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第67話 ハイテンションクラスマッチ

「へいパス。こっちこっち!」

「一回下げて。右サイド空いてるよー」

「3番のマーク外れてるぞ。フリーにさせるな!」

「遠藤! こっちにパスだ」

「兎月っ!」

「しゃあナイスパス! うおおぉぉっ、タイガーシュートぉ!」

「キーパー、顔面ブロックだ!」

「こ、怖い……」


壁に穴をあける勢いで放った俺のシュートは見事にゴールネットを揺らした。それと同時に試合終了のホイッスルがグラウンドに鳴り響く。


「1対0で二年二組の勝ちです!」


審判の声に俺達二年二組は歓喜の声を上げる。


「しゃあ! 二回戦突破ぁ!」

「イエー!」


期末テストも終わり(二つの意味で)、春日婚約のごたごたも集結して今はクラスマッチの真っ只中。俺はサッカーのメンバーの一人として決勝点をあげるという大活躍を果たした。いやー気持ちいい。俺を称えるチームメイト。もうドヤ顔が止まらないぜ。最後のシュートは我ながら最高だったね!


「次勝ったらベスト4だぜ?」

「俺のパスのおかげだな」

「遠藤の活躍が全てじゃないだろ。俺達全員がすげぇの。マジで優勝できるかも!」

「馬鹿かお前。次の相手は三年七組だぞ。スポーツクラスに勝てるわけねーだろ」


勝った余韻に浸りつつギャーギャー騒ぐチームメイト達。いかにも青春って感じだ。こいつら眩しいぜっ。


「まあまあ。とりま、他の奴らの見に行こうぜ」

「MVPの兎月がそう言うなら。よし、バレー見に行こうぜ」


俺ってMVPなの? いやー照れちゃうな。てなことで移動します。次の試合まで時間はあることだしー。やっぱクラスマッチは盛り上がるよね。もう最高に楽しいよ! うちの学校のクラスマッチは二日間に分けて行われる。種目はソフトボール、サッカー、バスケ、バレー、バドミントン、卓球の六つで、俺はサッカーを選んだわけだ。一、二回戦を順調に勝ち進み次の三回戦は午後からとなっている。暇なので他のところを見てみようと思ったわけだが、


「クラッシャーボール!」


どこかの特戦隊の技名を叫びつつ、米太郎はバレーボールを叩く。


「くっ」


米太郎のサーブをかろうじてレシーブする相手チーム。


「弾き飛ばした!?」


お前それ言いたいだけだろ。ボールが足元に転がってきた。拾って米太郎に投げつけると、


「おぉ、将也んー。見に来てくれたのか。よし、一緒にパープルコメットクラッシュだ!」


だからどこの特戦隊だよ。俺は青いハリケーンになった覚えはない。そうこうしてるうちに試合再開。






「負けた……」


体育館の壁にもたれかかる米太郎。相当ショックらしく、やたら長い溜め息をついている。あの後、相手チームの反撃により、うちのクラスは惜しくも敗れた。うーん、いい試合だったのにね。


「はぁー………あー」

「ま、ドンマイ。相手は経験者が三人もいたんだぜ。健闘した方だよ」

「ちっ、右足が完治していれば……」


おいおい、小学生みたいな言い訳しだしたよ。急に痛そうな顔してんじゃねぇよ。


「うちのクラス、あとどれが勝ち残っている?」


えーっと確か……、


「ソフトは負けたしバスケも一回戦敗退。サッカーが残っていてミントンと卓球は知らん」

「ふーん」

「どれか見に行くか?」

「そうだな。女子を見に行こう」


種目で言え馬鹿。女子が見たいって、どストレートじゃないか。


「えへへ、巨乳ちゃんいないかなぁ? ぶるるん揺らしながらおっぱいバレー」


もはや言ってる意味が分からない。そしてえらく興奮したらしく、ピョンピョン跳ねだした米太郎。右足怪我してたんじゃないのかよ。普通にジャンプしているけど? やっぱりただの馬鹿野郎なようだ。


「バドミントンと卓球見に行こうぜ」

「えへへー」


会話はできていないが、ちゃんと後ろからついて来る。つい最近、こんな馬鹿に自分は殴られて説教されたのかと思うと吐き気がしてきた。こんな大馬鹿で野菜馬鹿でただの馬鹿野郎に気づかされるなんて……そんな俺も馬鹿だったりして。とまぁなんか良い感じにまとまった辺りで、バドミントンと卓球の試合が行われている第二体育館に到着。ピン球の跳ねる音、シャトルの弾かれる音。それらを飲みこむ声援と応援。お~、すげー盛り上がってるじゃん。インドアスポーツも良い感じやな~。皆さん、いつも以上に声を出して楽しんでらっしゃる。


「ぬおおぉぉぉっ! せいやあぁぁっ! ういいぃぃぃっ!」


特に山倉。フルスイングでピン球を打ち返している。声デカ過ぎだろ。あんな奥の方の卓球台なのにここまで声が届くなんてさ。米太郎が野菜馬鹿だとしたら山倉は声デカ馬鹿だ。あいつは無視でいいな。ということでバドミントンの方を観戦しようと僕は思いました。……あれ、作文!?


「せっかくだし、上から見ようぜ」


お、米太郎にしたら良いアイデアだな。よし、上がろうぜ。


二階から下を見下ろす。ここって二階なのかな? よく分からんけど。体育館の両端の上、なんか上から見下ろせるところに上がって観戦する。女子がキャッキャとバドミントンしているのが何とも微笑ましい。


「うほっ、素晴らしい眺めですな。グフフッ」


隣のお米ちゃんが汚らしい声と笑み吐き散らしている。キメェ、そう思う俺は間違ってない。この犯罪的エロティックな友が違う意味で恐ろしい。こいつの将来が不安だよ。いつか新聞で名前が載りそうで怖い。その時は、昔は良い奴だったんですとインタビューに答えなくては。


「そういや姉ちゃんが気にしていたぞ。あの後将也がどうなったか」


そしていきなりなんだよ。ニヤニヤやめたと思ったらいきなりなんですか。えっ、菜々子さん? あー、あの後のことね。はいはい。


「お前から言っといてくれ。あとお礼も。本当にありがとうございました、って」

「いやはー、それほどでも~」

「お前じゃねぇよ」


……いやまあ実際は米太郎のおかげでもあるんだけど……でも米太郎に感謝の意を述べるのは恥ずかしい。うん……恥ずかすぃ。


「照れなくてもいいんだよー、将也きゅぅん。俺はただ親友のためにやったまでなんだから。ふっ……だってお前の悲しげな瞳はもう見たくないからさ」

「テラキメェ!」

「ぐぬぅへぇ!?」


右ストレートを決めてやったのに米太郎は倒れなかった。この野郎、俺はお前のパンチで地面に叩きつけられたってのに。だが効いたらしく、両目にはうっすら涙が溜まっている。


「ぶったね。親父にもぶたれたことないのに!」

「黙れアムロ太郎」

「アムロじゃない、桂だ。あん、違った。米太郎だ!」

「ギガうるせぇよウザ太郎ぉ!」

「とぼぐるくぅ!?」


腹に蹴りをぶち込むと今度は床に倒れ込む米太郎。よく分からん奇声を上げた辺りがまだウゼェ。そして倒れたあとも、そのアングルから下の女子を眺め出しやがった。タフにも程があるよ!


「ぬふふ、やっぱ素晴らしい眺め………ん? あれは……おい将也」

「あ?」


ちょいちょいと米が示す先。手前のコートにいるのは……春日。ラケットを持ってコートに立つのは春日さん。その長い髪をなびかせて華麗にシャトルを打ち返して……いない。というかピクリとも動いていないんですが……。ラケットも持ってはいるが全然振らないし、全く戦意がない。全然動かないって……手塚ゾーンじゃないんだからさ。相手もどうしたらいいか分かんないで戸惑ってるし。それでも試合は続く。相手の点がひたすら増えていっている。


「将也、あそこにいるのって……なあ、応援してやれよ」


はぁ、俺が? なんで俺が……いや、うん……オッケーだ。 


「……よし」


すぅ、と息を吸いこむ。応援してやれば春日もやる気を出してくれるかも。


「春日! 頑張れー! スマッシュぶち込んでいこーぜ!」

「……」


山倉ばりの大声で応援する。……うっ、すげぇ睨んできた。こっちに戦意が向いちゃったよ! ヤベ、こっからでも伝わってくる。春日の不機嫌オーラが! こいつぁマズイです!


「米太郎、逃げるぞ!」

「なんでだよ。まだおっぱい見てねーぞ」

「絶対に見れないから! いいから行くぞぉ!」


ここにいちゃマズイ。春日の試合が終わる前にエスケープしなくては!


「ゲームセット。互いに礼」


あっ、終わった。二つの意味で……。


「兎月」

「うわっ春日、痛っ!」


こんな強いローキック打てる力あるなら試合の方に使えよ!


「す、すいません……」


とりあえず謝っておく。なぜかって? 俺がヘタレだからさ!


「お邪魔な俺は退散しましょうかねー」

「待て、米太郎」


行かないでくれ。お前が消えたら誰が俺を守ってくれるんだ!


「あぁん? んだよ、イチャイチャするのを見せつけるだけだろうが。嫌がらせでしかないわ」


別にイチャイチャはしてねーよ。どう見ても単なる一方的なバイオレンスだろうが。


「なぁ頼むよ。いてくれよ。春日のおっぱい見せるから痛い痛い痛いぃ!」


ぎゃああぁ!? 殴る蹴る抓るの乱舞が炸裂! 驚異的な速さでHPが減っていくぅ! ピコンピコンの警告音が頭に響く。


「す、すいません……」


今のは100%俺が悪い。反省してます。だからもう蹴らないでくださぁい!


「じゃあ、俺行くわ。アディオス、イチャイチャカップル」


くそ、見放しやがって。


「……やっぱお前達、二人でいる方が楽しそうだな」


そう言って米太郎は早足で去っていった。……ま、まぁ楽しいには楽しいけど……他人に言われるとちょっと恥ずかしいな。それにこうやって春日といれるのも米太郎のおかげでもあるし……あいつって実際は良い奴なんだよな……。素直にお礼は言えてないけどさ、本当に感謝しているよ。ありがとうな。ってこんな台詞ぜってー言えないけどね。


「……兎月」

「ん、何?」

「……」


何か用ですかい? 米太郎の後ろ姿を見送り、振り向けばそこには俯く春日お嬢様。どしたの? 呼んだだけ~、みたいな可愛い感じのやつですか?


「……」

「……」


マジで何も言うことなかったみたいだぞ!? 変に気まずくなったじゃないか!


「……え~っと、試合残念だったな」

「……」

「もうちょっと真面目にしたら良かったのに~」

「うるさい」

「がっ!?」


またもやローキック。……はぁ、あの事件以来何か態度が変わるかなと思ったけど、前と変わらず黙って無視してローキックの非常識アクションの数々。常にツンツンしてるもん。ま、それが春日なんだけどね。デレる春日なんて春日じゃない。でも、デレる春日も見てみたいな。いつか見れるのだろうか。うーん、たぶんないでしょう。


「っ……兎月」


極端に小さい声を出して春日が俺の後ろに隠れる。え、何? 急に何なのさ?


「あの……」


……あ。ふと前を見れば、そこには金田先輩が。いつもの眼鏡にいつもの色白な肌。いつもと同じでないのは何やらやつれた顔。げっそりしてますけど?


「兎月君、先週は本当に申し訳なかった」

「いやいや、俺の方こそ。乱入しちゃってすいませんでした」


実質、俺が二人の婚約をぶっ壊したようなもんだしな。あれって金田先輩からしてみれば俺はただの悪役だもんね。


「それでちょっと恵さんに話があるんだけど……」


春日に? もしかして、また結婚しようとか?


「……兎月」


痛い痛い。そんな力一杯しがみつかないでよ。ギュウ、と服を掴んでさらに後ろに隠れる春日さん。そんな怯えなくてもいいじゃん。


「だ、大丈夫。もう結婚しようなんて言わないから。ただ今回の謝罪をしたくて……」


ほら、金田先輩も求婚するつもりはないってさ。話くらい聞いてあげなさいよ。


「……」

「春日、俺もついて行くから。話聞いてあげなよ」

「……分かった」

「よ、良かった。兎月君、ありがとう」


はあ。なんか先輩の上品スマイル弱々しいですよ?



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