はいはい、簡単簡単
今回は短めになってしまいました。
因みに色々とあっさりなのは仕様です。次話から長くなりそうな気がしたので。
くそう!何が学年長だ!意味わからん物を俺に押し付けやがって。ふざけんなよあのマッチョ!
「あぁ楓、もうちょっと高く。足が地面に当たりそうだ」
「あ、判りました」
大体なんでコイツラは俺なんかを選びやがったんだ。カイルは多分面白半分なんだろうけど他のやつらの理由は見当もつかん。
「ちょっと晃、少し暑いから『風』流して」
「はいはい」
『こっちの世界組』ももう俺とは一週間以上一緒に過ごしてるんだから俺がどんな人間か判ってんだろ?つまり俺が上に立つような人間じゃないって事がさぁ。『前の世界』の三人は当然よぉ。
「なぁあすか、喉が渇いた」
「うん、『水』よ!あ、コップも『召喚』して……はいどうぞ!」
しっかりと俺を選んでくれたのはユーリだけだろうな。アイツは他のヤツラと違っていい奴だし、もしかしたら本気で俺が学年長の器だと思っているのかもしれん。
「リリア、ぬるいから氷頂戴」
「ああ、わかった」
でもなぁ、俺としては言われた事をこなせばいいだけの部活にしたかったんだけどなぁ。これじゃ俺が色々と決めなきゃいけなくなりそうじゃないか。
「おーいエリカ、太陽が眩しい」
「仕方ないですわね。『光』よ」
あーつっても所詮俺達の学年の責任者ってだけならそんなに面倒でもないのか?あのマッチョも『連絡事項があったら俺に言う』以外にはなんも言ってなかったしな。
「ユーリユーリ、あとどんぐらいで着く?」
「うん、もうそろそろだよ」
そうだそうだ、ネガティブになっても仕方ないからもっとプラス思考で行こう。もしかしたら学年長だからみんなよりも給料が増えるかもしれないし!役員報酬みたいな感じでさ!
「よっしゃ!しょうがないけど学年長なんて物でも頑張ってみるか!」
「何がしょうがないだ!!現在進行形でその恩恵を受けまくってるじゃねぇか!!」
あ?なんだよカイル…五月蝿いやつだな。
「別にいいだろう。これくらいの特権があったってさ」
「だからって何で至れり尽せりなんだよ!!」
それはお前アレだよ、お前以外はみんな罪悪感があるからだろ。俺を無理矢理学年長にしちゃったことへの。
「なんでお前らも断らねぇんだよ!!それでいいのか!?」
「え?そ、そうですよね!ちゃんと断らないとですよね!」
「……ハッ!!ワタクシったら何をショウの言いなりになって…」
「な、何をやっているのだ私は……」
あぁ……俺の身体が着陸しちゃった上にまた太陽が眩しくなっていく……。しかも風も無くなったし水もおかわりが……。
「バカイルてめえこの蛆虫野郎!!なんてことをしてくれたんだ!!……ほら!なんかユーリ以外が脱力して溜息をつきつつ俯いてるじゃないか!!」
ほぅらね?俺は何も考えてなかったわけじゃないんだよ。あいつらの罪悪感を少しでも減らせるようにと思ってのことだったんだよ。別に俺がただ楽をしたかっただけじゃないのさ!!本当だ!!
「着いたよクロノ君。あれが魔法植物研究施設」
「ん……あれか」
到着したんならこのアホイケメンの相手をしている暇は無い。気を取り直してしっかりとその施設を見る。
ほう……見た目は熱帯植物園みたいな感じだな。施設全体の形は円か。
ただ普通と違う部分はここも馬鹿みたいに敷地面積が広いところだ。一体東京ドームがいくつ入るんだろう。と、言うよりそもそも東京ドームってどんくらいの面積なんだろう。
「やぁ、君達が魔術執行部から来た人かい?」
俺がぼんやりと施設を見ているとすぐ近くから聞いたことのない声。俺はそちらを振り向く。
視線の先に居たのは一人の男と一人の女。どちらもどことなく優しそうな雰囲気だ。男のほうの髪色は深緑、女のほうは黄緑である。
くそう…羨ましい。俺だって目つきが何とかなれば少しくらいモテるかもしれないのに…。
という心情をおくびにも出さずに質問してみる俺である。
「あなた達はどなた?」
「あぁ、ボクは君達に今回の依頼をした美化委員の委員長さ。こっちは副委員長」
「初めまして、こんにちは」
なるほど……美化委員になるような人は見た目からして違うんだな。それに初対面なのに俺に話し掛けてくれている。この人達は見た目だけじゃなく中身も絶対にいい人だ。
「ところで、君が責任者かな?」
「まぁ、一応そうです」
「そうか。この依頼については知っているね?」
「とりあえず概要くらいは」
マッチョには植物を刈り取れとしか言われてないけど。
「改めて話をしておこう。今回ボク達が君達に依頼したのは『ある植物の伐採』。……対象は、その入り口から入ってすぐに目にとまる植物だ。今は強制導眠剤を投与してあるから大人しくしてるけど、何かしらの衝撃を与えるとすぐに起きてしまうから気をつけてくれ」
そう言って委員長は植物園の方を指差す。その先には言ったとおりに入り口があった。
……が、何故かその入り口は『魔法植物研究施設』と言うどちらかと言えばまだ平和な感じがするネーミングにもかかわらず、場違い感を醸し出したとても頑丈そうな石壁で、更には南京錠が5~6個ついていることに驚愕の念を禁じ得ない。
「あぁ、あれは施設の人間がこっそり入り込まないようにする為の処置さ。奴らは『研究の為なら怪我くらいどうってことない!』なんて言って進入しようとするからね。もっとも、連中の魔術力程度じゃ怪我だけでなんて出てこれないって言うのに」
そうか、あんまり魔術がうまくないからこそ、この施設の人間は学者系の方向に進んだわけか。
「んじゃまぁとりあえず俺達はその草をどうにかすれば良いんですね?」
「……あぁ。まあそうなんだけど…」
ん?なんだ?
「実は今日になって施設の人間が条件をつけてきたんだ。それもやっかいな、ね」
「はぁ?なんですかそれ」
「『周囲の植物に全く損害を与えない事』。……連中はこんな状況下であってもあの植物が惜しいのさ。だからこんな条件を吹っかけてきた。『それが出来なきゃ伐採しないでもらおう』なんて偉そうに言って、ね」
なるほど……そう言うことか。
確かにそれは難しいな。まだ実物を見てないからなんともいえないが、対象が大きければ大きいほど使う魔術は大規模になる。つまり、周囲への影響も大きくなる。
――――けどまぁ、
「判りました。何とかしましょう」
何とかなるだろ。
「え?そんなに簡単に行くものなのかい?」
「はい。余裕ですね」
だって、
「今回の依頼はうちの参謀が参加しますから。なんの問題もありません」
そう言って俺は少し歩いて、
「いけるよな?」
楓の肩に手をポンと置いた。
「はいっ!」
うん、いい返事だ。
「よし、じゃあ早速行って来ますよ。即行戻ってくるんでちょっとの間その辺で時間を潰しててください」
「いや、出来ればボク達も研究施設に入ろうと思ってるんだよ」
え?何で?
「魔術執行部に一年生で入れるほどの実力を持った君達の魔術を見ておきたいんだ。凄い魔術師を見ているだけでもボク達にとっては勉強になるからさ。実はこの前の大会はボクも副委員長も用事があって見ることが出来なくてね。もちろん邪魔なんてしない。それに君達が許してくれればだけど」
なるほどなるほど、なんという向上心だ。俺には無いものだね。
「ええ、全然構いませんよ。お二人には怪我なんて絶対に無いようにそこの金髪二人と銀髪が守りますから」
「ショウはやらねぇのか!?」「ショウはやらないのか!?」「ショウはやらないんですの!?」
「学年長命令」
「「「クッ………」」」
うはぁ……他人に命令できるの超気持ちいいわ。学年長になってよかった!
「……え?それなら依頼に当たるのはあなたとあの四人だけなんですか?」
今まで会話に入ってなかった副委員長がそう問い掛けてきた。その表情はあたかも予想外のことを突きつけられたかのようだ。
「いや、俺も今回なにもやりませんよ。あの黒二人と茶色と黄色だけです」
「そ、それだけで大丈夫なのかい?あの植物はかなり凶暴なんだよ?」
なんだなんだ……凄い心配そうだな。
「だって、その植物は今寝てるんですよね?」
「そうだけど……少しでも衝撃を与えてしまえばすぐにまた活動を始めるんだ」
「今動いてなきゃそれで良いんですよ。多分一瞬ですから」
最大のチャンスを無駄にするほどうちの参謀は甘くない。
「……そんなこと出来るのかい?」
「そりゃそうですよ。誰だって植物の一つや二つを伐採する方法なんて思いつくでしょ?」
「ま、まぁ作戦だけならいくつか……でもそれを実行するには結局相当な魔力が必要で……」
「いいからいいから。俺達もあいつらがやばくなったら加勢するんで心配ご無用ですよ。さぁ、何時までも話してないで行きましょう」
俺は今だに不安感を醸し出す二人に背を向けて入り口へと向かう。視界の隅では既に楓を中心として円になって作戦会議が始まっており、俺が歩き始めると同時にそれも終わったようだ。俺達10人はゾロゾロと研究施設に入っていった。
「げぇ……確かにでけぇな」
カイルの呟く声に誰も答えないものの、俺達8人の心境はみんな同じだった。
要するに今目の前にある――――いや、いる(・・)植物はマジで大きかった。
地面から何本もの蔓がニョキニョキと生えており、その全てにバラのようにトゲがある。人間なんて簡単に貫通してしまいそうなトゲだ。
一枚一枚の葉も5人用の傘が作れそうなほど巨大で、チラホラとある蕾なんか俺の頭以上の大きさがある。
多々ある蔓の中心には他の蔓に守られるようにして一際太い物があり、その先に赤地に白の水玉模様の頭部と思しき球体、そして何故かトゲ以上に鋭い牙を蓄えた馬鹿みたいにでかい口があった。そして何故かたらこ唇だ。
今は蛇のようにとぐろを巻いて微動だにしていないからこそ判りにくいものの、恐らく全長10mくらいはあるんじゃないだろうか。もっともこの施設の天井はそれよりも高いから突き破られる事は無いだろうけど。
―――――――ていうかこいつ……どっかで見たことがあるような……。
「……どうだい?これでボク達が心配していた理由がわかったろう?」
俺の曇った表情を別の理由と勘違いしたのか、委員長が俺にそう言った。
「それに言い忘れていたけど、あの蔓は簡単に切れるくせに何度切ってもすぐに再生してしまうんだ。そしてあの気味の悪い顔のような部分をどうにかしなきゃいけないのに、そこは常に蔓に守られている。ボク達には伐採できない最大の理由がそれさ」
ふぅん、面倒な草だな
「だってさ楓、いける?」
「ええ、もういつでもオッケーです!」
そうか、じゃあさっさとやってもらおう。
とりあえず美化委員のお二人をカイル達の背後にやり、俺は楓に目で『やっちゃって』と合図をする。
するとあすか、晃、ユーリは楓の指示で植物を囲むように移動した。四人を点とした正方形の中に植物を入れた形だ。あすかと楓は地面に、晃とユーリは宙に浮いて集中し始めた。
「ほ、本当に大丈夫なのかい?」
「大丈夫ですって。……あ、ほら始まりますよ!」
言われて委員長は渋々と植物のほうに目を向ける。
―――――――魔術が発動する。
「えいっ!!」
あすかの風刃が植物の根元を切断し、
「はっ!!」
楓が『重力』で切られた植物を宙に浮かし、
―――パチン
晃がそれを一瞬で焼却、
「『風』よ……集え!!」
ユーリが灰を集め、空中に留めた。
「どうです?たったの8行で依頼を達成しましたよ?」
「………すごい」
美化委員の二人は呆然としているようだった。
それもそうだろう、自分があんなに不安がってた相手を言葉どおりに一瞬で消してしまったのだから。結局あの植物は寝たまま永眠したし。
それにしても楓……やるなあいつ。俺だったら灰なんてそのままほったらかしにしちゃうよ。『他の植物に危害を加えないように』って言うのをキッチリ守ったんだな。
四人はそのまま根っこも引きずり出してしっかりと燃やし、やっぱりちゃんと灰も集めた。そしてその灰はあすかが『召喚』した袋に詰めてゴミ捨て場っぽいところにドサッと置かれる。どうやらあすかは俺が『とりあえず手当たり次第色んな物に「召喚契約」しとけ』って言ったのを実践していたらしい。
そしてそれが終わるとピューッと俺達の方に戻ってくる。一番近くにいたあすかが最初か。
「ただいま翔ちゃん!!見た見たわたしの『風』!!やっぱり今回のMVPはわたしだよね!?わたしがあの植物を切れてなかったらあの作戦もダメになっちゃってたし!!ほめてほめて!」
「え、うん。まあそういえなくも…」
「何を言ってるんですかあすかさん!!その作戦を立てたのは私ですし、なにより私が浮かせなかったらダメだったんですからMVPは私ですっ!ねっ!?翔さん!誉めてください!」
「ま、まあ確かにそうかも…」
「違うよ楓。ボクがあの植物を燃やし切れてなかったらまた再生してたんだよ?つまり一番偉いのはボクだよ。ね、翔?誉められるのはボクだよね?」
「あー…言われてみればそんな気も…」
「ね、ねぇクロノ君。でも僕が灰を集めてなかったら施設の人に怒られちゃってたもんね?」
「あ、ああ……それも一理あるかも……」
「「「翔 (さん)(ちゃん)!!結局誰がMVP!?」」」
あーーーもーーーなんなんだコイツラは!!初任務だからってはしゃぎ過ぎ!!
「んじゃそう言うことでお先に失礼します!さいならっ!」
こういう時は逃げるに限る!
美化委員に別れを告げ後ろからの騒ぎ声を背中に受けつつ、あっさりと終わった初任務の事を報告すべく部室に向かって俺は飛んだ。
「ただいまぁぁーー」
なんやかんやありながらも初任務を終わらせて俺達は部室へと帰還した。俺は途中で楓の『重力』に捕まり、とりあえずさっきのことは『みんなが頑張ったのならみんながMVPなのです』と言って事なきを得た。ユーリ以外は不満そうにしてたけど。
俺が元気良く部室の扉を開けると、放課後すぐの時とは違ってマッチョ以外にもちゃんとロンゲとメガネがそこには居た。
「や、やぁ。遅かったね」
「まあちょっと色々ありまして。……どうかしたんですか?」
なんだか先輩達の様子が変だ。メガネの先輩は多分だけど。
「いや、意外にもお前らが強かったんでな、すこし驚いてただけだ」
そう言ったのはマッチョだけど、『強かった』ってのはどういうこと?
「実は僕達三人は施設に先回りしてたんだ。そこでアキヅキさん達の魔術を改めて見させてもらってね……今三人で『予想以上だ』って話していたところなんだよ」
ふーん、だからさっきはここにいなかったのか。多分部長も近道かなんかを使ったんだろう。
「それよりも、なんだかホウジョウさんとヒナタさんは大会の時よりも魔術の威力が強かったんじゃない?」
「それはまぁ…そうですね。やっぱり人相手だと無意識のうちに力を制限しちゃいますよ」
晃が苦笑い気味に答え、あすかもウンウンと頷いている。
「よっしゃ!!なんだかあっさりし過ぎてたが、とりあえずお前達四人も合格だ。これからも執行部員として頑張ってくれ。―――――じゃあ次、クロノ、ドラゴニス、グラウカッツェ、ノルトライン」
あ?
「今度はお前らの番だ。ほれ」
そう言って部長は事務机からきったねえ紙を二枚取り出して俺達に渡す。つっても紙自体が汚れているわけではなく、このマッチョがクシャクシャにしてしまっておいたからだった。
てかなんだこれ、それぞれ蜂と狼の絵がカラーで描いてあるけど……。
「お前達には正式に国から依頼された任務をこなして貰う」
「マジスか!!!!!!!!」
ってことはちゃんと給料が入るって事じゃんかィィイイヤッホオォォオオオオイイ!!!!!
「但し今回の依頼料は全て部費に当てる。お前らの分は次からだ」
「それじゃ、俺達はこれで失礼しまーす」
「コラ待てぇ!!そんなことは許されねぇぞ!!」
ちっ……金が入らないんだったら意味無いじゃないか……。
「ったく……いいか、とりあえず今回俺が取ってきた任務は二つだ。それをクロノ達4人で分けて達成しろ。2-2で分けてもいいし、自信がある奴が居れば1-3で分けてもいい。だが一つの依頼に4人で当たる事はダメだ。余計に時間がかかるからな。その辺りはクロノ、お前が決めろ」
げ……めんどくせ。グーパーとかで適当に決めちゃってもいいかな。
「期限は……そうだな、今日がアフロディテだから、クロノスかヘリオスまでには終わらせて、セレネには報告してくれ」
……んん?それ何時の事だっけ。全然判らんぞ。
「……コソッ(アフロディテは金曜日の事です)」
俺が全くわかってなかったことを悟ってくれた楓がこっそりと小声で教えてくれた。流石楓、こんな面倒なものをよく覚えているな。
えっとつまり……今日が金曜だから、土日で終わらせて月曜に報告しろってことか。最初からそう言えっての!!判りづらい!!
「それじゃあ俺達は校内の見回りに行ってくるからお前達は取り合えず話し合っとけ。クロノ、くれぐれも適当に分けるなよ。後で理由を聞くからな」
ぐっ……!!ってことは適当な理由をつけて『カイルと俺達3人』で分けることが出来ないじゃないか!!折角の『両手に花』という男の夢を……。
そういい残して先輩方が出て行くと一年生8人だけがこの教室に残る。そして俺の手元には2枚の汚い紙、どうやら依頼の詳細がこれに書いてあるらしい。
そうとなればこのままダラダラしててもしょうがないし、早速言われたとおりに班員を分ける事にしようと思う。俺は部長が座っていた椅子にに腰掛けてみんなに近くに来るように言った。エリカ、楓、ユーリは椅子ごと持ってきて近くに座りなおし、あすか、晃、カイルは長机の上に腰掛け、リリアは腕を組んで俺の後ろの壁に寄りかかって立った。
「んじゃまあ取り合えず依頼の確認からな。えっと……なになにぃ?」
最初に右手に持っていた、やたら目と羽と針が…っていうか全体的に普通よりもでかくてキモい蜂の絵がいっぱい描かれた紙に目を通す。
「『【ビーネ】の群れの討伐』って書いてあるけど……ビーネって何だ?この絵の蜂のこと?」
「なんだお前知らねぇのか。【ビーネ】ってのは魔物の一種だ。普通の蜂とは違って何らかの要因で巨大化したものが特別に【ビーネ】って呼ばれてんだよ」
へぇ……魔物、ね。………そういやさっきの植物も魔物の範疇に入るのかな。まあいいや、次行こう次。
「えっと、こっちは『【天狼】の討伐』か。………どっちがそれ?」
左手に持った紙には灰色の毛並みと焦げ茶色の毛並みの狼二匹が描かれている。
「灰色の方が【天狼】、そして茶色が濃い方を【地狼】と呼ぶ。戦闘能力は天狼のほうが圧倒的に高いが奴らは繁殖能力が低い。よって基本的には天狼数体に地狼数十体の群れで行動するらしいな。どちらも魔物だ」
ふぅん……ネコのクセによく狼の事なんて知ってるなぁ。それにしても、狼なのに群れで行動するのか。今回はその強い【天狼】ってのを倒して欲しいって事なんだな。
もう一度このクシャクシャの紙二枚をよく見ると、どちらの紙にも右下に『D』と書かれている事に気付いた。恐らくこの依頼の難易度のことだろう。基準が良く判らないからなんとも言えないが、『D』ってことはどちらも大した依頼じゃないのかもしれない。初陣なんだし、これくらいが丁度いいのかもしれない。
「よし、じゃあ分けるとするか。一応今回は俺達の初任務だし、部長にも真面目に分けるように言われちゃったから真剣に考えよう」
「やはり2-2で分けますの?」
「まあそれが一番妥当だからね」
今回は泣く泣くハーレムの夢を諦める。きっとチャンスはまたあるさ。
………そう考えないとやってられん。
気を取り直して話を本筋に戻す事にする。
「じゃあまずはお前らも各々自分がどっちの依頼に適してるかを考えて―――――」
「「「ショウッ!」」」
おわっっ!!な、なんだ!?
「なぁなぁ、オレと組もうぜ!んで一緒に『相手を油断させる隙の見せかた』について語ろうぜ!」
「あ、あなたがどうしてもワタクシと組みたいと言うのならか、考えてあげなくても…」
「わ、私としてはショウと組みたいと言うか…べ、別に他意は無いのだぞ!」
な、なんだこいつらは……俺が組み分けを決めちゃっていいという事か?
ふむ………。
そう考えた俺は手元の紙に視線を落とす。
「………じゃあ俺が決めちゃっていいんだな?」
もう一度確認すると三人ともコクンと肯定する。それを確認した俺は俺達四人の戦法、討伐対象の大体の行動などを想像したりしつつ思考を巡らせる。
「よし、じゃあ発表します。この【ビーネ】とか言う蜂は俺とリリアで、【天狼】の方はカイルとエリカが当たってくれ」
「「「「「なんで!!!」」」」」
え?え?どうして俺が怒られてんの?しかも「」が多くない?
「何故あなたとリリアなんですのよ!!」
「そうだよそうだよ!!リリアちゃんと二人きりでお出かけなんて!!」
「そんなのずるいじゃん!!」
「それに不健全ですっ!!」
「なんでオレがエリカなんかと組まなきゃいけねぇんだよ!!理由を言え理由を!!」
行き成りの展開にキョロキョロするいつも通りのユーリと、何が嬉しかったのかガッツポーズを取るリリアを除く5人が俺に詰問を始める。
ええい!!その『り・ゆ・う!り・ゆ・う!』コールは止めないか!!苛められてるみたいじゃないか!!
「わかったから少し静かにしろ!ほら、今ちゃんと合理的かつ理論的かつ一貫性のある理由を語ってやるから!」
俺の主張を聞くと5人は静かになり、今だ心に義憤を抱きつつも俺の言葉を待ってくれたようだ。
「いいか?今回の作戦は同じ討伐でも少し毛色が違う。片や多対少、片や少対少だ」
天狼の方もぶっちゃけ『群れ』だけど、そっちはリリアの話によると地狼の群れに少数しか居ないらしいから。地狼なんて無視すればいいんだし。
………あ、楓が全てを悟ったような表情をした。なんというやつだ……もう俺が言いたい事を理解したなんて。
「そして俺達四人の戦法を鑑みると必然的にこういう組み合わせになるんだよ。カイルとエリカはバリバリの近接戦闘型、俺は遠距離型、リリアは中距離可の近接戦闘型。ここまではいい?」
「ワタクシだって中距離遠距離どちらの魔術も出来ますわよ!この直線的馬鹿とは違いますわ!」
「なんだとこの曲線的馬鹿が!オレだってそのくらいできらぁ!」
「でも俺は見たことないもん」
「「クッ……!」」
出来るんなら大会の時も使っておけば良かったのに。
「話を戻すよ。リリア曰く、ビーネは一体一体は強くないらしいけど数が多い。だったら俺やリリアみたいに遠くから多数を攻撃できる奴が必要になる。逆に天狼の方はカイルやエリカみたいな1対1が得意な奴が行くべきだ。今回地狼とか言うのは倒せって言われてないから。これで納得した?」
カイルとエリカは口惜しげな表情で俺を睨むだけだ。どうでもいいけど、どっちも顔が良いから結構迫力がある。
……ふっ、だがどうやら俺の完璧な理論の前ではぐぅの音も出ないらしいな。
「やだよ!!わたしはそんな理由じゃ納得しないもん!!」
「ボクもさ!!そんなことで納得してあげないよ!!」
「私もです!!ここで諦めたらこの先何度似たようなことがあっても諦めちゃいそうですから!!」
ぐぅの音どころかかなりの文字数を喋ってくれる奴が三人もいた。まさかの現実だ。
「なんでだよ納得しろよ!!俺の作戦の何処がダメだって言うのさ!!」
「べ、別に翔の作戦がダメなわけじゃないけど……でもダメなんだよ!!」
くそっ……どういうことだ!!一体どう意味なんだ!!
「―――――はっ!」
そ、そうか判ったぞ!!考えてみればすぐにわかることじゃないか!
こいつら……俺達四人だけが学校外にお出かけするのが羨ましいんだな!?
しかもこの汚い紙を良く見ると天狼の方は場所が『ナルシェ周辺』、ビーネの方が『ダリ周辺』となっている。【ダリ】……聞いたことも行った事も無い場所だ。
あいや……やっぱりなんとなく聞き覚えだけは………まぁいいや、いつもの事だ。
とにかく、あいつら多分何時の間にか目敏くこの紙を見て『ダリ周辺』という言葉を見つけ、そこに俺が行こうとしているのを僻んでいるんだな!?
「はぁ……しょうがない」
そう言うことならな。あいつらの気持ちも判らなくも無いし。
「じゃあ今回はあすか、ユーリ、楓、晃も依頼に着いて来ていいよ。部長には俺が話をつけるから」
『学年長命令です』とか言って。『部長』に『学年長』が命令できんのか知らんけど。
俺の後ろで何故かリリアが急にガタガタと五月蝿い音を立て始めた。どうやら事務机にぶつかったらしい。理由はわからない。
「え!?いいの!?」
「ああ。ただし!一つ条件がある!」
「なんでしょう?」
「今から俺とお前ら四人で一斉にジャンケンをする。んで勝った奴が俺達のほうに、負けた奴がカイル達のほうだ」
俺がそう言うと三人からちょっとしたブーイングが上がる。因みに『ジャンケン』と言う物が『この世界』にもあることはババ抜きの時で確認済みだ。
「なんでよ!別に四人とも翔の方でいいじゃん!」
「ダーメ。俺達も2-2で分かれたんだ、お前らも分かれたほうがいいの!それにあいつらを二人で行かせてみろ……喧嘩ばっかりしてそうじゃないか」
いやいや……何二人ともウンウン頷いてるんだよ。少しは改善しようとしろダメ金髪コンビが!
「だったら私達のほうで話し合えばいいじゃないですか。そちらのほうが確実に均等に分かれることが出来ますよ?」
「それじゃあ俺がつまらないからヤダ」
「あの……僕はどっちでもいいよ?本当はクロノ君の方がいいけど……」
「ありがとうユーリ。でも一応ジャンケンしときなよ」
ユーリの『喧嘩ばかりするコンビにはついていきたくない』という気持ちも良くわかるよ。でも自ら機会を逃す事は無いって。
………チャンスなんて物は、あんまりこないんだからね……。
「じゃあ行くぞ!!ジャーーンケーーン……」
気を取り直して唐突に右手を振りかぶる。四人もハッとして手を上げる。
「「「「「ポイッ!!」」」」」