表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/35

要するに使い辛いってこと



 「あーー良い天気だ。絶好の登校日よりだな!」

 「いや、俺はむしろ部屋でダラダラしていたい」

 「なーに言ってんだよ若いもんが!ほら、さっさと行くぞ!」

 「寝不足なんだよ!」

あぅーとけだるい声を発しながら俺はカイルに引きずられて寮の出入り口へ向かう。カイルは無駄にやたらと意味も無く迷惑なほどテンションが高く、とても厄介。つーかコイツすごい力強いな。

出入り口に向かうとそこにはあすかと楓と晃、それにリクトがいた。ただリクトだけはなにやら微妙にニヤニヤしている気がする。この俺の目を持ってすれば笑いを押し隠した表情なんて一目瞭然だ。

 「おっはよ二人とも!今日もいい天気だねぇ」

 「ようヒナタ!それにアキヅキとホウジョウとエリカ!」

 「だからあなたにはまだワタクシをエリカと呼んでもいいとは言っていませんわよ!」

 「まあいいじゃねぇか。気にすんなって!こんないい天気なんだからよ!」

カイルは挨拶をしつつ四人のほうに近づいていく。

……ただ、リクトのあの笑いが気になる。


・・・・・・・・・・・・判った!!


 「待てカイル、動くな!」

あいつらまであと約数mのところでカイルを呼び止める。やつは呼び止めた俺を怪訝そうにこちらを向いたが、俺がカイルを呼び止めた瞬間リクトの眉がピクッと微妙に動いたのを俺は見逃さなかった。

俺は近くにあった石を適当に魔術で浮かしてリクトとカイルの間に落とす。すると石が地面を貫通した。………いや、地面に空いた落し穴を覆っていたカモフラージュを突き破った。

 「なっ!!」

それは誰の声だったのだろうか。リクトかもしれないしカイルかもしれないし、はたまたあの三人のうちの誰かかもしれない。

 「まだまだ甘いな、リクト」

 「くっ!!」

俺がフッと笑うと悔しそうに口元を歪めた。

 「てめぇ、朝っぱらからなんてことをしやがる!」

 「フン、昨日の仕返しですわ」

リクトはカイルの言葉に毅然と返してはいるものの、その仕返しが防がれた事でなんともいえない心情になっているだろう。

 「まあいいじゃないか。こうして穴に落ちずに済んだんだからさ。元はといえば俺達から始めた事だし」

何とかカイルをなだめる。

ただこんな俺の優しさを不気味なものと認識したのか、あすか、晃、楓は少し後ずさっている。そして、その認識は正しい。

 「おいリクト」

 「……なんですの?」

 「罠を張る時は無駄なく優雅に美しくだ。………ククク、後ろを見てみろ」

 「なんですって!」

リクトは勢いよく後ろを振り向く。――――が、当然そこには何も無い。だって何もやってないし。

そしてその間に俺は昨日と同様に近くの葉っぱに小枝を混じらせてリクトの後頭部にピシピシと当ててやった。その衝撃で自分が騙されたと知り、『痛っ!』とリクトがこちらを向く。

 「さて、そろそろ行くか。いつまでもリクトと遊んでても時間の無駄だしさ」

 「おう。エリカはほっとくか」

 「ま、待ちなさい!!このワタクシに一度や二度ならず三度までも無礼な振る舞いを…」

後ろでギャーギャー言ってるけど面倒なので当然待たない。

俺とカイルは意気揚揚と、そして数人は誰かに気を使いながら、その誰かは喚きながら学校へと向かった。途中何度かリクトからの攻撃があったものの、その全てをカイル『で』防いだ。





      『たまには別視点もいいんじゃないかな ~あすか~』



わたし達が学校に到着して教室に向かうとそこにはもうフラーさんがいて、まだ顔も名前も覚えてないクラスメイトも全員居るみたいだった。もしかしたら遅刻したのかとも思ったけど、どうやら偶然わたし達が最後ってだけだったみたい。

翔ちゃんだけは『別に遅刻でもいいっさ』と言ってたけど、わたしは転校したばっかりでもう遅刻するのは嫌だったから安心した。わたし達が席に着くとすぐにホームルームが始まる。

エリカちゃんには自分のクラスのホームルームが終わったらこっちに来てくれるように頼んでから別れた。でもホントに『ホームルーム』っていう英語は通じるみたいでよかった。もし通じなかったら『ホームルーム』って言葉を日本語にして話さなきゃいけなかったんだし。そんなのわたしにはわからないから。


フラー先生の話によると来週のクラス分けまでは座学はやらずにずっと実技で、この間に自分の保有魔力を正確に把握したり、使える魔術を増やしたりするらしい。自分だけでやってもいいし、友達とやってもいいし、適当な先生に頼んで教えてもらってもいいとのこと。結局はずっと魔術の練習をしてればいいって言われた。もし自分の実力に自信があるならなんの練習もしなくてもただ学校に来てさえ居ればいいとも言われた。朝来た時と帰りの時の二回の点呼の時以外は自由。それを聞いて翔ちゃんが狂喜乱舞していたのがなんとなく少しおかしくて、少し可愛かった。


先生が出て行くとわたし達は集まって何をするのか話し合った。とは言っても当然魔術の練習しかないんだけど。

エリカちゃんもすぐに来てくれたけど、やっぱりエリカちゃんは昨日わたし達に話してくれたとおり有名みたいでクラスメイトがすこしざわつくのがわかった。

わざわざ集まったのはいいけど結局話し合ったのは何処で練習するかという『場所』のことだけで、話し合いの結果(というか翔ちゃんが『遠くまで行くのが嫌だ』って我侭を言った結果)この教室から一番近い第二魔術訓練場というところに行く事になった。『歩くのめんどくさいから飛んで行こうよ』と言った翔ちゃんと、その誘いに乗ったカイル君は窓から飛び降りたところで知らない男の先生に見つかって二人して怒られてた。それを呆れ顔で見ながらわたし達四人は歩いて訓練場に向かった。

 ――――それにしても、翔ちゃんはいつの間に飛べるようになったんだろ。あとで教えてもらおうっと。



訓練場はすごく広くて、校庭に無理矢理屋根を付けたようなところで、東京ドームが2~3個は入りそうなくらい。わたし達のほかにも何人かいて、それぞれが何かしらの魔術の練習をしているみたいだった。『バーーン』とか『ドカーーン』とか色んな音がする。


到着すると翔ちゃんがいきなり『ここからは別々に訓練した方がいい』と言い出した。理由を聞くと、『自分の属性や実力は知られないほうがいいからだ。「情報の隠蔽は大切だ」ってどっかの偉いおっさんも言ってたしな』と言い、それに納得したのかカイル君とエリカちゃんとは別行動。とはいっても訓練場の隅の方に行っただけだけど、それでもずいぶん遠くに居るように見える。

わたしは『その偉いおっさんって誰だろう』と思ったけど多分訊いても答えは返ってこなさそうだったから止めておいた。多分適当に言っただけでしょ。


 「エリカちゃんとカイル君は一人でやってて寂しくないのかなぁ」

 「大丈夫大丈夫。俺がちょくちょくちょっかい出しに行くから」

 「でもちょっかいを出す時以外はお一人なんですよね。私だったらみんなで一緒にやりたいと思いますよ」

 「いやいやいや、その前に迷惑でしょ!!」

楓ちゃんの自然なボケに晃ちゃんが突っ込みながらも、わたし達は一緒に練習する事になった。今更隠すことも無いし、なによりわたしと晃ちゃんと楓ちゃんだけじゃ戦いの訓練なんてできないから。あ、でも楓ちゃんは護身術を習ってたって前に聞いたような気がする。

 「よし、じゃあ訓練を始めるぞ。きょーつけ!」

教官を気取った翔ちゃんに言われたとおりにピッと立つとするとすぐに『休め』が入る。どうやら礼は無いみたい。



 「さて、最初にまず俺が昨日カイルから聞いた魔術についての話を聞いてくれ。それとも昨日お前らもリクトからなんかその辺の事聞いた?」

三人で首を横に振る。

 そう言えばわたし達、昨日はずっと服屋さんの話とかしてたっけ。

『なら丁度いい』と言って翔ちゃんは話し始める。『質問は最後に頼む』とも言った。


 「なんかさ、カイルから聴いた魔術を使う時の感じと俺のイメージとは違うみたいなんだよ。ほら、俺達ってただ漠然と風が吹くところを想像したり、椅子を浮かすような想像をしただろ?でもカイルが言うにはそんな事じゃ普通は魔術を起こせないらしいんだ」

 「でもフラーさんも魔術は想像だって言ってたよ?ただ考えるだけで電気が消えるって」

 それとは違うのかな。

 「俺もそれは気になったから聞いてみたんだよ。したらさ、ああいったマジックアイテムみたいなもんは製造過程の時に魔力が通りやすいように作られるから念じるだけでオッケーなんだけど、実際に火をおこしたり雷出したりする時は違うんだとよ」

 むぅ~難しいなぁ。

 「例えば『火』の場合、俺達だったらただ火があるところを想像するだけで火がおこせるんだよ。ほら、お前らもやってみ。楓とあすかは……『火』持ってなかったっけ。じゃあ『水』かなんかで」

ボゥッと手のひらに火を出したそういわれて翔ちゃんを真似て手のひらの上に水の球が出るところを想像した。するとすぐに何処からとも無く水球が現れる。昨日も魔術は使ったけど、改めて見ると『やっぱりファンタジーだなぁ』と思う。

 「うわぁすっごい!やっぱりわたし魔法使いだ!!」

 「いや、正確には魔術使いな」

 「あ……しっかりと冷たい水ですね」

 「ボクは手に全然熱さを感じないんだけど」

 「逆の手で触ろうとしてみ」

 「え?あっつ!!」


翔ちゃんが火を消したからわたしも水が消えるようにイメージしたのに水は消えなかった。………?どうして?

しょうがないからわたしも楓ちゃんの見習ってその辺にポイッと投げる。

翔ちゃんはまだ興奮さめやらぬわたし達………う、楓ちゃんと晃ちゃんは落ち着いてるや、わたしに落ち着くように言って、説明を続けた。


 「とまあ俺達の場合はこんな感じなんだけどさ、カイル曰く俺らはおかしいんだと。普通魔術を使うときは昨日変な羽の時にやったみたいにまず魔力を集中させて、さらにその後自分が使う属性を強くイメージするらしい。だから魔術を使うには多少のタイムラグがあるんだとよ。それをいかに短くするかが魔術の上手下手に繋がるとか何とか………ま、俺にも良くわからんけど」

 「なんか面倒なんだね。じゃあボク達は発動に至るまでの過程をすっ飛ばしてるってこと?」

 「まあそういうことだね。でもしっかり魔術は使えるんだし、気にしなくてもいいと思う」

 「ねぇ翔ちゃん、なんで翔ちゃんたちの『火』は消せたのにわたしと楓ちゃんの『水』は消せなかったの?」

 「えっ?えっと……あれじゃね?多分『火』はそれを維持するのに魔力を使ってるからそれを止めた途端に消えたけど、『水』は一度出したらオッケーだからじゃね?」

 そんな適当でいいのかなぁ。


話が途切れたところで楓ちゃんが『ちょっといいですか?』と口を挟んだ。

 「よくテレビとかだと『テクマクマヤコン』とか『エロイムエッサイム』みたいな呪文があるじゃないですか。その辺りのことはカイルさんから何か聞きました?」

 楓ちゃん……二つ目のほうだと違うものを呼び出しちゃうよ…。

翔ちゃんは楓ちゃんの言葉を聴くと『言い質問だ』と鷹揚に頷いた。ただ、わたしはそれよりも翔ちゃんと晃ちゃんがどうして楓ちゃんに突っ込まないのかが気になった。晃ちゃんだけはわたしと同じで突っ込み要員だと思ったのに。


 「魔術を使うときに何かしらの言葉を発するのには理由があるんだとよ。例えば、『この言葉を言えばあの魔術が出来る!』っていう認識をもっていたとすれば、魔力を練りながらその言葉を言うだけで魔術が完成するらしい。その魔術のイメージが深層心理に根付くほどよく見たり使ったりしていればの話だけどさ。一瞬で想像するのが難しい魔術なんかの時にはよく呪文が使われるらしい」

 「つまりショートカットみたいなものですか。便利ですね」

 「まあな。でもデメリットもある」

 デメリット……なんだろ?

 「もしその呪文を言ってる最中に自分が噛んだり咳き込んだりして呪文に失敗したら魔術は発動されないんだって。それどころか溜め込んだ魔力も霧散するから単なる無駄遣いに終わるらしいぞ。………わかった?あすか、呪文についてはお前が一番不安なんだぞ」

 「う、だいじょぶ……だと思う」

 確かに、わたし早口言葉苦手だからなぁ……断言できない。



 「最後にもう一つだけ言っとく事がある。魔術の発動の仕方についてなんだけど、これは二種類あるんだよ」

 「どうゆうこと?」

 「一つ目は自分の魔力を媒体にして何かしらの魔術にする方法。さっきお前らも水だの火だのを出したろ?あれは自分の魔力を変換して水や火に変えたんだよ。基本的に、何も考えずにただ何かしらの魔術を発動させればこの方法でらしいな」

 ふぅ~ん。

 「二つ目は魔力を使って、今この場所に存在している自分の属性の物質を操作する方法だ。つまり、こう言うこと」

そういって翔ちゃんは立てた人差し指に小さな水球を作り始める。

 「この水は俺が魔術をつかって作り出したんじゃなくて、魔力でこの辺に漂ってる水蒸気を集めたものなんだよ」

翔ちゃんが話している最中に水球は大きくなっていき、手のひらサイズになった。

 「それがさっきのとどう違うの?結果として水が出来るならどっちでもいいでしょ?」

 「まぁ確かに結果としてはあんまり変わらないけど疲労度が全然違うんだとさ。自分の魔力を変換する方法とこうやって既に在るものを操作する方法とじゃ後者のほうが全然疲れないらしい。ただいつでも何処でもつかえる方法じゃないらしいけどな」

そういって指を立てているほうの手首を軽く負って、水球を飛ばす。

 う~ん……そっか、今の『水』だって砂漠とかじゃ殆ど出来ないだろうし、『草』の魔術だって周りが石だらけとかだったら一個目の方法で発動させるしかないもんね。

 「よし、じゃあ実際にやってみよう。まず自分の属性の魔術を全部使えるようにならないとな」

 「翔ちゃんは出来るの?」

 「うん。昨日夜更かしして色んなことをやったから」

 だからあんなに眠そうだったんだ。

 「あ!そう言えばわたし空の飛び方知りたい!」

 「私も知りたいです」

 「ボクもボクも!」

 「ええい、そんなものは後だ後!それよりも大事な事がいっぱいあるの!!」

 むぅ~。

そう言われてわたし達は渋々翔ちゃんの言うとおりにちょっと離れた。




この後は翔ちゃんの言う通り魔術をいっぱい練習した。風をおこし、水を集めて、それを凍らせ、傷つけた木に癒しをかけて治したりした。翔ちゃんが『召喚はまだ使うな』っていうから使ってないけど。理由を聞いたら『理由はわからんけどカイルがそう言ってた』だって。

自分がまるで映画や漫画の世界に飛び込んだみたいでスッゴク楽しくて、最初のうちは張り切って練習したけどお昼頃までずっとやっているとそれにも慣れて段々と疲れてきた。風を刃にして『えいやっ』って飛ばすのも、水を津波のように『ブワッ』てするのも、とがらせた氷柱を『とおっ』って飛ばして攻撃するのにも慣れた。

……ちなみにこっそり空を飛んでいる自分を想像したら思いのほか簡単に自分が浮いたことにはすごく驚いた。でもわたしはスカートだったから高く飛べなかったのはちょっと残念。


 「あ、そうだあすか。ちょっと来て」

翔ちゃんがわたしだけを呼んだ。なんだろうと思いながらスッと走り寄る。

 「ピョコピョコ……違う、今のはテテテって感じかな」

 「ふぇ?なにが?」

 「いや、なんでもない。これから先生に『召喚』について色々と訊きに行くんだけどさ、お前も一緒に来て欲しいんだ」

 「訊きに行くって何を?カイル君には何にも教わってないの?」

 「あいつが言うには、『召喚』はちょっと特殊だからちゃんと使えるやつに訊いた方がいいんだとさ。だからなんも聴いてない。都合のいい事にデラクール女史が『召喚』使えるらしいからな」

 へぇ~、わたしが言うのもなんだけどフラー先生って高位魔術が使えたんだね。

 「じゃあカイル君に翔ちゃんが『召喚』を使えること知られちゃったの?」

 「いや、その辺は『記憶喪失』ってことを話したりして適当にぼかしたから知られてないと思う」

 そっか、翔ちゃんも記憶喪失のことを話したのか。わたし達だけじゃ無くて安心した。

わたしはエリカちゃんに記憶喪失について話した事を翔ちゃんに伝えながらフラーさんがいるはずの職員室に向かった。こうして翔ちゃんと二人きりになれる機会は少ないから、ちょっぴりこうしていられるのが嬉しかったな。


 ……あぁ疲れた。翔ちゃんが『試してみ』って言うからやってみたけど、日記っぽく色んなことを考えるのは大変だ。









 「まったく……まだ色々と仕事が残ってるのに……」

俺達は職員室でなにやら書類に書き込んでいるデラクール女史を拉致……じゃなくて説得して適当に人気がなさそうなところに連れ込み、今まさに教えを請おうとしているところだ。っつーか教師なんだからいつまでもブツブツ言ってないでさっさと俺達に教えやがれ。

 「それで、何が聴きたいの?」

 「だぁーから『召喚』についてだって何度も言ってるだろう!」

 「今初めて聴いたわよ!」

 ………ん?あそう。

 「ったく、というかクラス分け試験なんかで『召喚』を使う生徒なんて普通居ないわよ。もっと他の魔術の練習でもしたら?」

 「他の属性はもう使えるから大丈夫。な、あすか」

 「うん、バッチリ!」

 「……え、全部?」

俺達は口を揃えて『全部!』と答える。

 「……なんなのよあんた達は。もう何でもありね……」

デラクール女史は呆れたように言った。


俺にはこの時どうしてデラクール女史がこんな態度だったのかわからなったが、後から知った話だと、本来いくらその属性を持っているとは言え初めてその属性の魔術を発動させるには結構な時間がかかるらしい。一口に『想像』といっても俺達と他のやつらとでは別物なんだろう。よくわからんけど俺達のやり方は簡単になっててラッキーだ。

 「まあいいわ。『召喚』についてだったわよね、話してあげましょう。教師たるもの生徒の頼みは無碍に断れないし」

 「そうそう、さっさと教えてくれたまえ」

 「行きましょうアスカちゃん。あんな化け物はほっときましょうね」

 「スイマセンゴメンナサイ」

 っつーか化け物扱いはひどすぎるよ!化け物はあすかの腹だけで十分だ。


ガコッ!


 「あがぁ!!何で脛を蹴るんだよ!」

 「自分の心に聞いてみなよ」

 くっ!あすかめ……こんな時ばっかり無駄に鋭い。いつもはもっとポワポワしてるくせに!!

 「ほら、聴くならちゃんと態度を改めなさい」

 むぅ、仕方ないな。

背に腹は変えられないので真面目に聞くことにする。


 「いい?『召喚』はまあその名のとおり何かを召喚する魔術よ。その召喚の方法は3つあるの。一つ目は自分が契約したものをその場に呼び出す方法。有機物であっても無機物であっても自分が契約したものならいつでも呼び出せるわ。こんな感じでね」

そういってデラクール女史が指を鳴らすと空中になにやら薄い紫色をした魔法陣が地面と水平状態で現れて、そこからポトンと木の枝が落ちてきた。……いや、枝じゃなくて杖だあれ。ハリーポッターとかで出てきそうなやつ。そして俺が杖を見ている間にいつのまにか魔方陣は消え去っていた。

横をみるとあすかは『ほへー』ってな感じで今の光景を見ていた。まあその気持ちも判らなくない。見た感じ地味だったけど何も無いところから物を出すなんていかにも魔法っぽい。あ、違った、魔術っぽい。

 そういや『魔術』と『魔法』の違いってなんだろう。カイルが違うって言ってたのを聞いただけだからよくわかんねーや。


 「契約の仕方は最後に教えるからとりあえず今は話を聞いておいてね。次は二つ目、コレは3つの方法の中で一番難しいわ。これは、自分が想像したものを現界させるという物よ」

 ――――え?なにそれ、最強じゃない!?なんでもってことは……何でもだよな!?

 「ただし、今も言ったけどこれは本当に難しいわ。なにせ召喚するものの『全て』を想像しなければいけないんだから」

 「どうゆうことですか?」

 「言葉どおりの意味よ。……そうね、例えばこの方法で石を召喚してみましょうか」

そう言って指を鳴らす。すると先程と同様に魔法陣が現れ、そこから綺麗な楕円形の小石が落ちてくる。

どうでもいいけど、この人何かにつけて石を持ち出すよな。石フェチ?

 「この石を召喚するためには色々なことを考えなきゃいけないの。形や材質、色なんかね。もしコレが武器とかになってくるとそこに威力や耐久性、構造、なんて風に増えていくわ。そんなことを一瞬で出来ると思う?」

そう言ってデラクール女史は石をその辺に投げた。もう必要ないらしい。

 でもまぁ……確かに、出来ないな。つまり戦闘中には使えないってことか。つまらん。

 「でもフラーさん、別に一瞬じゃなくてもいい時なら大丈夫ですよね?もしくは戦いの前に先に出しておけば良いと思うんですけど」

 あ、そうか。時間制限さえなければなんでも出せるだろうし。

しかし、デラクール女史は首を横に振る。

 「問題はそれだけじゃないわ。私が出した石を見てみなさい」

そういわれて地面に目を向けて石を探す。

―――――――――あれ?見つからない。

 「想像を創造したものはある程度の時間が経つと消えてしまうのよ。時間は個人差があるけれど、基本的に練りこんだ魔力量に比例して長くなると考えていればいいわ。私は元々あまり魔力量が多い訳じゃないからすぐに消えちゃうけど、あなた達ならもっと持つでしょうね。でもそれでもその時間はたかが知れてるから戦闘前に用意したり、創造したものと契約して一個目の方法で召喚したりは無理なの」

 な~んだ、そこまで万能ってわけじゃないのか。

 「それにこの方法だとかなりの魔力を消費するわ。最初の方法とは段違いでね」

 面白そうだけどなんか色々問題も多いな。……でもまぁ後で試してみよっと



 「そして今から説明するのが最後の方法。これが一番簡単に出来る召喚で、なおかつ一番危険な召喚でもあるわ」

急に真面目な表情になってそんな事を言い出した。

 「ただただ魔力を練りこんで何かを召喚する。ただそれだけよ」

…………?

 「この世界にある『何か』を呼びだそうとしながら『召喚』を発動、そうすれば自分が使った魔力量に応じてこの世界の何処からか何かが召喚されるわ。魔力が少なければそこらへんに居る虫や小動物や小石かもしれないし、多ければ妖精や精霊と呼ばれるものすらも召喚できる」

 妖精?精霊?そんなんいんのかよ!超見たい!

 「それで、何が危険なんですか?召喚したら言う事を聴いてくれるんじゃないんですか?」

 そうそう、あすかの言うとおりだ。たいてい召喚っつったらご主人様と使い魔って感じの関係になるんじゃないのだろうか。

 「そんなわけ無いわよ。確かに召喚されるほうは無理矢理召喚されるわけじゃないけれど、それでも自分を召喚した相手を主人と認めるかどうかは話が違ってくるわ。アスカちゃんだって、急に変なところに連れて来られて『言う事聞け』って言われても聞かないでしょ?」

 「あぅ…しません」

 「いやいやいや、その例えなんとなくおかしいだろ。ってかなんで召喚された側の気持ちを知ってるのさ。無理矢理なわけじゃないとか」

 「本にそう書いてあるもの」

 さいですか。

 「召喚された相手が言う事を聞かなくても、すぐに帰ってくれればまだいいわ。最悪襲い掛かってくる事もあるから。特に使用者の魔力量が中途半端な場合はたいてい頭の悪い生物が召喚されるから、その危険性は極めて高くなるわね」

 んー……んで少なすぎたら全く使えない何かが出てくるわけで。

 「じゃあ多かったら?」

 「その場合は逆に頭のいいことが多いわよ。ま、召喚された者の知能が高くても殺される時は殺されちゃうけど。頭がいい時は人間とは比べ物にならないほど強力な場合が多いからね」

 なんだよ………『召喚』とか超危険じゃん。カイルの言う事聞いといてよかった。迂闊な事をして変な生物に殺されちゃたまらんからな。

 「じゃあ『召喚』って一個目の方法以外はあんまりやらないほうがいいってことですか?」

 「そういうことになるわね。でもそれだけでも『召喚』はとても便利よ。何より荷物が少なくなるし、授業で使うものを教員室に置き忘れても契約さえしておけばすぐに出せるし。フフフ」

 フフフじゃないよフフフじゃ。高位属性をそんな事に使っていいのかオイ教師。…………でも便利だなホント。


 「さてと、一応概要は話し終えたし今度は契約と契約破棄のやり方ね。といってもとっても簡単だからすぐに終わるけど。二人とも、どっからか適当に木の枝か何か持ってきてもらえる?」

それを聞いて俺はおもむろに手のひらの上に小さな木を生やして適当なところで折ってあすかに渡し、『ありがとっ』という感謝の言葉を聞きつつ自分の分も確保してから残った部分をその辺に捨てた。

デラクール女史のあの表情は多分『本当にもうしっかりと魔術使ってやがるよ…』とでも考えているのだろう。軽く咳払いをしてから話しを続けてくれた。

 「じゃあその木の枝に手を当てて『契約しよう』って考えながら魔力を送り込んでみて」


言われたとおりにしてみる。左手に持った枝に右手を当て、『お前ちょっと俺と契約しろよ』と念じながら魔力を送る。すると触れたところから直径がちょうど枝の全長と同じ長さの魔方陣がブワッと指先から広がり、すぐにフッと消えた。

あすかをみると目が合った。どうやら同じことが向こうでも起こったらしい。ちなみに魔方陣は簡単には描けそうも無いめちゃくちゃ複雑なものだった。すぐに消えちゃったからよく覚えてないけど。

 「はい、それで契約終わり。これでその木の枝は燃えたりしてなくならない限りはいつでも呼び出せるようになったわよ。今は契約対象が無生物だったからこれだけだけど、もし対象が生物だったらそこに相手の同意が必要だけどね」

 同意ってなんだ?相手が言葉を喋れなかったらどうやって同意を取るんだっつーの。………どうせ『本に書いてあった』とか返答されるのがオチか。

 「ほらほら、さっさとそれをどこかに投げて『召喚』してみなさい。召喚するものを思い浮かべて『来い』って念じながら『召喚』を使えばいいだけだから」

とりあえず枝を頬り投げる。遠くにあるのを確認した上で『木の枝来い!』と念じると急に枝が消え、俺の目の前の魔法陣から落ちてきた。その魔法陣は一瞬で消える。

 「うおっ!なんだこれ面白い!」

 「ふぉぉ、何回やってもちゃんとわたしのところに来るよ!!」

どうやらなにかがつぼに嵌ったらしく、あすかは何回も枝を投げては召喚で呼び戻す行為を繰り返していた。

 ………これってあれだよね、言い方を変えれば『あすかは俺の隣で一心不乱に一人遊びを繰り返している』ってことだよね……。

 一人遊び……一人遊び……即座にそう考えてしまう自分が虚しいわけが無い。



 「じゃあ私はもう行くわね。契約を破棄する場合は契約する時と同じようにしながらそう念じればいいだけだから」

そういってデラクール女史は立ち去っていった。なんともアバウトだ。

とりあえず言われたとおりに契約を破棄してみる。ぶっちゃけ木の枝なんて契約してても悪戯する時以外に意味なんて無いし、作り出そうと思えば作れるし。

ちなみに契約する時と同じエフェクトだった。無事に契約破棄が終了し、未だに一人遊びを続けるあすかにそろそろ戻ろうと声をかける。

 「召喚ってすごいんだねぇ。便利だよね!」

 「ああ。これで例え街中でいきなり素っ裸になったとしてもすぐに服を着れるな」

 「そんな状況普通はないでしょ!というかなっちゃった時点でもう人としてお終いだよ!?」

 「……人生何が起こるか判らない。そう思わないか?」

 「……なんだろう、こんな世界に来ちゃった以上、その言葉ってものすごく説得力ある…」

 「そういやふと思ったんだけどさ、店とかでこっそり契約しちゃえば商品盗み放題じゃない?……いやいや、冗談だから!そんな顔すんなって」

 「………ホントかなあ」

 「本当だって。アレアレ、嘘ついたらハリセンボンおいしく頂くよ」

 「ただ魚食べてるだけじゃん!ちゃんとそのまま飲み込むかもしくは針千本にしてよ!!マチ針とかミシン針とかさぁ!」

 「そんな事やったら死んじゃうじゃないか!」

 「お店のものを盗まなきゃ言いだけでしょ!」

 「まったく……あすかが『召喚は便利』なんていうから…」

 「わたしのせい!?」

ペチャクチャ喋りながら着た道を戻る。この会話で判った事は、俺は思っている以上に信用がないということだ。自業自得の様な気もしなくは無いけどココで認めてしまっては男が廃る。すべてをあすかのせいにして話しつづけた。いや、突っ込まれつづけた。最後のほうはあすかも突っ込み疲れてた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ