第79話 宿題を早めに終わらせるなんてマジ尊敬
「で、結局皆ですることになったわけね」
「そーゆーわけだ。なので水川っちも参加してくれ」
「人をたまごっちみたいに言うな」
あのままだと埒があかないので、米太郎に助けを求めた。すると、
「皆ですればいいじゃん」
とナイスアイデアを出してくれて、まーるく収まった。なんとか収めた、と言った方が正確なのだが。つーことで俺と米太郎に春日と火祭、そして水川の計五人で夏休みの宿題殲滅部隊を結成。皆で協力していち早く宿題を終わらせようではないか! てことで今日から早速開始します。恐ろしいくらい早いスタートダッシュだよ。
「にしても……兎月も大変だねぇ」
何が? と言いたいところだけど思い当たる節があるからなぁ。おそらく春日と火祭のことだ。あの二人はとにかく会う度に喧嘩するのだ。水川の話だと仲悪くはないはずなのに。なぜか俺がいると、いがみ合うんだよな。んー、謎だ。
「いや……兎月より恵と桜の方が大変かも」
そして意味不明なことを呟いた水川。どうしようもない馬鹿を見るような目が俺に向けられる。
「言ってる意味が分からんぞ、マミーっち」
「だからその、っちはやめて。そしてマミー言うな!」
とにかく今から教室で宿題をやり始めるわけで、俺と水川皆の分のジュースを買いに食堂へ。教室には火祭と春日に米太郎が待機している。……米太郎とあの二人の組み合わせって大丈夫か? 不安な気持ちで教室に戻ると、
「……将也ぁ」
予想以上に空気が淀んでいた。春日と火祭のせいなのか、または米太郎のせいなのか。
「俺が野菜について熱く語ったのに、この二人全然聞いてくれないんだよ」
米太郎のせいだった。明らかにトーク内容のつまらなさが招いた結果だった。野菜の話で盛り上がるわけないだろ。
「それはどうでもいいとして。早速始めようぜ」
皆にジュースを渡して、さあ宿題開始。皆で勉強しやすいように机を五個くっつける。小学校とかで給食を食べる時にする感じのやつだ。う~ん懐かしい。
「どれからする?」
「まずは数学からしない?」
「そうだな」
てなわけで数学から開始。数学教師が作った特製オリジナル問題集を取り出す。『この夏で数学が好きになる』というタイトルが腹立たしい。仮に好きになれても作った教師のことは大嫌いになりそうだ。そしてパラリとひとめくり。
「ぇ……これするのか?」
米太郎よ、その気持ち分かるぞ。最初のページ見たけどさ~……難しすぎだろ! ゲームで例えると、ダンジョン入ると突然ボスが出てきたみたいな。アイテムが村長からもらった毒消し草しかないのにボス戦みたいな。そのボスは毒攻撃はしないのにみたいな!
「……す、数学はまた後に回さない?」
「それだと去年と一緒でしょ。電話越しに泣きついてきたこと忘れてないでしょ」
うっ、水川にズバッと指摘されてもうた。確かに、これじゃあ去年の二の舞だ。嫌なことから逃げていたら何も始まらない。困難は立ち向かうためにあるものだ! お、カッコイイ台詞が浮かんだ。
「将也よ、水川の言う通りだ。困難ってのは立ち向かうからこそ困難と呼ぶんだぜ?」
「だ、黙れ米太郎! 俺と同じようなことを考えるなっ!」
な~んか俺と米太郎って同じ思考回路なんだよな。同じ馬鹿だからだろうか。その線が濃厚だな。非常に嫌だ。
「いいから始めようよ。恵はもう解き始めてるよ」
「え、早っ!?」
目の前の机に座る春日はサラサラとペンを走らせていた。すっげぇ! 軽快に問題を解いていく春日。カッコイイ……!
「いやいや、火祭もすごいぜ」
感心したように呟く米太郎。その横を見れば火祭もスラスラと数式を書いていた。こ、この人らは天才か!?
「さすがはエリートクラスの一組。俺達とは頭の出来が違うよ」
破竹の勢いで問題を解いていく春日と火祭。ペンが走る快音が心地良いくらいだ。俺と米太郎はただそれを眺めるだけ。なんとも情けない話だ。
「兎月達も早く始めたら?」
水川よ、そうは言っても問題が難しくて手のつけようがないんだけど。どう解いたらいいのか、まず最初に何をすべきなのかも見当つかない。何これ、公式とか使うの? 解き方のヒントとか載せてくれないかな。可愛いキャラクターが「こう解くんだよ!」と吹き出しで喋ってる感じにさ。うぅ、分からなくて混乱してきた。これはもう一人ではどうしようもない。
「か、春日ぁ。ここってどうしたらいいの?」
すぐさまヘルプを求める。だって分からないんだもん。
「……これは接線の方程式を求めるから……」
「え、えっと、公式は……」
「……これを使う」
「うんうん。あー、じゃあこれは2点A、Bの座標から……こう?」
「そ」
「おぉ、なるほど。サンキュー春日」
すげー分かりやすい。なんと上手な説明。馬鹿な俺がすぐに理解出来たぞ。さすが春日、頭良い人は教え方も上手いのかな? とにかく感謝です。
「うおぉ!? 進む進む、ペンが進むぜぇ!」
「ちょ、将也? 俺を置いてかないで!」
馬鹿な米太郎なんか知るか。スタート地点でいつまでも戸惑っていな!
「春日、ここは?」
「……これは線と点の距離を求める公式を使って、範囲を求めたらいい」
「公式って……これだっけ?」
「そ。絶対値がつくから」
「おー。ってことは……こうなる?」
「そ」
よっしゃ、意外と簡単に解けるぞ。類似問題が多いから一度理解したらあとは同じ要領で解いていける。こいつぁ順調だな。
「将也待て」
犬扱いするな。していいのは春日だけだ。……それも何か悲しいけども!
「なんだよ、勉強の邪魔をしないでもらおうか」
「あ、ごめん。いや、あのさ、なんか……お前と春日さんがめっちゃ良い感じだったからさ」
そうか? 別に普通だと思うけど。
「兎月、教科書貸して」
「ん、はい」
「ほらぁ、その感じ! その自然なやり取りが恋人みたいでムカつく!」
変な言い掛かりはやめてくんない? 別に春日と俺は付き合ってないから。ただの主人と下僕の関係だから。って、この説明何回したんだろうか。そろそろ飽きてきた。……それもまたかなり異常だよ。なんで呆れ気味に俺は下僕って説明をしなくちゃならんのだ。おかしいよ。
「いいからお前も早く始めろよ。何なら俺が教えてやろうか?」
「馬鹿にしやがって。ふん、お前に春日さんがつくなら俺にはもう一人の天才、火祭ちゃんがいるわ! ねー、火祭ぃ。ここの問題教え、て……あ、あれ?」
フリーズする米太郎。その視線の先にいる火祭はすごく不機嫌そうだった。手を止めて俺と春日を見つめていた。
「む~……」
ど、どうして俺の方を見てくるんだよ。何か気に食わないことでもあった? 特に悪いことはしてないと思うけど……たぶん。
「兎月、消しゴム貸して」
「ん、はい。消しゴムないの? 帰りにコンビニ寄って買っていこうな」
「……うん」
「あ、ついでに本屋にも行っていい?」
「別に」
「そっか」
「ぬあぁんだそれはぁ!?」
突然立ち上がり、ズバッと俺を指差す米太郎。歯を剥き出しにして狂ったように叫びだした。うるさいキモいやめてくれ。
「ぬぁんだそのほのぼの会話は!? 将也達の周りがピンク色になっているんだよ! ラブラブな感じが一杯だっての!」
「はぁ? 言ってる意味が分からん。日本語もっかい習え直せ」
「くそ……リア充が。豪雨に打たれて死ね!」
さっきからギャーギャーうるさいな。騒音おばさんか。
「……むぅ」
そして火祭はムスッとしてばっか。マジでどうしたのよ? 米太郎がうるさくてムカつくとか? それは俺も同じだよ。
「大丈夫か火祭。難しい問題にでもぶつかったか?」
「……そうじゃない」
「じゃあ何?」
「まー君の馬鹿」
「えぇ!?」
すげぇカウンター! 不意打ちすぎてダメージがデカイわ。つーかまた火祭から馬鹿って言われるなんて……普通に傷つく。
「いきなり馬鹿呼ばわりはあんまりだ。水川もそう思うだろ?」
「うーん、でも兎月が馬鹿なのは事実だし」
み、水川!?
「まー君の馬鹿」
火祭ぃ……。
「馬鹿」
か、春日まで……!?
「将也のばーか。死ね」
「お前に言われるとすげームカつくな!」