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第97話 夏と言えばバレーと結びつくものなんだなぁ

米太郎と水川の嫌がらせでとんだ赤っ恥をかいた。あの後、スイカは普通に切って皆で食べました。うん、美味しかったよ。ただ俺は恥かいたけどね!


「よ~し皆ぁ、バレーボールしようぜ」


米太郎がボールを投げてきた。あ~ムカつく。なんとなくムカつく。米太郎ムカつく!


「おい将也、顔が歪んでるぞ。まだ根に持ってるのか」

「そうだ」

「そうか。いいからビーチバレーしようぜ。せっかくの海なんだ、ビーチバレーしようぜ!」


しようぜ、しようぜ、うるせーよ。ムカつく、あぁムカつく!


「ネットも準備されているし、やろうよ。ね?」


火祭に言われちゃあ、やるしかないっしょ! 気分一転、気持ちはビーチバレー!


「オッケーやろう! チーム分けだ、チーム分け。はい、グーチョキパーで分かれましょい!」

「兎月、さっきから感情の入れ替わりが激しいよ」

「つーか、どうやって分かれる? 五人だと中途半端だし、あと一人いれば……」

「やあ、皆。楽しんでいるかい?」


都合よくご登場、金田先輩。ナイスタイミングで賞。


「これで六人だな。よっしゃ、グーチョキパーで分かれましょい!」

「あの、待ってくれ。僕はいいよ。運動は苦手だし」

「まあまあ金田先輩。せっかくの海なんだから、ちょっとは遊びましょうよ」


受験が大事なのは分かりますが、ちょこ~っとぐらい遊んでも大丈夫ですって。


「う~ん、そうかな? なら、僕も参加させてもらおうかな」


つーわけで金田先輩も参加。これでチームがきれーに分けられる。やったね。


「じゃあグーチョキパーで分かれましょい!」


この台詞もう三回目。






なんやかんやとあって今からビーチバレーをしまーす。チーム分けは、


「よろしくな火祭」

「うん、まー君」


俺と火祭、


「頑張ろうぜマミー」

「マミー言うな」


米太郎と水川。そして、


「恵さん、よろしくね」

「……」


金田先輩と春日。うんまあ、なかなか良い感じにチーム分けできたと思う。


「……兎月」


春日が手を挙げる。おぉ、珍しい。春日が自分から発言するなんて。その表情から察するに何か不満があるようで。


「どうした?」

「チーム変えしたい」

「め、恵さん!?」


いきなりチーム変更を要求しやがったよ。どんだけ金田先輩のこと嫌いなんだよ。一応、元婚約者同士じゃん。小さい頃とか一緒に遊んだとか言ってたよね。そんなに気嫌いしなくてもいいじゃないっすか。


「けどチーム決まっちゃったし。金田先輩には申し訳ない台詞ですが、これで我慢してよ」

「そ、そうだよ……」


すいません、金田先輩。でも、この娘はこういう性格ですから。


「嫌」

「まあまあ。な?」

「……嫌」


うーん、本気で嫌がってるよ。そんなに嫌かね……。俺も金田先輩に気ぃ遣ったりと色々大変なんですが。金田先輩は俺達をこの島に招待してくれた方なのだ。その人に無礼があってはならないと尽力を持ってフォローしなくちゃならんのは当然のこと。しかし春日は露骨に嫌な態度を取る。はぁ、じゃあどうしたらいいんだよ。


「なら、恵は誰とがいい?」


ナイスフォロー水川。少し気まずい雰囲気になりかけたのを水川が打ち消してくれた。うん、彼女に任せたらこの気まずい感じをなんとかしてくれるでしょう。


「………兎月」


まさかの俺指名。そして嬉しい。なんか、こう、春日から信頼されているというか、やっぱ下僕として頑張ってきただけのことはあるな、みたいな。


「駄目! まー君は私と組むから」


すかさず火祭が反論。これまた嬉しい。火祭からもこう言ってもらえるなんて俺は感無量です。これでモテモテだと自惚れはしないけど、慕われてるなぁとぐらいは思ってもいいよね?


「……兎月」

「駄目っ」

「め、恵さん……」

「いいから始めようぜ。どうせ俺らのチームが一番強いんだから」


どいつもこいつも自分勝手に言いやがって……もう収拾つかないって。水川ぁ、なんとかして。


「じゃあさ、恵。あとで兎月が一発芸するからさ。それで我慢してね」

「……分かった」


とんでもない解決策を出しやがった。一発芸って……今まで一回たりもしたことないぞ!?






またもなんやかんやとあったけど、やっとこさビーチバレー開始。ちゃんとネットもあるし、なんて立派なビーチなのでしょう。一体誰が用意したのやら。金田家に仕える人達と言えば簡単に答えが出てしまうけどね。


「しゃあ! 水川、やるからには勝つぞ」

「はいはい」

「頑張ろうね、恵さん」

「……」


まずは水木チームと日金チームの試合。つか……さっきから春日がこっちを見てくるが、どうしたらいいのやら。そのチームで納得してもらわないと。どんだけ嫌がってるんだよ。


「はっは~! 元バレーボール部エースの実力を見せてやるよ」

「いいから早くサーブしろ」


お前の自慢は何度も聞いてきた。体育の授業、クラスマッチとな。そしてろくな結果を出していない米太郎。


「はあぁっ! くらえ、刹那蟋蟀~」

「ぐああぁっ! コノヤローまだそれ引っ張るかぁ! もうやめてくれ!」


さっきのスイカ割りのことはもう忘れろ! 恥ずかしいんだって、ちょっとカッコイイ技名考えた自分が恥ずかしいんだって! うぅ、もうあんなことはぜってーしない。もっと普通に生きよう。


「私はカッコイイと思ったよ」


慰めてくれる火祭の言葉も今の俺には傷口に塩の如く。さらに惨めな気持ちになるだけ。などと俺がブルーになるのとは対照的に試合はどんどんヒートアップ。


「刹那蟋蟀サーブ~」


しつこく何度もイジってくる米太郎。すげー嫌な奴。加減を知らない小学生のようにひたすら馬鹿にしやがる。そろそろ本気で泣いちゃいそう……。


「恵さん、そっちにいったよ!」

「……」


おろおろと動き回る金田先輩と、完全停止の春日。あれれれ、春日に戦う気は微塵もないようだ。クラスマッチのバドミントン同様、両手をだらんと下げている。一切ファイティングポーズをとらない。ボールをぼんやりと目で追うだけで動かない。そしてたまにこちらを睨んでくる。俺が何かやりましたか?


「め、恵さん……」


金田先輩も動き回るだけで何も出来ない。ただボールを追ってそれで終わり。ちゃんとレシーブとして返せていない。とどのつまり試合は水木チームのパーフェクト状態。おいおい、ひど過ぎるだろ。


「春日、もっと真面目にやりなさい」

「うるさい」


一蹴されちゃいました。俺をギロリと睨むぐらいなら、ボールを追いかけなさいよ。


「ひゃははは! どうだ、これがバレーボール部エースの実力だぁ!」


完全に調子に乗った米太郎は遠慮なしにサーブを連発。一方的なラブゲームが続く。あいつに手加減という概念はないのか。ちょっとは空気読めよ。


「ぜぇ、ぜぇ……」


散々動き回った金田先輩の体力は底をつきそうだ。いつダウンしてもおかしくない。まともなレシーブは一回しかなかったぞ。


「と、兎月君……僕はもう……」

「しっかりしてください。先輩は会社を継ぐんでしょう? こんなところで倒れちゃあいけませんって」


とはいえ、金田先輩はもう限界。フラフラのボロボロだ。ビーチバレー程度の運動でボロボロのフラフラなのだ。勉強も大事ですけど、もうちょっと運動した方がいいですよ。


「どうか、僕、の代わ、りに……会社を継いで…く……」


熱々の砂浜に崩れ落ちる金田先輩。


「か、金田先輩ぃー!」


力尽きる金田先輩。か、金田先輩ぃー! 死んじゃ駄目ですって。つーか俺に会社は継げません!


「お、俺はなんてことを……」


今更気づいても遅いわ米太郎。そこで反省していろ。


「……」

「お、おい春日。黙って見てないで助けろよ」


動かなくなったネジ式人形を見る子供のように、無感情の瞳で金田先輩を見下ろす春日。何も動じず何も喋ろうとしない。怖いわ! 手を差しのべるとかやることはあるでしょうが。


「か、金田先輩?」


慌てて駆け寄るが、金田先輩はぐったりしている。あ~、日頃の疲れが溜まっていたのかな。こりゃ当分起きないかも。そして春日、俺を蹴らないで。


「中井さーん!」

「お呼びでしょうか」


名前を呼べばすぐに駆けつけてくれた執事の中井さん。素晴らしい瞬発力。


「金田先輩を運んでくれませんか? そのうち目覚めると思うので」

「かしこまりました」


金田先輩を抱えて中井さんは砂浜から去っていった。う~ん、無理に運動させたのがまずかった。招待してくれた先輩をダウンさせるなんて……よくもしてくれたなぁ、米太郎!


「火祭! 金田先輩の仇だ。あいつをボコボコにしてやろうぜ」

「うん」


つーことで二回戦。春日と代わって、俺と火祭がコートに入る。待ちに待った月火チームの登場だい!


「ほほぅ、この俺に勝てるとでも? 浅はかだな」


こいつは一度ぶっ飛ばさないとな。金田先輩の仇、そして……


「じゃあいくぜ。刹那蟋蟀ぃ」


俺のプライドのため。まだ引っ張るかコノヤロォ! ぜってー許さねぇ!


「私に任せて」


米太郎のサーブを軽やかに返す火祭。さすがは運動神経抜群の火祭、見事なレシーブ。ボールは俺の頭上。いつしかの体育の授業みたいに春日の邪魔がないなら余裕で返せる!


「火祭っ」


我ながら完璧なトス。次の瞬間には火祭は飛んでいた。砂浜を翔ける天使のように。白くて細い綺麗な右腕を大きく振り降ろして……


「はあっ」


最高の形で決まったスパイク! 鋭く空中を走るボールは真っすぐ米太郎の右足にヒットした。


「ぐあ!?」


右足が弾け飛び、バランスを崩して米太郎は地面にぶっ倒れる。ぶはははっ、情けない姿だな!


「や、やってくれたな……!」


よろけつつ起き上がろうとする米太郎。これで終わりとでも? まだまだだぜ。


「火祭」

「うん」


今度はこっちのサーブ。素早いクイックで放たれた火祭の高速サーブはブレることなく米太郎目がけて一直線。体勢を整えられていなかった米太郎はボールに反応出来ず、ボールが顔面に激突。呻き声を上げてまたも倒れる。痛みで顔が歪みまくりだ。なんと無様な。


「おらおらぁ、まだ俺らのターンは終わってないぜ! ドロー!」

「どこの遊戯だ、ぶべぇ!?」


ツッコミをさせる瞬間すら与えねぇよ。さらなる追撃で米太郎をぶっ飛ばす。連続尻餅状態の米太郎。なんと無様な。


「火祭!」

「うん!」


そしてきました火祭の弾丸サーブ。華麗なジャンプサーブはプロかと思えてくるほどだ。その華奢な体からはありえない威力の弾丸サーブを放つ。


「ぐはぁ!?」


砂浜をのたうち回る米太郎。その姿は死にかけの虫のようだ。ピクピクと足が痙攣している。


「あれれ~? 元バレーボール部エースの実力はこの程度かぁ? こりゃ俺もエースに立候補しちゃおうかな」

「くっ、将也ぁ……! 調子に乗……げほっ、げほっ」


死にかけの米太郎。もうそろそろ楽にしてあげないとな。


「おらぁ!」


渾身のサーブを放つ。しかし米太郎は片膝をつきながらもそれを返す。まだ粘るか。


「み、水川頼む」

「はいはい」


水川がポーンとトスしたボールを米太郎が決死のスパイク。こんな状態で反撃に転じるとはさすがバレーボール部エース。ま、自称だけど。


「任せて」


残念ながらエース火祭の前には意味をなさない。何事もなかったように冷静にボールを受け止める。上がったボールを俺がトスし、火祭が舞い上がる。


「はあっ」

「ぶべらぁっ!」


火祭の強烈スパイクは至近距離で米太郎の顔面を捉えた。パァン! と銃弾が撃たれたような衝撃音。頭からぶっ飛ぶ米太郎が宙を飛んだ。さすがにグロテスク! しかしさらにボールは生きている。米太郎の顔面にぶつかったボールがまたこっちに戻ってきた。


「とどめだな」


火祭のトス。俺は両足のバネを使い、一気に飛び上がる。広がる視界、上空は燃えたぎる太陽、下には砂浜に倒れこむ米太郎。


「もう二度とイジれないようにしてやるよ。くらえ、刹那蟋蟀!」


恨みと怒りを込めた全霊の刹那蟋蟀は米太郎の顔面を弾き飛ばした。顔面に二発連続でくらった米太郎は砂浜を転がりこみ、ピクリとも動かなくなった。


「すいませーん、中井さん」

「お呼びでしょうか」

「こいつも運んじゃってください」



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