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腕に穴を空ける行為

気付けば初投稿から一年以上も経っていました。

遅筆ながら、これからもがんばりたいと思います。グダグダと。







 「なぁなぁ、『お前らの世界』ってどんな感じだったんだ?」

 「あ、僕も聞きたいな」


俺達の(っていうか晃の)真剣(?)な話も終わり、今じゃすっかりダラダラモードに入った俺達八人は、移動するのがめんどくさいという(主に俺の)理由によってエリカの部屋に(勝手に)居座っている。


 「そうですわね……カエデ達の寮での反応から推察しますと、恐らく『ワタクシ達の世界』とは全く別の文化であることはわかりますが」


俺達がここに残る事を告げた時のエリカの反応は、面白いくらいに想像通りのものだった。一応口では反対するも、なんだかんだいって結局は俺達に押し切られる。

そして本人もさり気にまんざらではないらしかった。ちょっと嬉しそうだったし。やっぱりあれかね、俺達の真実を知って、晃達と改めて友情を結べたーとか思ってんのかね。エリカ、友達少なそうだからなぁ。


 「うん、私も気になるな。どうなのだ、ショウ」


 てかエリカは本当だったらこの後魔術の鍛錬をするとか言ってたけど、別にいいっしょやらなくて。《光剣》とかいう反則じみたモン使ってるんだし、もう充分強いと思う。これ以上なにを鍛練するんだよ。もう一回戦ったら多分俺勝てないよ。


 「ショウ、無視すんじゃねぇよ。おいショウ!!」

 「うーーるっさいんだよ!!今俺にはやることがあるんだ!!さっきまでは晃がやってた大事な仕事が!!」

 情景描写と言う名のな!!

晃は横でウンウンと大きく頷き、カイルはキョトンとする。

 「ンだよそれ。なんもやってねぇじゃん」

 「やってんの!こう見えてもちゃんとやってんの!」

 「……なんでもいいけどよ。だがオレも鬼じゃぁねぇからな、頭を下げるってんなら手伝ってやってもいいぜ?」

 「はっ!残念ながら脇役には出来ない仕事なんだよ。これは主要キャラの仕事だから」

 「んだとコラァ!!テメェせっかくの人の厚意をどわぁっ!!」

立ち上がったカイルの脚に『重力』をかけた結果、ヤツは俺に近づこうとして無様にこける。カカカ、いい気味だ。これでコイツの無駄なイケメンが崩れてくれたらもっといい。



 「そう言うわけだから俺のことはほっといていいから、みんなは話しちゃってていいよ」

 そして俺はその様子を余すことなく中継するとしよう。まずは……そうだな、みんなの位置関係とか大事じゃない?


まず部屋の持ち主であるエリカは、やたら綺麗でやたら大きい鏡台の前の椅子に座っている。ドアから見て部屋の左奥のほうだ。


んで時計回りに見ていくと次にいるのは楓だ。ベッドの枕元にこれまた綺麗な姿勢で腰掛けている。なんだろうな……エリカも綺麗な座り方なんだけど、楓のほうが柔らかい雰囲気って感じなんだよな。言葉にするとエリカが優雅、楓が上品って感じかな。あ、あとエリカと楓の間に無様に転んだカイルもいたな。

 「なんでオレだけ適当なんだよ!!」


ベッドにゴロンと寝転んでいるのはあすかだ。うつ伏せになって、顔だけをこっちに向けている。どうもアイツには他人のベッドという考えは無いらしい。俺の部屋でも勝手に寝転んでたしな。


楓とは逆のベッド端には晃がいる。こうやって見ると座り方やその仕草の一つ一つがやっぱり女の子だ。どうして俺はあいつが女の子だって事に気付かなかったんだと思うけど、それだけ晃の演技がうまかったんだろう。


んで次は俺。さっきまでは椅子に座っていたが、今はドアの右横の壁に寄りかかっている。そういや壁紙自体も俺達の部屋の物とは段違いだ。見るからに高級っぽい。


そして左にいるのはユーリだ。何故か体育座りなんだけれども、緊張してるからとかじゃなくて単にあの格好が楽なんだろう。お陰で小さい体が更にコンパクトになっている。ま、小さいって言ってもあすかよりはマシだ。ユーリは小柄な高校生、あすかは一部が発達した小学生だからね。見た目も中身も。


最後はリリア。やっぱり正座をしており、ネコの癖にあの座り方を苦と思っていないんだろう。俺には無理な芸当だ。窓から差す日光が鏡で反射されて丁度リリアの髪に当たり、銀色がキラキラと輝いている。

 「……ってなんだよお前ら、さっさと会話しろよな。俺の仕事がなくなっちゃうじゃないか」

 「あー、なんとなく今は喋らないほうがいいと思って。ほら、翔が大変になるでしょ?」

 なるほど、さすが晃。さっきまでこの仕事を担ってただけはある。

 「だがそれももういいだろう。聞きたいことは山程あるのでな」

言葉とともにリリアが手で髪を靡かせると、キラキラと銀色の輝きが増した。ような気がする。

 「おいエリカ、なんでカーテンを閉めるんだ」

 「いえ、別に、特に理由はありませんわよ」

部屋が少し暗くなる。折角綺麗な銀色だったのに。……なんで楓とあすかと晃はエリカに向かってナイスガイポーズをしてるんだろう。



 「でもさー、聞きたい事が山程あるとか言われてもこっちも大変なんだよね。取り合えず質問は一人2~3個位にしてくれるとありがたいんだけど。ほら、楓も困るだろ?」

 「え?どうして私が答える前提に?」

 「それはアレだよ。楓はそういうキャラだろ?」

 「一体何時からそんな設定が……」

今一釈然としないようだけど、そのあたりは運命だと思って欲しい。決して『俺が面倒だから』という理由ではない。


ってなわけでここから先は質疑応答が始まるわけだけど、それを一々実況してたら日が暮れてしまう。だから適当な感じでやらせてもらおう。取り合えず楓が答えた事のリストを箇条書きで出してみる。



・魔術が無い事

・科学がある事

・建物とかの感じが違う事

・国家制度が違う事

・国によって言葉が違う事

・電車や飛行機とかの『こっちの世界』では考えられないようなヤベー乗り物がある事

・義務教育とかの事

・貴族がいない事

・『前の世界』においても俺の目付きが悪すぎる事。


 ………ん?なんか変なのが入ったような……まあいい。


・あすかみたいな人間は俺以上に特殊だと言う事


 「特殊じゃないもん!普通だもん!」


・俺達の国では基本的にみんな髪が黒い事

・つまり茶髪であるあすかは特殊だと言う事


 「う……それは否定できないよぅ…」


・楓は別に貴族でも何でもない事

・むしろただの一般人だと言う事


 「それは嘘だよな」

 「うん、嘘だよ」

 「嘘以外の何者でもないね」

 「ど、どうしてですか!」


・晃は自分だけが普通だと言い張っている事

・でもなんなら俺達の中である意味一番普通じゃない事


 「うーん……でもそれはボクのせいじゃないしなぁ…」


・結局は俺達四人全員普通じゃないと言う事


 「違う!俺は普通!」

 「わたしは普通だもん!」

 「ボクが一番普通だよ!」

 「違います!私こそが普通なんです!」


・でも結局俺達の主張は『こっちの世界』の四人には受け入れてもらえなかった事


などなど、だ。




会話も途切れ、ふと時計を見ればここに来てから既にニ時間は経過していた。やっぱ質問の数を押さえてもらってよかった。あいつらはまだまだ色んな事を聞きたそうだったけど、俺はもう腹が減ったからさ。

 「つー事で、メシ食いに行くぞ」

特に異論は無い様で、みんなが一斉に立ち上がる。あすかはベッドの上で小躍りをしていた。んで『暴れるな』とエリカに注意されてシュンとしている姿がなんとも微笑ましい。


扉を開けて外に出て、食堂に向かってゾロゾロと歩き出す。この時間だったら女子寮にも男子がチラホラと居るし、何より女子が5人も居るからさっきカイルとユーリ三人だけで歩いていた時よりも気は楽だ。


俺は一番後ろを歩きながらなんともなしに前を歩く7人を眺めてみた。様々な髪色をした男女が様々な会話をしている。もし『こっちの世界』組が部屋を出ても『俺達の世界』の事を訊いて来たらチョップをかましてやろうと思っていたんだけど、その心配は無いらしい。一応あいつらもその辺の事を考えてはいるみたいだ。今は……明日の話をしてんのか?


 「なぁ、明日の授業ってなんだ?宿題とかあったっけか?」

 「貴方はどれだけ自分の記憶能力の悪さをワタクシ達に披露すれば気が済むのです?明日は状態検査をすると、デラクール先生が仰っていたのを忘れましたの?」

 「……テメェはいつになったらそのふざけた言葉使いを改めんだろうな」


 なるほど、状態検査なのか。……え?いや、べ、別に俺は、お、覚えてたけど?


 「状態……検査?ねぇリリアちゃん、検査ってなにするの?身体測定とは違うの?」

 「……む、う、うん。そうだな、その二つには天と地ほどの差がある、と思う。いや!あくまで私の主観だから他人とは感じ方が違うだろうがな!」

 「そ、そう……。じゃあ、具体的には何をするの?」

 「えっ?それは、その……うん!エリカに聞いた方が早いと思う!私は口下手だからな!」

 ……ああ、そういやリリアが獣人だってことは俺しか知らないんだっけ。周りにも隠してるみたいだし、それで本当は知らないけど知ってるフリをしてる、と。

 あいつもややこしい奴だな。さっさと言っちゃえばいいのに。……ああ、差別があるんだっけ?めんどくさいな。


 「……まあいいですけれど。アスカ、貴女の言う『身体測定』なる行為が何を指すのか今一良く解りませんが、明日行うのは恐らく別物ですわよ」

 「ふぇ?ないの?身体測定。身長計ったり、座高計ったり、身体が健康かどうか調べたりするの」

 体重を計る、と言わないのは何か理由があるのだろうか。

 「そんなものを計ってどんな意味がありますの?」

 「……う~ん、考えたことないなぁ。でも言われてみれば確かに、何のためなんだろ」

 「ほ、ほら!私の言った通り、全くの別物であっただろう?」

高らかに叫ぶリリアだったが、皆に生暖かい目で見られていることに気づいてはいなかった。あれはついさっきまで『俺達の世界』組に時折向けられていた目だ。


 「………。状態検査とは、ワタクシ達生徒の中に魔力超過者がいるかどうか、もしくはそれになり得るものがいるか、それを調べる為の物ですわ」

 「………。魔力超過者、ですか?」

どうやらリリアを見て見ぬフリする事に決めたらしい。今の会話はエリカと楓のものだが、皆すべからくゆっくりとリリアから視線を外している。


 「そうですわ。そもそも魔力量とは、ワタクシ達の年代に大きく飛躍します。しかしその成長に身体が追い付かなくなる場合があり、そうなると身体不調が起きたり、重度になると二度と魔術を使えなくなってしまう事もありますの。その症状を『魔力超過』といいます」

 「ふーん。それってボク達もなる可能性があるの?」

 「ああ。魔力を持ってる奴なら誰でもなるかも知れねぇらしいぜ。だが、そうなっちまうと色々と困んだろ?それを防ぐ為に状態検査ってのがあるんだよ」

 「難しい事をするんじゃないけどね。でも全校生徒が一斉にやるから明日一日潰れちゃうんだ。一応検査が終わった生徒は自習っていう建前はあるけど、誰も守ってないし先生達も黙認してるらしいよ」

 「ほう。私達一年生だけではないのだな」

 「……何をいってるのグラウカッツェさん。学校にいる年齢の子供は、最低でも一年に一回は受けなきゃいけないんだよ。もしかして知らなかったの?」

 「え?あ、ああ、いや!勿論知っていたとも!これはただ、アスカ達の意見を代弁しただけだぞ!」

 ……もういいや、リリアはほっとこう。

そういう雰囲気になってきていることに、リリアは未だ気付いてはいない。


 「それで、結局明日は何をするのぉ?」

魔力超過者だ何だと少々細かい話になり、面倒になったのか話についていけなくなったのか、微妙にふて腐れたあすかが聞く。

 「簡単に言いますと、注射、ですわね」






 ―――――――――――――――。






 「えぇ~注射ぁ!?やだよそんなのぉ!!」

 「何注射如きで喚いているんですの?あんなもの一瞬ではありませんか」

 「でもでも、すっごく痛いじゃん!!」

 「だからなんだってんだよ。訓練中の怪我のほうがよっぽど痛ぇっての。オレなんて何度骨折したかわかんねぇぞ」

 「うん、確かに。そもそも私の場合《癒刀》が痛みを伴う魔術だからな。あれが完成するまで何度自分の爪で自分を傷つけたか」

 「……え?爪?」

 「あ、いや!刀だ刀!!」

 「………。でも、注射する薬品は一体どんな物なんですか?」

 「………。正式名称は『第一超過魔力順応水』略して『超魔水』ですわ。魔力超過が重度になれば第二、第三になります。二年生で第二種癒術専攻を取れば試験に出ますわよ」

 「ふーん。ま、ボクは『癒し』を持ってないから関係ないな」

 「違うよホウジョウさん。第二種は『癒し』を持ってないけど医療方面に進みたい人用の授業で、第一種が属性持ちの授業だよ」

 「あれ?そうだったっけ?」

 「そんなことどうでもいいのぉ!!エリカちゃん!!注射って絶対にやらなきゃいけないの!?」

 「当たり前ですわ。それともアスカ、貴女はよろしいの?発熱、食欲不振、悪寒、身体倦怠感、関節痛、その他の症状に加えて魔術が二度と使えなくなっても」

 「っっ!!?……ダメだよ、食欲不振だけは絶対にダメだよ」

 「他はいいのかよ……。ってかヒナタ、残念なことを教えてやるぜ。魔力保有量が多ければ多いほど注射する超魔水が増えんだ。つまりここにいる八人は、注射する時間が長い八人ってコトだ」

 「……じゃあ、痛い時間も……?」

 「ああ、長い」

 「やぁーーだぁーーー!!」

 「……よかった。僕、魔力が少なくて」

 「そうは言ってもユーリ、お前も学年全体から見れば多い方ではないか」

 「そうだけど、さ。でもそれを言ったらクロノ君だよ」

 「……確かに。正直私はショウがどれほどの魔力を持っているのか、未だに良くわかっていないのだが」

 「カイル君の話だと、あのマント―――『白の結界』で、真っ黒の壁を出したらしいよ」

 「な…に……?その話……本当か?」

 「本当だよ。みんなその光景を見てたらしいからね。多分歴史を紐解いても、そんな人はいないと思う」

 「ま!今更何でもいいじゃねぇか!そのお陰でショウは一番注射時間が長いんだからよ!!カカカ、いい気味だぜ!!」

「うん。絶対に一本じゃ足りないだろうし」

 「となると、二本くらいですか?」

 「いえ、三本注射した人が実在しているようですから、恐らくそれ以上ですわね」

 「うわぁ~、翔も大変だね。魔力が多いとこんなところで損をするんだぁ」

 「と言いますか、その話題の翔さんは?全然話に参加してこないんですけど」

 「ん、おいショウ!そんなとこに突っ立って何してんだよ!!」



 「……いや、別に」



 「ったく、早く行こうぜ。腹減っちまったよ」

 「ほらアスカ、しゃんとしなさいな」

 「注射……食欲不振……注射……食欲不振……うぅぅ」

 「ところでグラウカッツェさんは何色だったの?」

 「白に近い灰色、だったな。どうやら私も魔力量だとこの八人の中だと下位らしい」

 「注射かぁ。『ボク達の世界』のと同じようなものなのかな?」

 「どうでしょう……恐らく、注射筒も注射針も素材や形が違うのでは?」


歩いていく7人。着いていく俺。


 ―――――――――――――――よし、決めた。













  『たまには別視点もいいんじゃないかな? ~あすか~』



 「うぅ~、すごく痛かったよぅ…」

『ちょーますい』を注射された左の二の腕をさすりながら、わたしは第二医務室を出て行く。向かう先は集合場所の、翔ちゃん曰く『体育館の裏っぽい雰囲気の所』。正確に言うと校舎と森林演習場の間の演習してる人達が休憩する場所。翔ちゃんとリリアちゃんが初めて会った場所もそこなんだって。昼寝してた翔ちゃんにリリアちゃんが話しかけたって言ってたけど……うん、信じられない。二人とも、絶対に何か隠してる。


でも、わたし達は二人に何も聞かない。昨日までみんながわたし達に何も聞かなかったのと同じように。

だって、わたし達は信じているから。わたし達と同じようにいつか隠し事を話してくれる、って。

どっちの隠し事にも翔ちゃんが絡んでるけど、まあ翔ちゃんだもん、それはいいんだけど。



――――――――――そんなことよりも大切なこと。リリアちゃんの気持ち。



あの日あの場所で、リリアちゃんは私たちに言った。翔ちゃんのことが好きだ、って。

リリアちゃんはわたし達の想いに気づいてた。わたしも、楓ちゃんも、晃ちゃんも、あの人のことが好き。

じゃあそれでもわたし達に自分の思いを伝えたのはなぜ?

どうすればいいのか分からなかったから相談した?それとも宣戦布告?

本人は前者だって言ってたけど……ううん、それが真実なのかどうかなんて、そんなことはどうでもいいよね。



――――――――――――だってわたしは、例えどんな相手でも負けるつもりなんてないんだから。













 「だめだぁ~!!真剣なことを考えててもまだ痛いよぅ!!」

 やっぱり絶対に変だよあの注射!!なんで話題をそらしても痛いのさ!!いくらなんでも『ちょーますい』4本分はおかしいよ!!こういうときって大体他の人が話しかけてきて、また新しくイベントが始まって、注射の痛みなんてなかったことになるはずじゃないのぉ!?


でもそれも当たり前だよね。第二医務室にはわたししか来てないんだし、だから集合場所を決めたんだから。

 最初は翔ちゃんも一緒の医務室だと思ったから心強かったのに、ゆっくり歩いてたら急に『あ、ヤベ間違えた!そういや俺ユーリと同じ医務室だった!』なんて言ってどっか行っちゃうし!ほんとにほんとに不安だったんだからね!近くにいるのは殆ど話したこともないクラスメイトと、他のクラスの人達だから……今も一人ぼっちだし。

 「………寂しいから早く行こ」

 早く行って、みんなとおしゃべりしよう。

つぶやいて、わたしは駆け出した。








………………教頭先生に廊下で走るなって怒られた。








ちょっと気落ちして到着した集合場所には、もう他の人が到着してた。いるのはカイルくん、楓ちゃん、リリアちゃんの三人。医務室が一緒だったのかな。

 「ぃよぉーうヒナタ!注射はどうだった?」

 「どうだったって……すごく痛かったよ。今もまだ痛い」

 「そーかそーか!」

カカカと意地悪な顔で笑うカイルくんは、ちょっと翔ちゃんの影響を受けすぎだと思う。初めて会った時はこんな人じゃなかったはずなのに。


 「まあ聞けってヒナタ!実はオレな、今回の注射で超魔水を6本も打ったんだよ。コレがどういう意味か分かるか?」

 うん、と……注射をそんなに沢山打ったのに喜んでいられるカイルくんは、人には言えないような変な趣味を持ってるって事…かな?

 「おい、お前今とてつもなく失礼なことを考えてんだろ。違ぇよ!!」

 バンバンと膝をたたいて怒るカイルくんは、本人の話だと特殊な性癖は持ってないみたい。

 ……でもカイルくんって大会のとき、翔ちゃんにボロボロにされて喜んでた、よね?じゃあ今言ったことは嘘ってことで、嘘ついた理由は……ばれたら恥ずかしいからかな?そんなの気にしなくていいのに。励ましてあげないとね!


 「世の中にはいろんな人がいっぱいいるんだから大丈夫だよカイルくん!わたしは全然気にしないよ!!だからその……これからは精一杯カイルくんに痛い思いをさせるよ!!」

 「だぁーから違ぇっつってんだろうが!!オレを勝手に異常性癖者扱いするんじゃねぇ!!」

 「ま、まあまあ、落ち着いてくださいよカイルさん。私も気にしませんから、ね?勿論誰にも言いふらしたりもしませんし…」

 「っっだああぁぁぁーーーー!!!一からか!?一から説明しねぇとダメなのかこいつらは!!?」

 むぅ、今完全にわたしのことを馬鹿にした。全くもう!ほんとに翔ちゃんに似てきたんだから!



頭をわっしゃわっしゃと掻き毟って、カイルくんはため息混じりにまた話し始めた。さっきまでの嬉しそうな顔はどこに行ったんだろう。渾身の励ましだと思ったのに。不思議な人。

 「はぁ……だから昨日も言ったろ?超魔水の量は、保有魔力量によって注射される本数が変わるんだってな」

 あ、確かにそんなこと言ってたような気がする。注射と食欲不振のことで頭がいっぱいだったからよく覚えてないけど。

 「んで、アレクサンドリア立教育機関……つまりこの学校が設立されて以来、一年生が打った超魔水の量が一番多いヤツで6本。つまりオレと同じ量ってことだ」

 「へぇ~そうなんだ。すごいね」

 「だろ!?正直『白の結界』ででた壁の色なんかじゃ良く分かんなかったがよ、こうして改めて数字にされると嬉しいってもんだろ!?同率ってのが多少気に食わねぇが、オレの魔力量もドンドン伸びてるし、来年には二年生の最高記録を超してやるぜ!!」


急にまた元気になってニカッと笑うカイルくんだけど、わたしには全然その気持ちが分からない。だって二年生になればさっき打った本数以上の注射がわたしを待ってるってことでしょ?三年生になったらさらにそれ以上の。

 あーあ、注射なんかこの世からなくなればいいのに。

未来が怖いってこういうことをいうのかな、なんて思うわたしだった。


 「そんなことよりも、なんでさっきからリリアちゃんは黙ったままなの?」

 「そ、そんなこと……だと…」

 あ、カイルくんがガックリしちゃった。まあ、いっか。

 「え?ああ、いや、なんでもないぞ?別にその、注射が想像以上に痛くてまだ腕がジンジンするなどとそのようなことは……」

 まさかこんなにも早く理由が分かるとは思わなかった。改めて思う、リリアちゃんって隠し事がヘタだ。

 「ええい、そんなことよりショウはどうした!ヤツも痛いことは苦手だと言っていたはずだ。アスカ、ショウとは一緒ではないのか?」

 「え?なんでわたしにそんなこと聞くの?」

 「だって翔さんが言ってましたよ?あすかさんと同じ医務室だって」

 「そうそう。あいつ無駄にダラダラと歩いてやがったくせに、いきなり『あ、ヤベ間違えた!そういや俺あすかと同じ医務室だった!』っつって居なくなりやがったんだよ」


―――――――あれ?


 「む、どうしたアスカ」

 「へ?あ、ううん!なんでも、ないよ」

 「それで、翔さんは今どこに?」

 「う、うん……結局翔ちゃんとは一緒には行かなかったんだ。後から遅れて来たと思ったら、すぐにまた走ってっちゃった。『あ、ヤベ間違えた!そういや俺ユーリと同じ医務室だった!』って言って……」



―――――――あれれ?なんだろう、この、違和感。



 「するってぇとあれか?もしかしてあいつ、二度も自分の医務室の場所を間違えたってことか?カッカッカ!馬鹿なやつ!スゲー馬鹿なやつ!!掲示板に張られた張り紙の一文すらまともに覚えられねぇのかよ!」

 「ば、馬鹿は言い過ぎだと思いますよ?その、翔さんだって人間ですし……それにほら!翔さんってちょっと間の抜けたところもありますし……」

 「ククク、全くもって庇えてないぞ。カエデも間抜けな行為だと認めているではないか」


―――――――医務室の場所を、二回も、間違えた?


 ……ううん、それ自体は全然普通だと思う。わたしだってお財布を忘れて家に戻ったら今度は鍵をかけ忘れたことがあるし、携帯を忘れたと思って家に戻ったら最初からカバンに入ってたこともあるし。うん、普通普通。

 じゃあ何でこんなに引っかかるんだろ。自分でもなんていえばいいのか分からないけど……なんだろう、胸がもやもやする。

 う~!なんか気持ち悪い~!



 「みんなおまたせぇ!!ってあすか、何一人でジタバタしてるの?」

 「ふぇ?」

わたしにかけられた言葉に反応して周りを見てみると、いつの間にか晃ちゃん、エリカちゃん、ユーリくんもいて、しかもみんなそろってわたしを見てた。

 「あ、あれ?いつからここにいたの?」

 「今『お待たせ』って言ったばかりなのを聞いてなかったの?全く、本当にあすかはあすかなんだから……」

 なにさそれ!わたしだって一生懸命考えてるんだよ!今だってこうして翔ちゃんの謎の行動を……


 「あ?ショウはどこに行きやがったんだ?ヒナタの話だとお前らと一緒だったんだろ?」

 「うん。そうだったんだけど、ね」

 「あの男なら、迷惑にも後からワタクシ達に合流したにも関わらず、ノロノロと歩いた挙句に腹部に痛みを感じる、などと言って走り去っていきましたわ」

 「そうそう。『あ、ヤベ腹痛(はらいた)だ!』って」


―――――――また、違和感。


 「腹痛ぁ?ったく、何やってんだよあいつは。だからオレらが昨日アレだけやめろっつったのになあユーリ」

 「本当だよね。『俺は自分の限界を超える』とか何とか言って普段の食事の1.5倍注文しちゃうし」

 「ああ。しかも最後まで食べきれずにオレに押し付けやがったしな」

 「ふむ、では結局いつもと同じ量しか食べなかったということか?」

 「うーん…流石にそんなことはないと思う。多分1.2倍くらいは食べてたんじゃないかな」

 「ホンットあいつは無意味に食が細ぇよな。そもそもあいつの1.5倍の飯ってのがオレのいつもの量と変わんねぇんだぜ」

 「フンッ!どうせ仮病ですわよ、仮病!」

 「エリカさ、超魔水の事を語ってるときに翔がいなくなったこと、まだ怒ってるの?」

 「な!?ワタクシは怒ってなどいませんわよ!そう!ショウのことで怒ってなど!」



―――――――け……びょう………?



『あ、ヤベ間違えた!そういや俺あすかと同じ―――

『あ、ヤベ間違えた!そういや俺ユーリと同じ―――

『あ、ヤベ腹痛―――

ゆっくり歩いてたら急に―――

あいつ無駄にダラダラと歩いてやがったくせに―――

ノロノロと歩いた挙句に―――




『ん、おいショウ!そんなとこに突っ立って何してんだよ!!』



『……いや、別に』












 「あああああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!」


 わかった……わかったよこの違和感の正体!!

 そうだよ、考えてみれば翔ちゃんが黙って注射なんか打たれるわけがなかったんだよ。ただでさえ痛い事が大嫌いなんて言ってるし、なにより今回は魔力の量に比例して注射の数が増えるんだから、翔ちゃんが逃げ出したとしても、全然おかしくない。


 ううん、『おかしくない』どころの話じゃない。

 だって翔ちゃんには―――――


 「晃ちゃん!」

 「え?ど、どうしたのあすか……急に大声出したりして」

 「そんなことどうでもいいの!!それより、翔ちゃんがどこに行ったのかわかる!?」

 「お腹が痛いって言ってたから、多分トイレでしょ?」

 「ちがうよ!どこのトイレかってこと!!!」

 「一体どうしたのさ?どこだって変わらないじゃん」

 あーもーだめだ!全然よーりょーをえないよ!!うぅ、時間がないのに。


 「だからぁ!もしかしたら翔ちゃんは、注射が嫌で逃げ出したのかもしれないんだよ!!ううん、もしかしなくても!!」

 「お、おいおいヒナタ。いくらなんでもそりゃねぇだろ。16にもなってそんな幼稚なことをするわけが…」

 「あるの!!みんなは知らないんだよ、翔ちゃんの昔を!!」


 そう、あれは小学校の頃。

 あの出来事を切欠に翔ちゃんは、クラスメイトからは『ヤバイやつ』と、先生達からは『問題児』として認定されたんだよ。


 小学校五年生、まだ晃ちゃんとも楓ちゃんとも知り合ってない、今となったらわたしと翔ちゃんしか知らないお話。



 「翔ちゃんは小さい頃に、注射が嫌で………暴れまわったことがあるんだよ」





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