がいるとこに行くのはどうかと思うんだけど」

歩みを止めて『あ、忘れてた』などと日向が呟く。『着替えるからもう一回向こう向いてて。あ、晃くんもね』とも。

俺は再び後ろでうちの学校のツートップが俺のすぐ後ろで着替えているんだけど振り返ることが出来ないなんていう天国なのか地獄なのかよくわからない状況を味わい、『もう嫌われてもいいから後ろを振り向いてしまおうか』と真剣に考えている横で晃もやはりまだ何かを考え込んでいるような表情をしていた。ただし、俺はそれ以上首を動かす事が出来なかった。なんだかんだ言っても俺はチキンだ。





俺が悩んでいる間に日向と秋月が着替え終わってしまい、別に振り向こうと決心していたわけじゃないけどなんとなく惜しい気持ちになった後、俺達は予定通り街に向かっている。配置はいつもの通り、俺の横に晃と日向、ちょっと後ろに秋月だ。

 「今から行くところってどんなところなんだろうね!」

遠足にきている小学生的なテンションの日向がまだ見ぬ地に思いを馳せながらパタパタと騒いでいる。元気なやつだ。

 「俺としてはごく普通の町並みであって欲しいよ。これ以上理解不能な出来事が起こって欲しくない」

 「でもそうゆう時に限って続くもんなんだよ。起こって欲しくないことなんてものはさ」

見た感じいつもどおりの晃が俺に返事をする。悩みは解決したのだろうか。

 「あのなぁ、人の願いをたやすく打ち破ってくれるんじゃないよ。俺だって世の中の理不尽くらいわかってるよ。それでも俺は希望をもっていたいんだ」

 「でもなんだかワクワクしませんか?前の世界じゃこんなことありませんでしたし」

やっぱりニコニコしている秋月が答える。順応性がいいなおい。君はもっと現実的な子かと思っていました。

 「でもそうは言っても翔ちゃんも楽しみなんでしょ?」

 「そりゃ、まあね」

俺だって男の子だし、やっぱり『異世界』とかには憧れはある。だからこそゲームなんていう人生には全く必要の無いものを買って遊んでいるわけだし。

 「けどさ、いくら楽しみっつっても限度があるんだよ。ここは何が起こるかわかんないんだぞ?『切捨御免』的な感じでいきなり殺されても合法な世界だったらどうすんだよ」

 「考えすぎだよー。むしろ『生類憐れみの令』で保護されるかもよ?」

 「なんでだよ!俺達は犬扱いなのか!?」

 「じゃあ国民保護法?」

 「国民じゃないだろ!どっちかっつったら外国人だっつーの!」

 「もー翔ちゃんはわがままだなぁ」

 「………」



こんな感じで自分で言うのもなんだがアホな会話をしていると、何時の間にか俺達は二つのグループに分かれてしまっていた。つまり、普通の速度で歩く秋月、晃と、割とゆっくり目に歩く俺と日向。今は下校の時とは違ってわざと速めに歩いていたわけじゃないからだ。俺達はバカ話を、表情を伺うにあいつらはちょっと真剣そうな話をしている。

 けどまぁ前二人の邪魔をするのもあれだし、それに二人が何を話しているかなんて事より気になることがある。

 「なあ日向」

俺が呼びかけると日向が『なぁに?』と笑いながら返事をした。どうでもいいけどどうして日向といい秋月といい晃といい、こいつらはこんなにいっつも笑っていられるのかね。思い出してみれば大体俺と話している時のあいつらは笑っている。そんなに俺の顔が面白いのだろうか。それとも別に何かあるのだろうか。

 ま、あったとしてもずっと笑顔とか無理だけどさ。三分で顔面がつりそうだ。

 「日向はあいつらの話に参加してこなくていいのか?」

 「うん。大事な話だったら後で教えてくれるだろうし、なんにも無かったらわたしが知らなくてもいい事って事なんだろうしね」

俺としてはあいつらが二人っきりで話していてもいいのかという意味だったんだけど……まあ日向がいいならいいか。もしかしたら『ともに塩を送る』とかそんな感じなのかもしれない。

 「じゃあもう一個質問なんだけどさ、なんでそんなに気楽そうなの?」

 「え?なんでそんなこと聞くの?」

 「なんでって…だって俺達よくわからんとこに来たんだぞ?『これからどうなるんだろう』とか『ちゃんと帰れるのかな』とかないの?」

この質問は何も日向だけに限ったことじゃない。秋月と晃もだ。

普通の人だったら帰り道に良くわかんないことが起きて何時の間にか草原にいました、なんてことになったらもっと焦るんじゃないか?少なくとも俺はそうだったし。

にも関わらず、日向は暢気にシートの用意をしたり、あいつらもその後の話し合いのときも冷静そうだった。別段騒いだりする事も無く、ただいつもよりは真剣に話し合いをしただけだ。

俺のその疑問に日向は、

 「別に?全然大丈夫だよ」

と、微笑みながら答え、次いで少し歩く速度が下がりどこか陰のある笑顔で話した。

 「ううん、全然って事は無いなぁ。……うん、やっぱり結構不安。わたし達が今ここにいるって事は向こうの世界ではいないってことで、『行方不明』ってことだから。多分あの時はまだ4時くらいだったから今は問題ないけど、明日になっても家に帰ってこなければお父さんやお母さんも心配してくれるだろうし。もちろんわたしのだけじゃなくて楓ちゃんと晃くんのもね。………それに家族みんながこのあとどうやって暮らしていくんだろうって思うと…ね」

 ……そっか。こいつらには心配してくれる親がいるんだったな。別に妬んでいるわけじゃないけど、やっぱり心配してくれている人がいるってのは羨ましいことだ。

 ってかこの子がそんなことまで考えているとは思わなかった。そこが一番ビックリです。

そしてそこで日向が破顔。にこやかになって『でもね』と続ける。

 「ちょっと不謹慎だけど、結果的にわたし達みんなでいなくなっちゃえたのは良かったと思ってるんだ」

少し考え、俺が返答。

 「……そうだな。確かに、いつも一緒に遊んでるメンバーでいなくなったのであれば、『集団家出』ってことになるだろうから、一人だけでいなくなるよりも世間的には大事にならずに済むのかもな」

 もしくは親に黙っての旅行とか。ま、どちらにせよあまり長期にならなければ、親達にもガッツリ怒られるくらいで済むだろう。『長期にならなければ』な。

しかし日向は『確かにそれもあるんだけどー』と言っている。

 「例えばね、もしいなくなっちゃったのが翔ちゃん、楓ちゃん、晃くんのうちの誰か一人だけだけだったとするでしょ?もしそうなったら多分、残ったわたしと他の人達は一生その人のことを忘れられないし、一生心から笑い合えなくなっちゃうよ」



 ……確かに、そうだ。

俺は想像してみる。


―――もしあの帰り道、俺の目の前で、いや俺達の目の前で誰かが消えてしまったとしたら。


そうなったら日向の言うとおり、大人になっても、爺になっても、きっとどうしてあの時俺は助けられなかったんだろうと後悔するだろう。

逆にもしここに来たのが俺だけだったとしたも、もっと絶望していただろうしこんなに前向きになれなかったはずだ。

 「そう考えるとさ、お母さん達には悪いけどこうやってみんなで来れたのってすごく幸運な事なんだって思うの。―――ううん、『不幸中の幸い』かな!」



―――――俺は。



日向のその率直な言葉が心に響いて、元気付けられたような気がして、自然と笑みがこぼれて、でもそんな自分が恥ずかしくて、照れ隠しに日向の頭をグワシグワシと少し乱暴に撫でて、

 「あぅぅ~髪がぐちゃぐちゃになるでしょぉ~」

文句はいいながらも『止めろ』とは一言も言っていないこのちび助になんとなく感謝したくなって、手の力を弱めて、髪を手櫛で元通りにしながら、

 「…ありがとう」

と言った。

 「ぁぅ、う、うん。でも…なんで?」

 「さあな。よくわかんない」

日向の頭から手を離し、両手を組んで空に突き出してうーーんと背伸びをしてから一度だけ深呼吸。指がパキパキと心地よく鳴った。

 「強いて言えばなんとなく、かな」

 「も、もぉーなにそれぇー」

 「だから今わかんないっていったろ?」

軽く笑いながら日向に返事をする。まあ仕方ない事だ、自分でも本当にわからないんだから。

目を前に向けると何時の間にかあいつらと結構な距離が空いていた。時々俺達のほうを振り向いてはまた話し始める。

 はて、なんかさっきからチラチラこっちを見てるのは何でだろう―――ん?なんだ、俺達二人じゃなくて日向を見てるのか。

 「あの、さ、翔ちゃん。その、た、大切な話が…「日向、なんかあいつらお前に用があるみたいだぞ?」」

 「………」

 「ん?なんか言った?よく聞こえなかったんだけど」

 「なんでもないよ!!」

 えぇ…なんか怒られた。なんでやねん。

しかし例え本人は怒っていたとしてもタッタッタと走っていく日向の後姿は、小動物みたいでやっぱりなんとなく和んだ。出来る事なら走る日向を後ろからではなく前、もしくは横から見たかったな。理由は………まあアレだよアレ。


その背中を見送って何気なくもう一度空を見上げると、そこには先ほどと変わらず青い空が広がっていた。雲ひとつ無い―――やっぱりあったわ―――雲はちらほらと、鳥が何羽か飛んでいる。ゆっくりと雲は流れて、『俺達の世界』よりも暖かな気候が俺達の身を包み込んでいた。時の流れすらも俺達に合わせて遅めに設定されているような気分になる。


 ……さっきはあの位の高さまで跳んだんだよなぁ。

さっきとはまた別の色の鳥を見かけてそう思う。

すると当然の如く俺の心にはもう一度高く舞い上がりたいという欲求が生まれ、『思い立ったが吉日』という名言どおりにジャンプすることにした。どうせ他にやることも無いし。あいつらは話し込んでるし。

 ………一つだけ言っておきたい事がある。俺は今全く寂しく無い信じてくれ。


よっこい……しょっ!!


あー風が気持ちいいなーなんか嫌なこととか全部消えちゃいそうだなーっと。



上昇終了。ここから下を見て気付いた。さっきとは違って歩きながら、そしてすこし助走をつけてジャンプしたため真上ではなく少し前に行ってしまい、このまま行くと三人にぶつかる危険性がある。

下降開始。――――――ヤバイじゃん。



ヤバイヤバイヤバイ!!マジでヤバイ!!

テンパり過ぎて『ヤバイ』以外の言葉しか出てこない。

そっか!大声出せばいいんだ!ゴルフの『ファー』見たいな感じで。

でも気付いたときにはもう遅い。今から息を吸ってから大声を出す間に恐らくぶつかる。

 「―――――――――っっ!!!!」




しかし、幸運の女神は俺を見放さなかったようだ。対象まであと5m位の所で三人が歩みを止めた。どうやら俺に呼びかけたが返事がないことに疑問を抱き、後ろを振り返ったらしい。

そしてそのまま三人の目の前にズダンッ!

 「「「キャア!」」」

俺は三人に背を向けた状態で着地し、聞こえた三人分の『キャア』。


………三人分?


 「HAHAHA驚いたかいセニョリータ」

とりあえず狙ってやりました感を出すために少しおどけてみることにした。

 「驚いたに決まってるでしょ!!何をやってるの!?」

 「何って…暇だからちょっと跳んでみたんだけど。ちなみに誰も怪我のないように計算してたから大丈夫さ!」

さわやかな笑顔とともにナイスガイポーズ。要するに縦にした握りこぶし+立てた親指。

 「しれっと嘘をつかないでください!私達が歩いたままだったら当たっていたじゃないですか!」

 「ところで話は変わるけれど」

 「変えないでください!」

 「えーい、落ち着きたまえ!」

がおーと吼えている秋月をどうにかこうにかなだめた後、この場をなんとか有耶無耶にするために晃に一つ、これまで何度もぶつけた事のある疑問をもう一度言ってみる事にした。いや、今日だけでも何度思ったことか。

 「なぁ晃。お前って…その…さ」

 「なんだよ!!」

 あぁ、まだ怒っていらっしゃる。…って当たり前か。

でもこんなに怒ってる時にこんな茶化しを含んだ冗談なんて言ったら余計に怒っちゃうんじゃない?

 どうすべきか……………よし、言うか。

言わなかったら落ちてきたことを誤魔化せそうに無いし。まぁ言ったところで誤魔化せるとも思えないけど。

 でもそんなことより、俺はあいつをからかいたいんだ!!



 「じゃあ…言っていい?」 

 「早くしろよ!」

 「前から思ってたんだけどさ、お前って本当は…男じゃないんじゃね?」

 「「「っっっ!!!??」」」




俺の突然の何の脈絡もない言葉が奴らに届いた瞬間、その場に静寂が訪れ、目の前にはなにやら衝撃を受けた日向、秋月、そして晃。

風が吹き、それによりサラサラと草が音を立て、鳥がグアァーーと鳴いているのが聞こえる。のどかな自然の音が俺の耳を癒す。


―――――逆にいえば、自然の音が良く聞こえるほどに静かだという事だ。


 えと……もしかして俺………地雷踏んだ?



 『はぁ?何言ってるんだ翔は』

 『だってさ、結構な頻度で「キャア!」って言ってないか?お前』

 『そ、そんなの勝手に出ちゃうんだからしょうがないだろ!第一ボクのどこが女なんだよ!』

 『この前の女装だって似合ってたし』

 『そう思ってるのは翔だけだよ!』

 『なぁ秋月、晃って女の子っぽいよな』

 『そうですね。少なくとも翔さんよりは可愛らしいと思います』

 『日向は?』

 『うん!わたしもそう思うよ!』

 『みんなそう思ってたの!?くそぅ、裏切ったな…ボクの気持ちを裏切ったな!!』



 ―――こんな感じじゃないの?今までずっとこんな感じだったでしょ?

この誰も言葉を発しない空気がとっても痛い。しかも俺が原因だし。

しかもこの流れ…明らかに図星をついちゃったっぽい感じだ。

つまりどうゆうことなんだ?と自問自答してみる。この状況で自問他答は無理だろうし。

晃はもともと女っぽい→『キャア』という叫び声→俺『男じゃないんじゃないか?』→みんな無言→つまり×××。以上。

てかなんで日向と秋月も無言?


いや、聞くまでもない。

――――――――――簡単な話だ。


それはつまり、あいつらも知っていたと言うこと。『何か』を。

意を決して晃にその『何か』を聞いてみる。―――『本当なのか』と。

でも俺が口を開く前に晃が、

 「……お前の…翔の………考えている…とおりだ…」

と、吐き出すように言った。








 「俺の…考えている通り?」

無言で頷く晃。その表情はとても苦しそうだ。

それも仕方ないだろう。今まで自分の意志で黙っていたことを他人に知られると言うことは、とても辛い物だろう。しかも相手が友達であるならばなおさらだ。

事実、今のアイツの言葉は明らかに無理矢理搾り出されたものだった。そしてそこに色々な感情が含まれていることが感じ取れた。今後の俺達の関係や今まで俺に黙っていた事への罪悪感と後悔、俺の晃に対する反応への不安など。その他にもたくさんあるんだろうけど、恐らくこの三つが大きいんじゃないだろうか。

確かに俺だって隠し事をされていたのは悲しい。それもこの場を見るに、自分だけ。それに対しての怒りも僅かながらある。


けど、そんなことよりも俺は晃が心配になった。可哀想になった。

この今にも泣きそうな【北条晃】という俺の友達が。


俺にだけ打ち明けられなかったのにも何か理由があるに違いない。そして多分、これまでずっと苦しんできたんだろう。その顔に笑顔を貼り付けて。こいつはそういうやつだ。

一体晃はどんな気持ちで俺に隠していたんだろう?

晃が今の言葉を口にするのにどれだけの勇気が振り絞られたんだろう?

この場で肯定せず、無理矢理にでも否定していればいつもみたいにふざけた空気にはなるだろうし、また今までの関係を持続できたはずだ。

でも晃はしなかった。

それはつまり―――俺に、真実を受け入れて欲しいから。

いったい『何を』なのか。

それは、





『実は、【北条晃】は、女の子に興味がありません。男の子が好きなんです』っていうもしかしたら俺にも日向や秋月を彼女にする可能性がある希望的観測が事実、ってことだ。

だって俺のさっきの『お前って本当は…(心は)男じゃないんじゃね?』っていう質問を肯定したんだから。

それが『性同一性障害』によるものか、はたまた別の理由があるのかはわからない。

しかし結論は一つ。

あいつは自分の肉体が『男』で精神が『女』であることを黙ってたんだ―――





 「……俺が考えていることで……間違い、ないんだな?」

少しためらったそぶりを見せた後、晃は小さく頷いた。

 「そうか……」

日向と秋月の方を見ると、俺に黙っていたことへの罪悪感からなのか視線を下へと逸らせている。けど俺はあいつらに聞きたいことがあった。だから、声をかけた。

 「日向、秋月。お前らは知ってたんだよな。その………今のことを」

無言。頷くこともしない。………いや、出来ないんだろう。そしてもう一つ質問をする。

 「お前らは……晃のこと……好きか?」

今度は二人とも即座に頷く。



 ――――――そうか。こいつらはこんなにも……晃のことを想っているのか。



俺の友達はやっぱりそんなことくらいで他人を差別するような人間じゃなくて、そのことがまるで自分のことのようにすごく嬉しい。

これから晃が歩む道、そしてそれを追いかける日向と秋月が歩む道は多くの障害が立ちふさがる茨の道だ。法律や世間体など、これからあいつらを待ち受ける困難を数え上げればいくらでもある。日向や秋月が晃を茨が存在しない舗装された道に戻すのか、それとも茨を刈り取り晃を見守っていくのかはわからない。でもそのどちらの選択にせよ容易じゃない。

――――そしてあいつらにはその覚悟が出来ている。




―――――そして、俺は。




 「なぁ、晃」

ゆっくりと喋り、ゆっくりと首を晃のほうに向け、ゆっくりと晃の顔を見る。

 あぁ……そんなに泣きそうな顔するな。そんなに心配しなくても俺は―――。

 「俺は………晃のことが、好きだよ」

会話だけを見ればおかしな発言だ。『お前の考えているとおりだ』と言われ、第三者にいくつか物を尋ね、『お前が好きだ』と言う。でも、そんな言葉でも、晃には俺の思っていることが伝わったようだった。

 「……本当…に?」

心なしか、声が女の子っぽく聞こえる。もしかしたら心が女であれば肉体もそれに近づくのかもしれない。そう考えればこいつの体つきや香りが女っぽいのも頷ける。『精神は肉体に引っ張られる』という言葉が成立するのならば、その逆だってありえるはずだ。心が女なら、体つきや声までも、女のようにな。

 「ああ。当たり前だろう?」

だって。



 「―――お前は俺にとって―――大切なヤツ(友達的な意味で)なんだからな」



そう言った瞬間晃が胸に飛び込んでくる。軽く、華奢な身体だ。

そして俺はしっかり受け止める。

 「……今まで、隠して、て……ごめんな、さい…!」

俺の胸の中で泣く晃。正直、どんなにこいつが歪んでいても取り合えず見た目可愛いので悪い気はしない。


ただ後ろの女の子二人がメッチャ怖い。さっきまでどんよりムードだったのに、なんかもういつのまにかすっかり。今はシリアスな場面なんだからこんな時くらい嫉妬なんて止めればいいのに。


でもやっぱり俺の胸の中で『…ごめんなさい…ごめんなさい』と繰り返している晃を見ると、自分でもよくわからない感情がこみ上げてきて、この泣いている男の“娘”を慰めるために右手を腰に回して左手で頭を撫でた。いつもの俺なら異性にも同姓にも出来ない芸当だ。


……後ろの女の子二人がバリクソ怖い。気付かなかった事にしよう。


そして今後のことを考えると今この時、俺には晃に言っておかなきゃいけないことがある。俺という存在が『障害物』になって二人に『刈り取られ』ないように。

 「……晃。すこしは落ち着いたか?もし落ち着いたんなら……少しだけ、話しておきたいんだ」

晃は一応『ごめんなさい』は止まっていたもののまだスンスンと鼻を鳴らしていたが、俺の言葉を聞いてゆっくりと離れてくれた。

 「その…多分これは言わなくても問題は無い思うんだけど…可能性はゼロじゃないから今のうちに言っておきたいんだ」

俺の真剣な声色が伝わったのか、晃は下を向いていた顔を上げ、無理矢理呼吸を落ち着かせようとしていた。目と頬には俺の服で拭った涙の跡がある。

 ……俺だって本当ならこんな時に言いたく無い。でも、もしこのまま言わないで大事になったら俺の身が危ないから……仕方ないんだ。

俺は自分で自分にそう言い聞かせ話し始めた。

 「俺は、お前のことが好きだ。これは…本当のことだ。でも…」

 「…でも?」

 「でも……俺は…」

辺りが静まり返っている。草も雲も空も風も大地も太陽さえも俺の言葉を待っているかのようだ。

俺は意を決し、バッと頭を下げながら言った。



 「……俺は………男をそうゆう対象に見ることが出来ないんだ!!!」



 「「「……………は?」」」

 「もちろん晃が俺のことをそうゆう風に見ることは無いと思う!だけどこれだけは言っておかなきゃって思ったんだ!」

 「え、いや、ちょ…」

 「確かにお前は男にしては可愛い過ぎるし、女みたいではある!!でもさっき俺がお前のことを好きだって言ったのもそういう意味じゃなくて…「ストップストップストップ!!!」」

俺が言い訳の言葉を続けていると晃がそれを止めたので、腰を折ったまま首だけ動かして晃を見る。

 「……体も起こして」

言われたとおりに元に戻す。

 「ちょっと聞きたいんだけど」

晃の今の言葉には進むのが茨の道なだけになにやらトゲがある気がする。…そんなに俺に惚れるなよっってことを言われるのが嫌だったのかな。わかってはいたけどちょっとショックだ。

 「………今、君は、ボクの事を、どう思ってる?」

 あぁ、今ならちゃんとわかる。今の晃は女の子だ。声もそれっぽいし、何より一人称の『ボク』がより女の子っぽくなっている。やっぱり晃にしてみれば、数ある一人称の中でも最も男らしいと言える『俺』という言葉を使うのには抵抗があったんだろう。だからこそ日頃から『ボク』って言ってたんだ。それにこの『ボク』という一人称も、両手を腰に当てて眉をひそめて目をつぶっているこのしぐさも、今更ながら中々に似合っていると思う。

 「何って…俺の友達、だけど」

 「……少し聞き方を変えるよ。翔が『俺の考えてる通り?』って言った時は?」

 ああ、その時か。そんなのアレだよ。言い辛いよ。

 「……ちょっと失礼になるかもしれないんだけど」

 「構わないから」

 う、ちょっと怖い。でもまぁ本人がそこまで言うなら。

 「いやさ、俺の身近に『見た目は男!頭脳は女!』みたいな特殊なヤツが本当にいたんだなぁって」

『いや、頭脳っていうより心だよな。それに晃は見た目も女の子っぽいし』と俺が話を続けようとしていると、晃は大き息を吸って―――

「ちがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーう!!!!!!!!」

と、叫んだ。







 「っっ、なんだよ急に叫んだりして!ビックリしたじゃんか!!」

 「ちがうちがうちっっがーーーーーう!!!全部ちがぁう!!!」

 な、なんだよこいつ………超怖い。

俺は助けを求めるべく日向と秋月のほうを見たけれど、二人とも溜息をつきながら首を横に振っていた。

 「いったい何が違うんだよ!あーもーわけわからん!!」

 「翔が今考えてることが全部違うんだよ!!!!!」

 「わかったわかったわかった!!とりあえず落ち着け!!」

そう言って何とか騒ぐのだけは抑えたが、今だにフーフーと荒い呼吸の晃に質問する。

 「よし、何が違うのかを教えてくれ。ゆっくりと、落ち着いてな」

 「だぁかぁらぁーーーー今翔が考えてること全部だって!!」

 「だから落ち着けって。ほら、深呼吸深呼吸」

晃はスーハースーハーと体に新鮮な空気を送り込んで、………よし、どうやら今度こそ落ち着いたようだ。日向と秋月も何時の間に俺達に歩み寄ったのか、さっきより近くにいるが何も話す気はないらしく黙っている。しかしその目は何故か俺を非難しているようだ。

 「あのね?ボクは、『女の子』なんだよ!」

俺を正面から見据えて晃が言う。けどそんなの今更だろ。

 「ああ、そいつはわかってる。どこも違ってない」

実はお前が特異な体質だってことはさ。

でも晃は首をブンブンと横に振る。まるで『そこが違う』と言わんばかりだ。

 「そこが違う!」

あ、言われた。

 「ボクは!心も!身体も!女なんだよ!!!!」









 ん?

 心も…『身体も』?

 いやいや、聞き間違えだろう。うん。もしくは『頭も』の言い間違いさ。



 「悪い。もう一回言ってくれ」

 「心も!身体も!女!!」



 ―――――――うん?

 「…心『も』?」

 「…心『も』!」

 「……『身体』も?」

 「……『身体』も!」

 「………冗談じゃ…?」

 「ない!!」



 ………へぇ、そうなんだ。晃は女の子だったんだ。ふーん……新事実発覚じゃん。











 「って、うぇぇぇぇえぇぇぇぇえぇぇーーーーーーー!!!!??」








 「え、ちょ、え、マ、マジで?」

頷く晃。

 「あの、ホントに、生物学的に女?XX染色体?」

頷く晃。

 「【北条晃】っていう第三の性別とかそんなんじゃなくて?」

頷く晃。

 「えっと…今目の前にいるのが女?」

頷く晃。

 「…さっきまで俺の胸で泣いてたのが?」

ちょっと恥ずかしそうに頷く晃。

 「…俺が女の格好をさせた時も?」

頷く晃。

 「…告白の真似をさせた時も?」

かなり恥ずかしそうに頷く晃。

 「…最後にもう一回だけ。今俺の目の前にいる【北条晃】の性別、は?」

軽く息を吸って

 「女」

と、答えた。






 「マジでかあああああああああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」






俺はその場で膝から崩れ落ち、地面を思いっきりぶん殴る。ものすごい音がして地面が抉れるが、今はそんなくだらないことを考えている余裕はない。



だって、

俺は、

今、

これまでのことを、

振り替えっていたから。



 「あの…翔?大丈夫か?」

 「ダイジョバナイ!!!!!」

 何で俺はもっと更衣室であいつのことをジロジロ見なかったんだ!!

 どうしてアイツが着替える時はいつもコソコソしていたのにもかかわらず俺は何も気にしてなかったんだ!!

 どうして夏でもTシャツの下になんかシャツを着ていた事を不信に思わなかったんだよぉ!!

 ってゆうかじゃあ俺は今まで男2女2じゃなくて、男1女3なんていうハーレム状態だったのか!!!

気付きたくない真実に気付くたびに地面を殴っているからドンドン掘れていくけどそんなことはどうでもいいんだ!!

 「ち、ちょっと翔ちゃん!止めて止めて!」

 「土が!土がすごい勢いで飛んできます!」

 「翔!ちょっと落ち着いてってば!」

 「こんな状況で落ち着いていられるかああぁぁぁーーーー!!!!」

今度は俺がなだめられる番になった。






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