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第70話 自転車通学よ再び

金田秀明(かねだひであき)


好きなもの 勉強、化学平衡、駒野、家族との旅行


嫌いなもの 激しい運動、マラソン、お酒、邪魔する人


兎月や春日の一つ上の先輩の三年生。ある会社の社長の一人息子で、いずれは会社を継ぐらしい。色白くモヤシのように貧弱で眼鏡をかけている。礼儀正しく、学生とは思えない大人びた態度と笑顔を振りまく。春日に婚約を迫るが、最後の最後で兎月に見事に邪魔されて婚約は破棄されてしまう。しかし金田も自ら望んだ結婚ではなかった様子。

クラスマッチ一日目も終了し、のんびりと家に向かって歩く。ぬあー、疲れた。サッカーも三回戦で負けてしまったし、俺の夏は終わってしまったのだ。明日もまだクラスマッチは続くが、負けてしまった俺に出番はもうない。大人しく応援するかサボるかのどっちかだな。サボるなら食堂でのんびりしていたいなと考えているうちに家に到着。補習もない平日はとってもハッピーだ。ゆっくり休んでゲームでもしましょうかね。


「ただいまー」


壊れた自転車の処分と新しい自転車がくることは晩飯の時に話そうかあぁあぁっ!? ぐっ、なんだ!?


「ま、さ、や~!」


玄関に入るなり誰かが首を絞めてきやがった。ぐっ、息が……だ、誰だ? 強盗? 強盗なのか!? 家の中に強盗って……か、母さんは無事か? ぐぇ、揺さぶってくるなよ。恐怖に負けじと目を前に向ければ……んっ?


「父さん?」


そこには見慣れた父さんがいた。父さんが首を絞めてきたのだ。なんつー親父だ。何の恨みがあってこんなことを?


「は、なせ、クソ親父」

「将也……お前って奴は~!」


があぁ、この馬鹿親父はさらに力を込めてきやがった。窒息するっての!


「な、なんだよ。父親が息子の首を絞めるなんて、とんだDVだなおい」

「父親のクビを縮めた息子が何を言っていやがる。このクソ駄目親不孝ドラ息子がああぁ!」


ドラじゃねーよ。いいから離しやがれ。十代の若きパワーでおっさんを突き飛ばす。しかし父さんはフラリと立ち上がって、こちらを睨む。目が怖いって。


「……今日な、社長からお呼び出しがあった」

「そいつぁ結構なことで」

「結構コケコッコーなんだよ!」


うわっ、アラフォーのギャグ線は面白くないどころか吐き気がしてくるな。その程度なら米太郎の方がまだマシなボケをするよ。米太郎の方がボケキャラとして百倍優秀だ。


「……お前、何かやらかしただろ」

「……へっ?」


な、何のことやら俺にはさっぱりですけど~?


「シラを切れると思うなよ。誰かが勝手に社長のご自宅に無断で入って、しかも好き勝手暴れて、しまいには春日家の大事な結婚の話をぶち壊したのは今日たっぷりと聞かされたんだ」


春日父めぇ……何もうちの父さんに話さなくてもいいだろうが。ヤバ、だから父さんこんなに怒っているのか。牙を剥き出しにして今にも喉元に噛みつきそうな剣幕だ。父親の威厳どうこうとかじゃなくて単純に生物として恐怖を感じた。


「その不届き者が誰なのか……父さんだって馬鹿じゃない。社長に呼び出され、その話をされた時は死を直感した。せめて死ぬ前に孫の顔が見たかった。ま、どーせそれは今後生きていても無理だろうけどな」


それは俺が結婚出来ないと言いたいのか。ふざけるな、幸せ家庭築き上げてやるよ。そして孫の顔見せてやるよ! って、今はそんな話じゃないだろ。


「とにかく父さんは死を受け入れた。最後に冥土の土産に社長椅子に座らせてくれと泣き喚く父さんに対して社長は思いもしない言葉をお送りなさった」


何やってんだよアンタは。


「社長は『君の息子さんに気づかされた。私も娘も自分に嘘をついていたようだ。それを気づかせてくれた息子さんには本当に感謝している。有難うございます。今後も娘をよろしくお願いします』……だそうだ!」

「なんで若干キレ気味なんだよ!」

「その後『次また息子さんが不法侵入したら家族ごと消すかもしれないなー、ははっ』って笑いながら言われたんだよ。ジョークだとしてもこっちは全然笑えなかった!」


そう叫んだ父さんは涙目で睨んだ後、リビングに転がりこんでいった。ったく、テンションがおかしなことになってるぞ。……まあ実際、俺のやったことってとんでもないことだよな。人の家に侵入して人の問題に首突っ込んだ挙句、ベラべラと説教染みたことほざいてさ。一歩間違えたら本当にうちの家族は終わっていたのかもしれない。うぅ、今更ながら背筋が震えてきたよ。えええい、それはもう終わったこと。そして俺は全く後悔していない。例え春日父が俺の父さんをクビにして、うちが樹海に行かざるを得なくなったとしても俺は自分のやったことを胸張って言えるぞ。俺はもう気持ちに嘘をつかない!


「お届け物でーす」

「ん?」











クラスマッチ二日目の朝。俺のテンションはハンパなく上がりまくっている。なぜかって? うふふ、なんと……自転車がきたのだ! 昨日お願いしたばっかりなのに昨夜にはもう届いたのだ。仕事が早いというか素晴らしいというか……もう最高。金田先輩、最高じゃないですか! こんな立派な自転車を贈ってくださって。もう……最高っ! さっきから最高って言葉ばっか連発しているけど……もう最高!


「風が気持ちいいー」


今日は涼しくて絶好の自転車日和。このままサイクリングにでも行きたいぐらいだ。ちょっとコンビニ寄ってサンドイッチでも買って遠出でもしたい気分……と、コンビニの前に寄る場所があるか。


「お、来た来た。春日ちゃーん」

「……」


春日が家から出てきた。いつも通りの無表情、何考えてるか分からないんだよな。せっかく可愛いんだからもうちょっと笑顔でいればいいのに。


「おはよう」

「……おはよう」

「今日は涼しくていいよなー」

「……」


無言で鞄を前のカゴに入れて無言で後ろの荷台にちょこんと座る春日。


「ちゃんと掴んでいてよ?」

「……」


きゅっと俺の脇を掴む春日。くわっ、なんかムズムズするぅ。そしてドキッとするぅ!


「それじゃあ出発進行」


春日を乗せて自転車を走らせる。一度だけでこうやって下校したことはあるけど通学するのは初めてだよなぁ。ちょっと周りからの視線が気になるかも。こんなカップルみたいなことしちゃって……恥ずかしいよね!


「二人で自転車に乗るの久しぶりだよなー」

「……」


うーん、基本的に無視だから構わないけどさ。なんか寂しいよね、返事が返ってこないのって。


「毎日こうやって通学したいけどさ、さすがに俺がキツイから、さ……。二日に一回はバスで行くこと、に、しねぇ?」


ここの坂とか超しんどいし。額に汗がじわっと滲んできた。足も疲労が蓄積してきたし……!


「……」

「へ、返事して、よ…」


ぷはーっ! やっと坂を登りきった。二人乗りってこんなにキツイんだな。


「なぁ春日?」

「……分かった」

「じゃあさ、バスで行く時はバスで行くってメールしてよ」


そしたら俺も合わせられるし。


「……分かった」


ふぅ、良かった。春日と一緒に行きたいには行きたいけど、さすがに毎日はしんどいからな。くそぅ、俺に体力があったら。


「早く行きなさい」

「痛い! 抓るなよ、今出発しますから!」











「お、まっさやー! 朝から会うとは奇遇だな」


学校前の坂道を上っていると後ろから米太郎が名前を呼んできた。奇遇って言うけど俺達かなりの頻度で会ってるぞ。奇遇で遭遇みたいな? ラップみたいな?


「あ、春日さんも一緒なんだな。春日さん、おはよう!」

「……」

「あ、れ? どうし、て……?」

「おいおい!? 泣くなよ!」


お前、春日に対して相当打たれ弱いぞ!? それ程度の無視で泣いていたら俺なんて号泣してるって。


「春日、おはよう」

「……おはよう」

「だってよ、米太郎」

「将也に言っただけじゃねーか! 俺に対しては言ってくれていないもん。ねぇ、どうして将也なの? こいつなんてしょーもない男だよ。俺の方が断然カッコイイぜ」


こ、こいつ俺の評価を下げにきやがった! とんだとばっちりじゃないか。


「名前覚えてる? 佐々木米太郎だよ! 好きなものは野菜とお米。特技は米粒に文字を書けること。春日さん、グッドモーニング!」


そんなぐいぐいくるなよ。うっとうしいだけだろうが。


「兎月……」


ほらぁ、春日も怖がってるじゃん。俺の横にぴたーっとくっつく春日。よほど怖いのか、俺の腕を掴んできた。うお、そんな腕握られたらドキッとしちゃうって。と、米太郎の方からギリギリと歯ぎしりの音が聞こえる。何をそんな悔しそうに……お前自身が招いたことじゃないか。


「つーか自転車ってことは……後ろに乗せてラブラブ登校かコノヤロー!」


ちなみに今は自転車から降りている。ここの坂道になると登校する生徒が多くて、さすがに視線が痛いですから。


「別にラブラブじゃないし」

「うるさいやい! 勝ち組の言い分なんか聞きたくねーよ!」


お前の方がうるさいって。この負け組が。


「まあまあ、いいから行こうぜ」

「ねぇ春日さん、好きな野菜って何? 俺は全部!」


クソつまんねー話題出しやがった。春日引いちゃってるし。つーか俺もドン引き。


「将也ぁ、無視される……」

「話題変えろ」

「そっか……よし。ねぇ春日さん、好きな漬け物は何?」

「さほど変わってねーよ!」



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