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希望×勧誘=いい感じ

やっと大会編が終了いたしました。

というのも単に私が遅筆なのが原因ですが。

あと文章が無駄にダラダラと長いのも。





  『たまには別視点もいいんじゃないかな? ~エリカ~』





 「…………う」

目を開く。視線の先には見知らぬ天井があった。


 ここは………何処ですの?


横たわっているらしい自分の身体を起こして周囲を見渡す。

日が落ちかけている外の世界、それと内とを遮断する窓、黄昏に染まる白い寝台と薄い布団、他の空間とを分ける夕焼け色の垂カーテン、くたびれた緑色の内履き、それが今の自分に見える全てのものだった。

 「……医務室?」

 「あら?起きたのぉ?」

そう言いながらカーテンを開いたのは白衣を着た女の保健医。薄い化粧を施されたその顔はどこか妖艶な大人の雰囲気を感じる。

 「どうしてワタクシはここに…………」

 「覚えてないのぉ?ノルトラインさんは決勝戦でお腹を強く殴られて気絶しちゃったんだってー。ここに連れてきた男の子が言ってたわよー」

 「そう……ですか……」




ゆっくりと、自分が意識を失う直前の記憶を呼び起こす。

 あの男が最後に使ったのは………間違いなく《瞬動》だった。私の光を避けた時も。


 今考えてみれば《月光剣》で打たれた後、ワタクシに『癒し』が見えるように使ったのもわざとでしたのね。回復なんてあんなに堂々と相手に見えるようにやるものではありませんし、もしあそこで『癒し』の光が見えていなかったらワタクシはあれが構えだと気付きましたから。


 もしかして《月光剣》を受けた事すらも計算の内……?


 「どうかしたの?まだ気分が悪い?」

 「あ、いいえ、大丈夫ですわ」

 「そう?ならいいけどぉ」

 スッカリ目の前に人が居る事を忘れていましたわね……。

 「もう大会の結果発表も終わったようだから、もう少しここでゆっくりとしていればいいわよぉ。あなたの担任にも話は行っているみたいだから、安心してねぇ」

そう言い放って保健医はカーテンを閉める。そうなるとワタクシはまたこの小さい空間で一人になった。ゆっくりと体を倒して再び横になる。

横になれば、思い返す。思い返して、認識する。




―――――負けましたのね、ワタクシ。




貴族であるワタクシが、貴族ではないあの男に。

誰よりも強くなければいけない貴族であるワタクシが、守るべき対象の平民であるあの男に。

かつて国に勝利と栄光をもたらした一族であり、そしてその誇りを胸にして生き、常にどんな時も優雅で高貴たれと育てられたワタクシが、あの悪戯ばかりしている精神年齢が子供としか言いようがないくせに、時々ふっと大人びた表情を見せるあの男に。




―――――負けましたのね、ワタクシ。




幼い頃からの鍛錬、それが無駄になったとは思わないけれど。

血を吐きながら習得した魔術、それが意味の無かった物だとは思わないけれど。

様々なものを犠牲にして得た物、それが不必要だとは思わないけれど。




――――――――――――――――――負けましたのね、ワタクシ。




自然と自分が拳を強く握っている事に気付いた。手は細かく震え、視界がぼやけ、唇を噛んでいることを自覚する。

認めたくない、認めたくない、認めたくない、認めたくない、認めたくない、認めたくない、認めたくない、認めたくない、認めたくない、認めたくない、認めたくない、認めたくない、認めたくない、認めたくない、認めたくない、認めたくない、認めたくない。








―――――――――認めざるを得ない。









 これでワタクシは明日からあの男から『チクワ』と呼ばれるハメになる。

 「嫌っっ!!!そんなのは嫌ですわ!!!!」

ガバッと起き上がって頭をブンブンと振る。

 どうして……どうしてこうなってしまったんですの!!?

より昔を思い返す。








かつて一度だけある本を暇つぶしに、そうあくまで暇つぶしにっ!!読んだ事があった。

本の題名は『コレであなたも友達百人できちゃうよ!!』。

ワタクシは友達なんて全く全然更々これっぽっちも欲しくは無かったが、ただなんとなく特に理由もなく本当になんの他意もなくこの本を呼んだ。確か、今から一ヶ月前くらいに。

 ………別に入学に向けてどうとか言うわけではありませんわよ!!勘違いしないで頂きたいものですわね!!!


 ………取り乱しましたわ。


そしてその本の83ページの上半分に赤字でデカデカと書いてあった。

『友達になるための最も近道は家名じゃなくて名前で呼び合う事』と。


実際にそうしてみたらあの女の子四人とは結構すぐに仲良くなれたと思う。

あの軽薄そうな男………カイルもワタクシを名前で呼んでくれている。仕方ないが友達に数えてあげてもいい。


でも、ショウ=クロノだけはそうじゃなかった。

一応向こうもワタクシのことを友達だと思ってくれてい………勝手に思っているのだろうが、いつまで経ってもワタクシを『リクト』と呼び続けた。


それが少し、嫌だった。

本当は『エリカ』と呼んで欲しかっ………仕方ないから呼ばせてあげようと思った。



……………でも、負けた。



―――――――――――――そしてワタクシは『チクワ』。

 「で、でもあの本の第三章4項には黄色の字で『あだ名で呼び合うのも吉!!』と書いてありましたし!!!」


―――――――――――――でもそのあだ名が『チクワ』。

 「やっぱり嫌っっ!!!」

再び頭をブンブンふる。流石に自分を誤魔化しきれなかった。




 「…………あら?」

 そういえば……何処も痛くないですわね。

最後にあの男に殴られたお腹も、何度も蹴られた両腕も、全く痛みを感じない。

勿論服はボロボロなのだけれど……痛くない以前に全く傷が見当たらない。

などと考えていると、カーテンの向こうでバタバタと何やら音が聞こえた。

 「そう言えばぁ、ノルトラインさんに渡すものがあったのを忘れていたわ」

保健医がカーテンを開ける。

 「はいコレ」

 「……なんですの?」

――――――――封筒?

 「あなたをここに連れてきた男の子がさっきここで何かを書いて、あなたが起きたら渡してくれって言ってた物よ。もしかして、ラブレターじゃないのぉ?」


保健医を無視して綺麗な白い封筒を逆さまにすると、掌に収まるくらいに折られた紙が掌に落ちてきた。どうやら真っ白の紙に何か書いて、それを器用にも折り紙のように折って手紙にしているらしい。足の上に落ちたソレを右手で拾ってくるりと裏返す。

 


    『チクワへ』

 さぁ、破り捨てましょう。



 「ち、ちょっと!なんて書いてあったのかは知らないけど破くのはダメだって!せめて読んでからにしないと!」

 「離してください!!こんなものはワタクシに必要ありませんわ!!」

 「な、何言ってるのよ……恋人からの手紙でしょ!?」

 「こんなもの!!こんなもの!!こんなも………え?」

 ……変な言葉が聞こえたような?

 「あの……先生、今なんて仰いました?」

 「え?『恋人からの手紙でしょ』って言ったんだけど」

 「は?」

 ―――――恋人?誰が?

 「あら?もしかして違うのぉ?絶対にそうだと思ったのに」

 「ち、ちょっと待って下さい。……え?恋人って……誰がですの?」

 「だからぁ、あなたをここに連れてきた男の子よ。迷子の迷子の一年生ね」

 迷子の迷子の一年生?良くわかりませんわね……一体誰ですの?



 ………取り合えず、順を追って考えてみましょう。

 ・ワタクシをここに連れてきたのは男子生徒

 ・男子生徒はワタクシが起きたら手紙を渡すように教師に言った

 ・手紙には『チクワ』

 ・つまりこの手紙を書いたのはショウ=クロノ

 ・ワタクシをここに連れてきたのはショウ=クロノ

 ・この教師がワタクシの恋人だと勘違いしている人は、ショウ=クロノ



 「なななな何を言っているんですかあなたは!!!!あんな男、恋人でもなんでもありませんわよ!!!!!」

 「顔、赤いわよ」

 「え!?コ、コレはあなたの邪推に怒っているからですわ!!!」

 ……どうしてそんなにニヤニヤするんですの!!

 「まぁ仮にあなたの言う通り恋人じゃなかったとしても」

 「『仮に』じゃありませんわよ!!!」

 「はいはい……でも良かったわねぇ。多分あなたあの男の子から好かれてるわよ」

 「――――――――!!!??」

 す、すすすすす、す、す、好かれて………?

 「ここに連れてくる時だってお姫様抱っこで連れて来てたし……まあそれは関係ないかもしれないけど、何度も何度も私にあなたの安否を尋ねてたから。それにねぇ、あなたの怪我は私が治したんじゃなくて全部あの子がここに来る途中で治したのよ。私がしたのはあなたに手紙を渡す事だけ。そこに寝かせたのも彼よぉ」

 「う………嘘………」


顔が、熱い。


 「嘘じゃないわ。それにあの子、あなたの事を名前で呼んでたしぃ。『エリカは大丈夫ですか』、『エリカが起きたらコレを渡してください』って。貴族の女の子を名前で呼び捨てるくらいだから恋人かと思ったんだけど、あなたの反応を見ている限りじゃ本当に違うようねー」

目の前の教師は『つまらない』とでも言いたげだ。

けれど、ワタクシにはそんなことに気をかける余裕が無かった。色々なことが色々と衝撃的過ぎて。


 嘘………嘘ですわ……あの男が、ワタクシのことを、好き?

 いえいえいえいえ!!そんなことはありませんわね!!どう考えてもあの男がワタクシにしてきた行為は好きな相手にやるようなことではありませんし!!!大体普通好いた相手には贈り物の一つでもするもの……ワタクシがあの男からもらったのは大量の葉っぱと重い拳だけですし!!!!そもそもあの男に好かれるような状況下になった覚えもありませんし!!!!!


――――お姫様抱っこ……『癒し』……名前で……お姫様抱っこ……お姫様抱っこ……名前で……お姫様抱っこ……『癒し』……名前で――――


 あーーーもーーーー変な言葉が脳裏に!!!!

 「ねぇ、それで手紙にはなんて書いてあるの?」

 「へっっ!!??」

 「な、何を驚いているのよ。手紙よ手紙」

 そ、そうですわ……手紙、読まないと。こんな馬鹿げた考えは頭の片隅に追いやって……。

『チクワ』という文字を意識して無視し、折られた紙を開いていく。無駄にきっちり折られていることが少しもどかしい。


紙を開き終えた。予想通りただの真っ白い紙。当然至る所に折り跡がある。

そして、そこには一言だけ黒いペンで、


   『お前の未来は俺がもらった』


と、書いてあった。

 「わおっ、大胆ねぇあの子!コレってプロポーズじゃないの!?…………あら?ノルトラインさん?」

何も聞こえない。

 「……あ~あ、完全に固まっちゃったわー」














 「あーー疲れた!!もう帰りたい!!!」

 「もうちょっとなんだから我慢しなよ」

 「俺は人一倍試合をしたんだから疲れてんの!!」

 「そんなのわたし知らないもーん」

 それにエリカも医務室に連れて行ったんだから。いくら力が強くなっているとは言え、人一人持って歩き回るのは結構大変なんだよ。体力的にも精神的にもな。



現在俺達が居るのは本選出場者の男子控え室。無事に大会も終わり、機関長の短い話とハゲの長い話を聞き終え、本当にありがたいことに表彰なんてものがないためこうしてみんなでダラダラしている。

とはいっても、なんか知らんけどデラクール女史に『まだ帰るな』って俺が言われたからみんなを巻き込んでいるだけだけど。

みんなとはみんなの事だ。因みに今回はユーリもちゃんと居る。どうやらこの短い時間でユーリもある程度女子と打ち解けたらしい。多分ユーリ自体が女子っぽいところに由来するのだろう。


 「でも本当にお疲れ様、クロノ君。最後の試合も凄かったよ」

そう言ってにこやかに笑いかけたのは件のユーリだ。同じチビッコでも彼の隣に居るのとは大違いの言葉をくれた。

 「ホント、テメーは良くやったよ。オレの技もずいぶんと有効活用してくれたじゃねぇか」

 「なんだカイル、まだ怒っているのか?」

 「怒ってねぇよ!悔しいだけだ!!」

カイルの言葉にはトゲがある気がする。なによりリリアの言葉に怒っているとしか思えない雰囲気で返している。

 「なぁ楓、なんでカイルは怒ってんの?」

 「翔さんが楽々とカイルさんの技を使ってしまったからですよ」

 あぁなるほど、心が狭い奴だ。俺のとっさの判断で何とかできたものの、あのままだったら死んでしまっていたというのに。あのビームは反則だと思う。明らかにルール違反だろう。

 っていうかアレ!!《瞬動》!!全然ダメじゃんかあの魔術!!空気との摩擦で体がボロボロなったし!!『出来るかなぁ~』と思ってやってみたけど、もう二度と使わんあんな魔術!!



 「そう言えば翔、もう願い事決めたの?」

 「うん?ああ、まあね」

 「ボク達が考えたのじゃなくて?」

 「そりゃそうだよ。もうここにいる奴は全員同じクラス決定だろうし」

 ハゲの話の最中に考えまくったのさ。それでいい願いを一個思いついた。『お金がダメならコレしかない』ってね。

 「まさか『学校行かなくても単位がもらえますように』とかじゃねぇだろうな」

 「………それ、いいな」

 ヤバイ、盲点だった。今からでもその願いに変え…「だめだめだめ!!絶対そんなのダメだからね翔ちゃん!!!」

 ちぃっ……やっぱりか。

 「それでは一体なんだ?」

どうやらリリアも気になるらしい。―――――いや、みんな気になるらしい。みんな俺のほうを見てるからね。

 「ああ、実は――――――――」



ガチャッ



 「ああもう、こんなところに居たのね。探したわよ」

 ………デラクール女史、タイミングが悪すぎるよ。

仕方無しに願い事の話を止めてデラクール女史に問い掛けてみる。

 「探してたって、誰を?」

 「決まってるじゃない、あなたよ」

 え、俺?

 「何でさ?」

 「なんでも何も、あなたは優勝したのよ。願い事の話はもう知ってるかしら?」

 「とっくのとうに」

俺の言葉を聞くと教師は満足げに一度頷いた。

 「じゃあ話は早いわね。なるべく早めに願い事を決めて私に言って頂戴。無理なものは無理って言うし、出来る事ならなるべく早く実現できるようにするから」

どうやらそれを話すためだけに俺を探していたらしく、話し終えるとクルッと踵を返してドアノブに手を伸ばす。ホント真面目というかなんというか。

 「チョイ待って下さい先生!もう願い事は決まってるから今伝えちゃうんで」

 「そう?」

デラクール女史は再びこちらを向きなおす。

 「ただし、『金をよこせ』というのは無理よ」


 この人は俺のことを何だと思っているのだろう。


 「違うよ!!いくら俺でもそんなことはお願いしないって!!」

 「……ボソボソ(なぁホウジョウ、オレがショウに願い事の話をした時アイツ金って言ってたよな)」

 「……ボソボソ(うん、確実に言ってた)」

なんか後ろがボソボソ五月蝿いな。無視だ無視。

 「お金じゃないなら何?」

 「いや、そんなに難しい事じゃないんですよ」

そう前置きをしてから俺は今度こそ願い事の内容を口にした。



 「【エリカ=リクト=ノルトライン=ヴェストファーレン】を生徒会じゃなく魔術執行部に入れてください。あと、この【ユーリ=ロレンツ】も執行部に入れてやってください」



 …っと。なんか願い事が二つになっちゃってる気もするけど気にしない。



 「ほら、アイツって貴族だから本来なら生徒会に入ることになるんでしょ?でも折角友達になったのにそれじゃつまらないからさ、無理矢理にでもこっちに引きずり込もうと思って。ユーリも一人だけ仲間外れにしちゃ可哀想だし」

 どうだ!!我ながらいいアイデアだろう!!あすか達もエリカが魔術執行部に入れないのを残念がってたし!!俺も貴重な男友達が居ないのは嫌だし!!

予想外の俺の願い事にピックリしている教師を尻目にゆっくりと後ろを振り向く。多分俺の顔は今満足げにニコニコしていることだろう。

 「うん!賛成賛成!」

 「翔にしてはいい考えだね」

 「私もいいと思います」

 「うむ、そうだな」

 「あ、あ、ありがとうクロノ君!!本当にありがとう!!!」

女子の反応は中々良いものだった。特にユーリはとても喜んでいるみたいで良かった。

 「おぅおぅ、まあいいんじゃねぇか?」

カイルの反応はそこそこだった。まぁどうでもいいや。


 「……ユーリ君の方はいいわ、私が何とかしましょう。実力不足なんてあなた達と一緒に居ればすぐに埋まるでしょうしね。でも、もう一つのほうを叶えるのは難しいと思うわ」

 ……え?何で?

俺は再び180度回転する。もちろん縦じゃなくて横にだ。

 「エリカちゃん自身が魔術執行部に入りたいと思っているのなら問題は無いけど、もし生徒会に入りたいと思っているのならクロノ君の願いはエリカちゃんの意見を無視することになっちゃうのよ?いくら何でも叶えるとは言え、生徒の考えを捻じ曲げる事は学校側として出来ないのよ」

 なるほど、人権問題ってやつか。基本的人権の尊重ってやつか。思想の自由ってやつか。

―――――けど、

 「だったら問題ないですね」

 「そうなの?」

 「うん。その願いを伝えてくれれば絶対にアイツは魔術執行部に入ると思いますよ。もちろん口では色々と言うでしょうけど、イヤイヤってわけじゃないと思います」


 だってさ、俺やカイル、ユーリは置いとくにしても、アイツだってあすか達とワザワザ離れたくは無いだろうし。それに生徒会なんて貴族ばっかでつまらないだろうしさ。アイツもたまには貴族ばっかりじゃなくて平民ばっかりに囲まれてみるべきなんだ。うん、そうに違いない。

 「だからデラクール女史、俺達はそろそろ帰るんであいつに俺の願いを伝えといてください。ここから一番近くの医務室に居るんで」

 「…あのね、教師をパシリに使わないでくれる?」

 パシリなんて言葉も知ってるのかこの教師は。『この世界』と『あの世界』の線引きがいまいちわからないな。

 「お願いしますよ先生」

 「こんな時ばっかり先生なんて呼んで………まあいいけど」

 さすが教師の鏡!やっぱり優しいね!

 「でも私がいきなり願い事なんて言ったらエリカちゃん、驚くんじゃない?それにこういうのはクロノ君が自分で言ったほうがいいと思うんだけど」

 「ああ、いいですいいです面倒なんで。それにアイツにはもうこのことは手紙で伝えてあるんです。とはいっても、お願いの事を話した時にビックリさせたかったんで正確な事は書いてないけど」

 「手紙?何時渡したの?」

 「さっき医務室に連れてった時にそこにいた保健医にアイツが起きたら渡すように頼んだんですよ」

 「ふ~ん、なんて書いたの?」

 「え?えっと、別に大した事は書いてないんですけど」

 な、なんだったっけ……適当にサラサラっと書いただけだからうまく思い出せん。

 「ええぇっとぉぉぉ~~~…………あ!!思い出した!!」

 そうだそうだ、『生徒会に入れば今後の人生がうまくいくんだろうけど、それを俺が阻止しちゃったぜ』という意味をこめてあの言葉にしたんだった。




 「一言だけなんですけど、『お前の未来は俺がもらった』って………」




ザクッ!!

ズグッ!!

ボキッ!!

バコッ!!




 「ぐわああぁぁぁぁあああああ!!!!!俺の身体がああああぁぁぁぁ!!!!!」

 「何を考えているんだショウ!!バ、バカかお前は!!いや、バカだお前は!!!」

右手の爪が俺の体液的な物で赤く染まったリリア。

 「何やってるの……何してるの……何言ってるの……」

俺の腹を殴った後に胸座(むなぐら)を取り、とうてい女とは思えない力で締め上げてくる晃。

 「……………」

目を伏せ、無言で俺の もう片方の(・・・・・)腕を関節とは逆方向に曲げようとしてくる楓。

 「バカッ!!バカッ!!バカッ!!」

俺をサンドバッグと勘違いしているのか、背中を幾度も正拳突きしてくるあすか。

 な、何故だ……何故俺はこんな目にあってるんだ……

 「あ~あ、ショウお前って奴はホントにバカだな」

 「うん。そんな目にあっても僕には庇い切れないよ」

両手を上げて『ヤレヤレポーズ』をしつつ深く溜息をつくカイルとユーリ。

 「ど、どうして……?」

 「だって、なぁ」

 「だって、ねぇ」

そのまま二人は互いに目を合わせ、言った。



 「「だってそれ、どう考えても殺人予告じゃねぇ(ない)か」」



 「―――――――――――はっっ!!!!」

 た、確かに……。



『お前の未来をもらう』って事は、『その相手の命を奪う』とも取れる訳で。

つまりこいつらは俺がエリカにそんな物騒な事を言ったから怒っている訳で。

 「そ、そうか。今回の勝負は俺の負けだ……」

 「もうちょっと言葉は選んだほうがいいよ」

 「そうそう。ユーリの言うとおりだぜ」

俺は自分の失敗を自覚する。


 ………なのに何故だ、デラクール女史は俺達三人を何かダメなものを見るような視線だ。


 いや、そんなことはひとまず置いとこう。大事なのは今まさに俺が生死の瀬戸際に立たされているということではないだろうか。何故ならこいつらは俺とユーリ達との会話を全く聞いておらず、つまり俺が失敗を自覚した事に気付かずに攻撃を続けてくれているからだ。

 「ち、ちょっと待ってくれ……。俺はエリカを殺そうとしたんじゃなくて……」


―――――――――――――――ピタ


 ふぅ、やっと止まってくれ――――――――――

 「「「「……… エリカ(・・・)を殺そうとしたんじゃない?」」」」

 「あ、ああ」

俺が頷くと、

 「ぐわああぁぁぁぁあああああ!!!!!一つしかない貴重な俺の身体がああああぁぁぁぁ!!!!!」

何故か攻撃が再開した。しかもさっきより痛い。

 「え、何でみんなはクロノ君をまた苦しめ始めたの?」

 「……いや、今回はさっぱりわからねぇが……推測するに怒りがぶり返したんじゃねぇの?」

 「そっかぁ。良くわかったね」

 「フッ、オレは他人の考えを当てるのがうまいからな!」

 「はぁ……(どうして男の子ってこんなに鈍感なのかしら……)」

近くで溜息が一つ聞こえた。


 「それじゃあ私はエリカちゃんのところに行って来るわ。ついでにクロノ君のお願いの事も伝えてくるから」

 「ち、ちょっと待つんだ!!教師として教え子が虐めを受けている現場を見ているのに止めようとしないのか!!」

 「………まぁ、あなたの場合は自業自得だし」

 くっ、当たっているから何も言えん!!!

そう言ってデラクール女史はもう一度深く溜息をついてから部屋を出て行った。残された俺達は、いや俺はどうすればこの危機から逃れられるんだろうか。だれか教えて欲しい。



―――――――――だれ、か――――――――――――――――ガクッ。





 ………そういやなんでデラクール女史は俺が願い事を言った時に一瞬ニヤッとしたんだろう。














――コンコンコン


 「失礼するわね」

 「はぁ~い、ってフラーじゃない。どうしたの?」

 「エリカちゃんの様子を見にきたのよ。何処に居るの?」

 「一応向こうのベッドに居る事は居るんだけど、多分今は何をしても無駄ね」

 「どういう事?」

 「男の子からもらった手紙を読んだ瞬間固まっちゃったのよぉ」

 「…………なるほど」

 「あら?フラーがそんな笑い方をするって事は何か面白い事でもあったのね?」

 「ふふ、まあね。見たいならあんたも来なさいよ。………エリカちゃーん、カーテン開けるわよー」


――――――――シャア 


 「これは……見事に固まってるわね……」

 「ええ。かれこれ10分以上手紙を読んだ瞬間の体勢のままなのよ。……どうするのぉ?」

 「まあ見てなさい。エリカちゃーん、エリカちゃんってば!!!」

 「……………」

 「ダメじゃないの」

 「いいから黙ってなさい。エリカちゃーーん!!」

 「……………」

 「……ボソッ(クロノ君から伝言よ)」

 「ク、クロノ!!!!??」

 「(す、すごい反応ねぇ……)」

 「そうよ。クロノ君の願い事があなたに関するものだったから」

 「え!?そ、そうですの……。そ、それで一体……?」

 「その前に、あなたって一応このままだと生徒会に入ることになるのよね?」

 「………?………ええ、そうですが」

 「あなたはそれが、嫌なのよね?」

 「………………まあ、はい」

 「それで………先日私に実現可能か訊いてきたお願いが『優勝したら魔術執行部に入れるか』だったわよね?」

 「…………そうです。……今となってはもう不可能になってしまいましたけど」

 「ふふ……そんなあなたに朗報よ」

 「……はい?」



 「クロノ君のお願いは『【エリカ=リクト=ノルトライン=ヴェストファーレン】を魔術執行部に入部させる事』だったわ」



 「…………………………………え?」



 「一応あなたの意思に関わってくる願いだったからひとまず保留にしてあるわ。まだあなたにも拒否権があるけど……どうする?」

 「う、嘘……あの男がワタクシを、ま、魔術執行部に……?」

 「あぁ、そう言えばクロノ君、この願い事を言う時スッゴクニコニコしてたわね。何か嬉しいことでもあったのかしら」

 「(なんかフラーが生き生きとしてるわぁ…)」

 「それでエリカちゃん、どうする?」

 「え、えっと……その……」

 「(あらあら、モジモジしちゃってまぁ…)」

 「(うんうん、青春ね)」



 「は………入りますわ。ワタクシも……魔術執行部に……」



 「そう?執行部よりも生徒会に入れば将来が明るいのよ?本当にいいの?」

 「し、仕方ないですわ!!敗者は勝者の言う事を訊くものですし!!それに平民の意見を聞き入れるのも正しい貴族のあり方ですし!!優勝までしたあの男の願いを無下にするのも可哀想ですし!!たまには平民ばかりの空間で生活するのも社会勉強として必要ですし!!それに……」

 「わ、わかったから落ち着いて……ね?」

 「ハッ!!………ワタクシは充分落ち着いていますわよ?」

 「……まぁいいわ、とりあえず明日にでもクロノ君には伝えておくわね」

 「は、はい………」

 「……ん?そう言えばもう結構な時間ね。ノルトラインさんはまだ帰らなくても大丈夫なのぉ?体調ももう良さそうだし……」

 「え?あ、本当にもう遅いわ。エリカちゃんも明るいうちに帰ったほうがいいわよ。………まだ校内にクロノ君達が居ると思うけど、呼び出しましょうか?」

 「いっ!!いいですいいです!!一人で帰りますわ!!!」



――――――バサ

――――――スタスタ

――――――ガチャ

 「し、失礼しました!」

――――――バタン

――――――バタバタバタ



 「………凄い勢いで走って行ったわねぇ。音でわかったわ」

 「………ホントに。今度校内では走らないように注意しておかなきゃ」

 「それにしても……ねぇフラー、今のあなたの話、何処まで本当?」

 「どういうことよ」

 「察するにぃ、『クロノ君』って言うのはあの黒髪の目つきが悪い男の子の事でしょ?」

 「そうだけど、それがどうしたの?」

 「私が見た限りじゃあの子、そんなに男女関係に敏いような子じゃなかったわ。そんな子がこんな立て続けにこんな事がをするとは思えないのよぉ」

 「まぁ……その予想は間違ってないわ。それどころか間違いを見つけることが出来ないくらいね」

 「じゃあ何ぃ?あなたの話は嘘だったって言うこと?」

 「そんなわけないじゃない。私は教師なのよ?生徒を騙すような事はしないわ」

 「どういう意味よ」

 「別に?嘘は言ってないわよ。『本当の事を言ってない』だけ」

 「………ああ、そう言うこと。フラーも好きねぇ…」

 「あら?あなたは嫌いなの?」

 「大好き」






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