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第91話 喜怒哀楽の昼食

……死ぬかと思った。土下座して春日と火祭に詫びを入れ、米太郎達をボコボコにしてやった。くそ、あいつらのせいで無実潔白の俺の腕に変な痣ができてしまったじゃないか。触ると激痛が走る。……帰りに病院寄っていこ。


「佐々木と山倉は昼ご飯抜きね。そこで正座していなさい」

「はぁ!?」

「それはあんまりだろ!」


米太郎と山倉の非行は水川に漏洩し、彼らにはペナルティが科せられた。ざまーみやがれ。


「将也、お前もだろ。一緒に正座するぞっ」


おいおい、もう俺を巻きこむな。濡れ衣を着せられて俺の両腕は折れかけたんだからな。


「兎月だって興味あるだろ!? だったら同罪だ! 共に昼抜きを味わおう!」


嫌だ、普通に昼ご飯を味わいます。そして否定出来ないことを言うな。興味がないと言ったら嘘になるし、あると言えば鬼神の二強が暴れだす。……俺に逃げ道はないじゃんか。


「でも、まー君の部屋にそういう本はなかったよ」


……ちょ、火祭さん?


「い、いきなり何言ってるの?」

「先週、まー君を看病しに家に行った時に部屋中探したの。ベッドの下とか机の引き出しとか。でも見つからなかったの」


……き、きゃああぁっ! 恥ずかしい! この娘、俺が風邪でうなされている横でエロ本探していたのかっ! だから昔のアルバムとかいっぱい机に乱雑していたんだね、って何やってんですか火祭ぃ!


「一冊もなかったの?」

「うん」


ちなみに俺はエロ本の類は持っていません。単純に買う勇気がないから。エロ本をレジに持っていく度胸がない情けないヘタレですので。


「どーせ将也は買いに行く勇気がなかったんだろ。情けない奴だな」


そしてそれをバラす米太郎。あいつマジで許さねぇ……俺のヘタレエピソード暴露してんじゃねぇよ! 汗顔の至りだ。超恥ずかしい。


「まあまあ、とりあえず昼ご飯食べよう」


ナイスフォローの水川に拍手。空気の読めない米太郎と違ってとても素晴らしい。大好きだぁ! 

さて、大変そうでどこか楽しくもある清掃活動も半分終わった。今からは皆嬉しい昼食タイムだ。こういうイベントの時に食べるご飯って格別だよね~。


「兎月先輩、持って来ました」

「おう、ありがとな」


皆のお弁当や荷物は近くの民家に預けてあり、一年男子部員の二人が取りに行ってくれた。ありがとう後輩。芝生の上に大人数用の巨大ブルーシートを広げる。皆それぞれ適当に座って、自分のお弁当を取り出す。


「ほら、山倉と佐々木も座りなよ。ご飯食べていいから」

「ま、マジで!?」

「イャッホー、水川優しいー」


寛大なる水川部長殿は馬鹿二人のお咎めをあっさり許した。良かったなお前ら。


「さて、俺のお昼ご飯ちゃんは~……ん? あれ……は………え、ちょ……ない」


おかしい。なぜだ。後輩が運んでくれた鞄の中に俺の昼食がない……。俺の昼食、俺のパン、俺の楽しみがない! はあぁぁっ!?


「ちょ、待って。なんで? カツサンドの姿が見当たらないんですけど……えぇ!?」


他の皆が次々と自分の弁当を取り出している。が、俺の鞄には何も入っていない。馬鹿な、ちゃんとパンは入れたはず。嘘だろ………なんでないんだ……?


「お前ら持ってくる途中で落としたんじゃないのか!?」


真っ先に後輩二人を疑う最低な先輩の俺。でも後輩二人は首を横に振るだけで彼らを疑うのはまったくのお門違い。じゃあ、どうして……?


「わり、将也。さっき俺が食べた」

「米太郎テメーかぁ!」


ふざけんなよ! 何してくれてんだ! カツサンドがないと、カツサンドがないと俺は……昼抜きじゃねーか!


「なんで俺が昼飯抜きなんだよ! エロ本も読まず真面目に掃除した俺がなんで!」

「あはは、めんご~。朝どうしようもなく空腹でさ。いい感じにカツサンドがあったから、つい」

「つい、じゃねーよ!」


歯噛みする俺をスルーして米太郎は涼しげに自分の弁当を食べていやがる。こいつの弁当奪ってやりたいが、おかずが野菜だけの弁当なんて食いたくもない。この野菜馬鹿が……! 

くそっ、盗み食いして掃除そっちのけでエロ本読んでいた米太郎がなんでのうのうと昼食を楽しんでいるんだよ。世の中不公平だチクショー。


「はぁ……」


文句を喉が枯れるほど叫んでやりたいが、そんなことしてもカツサンドは返ってこない。これはもうどうしようもないな……はぁ。


「あ~、外の空気は美味いな~……」


悲しい……。他の皆は仲良くきゃぴきゃぴとランチしているのに俺は一人寂しく風に吹かれる。ぐるるる、と腹がひもじそうに鳴く。俺も泣きたいわ。なんだろーな最近……なんか不幸が続いているような気がする。先輩に暴力を振るわされるわ、風邪は引いてしまうし、春日父に殺されかけるし。どうしたよ神様、俺が何かしましたか。真面目に頑張った俺がなぜこんな仕打ちを受けなくちゃならんですかぁ。


「あの、まー君」

「ん?」


うなだれる俺に火祭が声をかけてくれた。火祭の可愛い顔が空腹を紛らわせてくれ……ないか。腹減った……。


「えっと、その……」


よくよく見ると火祭はお弁当箱を二つ持っている。


「火祭って大食いだったんだな。ちょっとびっくり」

「ち、違うよ。こっちはまー君の分」


え? 俺の分? ま、まさか……!


「え、えっとね、まー君の分もお弁当作ってきたから、その…良かったら……た、食べてくれる……?」

「いいの!? もちろん頂きます!」


即答で火祭から弁当箱を受け取る。うはぁ、やったぜ! 棚からぼた餅、略してたなぼた! こ、こんなことがあるなんて……嬉し涙が止まらない……!


「ありがとう火祭!」

「う、うんっ」


貧しい民に救いの手を差し延べるかの如く、今の俺にはガチで火祭が天使に見えた。いや、涙で視界が潤んでよく見えないや。嬉し涙が止まらない。


「すげー嬉しいよぉ……!」

「おいおい将也ぁ!」


あ? なんだよ米太郎ごときが。人が幸福に浸ってるのに邪魔するなよ。


「火祭の手作り弁当だと? 見せつけてくれるなぁおい。調子乗ってんじゃねぇよ!」

「はぁ?」


それはあんまりだろ。お前のせいで昼食なしになったのを火祭は助けてくれたんだろうが。お前にとやかく言われる筋合いはない。


「女子の手作り弁当、しかも火祭の……! 俺によこしやがれっ」


自分の弁当箱を置いた米太郎が襲いかかってきた。奴の狙いは俺の持つ弁当! ふ、ふざけるな! もうお前なんかに弁当はやらないぞ。ぜってー死守してやる! 命より大切な弁当箱を庇うように両腕でがっしりと抱えこむ。もう失いたくないんだ。もうこれ以上大切なモノを失いたくないんだ! ぎゅっと目を閉じて襲撃に耐えるために身を強張らせる。……あれ? 米太郎の卑しい手が襲ってくると思ったが一向に来ない。弁当はホールドされたまま、俺自身も無傷。なぜだ?


「ぐっ……火祭」


目を開けば、そこには地面に沈みこんだ米太郎と俺を守るように立つ火祭がいた。米太郎の口から白い泡……みたいな白米がダラァと垂れていた。地面に倒れこんだ米太郎は死にかけの虫のようにピクピクと痙攣している。な、何があったの?


「佐々木君、私言ったよね。まー君に危害を加える人がいたら私はそれを排除するって」

「お、俺は聞いてないぞ……。クラスマッチ編の話は一部俺が出ていないシーンもあったし」


おいおい、物語をぶち壊す発言はやめてくれ。タブー連発だぞさっきから。どうやら火祭が米太郎をぶっ飛ばしてくれたようだ。さすが喧嘩最強と名高い火祭。二回ほどしか戦う姿を見たことないが、その腕っ節は無双の強さと存じております。


「まー君大丈夫?」

「俺も弁当も無事だけど」


米太郎は無事じゃないな。午後の作業に支障をきたしそうだ。


「手加減したから直に歩けるようになるよ。まー君、一緒に食べよ」


もちろん俺も米太郎なんかに同情しない。自業自得だバカヤロー。


「中学の時を思い出すなこれ……忘れかけていたこの痛み。うぅ……」


知るかよ。お前が中学時代に火祭に殴られたことなんてもう忘れたわ。そんな米太郎はほって置いて、火祭と一緒にランチタ~イム。ワクワクドキドキ気分で蓋を開けると……


「おおっ」


パアッと光が溢れ出したかのように輝く色彩見事なおかずの山々。卵焼きにウインナーと定番のおかず、大人気ハンバーグも。うぅ、これが人生のピークかも。それくらいに嬉しい!


「がはっ……どーせ見た目は良くて味最悪のパターンだろ」


悪態をつく米太郎に今度は水川がパンチを放っていた。おいおい、火祭の腕前を見くびるな。


「じゃあ頂きまーす」


高鳴る胸の興奮を抑えつつ、まずは卵焼きを一つパクリ。


「……ど、どうかな?」

「美味い! やっぱ火祭の料理は美味しいな!」

「良かった……」


普通に美味い! 絶妙の味つけに口元が思わず緩んでしまう。あぁ~美味い……。火祭が作ってくれたという喜びと外の新鮮な空気、自然の中で食べることでおいしさは倍増に倍増。疲れた体と心に卵焼きの甘さが染み渡る。


「残念だったな米太郎。火祭の料理は絶品なんだよ。俺はよ~く知っているぜ!」

「ということは兎月先輩って前に火祭先輩の料理食べたことあるのですか?」


矢野よ、良い質問だ。気分最高潮の俺がテンション高くお答えしましょう!


「先週、俺が風邪ひいた時火祭が看病してくれたんだ。で、お粥をご馳走になった」

「ぬぁにぃぃっ~!?」


うるせー山倉。米太郎の二の舞になりたくなかったら黙ってろ。そして驚いたのは山倉だけじゃなかった。辺りを見回せば、矢野がびっくりといった感じに口を開いているし、水川は「おぉ、やるねぇ~」とニヤニヤ笑っているし。米太郎は草の上で悶えているが、一番気になったのは春日だ。……あんな怖い顔した春日は見たことない。俺に殺気ごもった目線を送ってくる。な、何かまずい発言しちゃいました? でも体を拭いてもらったことは言ってないわけですし。さすがにあれ言うとヤバイ気がする。すると火祭が、


「看病って兎月先輩にお粥を食べさせたりとかしたんですか?」

「うん。あと、まー君がお風呂入れなかったからタオルで体を拭いたりとか」


と、爆弾を投下してくれた。一瞬にして場が凍った。さっきまでの和やかな雰囲気は火祭の爆弾発言で一気にぶち壊れて俺の顔からは汗が止まらない。殺伐とした空気が肌を締めつけ、口から水分が奪われる。そ、それ言っちゃ駄目でしょうよ! や、ヤバイよこの空気……。俺の直感がヤバイと告げている。そう思った次の瞬間には、


「マジかよ兎月!? ふざけんなよ、リア充か!」

「やるねぇ桜」

「二人がそこまで進展したなんて……キャーっ」

「う、嘘だろ……将也ごときが……」


喜怒哀楽の様々なリアクション。は、恥ずかしい……。今思い返してもあの時のエピソードは顔から火が出るくらいに赤面ものだ。それをこんな大勢の前で暴露されてしまったら……キャー! 恥ずい!


「ひ、火祭……なにも今言わなくても……」

「ごめんね」


そう言ったのに言葉とは裏腹に全く反省の色を見せない火祭。ちろっと舌を出す小悪魔な仕草にむしろハートをがっつり掴まれた。か、可愛いから許しちゃう! この辺が水川に感化されたよな。ナイス水川。


「……」

「っ! 痛い!?」


ぐりぃ、と背中の肉が捻れた。い、痛い! なんだ急に!? 背中がものすごく痛い!


「な、何これ……」


ギャーギャー騒ぐ皆と違って、無言でただ俺の背中を抓る……春日。その表情は……怖かった。今まで見たことない般若みたいな顔をしていた……こえぇ。


「か、春日痛い」

「……」


何も言葉を発せずただ抓る春日。怖いし、痛いし、怖いし……どうしたの!? なんか怒ってらっしゃる……? つーかマジで痛い。意識が飛びそうなくらいだ。


「恵、離してっ! まー君が痛がってる」


俺の異変に気づいてくれた火祭。俺から春日を離してくれようとしている。は、早くこの娘を落ち着かせてぇ!



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