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汚物は消毒だ~!!

遅筆のお詫びも兼ねまして、連続投稿致しました。

……まあ、短いですが。




    『たまには別視点もいいんじゃないかな? ~リリア~』



 『大切なものを守る為には気持ちだけじゃダメなんだ。強くなきゃダメなんだ。強くなって、大切なものを奪おうとするやつを倒さなきゃダメなんだよ』


先程のショウの言葉が何度も私の脳裏を駆け巡る。

もしこの言葉を聞いている人間があの子供達と私以外にもいたら、こう思うかもしれない。

『どこかで聞きかじった言葉を言っただけだ』『所詮子供の戯言だ』

と。

しかしそうではない。あの言葉は体験に裏付けられたもっと重い言葉だ。……恐らく、まだ語られていない、ショウの、過去。


ショウやアスカ、カエデ、アキラは自分を記憶喪失だと言っていたが、元より私やエリカ、カイル、ユーリはそんな言葉を信じてはいなかった。記憶喪失にしてはおかしすぎる言動が多すぎるし、何よりショウ達の場合は『忘れている』というよりも『知らない』というほうが近い。

先程の精霊の話でもそうだ。もし本当にただ忘れているだけならば私の話を聞き、その後の言葉としては『そういえばそうだったかもしれない』というような意味合いの言葉が適切だろう。


だが、実際にショウが放った言葉は『へぇ、そうなんだ』だった。


それはつまり、『全く知らなかった知識を初めて教わった』という事。

それはつまり、『この世界』の人間なら子供でも知っている『精霊や妖精』という常識を知らなかったという事。



それはつまり――――――――ショウ達は、嘘をついているという事。



 「…………くっ」

何故か………胸がズキリと痛む。



 「おい、どうしたリリア」

 「あ、ああ。なんでもない」

私の横を歩くショウの言葉に適当に相槌をうつ。

ショウは怪訝そうな顔をしながらも『……そう?ならいいけど』と言って再び正面を向き直した。無駄に心配させてしまった事が少々悔やまれる。

 ショウはともかく、あの三人も嘘をついているという事は、何かしらの事情があってのことだ。いずれ判る時も来るだろう。

自分にそう言い聞かせて歩き続ける。胸に走った痛みは『気のせいだ』と無理矢理誤魔化す事にした。





二人の子供を助けて村に戻った後、つまり現在私達二人は林に向かっていた。もう既にビーネを何匹か狩ってはいるものの、今から成す事が本来私達に課せられた仕事だ。

村長代理に依頼に関する詳細を訊くと、私達がなすべきことはあくまで『ビーネの討伐』であり、『巣の除去』や『女王の駆逐』はその任務から外れているようだった。

理由を尋ねると、『そこまでを依頼に加えると任務難易度が上がり、その分報奨金が加算されてしまうから』と言う旨の内容が返ってきた。私の記憶に間違いがなければ確かこの依頼の難易度は『D』。それが『C』や『B』になるだけで一体いくら報奨金が上がるのかは判らないが、それ以上の依頼になるとこのような小さな村の財力では払いきれないらしい。

私としては村人達の安全確保の為に巣も女王も駆逐しておきたいところだが、一応私の上位身分である学年長のショウはどうするのだろうか。

『金にならないんだったらそんな無駄な事はしない』と言って無視するのか。それとも私の意見と同様に、無償奉仕となるのも厭わずに巣を探すのか。

こっそりと隣の様子を伺うと、ショウは欠伸をしながらダラダラと歩いている。その姿にあの子供達助けた直前のような様子は無い。

 ……前者を想像するのは真に容易だが、後者は逆に想像すらつかないな。

少し、笑えた。




 「……ふぅ、ようやく着いたか」

目の前に広がるのは鬱蒼とした木々。森と呼べる程の大きさではないと聞いてはいたが、実際目の前で見てみるとかなりの規模だ。人が入るわけではないので入り口や出口等の舗装された場所があるはずも無く、ちらほらと目に入るのはここから出てきたモノ(・・)が作り出した獣道だけだ。土と枯葉の腐った匂いが鼻を突き、肌が受けるジメッとした感覚が生理的嫌悪感を催させる。私の里も森の奥に隠されるようにあったが、このような感覚は無かった。魔物が作り出す一種の瘴気のようなものだろうか。

 「して、これからどうするのだ?」

 「どうするのだって……入るしかないだろ」

 やはり、か。………うぅ、とてつもなく嫌だ。


私は猫の獣人であるが故に普通の人間よりもいくらか嗅覚、聴覚、触覚の三つがいい。人体であるだけいくらかマシだが、それでもこの森は気分が悪くなる。

そんな私とは違ってショウは涼しい顔をしている。欠伸をしていた時のような表情はすっかりなりを潜めていた。凶眼が森を見据える。


 ……そう言えば先程は笑えたな。

ショウが子供を助けた時の光景を思い出す。


 私には『自分が来るまでは手を出すな』と言っておきながら私が到着する前に魔術を展開し始めていたことには少し腹が立ったが、お陰で良いものを見ることができたし。

 頭に丸焦げのビーネを乗せたまま力説……ククク。“今思い出すと”とてつもなく笑える。


――そしてまた、あの言葉が脳裏をよぎる。


 『大切なものを守る為には気持ちだけじゃダメなんだ。強くなきゃダメなんだ。強くなって、大切なものを奪おうとするやつを倒さなきゃダメなんだよ』


 ………うっ。

 何故だ。

 この言葉を思い出す毎に胸が切なく痛むのは何故なんだ。しかもこの痛み、ショウ達が嘘をついていると確信した時の痛みとは別種のようだし……。

 ……そうだな、嘘の方を『心臓を針で刺されたような痛み』と表現するのならば、この言葉の時は『心臓をキュッと握り締められたような痛み』であろうか。なんと言うかその……も、もう一度経験してみたい痛みだ。今でも思い出すとそうなるが、やはりあの瞬間が一番効いた。不思議と息苦しくもなったが、何やら心地よい苦しさだったな。

 い、いや!!そ、それはあくまで未知の物に対する知的好奇心から来るものであって、別にそんなアレではない!!!

 ………そう、アレではない。アレなわけがない。アレであっていいはずがない。



――――――私は人ではなく、獣であり……同時に人ですらあり、獣ですらないのだから。



 「なーに暗い顔してんだよ」

その言葉とともに私の頭の上に何かが乗る。………ショウの手だ。

 「なんだなんだ?もしかして怖くなったのか?」

 「そんな事あるはずがないだろう!!……ええい、手をどかせ!!」

 ……本当にどかしてしまった。確かに私から言った事だがもう少し位………なんだその意地の悪い笑みは!!怖くないのは本当だぞ!!お前は勘違いしている!!

 「まあ何でもいいや。リリアが怖がってても入んなきゃいけないんだし」

 「だから違うと言っているだろう!」

 「あはは!そうだな。リリアは強い子だから怖いものなんてないもんなー」

そう言ってショウは右手を森の方向に突き出す。

 くっ!子供(アスカ)扱いしよって……いつか懲らしめてやる!


 「―――――よっと」

バサバサと、メキメキと、ただの獣道だったものが人間二人位なら簡単に歩けるほどに広がっていく。どうやら『草』で木々を退かしているようだ。

 「そうだ、リリアって『雷』使えたよな?」

 「ああ。何か使うのか?」

 「この森暗いだろ?明かりが無いと進めないじゃんか。だからほら、こんな感じで」

そう言って空いた左の掌に拳大の雷の球を作り出す。なるほど、確かに明るい。それに『火』と違ってこれならばそう簡単には草木が燃えることもないだろう。

 「……ってちょっと待て。私がそれを創るという事は、私が前を歩くという事か!?」

 「そりゃそうだよ。だって俺怖いし。お前は怖くないんだろ?」


  判っていた。判っていたが再確認した。ショウ、お前は意地の悪いやつだ……っ!!。


 いや待て、ここで感情に任せてしまっては相手の思う壺だ。冷静にならなければ。

 「……確かに怖くはないが。普通こういった時は男が先頭を行くものではないのか?」

 「ほう、生まれてきてから9割以上の年月を猫で過ごしてきたお前が『普通』などと言うとはな。それは一体何処の世界の『普通』なのかご教授願いたい」

 「そんなものは簡単に説明できよう。確かに私はこの姿になって月日は浅いが、それでも16年間生きてきたのだ。猫の世界でも人間の世界でも『男は女を守るもの』と言う精神が皆の心に根付いている事くらい知っている」

 「おいおい、それはちょっと前時代的過ぎやしないか?それにリリア達女性側としては、そう言った風習を嫌っているからこそ男女平等だのなんだの言ってるし、現にお前も女の身でありながら魔術を習ってるんじゃないのか?」

 「た、確かにそうかもしれないが、それはそれ、これはこれだ。仮にこの場にアスカ達が居たとして、私と同じことを言うと思うぞ」

 「へぇ~、リリアの言う『皆』とか『普通』とかって結構少ない人数なんだな。てっきり俺は少なくともこの国の人全員に意見を聞いたのかと思ったよ。だって『みんな』ってのは『全員』ってことだし、『普通』ってのは大体1000人のうち990人位が選ぶ選択肢のことを指すしさ。つっても確かリリアって物心ついた時から一人だったんだろ?ってことはお前の言うみんなってのはあいつらだけか。……友達少ないんだな、寂しいヤツ。クックック」


――――――――グサッ


 心に、キた。頭にも、キた。


 「……フッ、確かにその通りだ。恥ずかしながら私には友人が少ないだろう。だがショウ、逆に尋ねるが、生まれてきてから“ずっと”人間だったお前には何人くらい親しい友人が居るのだ?……いや、訊くまでもなかったな。精々両手の指で数えられる程だろう」

 「う……!!!」

 「ああ、だが目が合っただけで泣き出したり逃げ出したり謝ったりしてきた者は多かったのだろうな。恐らく全身の指を使っても数え切れないはずだ」

 「うぐ……!!!」

 「そういえばショウには同性の友人がカイルとユーリの二人しか居なかったな。ああ、なんという事だ。人体になって一月程も経っていない私よりも同性の友人が少ないとは」

 「は、はん!何を言うかと思えばそんなことか!よく言うよ、俺が居なかったらあいつらにも会えなかったくせに!それどころか人にも成れずに今も校舎裏でニャーニャー言ってただろうさ!!」


――――――――グサッ


 「ど、どんな過程を辿っていようが過去は過去!現在に勝るものではない!!現時点においてショウの友人の少なさには呆れを通り越して関心すらするぞ!!どうやったらそれほどまでに初対面の相手に威圧感を与える事が出来るのか教えて欲しいくらいだ!!」

 「な、なんだと!!俺だって好きでこんな顔してるんじゃないやい!!それに知らないのか!?そんな俺と付き合ってるお前ら全員怖がられてるんだぞ!!俺達が飯を食ってる時の女子の視線はそういうことさ!!凄いヒソヒソ話してるしな!!」

 

 …………え?


 「シ、ショウ……本気で言っているのか?」

 「……ああ?なんだよいきなり静かになっちゃって。どういうことだ」

 ま、まさかここまで鈍感だったとは……。気付いてないのか、あの女子達の会話の内容に。




~~~~~



 『ああっ!執行部の人達が居るよ!』

 『えっウソ!!あ、ユーリちゃんだ!!』

 『カイル様もいるぅ~!』

 『…うん、クロノ君も』

 『ホント……でもやっぱり三人とも……』

 『『『カッコイイなぁ……』』』

 『一年生なのに、もう魔術執行部に入れちゃうんだもんね……』

 『うん。それに見た目もいいし……』

 『ずるいなぁ執行部の人達。いっつもあの三人と一緒なんだもん』

 『私ももうちょっと魔力さえあればあの輪に入れたのにぃ…。一緒にご飯食べられたのにぃ…』



~~~~~


 いや、こんな会話は知らなくていいだろう。むしろ知らぬべきだ。


 「因みに、ショウ達三人はその視線の事をどう思っているのだ?」

 「三人…カイルとユーリのことか。んまぁアレだな、やっぱりクラス分け試験の時にちょっとやりすぎちゃったかなって。カイルなんかは血を流しまくってたし、俺なんかアイツをボロボロにした張本人だし、女の子を殴って気絶すらさせちゃったし。ホント、多少なりともユーリが緩和剤になってくれて助かったよ。カイルは『怖がられてこその魔術執行部だ』って、ユーリも『これが僕の決めた道だから』って言ってるけど」

 ……なるほど。鈍感…というよりバカなのは目の前の男だけではないのだな。

 「おい、どうした無駄にでかい溜息なんかついて」

 「……なんでもない。私が先頭を歩く」

 「お、マジか。ラッキー!」

『らっきぃ』などとわけのわからぬことを言うショウに私は突っ込めなかった。

 はぁぁぁ…………もう疲れた。













 「後ろ二匹!振り向きざま切り払え!!」

 「クッ!!《烈風》!!」

ショウの指示通りに刀を振って魔術を展開。近く2匹とその後方にも居た蟲が紫色の体液を撒き散らせながらバラバラになる。

 「ヤバイ!!左右から攻撃が来る!!」

 「チッ!!《氷影》!!」

ショウの指示通りに刀を振って魔術を展開。氷柱が地面から生え、敵の攻撃を防ぐ。

 「上3匹右2匹正面5匹!!自分を中心に広範囲攻撃!!」

 「《華炎》!!!」

ショウの指示通りに刀を振って魔術を展開。『風』で私の周囲に壁を創ると同時に、刀を地面に突き刺し、そこから周囲に八枚の花びらが広がって炎上する。

 「ハァ……ハァ……おいショウ!!」

 「なんだ?まだまだ敵はいっぱい…」

 「少しは手伝え!!!」

私は刀を振るいながらそう叫んだ。後方、『風』と『水』で防壁を創り、そこから一歩も動かず、一度も攻撃していないあの男に。



時は少し遡る。

 「……つまり、どういうことだ?」

雷の球を右手に創り、暗い道を進みながら振り向かずに後ろに問い掛けた。正面の草木は後ろの男の『草』によって常時掻き分けられ続けていく。

 「だぁかぁらぁ、何度も言ってるだろうが!」

どうやらショウは私の理解力が無いとでも言いたげな口調だ。しかし真実は私が暗にこの作戦に賛同したくないだけなのだが。

 「敵が出てきたらまずリリアが突っ込むんだよ。んで俺が後方でその支援だってば」

 「……ほう。その理由は?」

 「……それももう何度も説明したと思うんだけど」

 む、そうだったか。いやはや、先頭を歩くと言うのは存外に集中力を使う作業だなハハハ。

 「ったく。……いいか?戦闘を優位に進めるに当たって必要不可欠なものは二つ、『行動』と『思考』だ。基本的にはどっちも自分でやるもんだけどさ、今回は別にそんな括りはないだろ?だから分担しようってわけさ」

 まあ、理には叶っている。叶ってはいるが……釈然としないな。

だがここでそれを言っても仕方の無い事だ。ここに入る前と同じような会話が繰り広げられるだろう。想像に難くない。


 「……構わないが、それで支援と言うのは一体何をするのだ?」

 「え?そりゃまあアレだろ。『こっちに敵がいる~』とか、『危ないよ~』とかかな。あ、あとお前がやった魔術の後始末か。こんなところで『火』なんて使ったら木が燃えちゃって危ないだろ?だから消火したりするんだよ」

 なんなのだろうか。言っている事はまともなのだが、この胸のモヤモヤとした物は一体なんなのだろうか。



腰の高さまである雑草が掻き分けられると、少しばかり開けた場所に出た。近くの草は無造作に“何者かに”踏み倒され、中心にある大木は見上げてもその頂点が見えない。恐らく木の直径は2~3mほどはあるだろう。頭一つ分上のところに縦に長くうろがあり、それがどこか不気味さを感じさせていた。

 「おぉ~……すげーでかいなぁ~。こんなの初めて見たよ」

 「そうか?私の里にはこの程度の木はゴロゴロとあったが」

 「え?マジで?里の“外”とかじゃなくて?」

 「いや、里の“中”だ。……古い物は空洞になっていてな、その中で獣体の子供達がよく遊んでいた。危険だからと大人達は言ってはいたもののまるで効果が無く、よく親に叱られているのを見たことがある」

 つい数週間前までは私も里にいたはずなのだが……なんだか懐かしいな。

 「ふーん。人間も獣人も子供ってのは変わらないんだな。リリアもそういう経験あるの?」

 「いや、ないな」

 「……ボソッ(やっぱり寂しいヤツ)」

 なんだと!?しっかり聞こえたぞ!!

 「まあいい。そう言うことならオジサンが君に思い出を作ってあげようじゃないか」

 「は?」

そう言うとショウはおもむろに木に近づいていく。

 「お、おい。一体何をする気だ」

 「この木も結構古そうだからさ、案外中身がからっぽだったりしないかなぁ~って。もしそうだったら休憩がてらちょっと中に入ってみようよ。ほら、こんだけでかけりゃ俺も入れそうだし」

会話を続けつつも木に近づいたショウは僅かに浮き、洞に頭を突っ込んで上を覗いている。

 「空洞ではあるみたいだけど暗くて中が全然見えんぞ。よし、ここは一つ魔術で」

 「なっ!おい馬鹿やめろ!さっきからそこには嫌な雰囲気がす…」

私の言葉が終わる前にショウは右手に火の球を作り出して洞に突っ込み、

 「せいっ」

飛ばしたようだ。そして一瞬の後、

 「………うぅぅぇぇぇええええええ!!!!!!」

大きく叫んでコチラに全力疾走。



――――――その後ろには数えるのも馬鹿らしくなるほどの大量の蜂、蛾、蜘蛛、百足……その他もろもろの蟲がゾロゾロと現れた。しかもすべて異常に大きい。



 「キモッ!!ヤバイ、超キモい!!!リリア敵が居るよ!!!君が待ち望んでいた敵がこんなに沢山来たよ!!」

 「いっ、いやだ!!こんなものとは戦いたくない!!待ち望んでもいない!!」

 ええい、私の後ろに隠れるな!!服にしがみ付くな!!

 「大体『火』を使っておいてどうしてあんなに沢山蟲が湧いてくるのだ!!」

 「明かりのつもりだったから威力が全然無かったんだよ!!」

そういえばショウやアスカ達の魔術発動の方法が私達と異なる事を思い出した。なるほど、『想像しただけで魔術が発動する』というのはこういった弊害を生むらしい。威力を考えなければその分威力も下がる、と。


ギャーギャーと喚いている間にも蟲達は住処を荒らした敵を囲むべく、貪欲に私達に近づいてくる。よく見ると全て魔物だ。ただ単純に巨大化した蟲よりも厄介だ。

 ちっ……仕方ない。

覚悟を決めて右手に氷刀を作り出し、目の前に《烈風》を発動させる。目標などつけなくとも攻撃すれば必ずどこかの蟲に当たった。

 「よーし、さあ行けリリア!!この糞忌々しい蟲共に、お前の前に出てきたことを後悔させてやれ!!」

 「遥か後方で何を馬鹿なことを言っているのだ!!いいから早くショウも……」

 「ああぁぁーーー!!後ろ後ろ!!!」

 「なっクソッ!!!」




そして、戦闘開始時刻に至る。







 「ハァ……ハァ……ハァ……」

数十分が経過し、なんとか目に見える範囲の蟲は全て切り伏せた。刀に寄りかかって呼吸を整える。

 「ふぃ~、やっとこさ全部駆除したな。いやはや、あんなに沢山の蟲を一度に見たのは生まれて初めてだ」

 「ハァ……ハァ……ハァ……」

後ろからゆっくりとショウが近づいてくる。『あ~疲れた』などと戯けたこともぬかしている。

 「よし、じゃあ次に進もう。あんなキモい木があるところじゃおちおち休憩も出来ないし」

 「ハァ……ハァ……ハァ…………フゥ」


呼吸が、整った。


 「おいリリア行くぞ……っておわぁっっ!!!」

 チッッ!!!!外したか!!!!

 「な、な、な、何すんだよお前!!もうちょっとで俺の顔に刀傷が出来るとこだった……ってやめろ!!刀を振り回すな!!氷柱も飛ばすな!!」

 「ええい!!この馬鹿者が!!一度死ねっ!!」

 「ちょっ、おまっ、止めて止めて!!刀に付いた蟲の体液が飛んで……ああぁーーー!!!マントに付いたぁぁああーーーー!!!」

 「そんなこと位で一々喚くなぁ!!私なんて……私なんてぇ!!!」

 マントどころの話ではなく服の至る所に………あああああぁぁぁぁ!!!!!

 「うわぁぁあああ!!誰か助けてくれぇぇぇーーー!!!」

 「この近くに人が居るものか!!観念して私に切られろ!!一太刀で構わないから!!」

 「死ぬよね!?普通に考えてそれ死ぬよね!?」

 「一度死ねと言っただろうが!!!!」

 「馬鹿野郎!!俺は一度死んだら二度と生き返れない普通の人間なんだ!!大体なんでそんなに怒ってるんだよ!!作戦通りだろうが!!!」

 「なぁぁにが作戦だ!!!支援など全くしていなかったではないか!!!ただ安全な場所で私に指示していただけだ!!!」

 「それが俺流の支援なんだよ!!!」

 「もし常時そうであったのならばまだ良い!!だがショウ!!!私は聴いていたぞ!!」

 「な、何を、かなぁ~」

 「戦いが終盤になっていくに連れて適当になるお前の指示をだ!!『その辺いっぱいに攻撃』とか『色んなトコから敵が来るよ』とか!!!あんなものが支援なものかぁ!!!」

 「や、やめろ!!お前本気で俺を殺す気か!!!何だその刀に渦巻く『火』と『雷』は!!!」

 「うるさい黙れそして死ねぇぇ!!!!!!!」

 「ぎぃやぁぁぁああーーーーー!!!!」

振られる刀。

避けるショウ。

近くの木を切り倒す斬撃。

切り倒される木。

それに気付かずショウの方を向く私。

 「って危ない!!!」

 「うわっ!!」

飛び掛ってくるショウ。

押し倒される私。

私が居た場所に倒れる木。

何が起こったのかを悟る私。

 「ってて……大丈夫か?」

目と鼻の先に居るショウ。


―――――――キュッと、握り締められる心臓。


 「うげっ!!お前の服汚っっ!!」


―――――――――――――――――ムカ


 「離れろ!!今すぐ離れるんだ!!体液が俺に付く!!」


―――――――――――――――――プチ


 「誰が離すか!!!お前の服が汚くなるまでこうしていてやる!!た、た、他意はないぞ!!!」

 「やめろっつってんだよこのネコが!!!これじゃわざわざ戦わなかった意味が………あ゛」


動きが止まるショウ。


 「……おい、今なんて言った?」

 「………いや、何も言ってないと思いますよ?」

 「“わざわざ”、と言ったな?」

 「………いや、気のせいだと思いますよ?」

 「そうかなるほど……。ショウには最初から判っていたのだな?蟲と戦闘になれば燃やし尽くしでもしない限り体液が飛び散る。だがそうなると周囲の被害も多大になることから『火』は使えない。ならばそれを避けるためにはヤツラと戦わない事が一番だ、と」

 「………いや、それはリリアさんの考えすぎだと思いますよ?」

 「……フフ」

 「リ、リリアさん?」

 「フフフ……ハッハッハ」

 「あ、あはは…」
















 「絶っっっっっっっっっっ対に離さぬからな!!!!!!!お前も道連れだ!!!!!!!」

 「いやだぁぁぁぁぁあああーーーーーーーー!!!!!!!!」









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