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第81話 ハプニング発生

「でも恵の家には行ってみたいよね」

「そうだよな~。泊まりまでとは言わないから普通にお邪魔してみたい」


皆でワイワイと雑談しつつ着実に問題を解いていく。しかしまだまだ宿題は山のようにある。あ~、しんどい。いつもの俺ならあっさりとギブアップしていたことだろう。しかし今の俺には頼りになる友達が四人もいる。いや待て、米太郎は使い物にならないから三人だな。春日と火祭に水川、この三人は本当に頼りになる。教え方はとてつもなく上手だし、大学に進学したら家庭教師のバイトをすればいいと思う。俺と米太郎じゃ無理だろうな。保険体育なら教えられるけど。


「兎月、聞いてる?」

「んあ? どした水川」

「だから、今から恵ん家に行くことになったの」


え、春日の家? マジか。


「そりゃまた急だな」

「それで宿題の続きは恵の家で宿題しようってことになったの」

「ふーん」

「いや、ふーんじゃなくて。将也しか春日さんの家知らないじゃんか」

「春日も知ってるぞ」

「この場合、本人はノーカンだろうが。話の軸を折るな。で、お前が案内してくれってことなんだけど」


なるほどね。春日の家に行くから案内しろと。


「いや、春日の家だから春日に案内してもらったらいいじゃん」

「だからこの場合の本人はノーカンだって」

「いやいや、今この場合はノーカンじゃねーよ。つーか春日はいいのか? 急に家にお邪魔して」

「……大丈夫」


ならいいけど。


「でさ、春日さんの家までどうやって行くんだ? バスとか?」


そうだな、春日の家に行くならバスだよな。でも俺今日は自転車だしなー。うーん、どうしたもんか……おっ、そうだ。


「そうだ、前川さんを呼ぼう」

「「誰だよ」」


綺麗にハモった水川と米太郎。誰だ呼ばわりとは失礼な。前川さんを知らないのかよ。


「春日家の運転手だよ。ちょっと待ってて」


携帯を取り出して、電話帳で『前川さん』のところでプッシュ。プルルルと呼び出し中。


「どうして将也が春日家の運転手と知り合いなんだよ」

「なんとなく。あ、もしもし兎月です。この前はおいしいコーヒー豆を教えてくれてありがとうございます。家族全員で楽しんでます」

「どんな関係!? 友達感覚じゃんか」


米太郎うるさい。黙ってろ。


「えっと実は、かくかくじかじかってことなんですけど」

『分かりました、すぐに向かわせて頂きます。少々お待ちを』

「ありがとうございます。……ふぅ、今から車が来るから」

「……お前すげーな」


そうか? 俺というか春日の家がすごいと思うが。専属の運転手がいるって庶民の俺からしたら考えられないことだ。やっぱ春日とは住んでる世界が違うわ。


「……兎月」

「あ、ごめんごめん。勝手に前川さん呼んじゃって。俺がすることじゃなかったな。でも、この場合春日はノーカンだから」

「意味分からない」


痛い痛い! 蹴らないで!











「お待たせしました兎月様」

「わざわざすいません。あと、様付けはやめてくださいって」


場所は変わって校門前。俺達の目の前には立派な車が一台。その横を通る学校教員の軽自動車が惨めに見える。


「すげーな! 高級車ってやつ!?」


米太郎もテンション上がりまくりだ。水川と火祭も感嘆とした表情を浮かべている。そりゃそうなりますよね。俺だって最初はびっくりでした。


「こっちは俺と春日の友達です。佐々木と水川に火祭」

「「「よろしくお願いします」」」

「佐々木様に水川様に火祭様ですね。どうぞ、お乗りください」


お~、と興味津々で車内に入る庶民三人。俺も庶民だけど。


「さ、どうぞ恵様も。私、久方ぶりに恵様をご送迎できて嬉しい限りです」

「……」


ん? どした春日、乗らないのか? この車に似合う人はあなたしかいないって。さあ乗りなさいよ。


「どしたの?」

「……兎月は乗らないの?」


俺? いや俺は、


「俺は自転車で行くからいいよ。春日の家は知ってるし」


つーか五人全員は乗れないもん。最初から俺は自転車で行く計算だったんで、申し訳なさそうな顔をしないでくださいよ前川さん。


「悪いな将也。ま、庶民のお前は頑張って自転車で来るといいさ」


米太郎の見下した笑みに虫酸が走った。ごく自然にイラッとしたわ。


「んだとこのお米野郎が。農家の子供は今すぐ降りやがれ!」

「あぁ? 農家を馬鹿にするな。汗水垂らして作ったお米を食べて人は生きているんだからな」

「だったら車に乗らないで汗水垂らして歩きやがれ」

「い、や、だぁ~」


こいつ、ムカつくわ……! なんだその勝ち誇った顔は。ムカつく以外の感情が出てこないぞ。ムカつく……ああムカつく。米太郎がムカつく!


「恵様?」


ん? まだ乗ってなかったのか。早く乗りなよ。春日は車には乗ろうとせず、一歩も動かない。何かあったのか、俺には分かりませんが。とにかくあとは春日が乗れば車は発進、俺も自転車で追いかけれるのだが。


「……」

「どうしたんだよ春日……え?」

「……」


ちょ、なんで……なんで俺の横にピタッとくっついているんだよ。ようやく動いたかと思ったら俺の横に移動って……いやいや間違ったアクションですって。コマンド入力ミス?


「恵様、どうぞ中に」

「……私は兎月と一緒に行くから、いい」

「……へ?」


俺と一緒? 車には乗らないってこと? おいおい、何を言ってらっしゃるのですか。


「いや……せっかく前川さんが来てくれたんだから車で行きなさいよ」

「……」


俺の自転車で行くより前川さんの車の方が安全だし早いし。どっちが快適かは明々白々だ。なのにどうして?


「兎月、察しなさい」


車の中から水川が顔を出す。察するって何を? どんな事情だよ。分かりません。って……あ、あと火祭ぃ………あの……ものすっごい不機嫌そうだけど……そっちはそっちでどうしたのさ。


「春日さん、私が降りるから車乗っていいよ。私がまー君と一緒に行くから」

「……大丈夫」

「私が大丈夫じゃない」


な、何よこれぇ……。またもや火花散ってるよ? 二人ともどうした?


「兎月、察して」

「たぶん無理だろ」


水川と米太郎はそればっかりで助け舟出さないし。どうしたらいいんだよ!? 教えてナビィ! ヘイ、リッスン!


「……」


春日、服を引っぱるな。ちょ、なんすかその目は。何か俺に求めてる? 何か言えばいいのか?


「えっと、俺と春日は自転車で行くから、前川さん達は先に行っていてください?」

「なんで疑問形?」


なんでだろ? 俺自身も分からないッス。


「そうですか。兎月様になら安心してお任せできます。では春日様をよろしくお願いします。私達は先に行っておりますので。あ、それと鞄は預かっておきましょう」


おぉ、ありがとうございます。前川さんに俺と春日の鞄を渡すと、前川さんは運転席に乗り込んで、車を走らせる。火祭のむすっとした顔が最後までこちらを見ていた。ど、どして? そしてあっという間に車は消えていった。残ったのは俺と春日のみ。んー……とりまチャリ取ってくるか。


「えっと、自転車取ってくるから待ってて」

「……うん」


………しかし、なんで春日は車に乗らなかったのだろう? あ、もしかして俺に気をつかったとか? 一人で寂しい俺のために? そうだとしたら春日さん……あなた良い奴じゃん! そんな優しい娘だとは知らなかった。僕とっても嬉しいよ! とまあ感動しているうちに自転車置き場へと到着。鍵を外して自転車に乗る。


「春日ー」

「……」


無言で後ろの荷台に座る春日。ちなみに鞄は前川さんに渡したから、前のカゴには何も入ってない。軽くて運転しやすいや。


「ついでにコンビニで消しゴム買っていこっか」

「……」


無言は肯定の表れ、と。俺の定めたルールに従います。じゃあ行きますかね。この辺りで一番近いコンビニは……











「ありがとうございましたー」


コンビニでお目当ての消しゴムを購入。お嬢様だけど、消しゴムは普通のやつで十分なはずだ。というか、高級な消しゴムなんてあるのか? 純金が練りこまれていて、ラフレシアの匂いつき消しゴムみたいなやつ?


「あったら、すげーな!」

「早く行きなさい」


ぐっ、ノーモーションで蹴りやがって。なのにこの威力……数分ほど自然治癒の時間が欲しい。


「い、行きます」


しかしそんな時間は許されない。春日を怒らせると、さらなる追撃が待ち構えている! 休むことなく働き続ける植民地奴隷の如く俺はペダルを漕ぎまくる。朝は舌打ちが出るほどに暑かったのに今では雲で太陽が隠れて気温はぐっと下がった。とてもありがたい。快適に運転できるぜぃ。おー風が涼しい。


「ふふふ~ん 気分絶好調~♪」

「うるさい」


痛い、口ずさむことも許されないのか。優しいと思ったら春日は相変わらず春日だったようで、いつもどーりの厳しさ。はいはい慣れてますよー、と。めげずに自転車を走らせる。コンビニに寄ったので、いつもとは違う道を通りながら春日の家へと向かっている。河川沿いの爽やかなところだな~。綺麗な川を眺めていると心洗われる気分だ。ちょっとばかしゴミが目立つけど。いけないよねー、ゴミのポイ捨ては。せっかくの綺麗な川を台無しにするつもりか。とまあ思いつつ風が涼しいー。あ~、なんか良い感じ。


「風が気持ちいいよなー」

「……」


軽く話しかけてみたが無視された。この心地良さを共感したかったのに……。春日は無視が基本パターンだ。最近は無視の回数も減ってきたが、今みたいにどーでもいいことには反応してくれない。いつもの愛想のない態度。そして無表情で睨んでくる。これで男子にモテるときたもんだ。水川情報によると、一学期で七人から告白されたとか。火祭に並ぶほどの人気ぶりだ。兎月ー、焦っちゃうよねぇ。と水川がニヤニヤと言っていたが、よく意味が分からなかった。なんで俺が焦るの? 別に俺は全然モテないもんね! うぅ、悲しい。


「春日はさ、もっと喋った方がいいよ。無愛想じゃモテないぞ」

「……」


実際のところモテまくりですが。ちょっと嫌味を言ってやったのにそれすらも無視ときましたか。


「いや、モテなくていいのか。だって実際の春日の性格はもう最悪だからな。最悪に最悪を混ぜたような最悪な性格。近寄った男もすぐに逃げちゃいそうだ」

「うるさい」

「痛い痛い、脇腹を抓らないでぇ! 運転に支障が出るって」


ぐっ、反応したかと思えばすぐに暴力。コミュニケーションを取るだけでも一苦労だ。何言ってもリアクションは薄いし、何考えてるか分からないし、理不尽に暴力を振ってきて。俺が一方的に疲れるだけだ。はぁ……なんで俺はこんなことしてるんだか。全然分からな……いや、分かってるか。そんなの決まってるよな。それは…………俺が望んだからだよなぁ……。俺がそうしたいと願って、望んで自ら選んだものだ。だから春日の家に乗りこんで金田先輩との婚約をめちゃくちゃにしてやったのだから。そうまでして俺は春日の下僕であることを選んだのだ。春日といると落ち着くというか、居心地良いというか……。いやいやMってわけじゃないよ。そういう意味じゃなくて、何かこう、心から落ち着けるんだよな。……楽しい? そういった感情なのかな……。心がポカポカするんだよ。綾波さんの台詞を丸パクリですいません。とにかく全身が暖かくなる感じ? 春日といると安心する……って感じ。そりゃ蹴られたり、無視されたり、下僕扱いされたりするけど、それも含めて俺は満足してる気がする。しんどいとかキツイとか思う時もあるけど、それ以上に春日といるのが楽しくて仕方ない。


「……なあ、春日」

「……」

「俺はだけどさ……ずっとこれからも一緒にいたいって思っちゃったりするんだよなー」

「っ!?」

「だからこれからもこうして一緒にいていいか……って、春ぐえっ!? うぐうううぅぅ!?」


ぐっ!? か、春日!? 急に暴れだすなよ! 春日がすごい力で脇腹を掴んできた。痛たたあああぁぁ! 肉がもげちゃうよ!


「か、春日! 離してっ」

「……っ」


パッと痛みが消え、春日の手の感触も消えた。後ろを振り向けば、両手を完全に放した春日が。その顔は真っ赤で目は見開いている。って、


「春日!? そのままだと落ちちゃうって!」


春日の両手は宙に浮いた状態で何も持っていない。つまり春日は荷台に座ってるだけの状態。普通に危ない。さらに春日が暴れたせいで自転車も不安定に揺れている。


「あっ……」

「春日!? ぐえっ!?」


ぐ、ぐぅうわぁ!? 春日ぁ、なぜに……なぜに首を掴む!? テンパるのは仕方ないけど、首掴むのは勘弁してくれ! い、息が……


「ぐっ、うわあっ!?」


春日のテンパりが俺に移り、完全にパニック! ハンドル操作を誤って……


「ぐっ!?」


道を外れ、下の斜面となってる芝生に投げ出される。いてぇ……自転車でコケたのって小学生以来。全身を軽く襲う痛み。コンクリじゃなくて良かった。芝生はふんわりしていてクッションの役割を果たしてくれた。おかげで無傷だ。


「いててて……って春日!?」


俺が倒れたのなら後ろに座っていた春日も同様だ。慌てて振り返れば、芝生の上に倒れている春日の姿。か、春日ああぁぁ!?


「大丈夫か?」


慌てて春日の上体を起こす。芝生の草が髪についていたり、頬が少しこすれているが、それより目についたのは春日のこれほどかと言わんばかりの真っ赤な顔。さらには自転車から落ちたことがよく理解出来ていないのか、驚きの色も混じっている。


「……っ」


はっ!? や、ヤバい……殺される! お嬢様の春日をこんな目にあわせて……これはマズイ!



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