物事の 始めはいつも 唐突で
それは穏やかな、季節は春と夏の間少し春気味の割と過ごしやすい日だった。夕日によってオレンジ色に染まる見慣れた風景の中、風が初夏の熱を先走り気味に運んできている。辺りからはどこか近くの家で育てられているらしい花の匂いが漂い、いつもはなんとも思わないただの電信柱や古びた掲示板でさえも、こういった日であれば見方によっては何か一枚の絵のようにも見えてくるから不思議だ。この不思議を解明してくれた人にはノーベル賞を与えるべきだと思う。
「いや~今日は疲れたなぁ」
俺が学校から駅までの短いようで長い、でも冷静に考えてみればやっぱり短い帰り道を歩きながら、溜息混じりにそうつぶやいてもしょうがないと思う。
なんせ今日の時間割には体育が三回もあったからね。一日6時間(もしくは5時間または7時間)の授業で構成されるうちの学校生活において、なんとその半分もの時間俺は外にいたわけだ。
とはいってもその理由は至極単純なもので、大体の奴は同じ理由で似たような苦しみを味わった事があるんじゃないだろうか。
どういうことかというとだな、まず普通の授業として体育が一時間、次に体育を選んでしまった選択科目の分が一時間、そして先日まで続いていた大雨のせいで多くのクラスの体育が流れてしまい、結果として必要日数が足りなくなってしまったので他の授業を潰してまで組み込まれた体育が一時間分、だ。
俺も昨日のホームルームで数学がなくなると聞いた時はめっちゃ喜んだけどさ、三時間もサッカーをやりつづけた後の身で考えてみれば、そのまま数学だったほうが良かったかもしれない。別に寝てればよかったんだし。
でもまぁ……そもそもの問題は俺が体育を選択してしまったことにあるんじゃないだろうか。選択授業のアンケートをとる時間の直前まで爆睡していて、眠気を覚ます前に適当に記入して提出したことが今になって非常に悔やまれる。
あの時の俺バカッ!!一回死んで生き返ってまた死んで生き返れ!!フェニックスのように!!
「そっかなぁ。わたしは英語があった昨日に比べたら全然楽だったよ」
『それに美術が二時間もあったし!』と俺の独り言のような言葉に律儀に返答してくれた右側を歩く女生徒は【日向あすか】と言うどっちが名前なのかよくわからないヤツで、肩書きは俺のクラスメイト兼友達1だ。日向は中学生の頃から使いつづけている茶色いカバンを右手に持ってにこやかにそう言った。
実はこの日向、ありえないほど身長が低く、背丈だけで言えばとてもじゃないけど高校生には見えない。身長170㎝前後しかない俺が見下ろすような身長なんだから、140~150cmちょっとじゃないかと思う。だから日向が歩くときはどうしても『ピョコピョコ』という擬音を使いたくなってしまうのは俺だけじゃないはずだ。
また日向は生来髪の色素が薄いらしく、肩にかかる程度の髪はなんとも綺麗な栗色だ。その色と髪型は日向の明るい性格にとてもマッチしていると思う。クリクリした目や、感情が表に出やすい(と言うかわかりやすい)所、そして赤ちゃんのようにプニプニしてそうな頬も、なかなか日向以外の人間には見ることが出来ない。
つまるところ、この日向あすかという少女は顔及び性格がいいわけだ。
しかし、この女子高生(小学生風味)の容姿を語るにおいて、これ以外にもとてつもなく重要な事がある。
なんとコイツ、とんでもなく胸がでかい。
そこを除けばイメージ的には『可愛い』という言葉を体現したような感じだ。そこがあるからなんともグラマラスな感じになっちゃっている。なんだろう、トランジスタグラマーってやつ?
快活で人懐っこくて無邪気というこいつの精神年齢、それは俺的に『いったい何歳だ』と突っ込みたくなるんだけど、他の男共に言わせると『なんかこう、守ってあげたくなるタイプ』らしい。
俺に言わせれば『守ってあげたい』というより『軽くいじめたくなる』ってのが本音なんだけど。
とまあ身長・性格共に小学生でも通用するこのちびっこはさっきも言ったように胸がでかい。おそらく見た目だけなら完全に子供料金で電車乗れるのにこの胸のせいでそれが不可能になってる。
どれくらいの大きさかと言われても正確なカップ数なんて聞いたこと無いし、そもそもカップの定義が男の俺には良くわからない。しかしただひとつ、うちの学校で見かける女(デブを除く)の誰よりも大きいのではないかとだけ言っておこう。
この際、何故その身長でその胸なのかという疑問は必要ないね。
大切なのは今、日向がわざと少し速めに歩く俺に合わせようとして歩行速度を早めると、ヤツの対思春期男子専用最終兵器が揺れているということさ。いや、実際に揺れているわけじゃないけど、俺は今その光景を幻視しているんだ。
しかしあまりに露骨に見すぎてしまった結果、日向にそれがバレて嫌われるということだけは避けなければならない。友達から嫌われたくはないのだ。
「そりゃお前は体育がニ時間しかなかったんだからまだ楽だろうよ。けどさ、それを三時間もやらされる俺の身にもなってみろっての」
それに体育の時間が3,4時間目と6時間目に分かれていたので昼食と5時間目の音楽は体操着ですごす羽目になった。合唱の時なんかは特に浮いていたんじゃないかな。俺以外にも体操着のやつは数人いたけど、そいつらも含めて。
……うん?いやなら着替えればいいだろうって?
フッ、別に恥ずかしいわけじゃなかったし、なにより『着替える』なんていう面倒な行為は最初と最後だけで十分だ。
「翔ちゃんが三回も体育をやったのは自分がそれを選んだからでしょ」
日向が上目遣いで(身長差でそうならざるを得ない)非難を含んだ視線を向けてくる。が、負けじと俺も言い返す。
「しょうがないだろう寝ぼけてたんだから。本当はもっと楽な教科を選ぶつもりだったんだよ」
書道とかな。得意ではないけど。なんで書道って絶対に手が汚れるんだろね。コレを解明したやつにもノーベル賞を与えるべきだ。
「それも翔ちゃんが授業中のときから寝てたのがいけないの!もう……授業はちゃんと聞かなきゃだめだよ」
「はっ!俺にとって学校は寝るためにあるようなもんだ。授業なんて聞いてなくても試験前にノートとプリントを見せてもらいさえすれば点なんか取れるのさ」
「……ほんとにおかしいよねぇ。それでわたしよりいい点なんだから」
『真面目に受けてる自分がバカらしくなるよ』と日向がため息混じりにこぼす。するとどうだろう。不思議な事に今度は左側から中性的な声が聞こえてくるではないか。いやまあ一緒に帰ってる友達が他にも居るだけなんだけど。
「いやいや、日向さんは正しいよ。翔は確かにテストの点はいいけど成績自体はあんまりよくないからね。授業態度もだけど提出物も出さないし」
その男とも女ともとれるいやむしろ女が無理矢理低い声を出してるんだ的な音域で爽やかに会話に入ってきたのは【北条晃】というこれまた男とも女ともとれる名前の“男子”生徒で、俺の友達2だ。もちろんクラスメイト。俺とおそろいのブレザーとズボンを着用し、黒いカバンを左手に下げている。
「当ったり前よ。提出物なんてかったるいだけだし。俺はお前らみたく真面目になるつもりは無いし。成績なんて悪くてもかまわないし」
「提出物を全く出さないやつなんてお前ぐらいしかいないぞ。授業を聞いてないやつでもある程度は提出してるんだから。……でもまぁいきなり翔が真面目になったら気持ち悪いだけだけどな」
そう言って夕焼けを背にして笑う晃を見て、俺は毎日顔を合わせているにもかかわらず思わず反論の言葉を忘れて呆けてしまった。なんと言うか、スッと反論の言葉が出なかった。
なぜならこいつは声や名前だけでなく顔も女みたいだからだ。
しかもただ女顔ってわけではなく、そのままちょっとボーイッシュなアイドルとして芸能界でやっていけそうなレベルなんだから驚きだ。だから俺の言葉が出なくなっちゃうのも無理はないよね。うん。
そういうわけで、俺はちょくちょく自問自答する。『あれ?コイツ……同性だったよな?』と。
だってさ、コイツ結構運動できるくせにあんまり筋肉がついてないし、ほのかに女の子特有の匂いとかする時があるんだよ。なんつーの?言葉では説明できない感じのやつ。
前に何かの本で読んだ気がするんだけどさ、女性には男性を引きつけるためにフェロモンかなんかが出てるんだと。それがあの匂いの正体らしいのさ。
そしてそれが北条晃から出ているという事はそれすなわち、コイツの肉体は晃の意思に反して男を虜にしようとしているのかもしれない。難儀な事だ。
もしかしたらコイツの男性ホルモンと女性ホルモンはほぼ同じ量なのか。
んで神様の悪戯的な何かでタマタマ男に生まれてきた、と。
うん、説得力あるな。
だからそんな美少女―――間違えた―――美少年の笑顔に一瞬でも心を奪われかけ……呆けてしまった俺には全く悪く無いだろうし、事実どうしてこいつの性別が俺たちと同じなんだろうと学年、いや学校中の男が神を呪ったことだろう。ホント顔がいいとか憎ら……羨ましい。
「北条さん、気持ち悪いなんていったら翔さんに失礼ですよ」
「ん?確かに秋月さんの言うとおりだな。翔、悪かった」
俺がボーっとしている間に、後ろから聞く者に癒しを与える声音でフォローを入れてくれた女の子は【秋月楓】といって、俺の友達3だ。そんでもってやっぱりクラスメイトさ。
長い黒髪をサラサラと揺らしながら、もう結構長い間使い続けているらしいのに新品のように綺麗な茶色いカバンを両手で持って歩くその姿はまさ大和撫子そのもので、世の男の大和撫子像を集めて具現化したら秋月が産まれましたってくらいの女の子だ。所作も言葉遣いも丁寧で、なんとなく歩き方なんかも他人よりも上品で洗練されている気がする。
一度前にその謎を解明しようとした事があるんだけどさ、ためしに秋月に歩き方を変えてもらったんだけど、それでもなんか上品なんだよ。たとえ右手と右足が同時に出ていたとしても。どんな技術だ。
そしてこの秋月は全体的にスラッとしてるんだよな。綺麗な髪もそれに拍車をかけてる。
別に隣にいる日向や晃が太ってるわけじゃないんだけどさ、なんだろう………あ、わかった。秋月は足が長いんだ。スカートなんて短くしているわけじゃないみたいなのに、ちょっと短めに見えるもん。うむ、素晴らしい。
「別に謝んなくてもいいよ。気にしてないし」
俺が現実に復帰してそう返したところで日向が茶々を入れた。
「でも気持ち悪くは無くても不気味だよね、楓ちゃん」
「…それは…まぁ」
「もしくは熱でもあるんじゃないかって疑っちゃうだろうな」
アハハと朗らかに会話をしているこの三人は何か俺に恨みでもあるんだろうか。
俺の悲しげな表情に気付いてくれたのか単なる偶然なのかは知らんが、秋月がふと何かを思い出したらしく話題を変えた。俺的には前者であると思いたいです。
「そういえばあすかさん、明日はどこに行くんですか?」
その言葉どおり、明日は俺達四人でどっかに遊びに行く予定であり、どこに行くかを決める役は今回は日向の番になっていた。
なんでこんな会話になるかっつーとさ、俺たちが遊ぶ時はどこに行くかを考えるのが順番になっているからだ。ちなみに前回は俺が決める番で、無難にみんなで遊園地に行った。傍から見たら男2女2のダブルデートなんだろうけど、美形三人に囲まれている俺はかなり場違い感があったんじゃないかと思う。もうとっくのとうにそんなの慣れてるけどさ。これも美形の友達を持った凡人にとっては宿命である。
でも腹いせにジェットコースターに乗りまくってやったら日向と晃はきつそうな顔をしていたので、とてもすごくいい気味だった。
秋月の言葉を聞いて一瞬ハッとした顔になった日向は、すぐに朗らかな笑みを浮かべて『ちゃんと考えてあるよ』と答えた、のだけど。
「え、え~と明日は10時に駅前に集合です!」
ふむふむ。
「そ、その後は近くの喫茶店かファミレスに入店します!」
ほうほう、それで?
「え、え~とえ~とそしたら…」
うん?そしたらどうするんだ?
言葉に詰まる日向をニヤニヤしながら見ていると、晃が『もうやめてあげろよ』と日向に助け舟を出した。楓も『無理しなくていいですよ』と慰めているようだ。
「うぅ…ごめんなさい」
そう言って日向はしょんぼりと小さい身体(一部を除く)を更にちじこませる。
まぁそんな事だろうとは思ったよ。最初の言葉でどもった時点で。
本来なら色々とチクチク嫌味を言ってやる所なんだけど………仕方ない、俺も慰めてやるか。小学生をいじめてるみたいで罪悪感もあるし。
そう思った俺は『まあいいよ』と言って日向の頭をポンポンと軽く叩いて言葉を続けた。………おぉぉ、やっぱり子供を相手にしているみたいだ。
「俺だって忘れることなんかたくさんあるんだからそんなに気にしなくていいさ。別に今から考えればいいんだし、なんも思いつかなかったら明日集まった後飯でも食いながらみんなで考えればいいんだから」
『な!』と同意を得ようとして晃と秋月のほうを見ると微妙な顔をしてこちらを見ていた。
「二人ともどうしたんだ。なんか問題でも?」
俺が尋ねると慌てた様子で答えを返す。
「別に問題は無い。けどそれよりも早く手をどかしたほうがいいと思うぞ!」
「そうですよ。あんまり女の子にベタベタしないほうが言いと思います!」
全然ベタベタはしてないと思うんだけど。むしろさっき手を洗ったばっかりだからサラサラしてるはずだし。
……でも確かにいつまでも手を乗せておくのは悪いか。日向は自分の身長が低いのを気にしてるみたいだから。
「あぁ、つい無遠慮にさわっちゃってゴメン」
そう言いながら手を下ろすとなにやら日向が呟いたような気がした。どうやらその呟きは『バ』で始まり『カ』で終わる二文字の言葉のような気がしたけど、気のせいに違いない。何か他の言葉なハズだ。そう確信して聞き返す。
「なにか言った?」
「……なんでもないよ!!バカ!!」
そういうと日向はいつのまにか歩くのをやめていた俺達をおいて歩き始めた。っていうかなんだよおい!ホントにバカって言ってたのかよ!!
「なんなんだあいつ急に。もしかして小学生みたいだって思ったのがバレたのかな」
「……違うと思う」
晃が不機嫌そうに言った。秋月も同じような顔をしている。
「なんだ、晃も秋月もわかるなら教えてくれればいいじゃんか」
「…どっちも自分で考えてください」
「…お前はもう少し色んな事に気を使ったほうがいいぞ」
そういうと二人はさっさと歩き始めてしまった。
くそう、良くわからんことをいいやがって。気なんてこれ以上ないほど使ってるっつーの。てかわかってるんなら教えてくれてもいいのに。面倒なやつらだな。
そう思いながら三人に追いつくべく右足を踏み出す。何てことはない、何かを考えての事でもない、何気ない普通の行為だ。
――――――でも、全ての始まりは、その瞬間だったんだ。
「うっ!!」
本来ならアスファルトの硬質を感じているだろう俺の右足はなにやらムニュッとしたものを踏んだ。
「……いや、違うよこれは。うん、全然違う。別にあのアレ……家畜の排泄物的なアレとかそんなんじゃないって…」
ブツブツ言いながら恐る恐る視線を下げ、見慣れた制服を着ていてすこし汚れた靴を履いた足があるであろう、いやそれ以外はあって欲しくない足元を見た。
………ん?なんだこれ。古い油か何か?エタノール?いや、それは違うな。コルタール?
謎の感触の正体は排泄物ではなく、どうやらこの黒くてドロドロしてそうな液体らしい。夕焼けに反射してテカテカと気味悪く光り、生理的な嫌悪感を催す。変な匂いはしないが、ただただキモい。
うわもう最悪だ……くそっ気持ち悪い!あ、いや……でも排泄物よりはマシ、か?
俺がげんなりしながら足を持ち上げようとすると、おかしなことに足が地面にべったりくっついているみたいに全く動かない。持ち上げようとし、右にねじり、左にねじり、そうまでしても脚は微動だにしない。無理な動きで骨が軋んだ。
靴を脱げば簡単に抜け出せるんだろうけどそれは駄目だ。この靴には多少愛着を持ってるし、なにより裸足で帰るなんて事は正常な神経を持ったやつ(つまり俺)なら出来ない。だってこの辺りにはよく釘やらガムやらが落ちてるんだから。
そんなこんなで俺がくっついた右足をはがそうと悪戦苦闘している間にどんどんドロドロはアスファルト上を広がっていき、気付いた時には既に右足を飲み込んでしまっていてドロドロの勢力は左足つま先ほどにまで達してしまっていた。
慌てて避難させようとするものの、どうしたことか右足と同じように左足までもが全く動かない。
………あれ?おかしい。なんでこっちも?
右のほうはこのキモい液体を真上から踏んづけたんだから靴の裏側がくっついているのはまだ納得できる。どうしてここまで頑なに動かないのかはわからないけど。
でも左足のほうはまだキモ液(キモいドロドロとした液体の略である)が達しているのはまだ靴の半分だ。
それなのに何故かかとの方まで動かないのかね?
それに俺はキモ液に気付く前から今に至るまで左足を全く動かしていない。つまり靴の裏にキモ液が入り込む余地はなかったはず。ということは左足が動かない事は異常中の異常としか言いようが無い。
…などと悠長に考えているうちに結局左足もかかとまで全部ドロドロに囲まれてしまった。
―――――ええい気持ち悪い!それに離れない!
キモ液はただ貪欲に広がりつづける。
まずいぞ……このままじゃみんなに置いて行かれちゃうし、なによりこんな道の真ん中じゃ車に轢かれてしまう。
そう考えた俺は先を行く三人を呼び戻して引っ張ってもらおうと考えた。まあ、無難な考えだ。
「おーいちょっと来てくれー!ヘルプヘルプ!」
俺の呼びかけに三人がこっちを向いてくれたのを確認してから手招きすると、まだ若干微妙な顔をしながらもこちらに向かって戻って来始めてくれた。
いやぁー……持つべきもの友だ。権力や地位じゃないよやっぱり。大事なのは人望だよ。あ、あと金。
俺が場違いにもしみじみとそう思っていると、なにやら周囲の異変に気づいた。ようやく、気付いた。気付いてしまった。
異変―――異常―――異事――――まぁなんでもいいんだけどさ、家や壁、電柱など目に見えるものすべてが大きくなっている気がするんだよ。しかも現在進行形で。
慌てて首と腰を稼動範囲いっぱいに捻って周りを見渡し、空を見上げ、最後に下を見たときに俺はこの異変の原因に気づいた。
いつのまにやら俺の足首がこのキモ液の中に沈んでしまっていた。
……………つーことはなんだ、周りのものがでかくなってるんじゃなくて俺が地面に沈んでるから回りの物が大きく見えてるって事?上に伸びていってるように見えるって事?
「おいっちょっ……マジでヤバイって!!早く来てくれって!!」
さすがに身の危険を感じた俺はもう一度今度は強く呼びかけた。
三人は俺が切羽詰っているのを感じてくれたのか、さっきまでのゆっくりとした歩みではなく小走りで近寄って来る。
「どうしたの?翔ちゃん」
不思議そうに俺を見る日向。………あ、こいつ何が起こってるかわかってないな。けどじっくり話している暇は無いんだよ!
「早く!!早く俺を引っ張りあげてくれ!!」
「はぁ?引っ張りあげるって何から………きゃあ!!」
俺を『何言ってんだコイツ』的な感じで見ていた晃が俺の顔から足元に目を移し、一歩後ずさりながら声をあげた。
…………………………きゃあ?
いやいや、晃がどんな叫び声をあげようと今は関係ないって!
晃の声で日向と秋月も俺の身に何が起こっているのかを理解したらしい。でも目の前の現象が現実的じゃないせいか、言葉を失っている。
………あ、膝まで沈んじゃった。
「ほら!マジで早く頼むって!!絶対これヤバイぞ!!」
俺が前方に両手を突き出すと三人はハッとして動きだす。右から日向が、左から秋月が、中央から晃が俺を助けるために手を伸ばす。
――――――――――――――そして、世界が暗転したりした。
この作品を選び、そしてお読み頂き有難うございます。
初投稿ですので何かと不都合なことがあるとは思いますが、この先もどうかよろしくお願い致します。