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第66話 エンディング

春日さん視点から始まります。

「さよなら」


そう言うしかなかった。これで最後だと決めていたから。だからそう言う以外になかった。……もしかしたら、兎月はまだ私のことを見ているって。そう期待してしまったから彼を引き止めた。けど、兎月は何も言ってくれなかった。期待するような言葉を返してはくれなかった。……兎月がどう思っているのか分からない。ずっと逃げてばかりだもの、あの人は。今までは違ったのに……無理矢理命令しても理不尽な暴力を振るってもどんなことをしても兎月はいつも答えてくれた。私を見ていてくれた。なのに……最近の兎月は逃げてばかり。分からないのだろうか、どうして私が何度も気持ちを確かめてくることを。……私があなたに問いかけるのかどうして分かってくれないの? それは………私とあなたが同じ気持ちだからだと、私はそう信じているから。あなたの悲しげな表情をこっそり見ていた。会えなくなった後も遠くからずっと見ていた。楽しくなさそうな兎月を見ていると、自分もそうであることに気づいた。だから尋ねた。兎月にも気づいてもらいたかった。あなたと私、同じ気持ちのはずなのだから。………でも兎月は何も言ってくれなかった。だからもうおしまい……私から言うことなんて出来ない。私から気持ちをぶつけることなんて出来るわけない。いつも黙って気持ちを押しこんで暴力にして理不尽にぶつけている私に真正面から言葉で伝えるなんて出来ない。だから兎月に……って思っていたけど、それも駄目だった。もう私達はおしまい、そう結論づけるしかなかった。…………嫌なのに。本音を言えばそんなの絶対に嫌なことなのに………そう言えなかった。言えなかったから私と兎月は離れ離れになり、こうして私は顔も見たくない男と向き合わないといけない。


「つまりまだ結婚は早いと私は考えている。まだ先の話ということだ」

「それについては僕も追々話していって決めていこうと考えております。両家にとって好ましいものにしたいですからね」

「つまり、結婚はもう少し待ってはくれぬか?」


パパと金田が話している。それを私は聞くしかない。それが私が逃げることで選ばざるを得なかった道。でも………もう一度、兎月に会えるなら…………もし、また兎月と向き合えるなら、今度は言えるよう頑張ってみたい。そう思った時だった。扉が力強く開き、一人の少年が勢いよく部屋に飛び込んできた。……私を真っ直ぐ見つめてくれるあなたに出会えた瞬間だった。





















「春日……!」


春日も俺と同じ気持ちだった。俺と同じように一緒にいたいって思ってくれていた……! 良かった……お互いの気持ちを分かり合えて……うぅ。勇気を出して気持ちを吐露して良かったと心の底から喜べた。


「待て」


感無量の俺を低い声が貫く。ズブリと胸を突き抜け、全身を一気に冷やされた気分。声の主は春日父。無表情の顔に二つの鈍く燃える瞳がこちらに向けられた。燃えているのに冷たく感じる。思わず体が硬直してしまった。


「随分と勝手なことを言ってくれたな」


ふらりと立ち上がる春日父。ヤバイ、怒っていらっしゃる。このまま俺をコンクリに沈めるに違いない! ぅ、ぬおおぉぉ、あぁ俺はもう終わりだ……視界の右下にジエンドの文字が浮かび上がった。で、でも悔いはない! 本当の気持ちを伝えられたんだから。そ、それだけでもう十分だいっ!


「つまり貴様は結婚に反対、というわけだな」

「……そうです」

「この婚約は春日家と金田家のことだ。貴様には関係ないはずだが?」


そりゃそうだな。じゃあ……


「春日はどう思う?」

「嫌。こんな奴と結婚したくない」


こ、こんな奴って……バッサリ言いやがったな。金田先輩が可哀相だよ。


「だそうです」

「……それも恵の気持ちでしかない。この結婚は決して悪いものではない。金田家と繋がるのは我がグループにとって大きな前進となるんだ」

「それもあなたの気持ちでしかない。親なら子供のことを第一に考えたらどうですか?」

「子供なら親孝行したらどうだ」


親孝行、ねぇ。俺なんか一度もしたことないよ。今だって下手したら父さんをクビにしてしまうかもしれないという親不孝を絶賛実行中だからな。親の仕事を奪い、揚句には親より先に旅立つというとんでもない親不孝ぶり。超最悪奇天烈馬鹿息子として歴史の教科書にエントリーしたいものだ。ごめんね父さん、やっぱ俺って馬鹿ですわ!


「……兎月」


じっと春日が見つめてくる。今なら春日の目を真っ直ぐ見つめることが出来る。春日の気持ちが手に取るように分かる。だって俺と春日は同じ気持ちだから。大丈夫、春日の気持ちはちゃんと伝わったから。ここは俺に任せてくれい。


「春日のお父さん、先月誕生日だったんでしょ?」

「そうだが」

「春日からプレゼントもらいましたか?」

「……いや」

「春日はあなたに誕生日プレゼントをあげるつもりだったんですよ」

「恵が……?」


親父さんの横で春日がコクリと小さく頷く。


「ま、結婚がなんたらかんたら~で色々とごたついてしまってプレゼント買いに行けてないみたいですが。……さっき親孝行って言いましたよね。娘が嫌がる相手と結婚、娘が父親のためにプレゼントを贈る……どっちが本当の親孝行だと思いますか?」

「……」

「少なくても俺と春日は後者です。あなたはどうですか?」

「……」


考えてもみろ。あなたも人の親ならどっちが嬉しいか。会社とか社長とか関係ねえよ。そんなのただの逃げだ。俺が自分の気持ちから逃げていたように、アンタも自分の気持ちから逃げているだけじゃないか!


「アンタはそれでいいのかよ。自分の気持ちに嘘をついて、自分の気持ちを隠して、自分と向き合わないでさ。それで本当にケジメがついたのかよ。まともに自分とも、そして娘とも向き合えないで出した嘘の答えで終わってしまっていいのかよ。絶対に後悔しない選択をしたと胸張って言えますか?」


俺にも突き刺さる言葉。俺もそうであったから。嘘ばっかついて逃げてばかりで。今の春日父もそうに違いない。だからこそ、この言葉が深く突き刺さっているんだろ!?


「会社がどーのこーの言って、くだらない馬鹿なことを理由にして隠れているだけじゃないか。それで隠し通せるほどアンタの気持ちは小さいわけないだろ。だから今こうして迷っているんだろうが! ただ純粋に自分の気持ちに問いかけたらどうだ。結婚とプレゼント、どっちが嬉しいか聞いているんだ。どっちが心の底から喜べるかって聞いているんだよぉ! 会社のためだぁ? それがアンタの本心なわけないだろ。社長だなんて偉い立場じゃなく! ただ娘を思う一人の父親としてアンタはどうなんだ!?」

「っ……ええぇい、うるさい! ぐおおおおおぉぉっ!」


うおっ!? 突然立ち上がる春日父。あ、あかん。調子に乗り過ぎた。やっぱ殺されちゃうぅ? コンクリが目の前に流れてくるよぉ!?


「……春日グループの社長でなく一人の父親として……私も結婚は賛同出来ない」

「お、お義父さん!?」

「お義父さん言うな!」

「えぇ!?」


うろたえる金田先輩に怒鳴る春日父。うお~、このやかましい大声こそ春日父だよ。静かに喋る春日父なんて春日父じゃない。そうです、そうやってあなたも本音を言ってください。馬鹿みたいに叫べばいいじゃないか。


「金田家の一人息子だか何だか知らないが、こんな色白のひょろひょろ野郎に娘はやれん。というか誰にもやらんからな、ばーか! 私の大切な娘は誰にも渡さんわ!」


と思いきや、爆発しちゃったよ。本音ぶちかまし過ぎだろ……。やっぱこの人、本当の親バカだったわ。聞いているこっちまで清々しくなるぐらいだ。


「だからこの話はなかったことにする。恵、すまんかった。お前の気持ちも分からず、勝手にこんなことをしてしまって……」

「ううん。パパは悪くない」


春日も父親を許してくれたみたい。良かった、これで一件落着。


「ちょっと待ってください!」


金田先輩が声を荒げて立ち上がる。フラフラと上体が揺れつつも、なんとか踏み止まる金田先輩。この人もまだ言いたいことがあるのだろうね。


「そんなの困ります! うちの会社はこの話でまとまりかけているんです。今更、婚約破棄だなんて……冗談じゃない!」


金田先輩の言うことも尤もだ。しかし、


「うるさい」


春日が一蹴する。とんでもない理不尽親子だなおい。そして金田先輩、あなたも同じでしょ。俺達と。


「金田先輩、あなたは本当に春日と結婚したいんですか?」

「な、何を。当然じゃないか」

「俺、あなたが春日のことを好きだとか愛してるだとか聞いたことないですよ。ただの政略結婚ならやめた方がいいですって」


どう見ても金田先輩は春日のことを好いているようには見えなかった。ただ自分の会社のためにやっているようにしか思えない。それこそ仕方なく、という感じに。ただ目的を果たそうとするだけの何の気持ちもこもっていない空っぽの使命感のみ。


「秀明君、別に君のお父さんの会社は春日グループと繋がらなくとも十分に大きな会社ではないか。君らの上にはあの超巨大企業グループがあるのだから」


何やら会社の話になってきた。その辺ちんぷんかんぷんなんですけど……。


「そ、それじゃ駄目なんです」


まだ引き下がらない金田先輩。そんなに春日と結婚したいのかよ。いや、違うはずだ。


「金田先輩、あなたはH大を目指しているんでしょ。そのために彼女も作らずひたすら勉強していたって聞きました。そのあなたが急に結婚だなんて、何かあったんじゃないですか?」


すると金田先輩の体がビクッと震えた。ほら、やっぱ何か事情があるっぽいぞ。


「……だ、駄目なんです。僕は恵さんと結婚しないと……。会社のために……!」


重たいものを感じる。金田先輩から何やら大きな決意と責任を感じるんだけど……一体何をそんな結婚にこだわる必要が……?


「……なるほど」


春日父がポツリと一言呟く。納得といった顔をしているけど何が分かったのやら。


「秀明君、少し話を聞かせてもらおうか。君の会社のために」


再び春日父はソファーに座る。そしてこれまた俺をギロリと睨みつける。怖いです。ひるみますって。


「貴様は恵を連れてここから消え失せろ!」


ぐっ、なんつー言い方。俺に対して当たりキツくないか?


「恵、本当にすまなかった。今度好きな物買ってあげるから」


子供か。小さい子供をあやすんじゃないんだから。それが高校二年生になる娘に言う台詞かよ。


「貴様は早く失せろ! 本来なら不法侵入者としてコンクリに沈めて海に落としてやるところだが、今から大事な話がある。埋められる前にさっさとこの場から消えるがいい!」

「は、はい! 失礼しました!」


ガチでコンクリに沈めるつもりだよあの顔は。もう怖すぎて涙が出そう! その場で頭を下げて、そそくさと応接間から脱出。ぐぬあ~、緊張した。もうこんな肝が冷えることはしたくないね。


「……兎月」


隣には春日。いつもの無表情。しかしどことなく嬉しそうに見えるのは俺の気のせい?


「え~っと、ごめんな。急に押しかけて。びっくりした?」

「……」

「あ~…………この前は適当なこと言ってごめん」

「……」

「春日は何度も俺に問いかけてくれたのに俺はそれを無下にして……ごめん」

「……」


や、やっぱり無言……。いつもの春日に懐かしさを感じつつも、この状況でこの沈黙はかなり辛い。もうこれ以上は……どうしよ? 俺にはひたすら謝ることしか出来ないッス……。


「え~、その……ご」

「もういい」


え?


「もう喋らなくていい」

「春日……っ」


右手が温かくなった。じんわりとした温もりが伝わってくる。春日が手を握ってきたのだ。しっかりとそして優しく。途端に気持ちが軽くなった。


「兎月が来てくれた。それだけで十分。……ありがとう」


横を見れば……今までで一番ニッコリと輝く眩しい春日の満面の笑み。こんな笑顔できるんだ……ヤベ、正直マジで惚れた。右手どころか体中がポカポカとしてきた。春日の笑顔がまるで太陽のように俺を優しく温もりで包みこむ。


「え、えへへー」

「でも来るの遅い」

「へ? がっ!?」


ぐううぅぅ、右足に激痛がっ。ひ、久しぶりだな春日のローキック……! 忘れかけていたこの痛み!


「いってぇ……」

「馬鹿」

「ぐあっ!? 痛っ、だから同じ箇所に続けて蹴るのは反則だっての」

「うるさい」


相変わらずの理不尽っぷり……ま、それが春日なんだけどな。思わず、くすっと笑みがこぼれちゃう。ドMじゃないよ!? ふぅ、このやり取りも懐かしいな。約一ヶ月ぶりだもん。やっぱ俺達はこうでないとな。さて、廊下にぶっ倒れている汗まみれで死にかけの初老男性二名はほって置くとして。まずはあなたとの約束が最優先ですからね。約束果たすの遅くなってすんません。


「んじゃ、プレゼント買いに行きますか」

「行くわよ」


だから行きますかって言ったじゃんよぉ。勝手につかつか歩きやがって。その辺りも全く変わってないよね。


「早くして」


相変わらずの命令口調ですか。ホント、一ヶ月経っても何も変わっていないみたい。俺達の関係は変わり、また元に戻ったのにね。そう、俺達は戻れたのだ。いつもの、いつもの俺達に。


「早く。ついて来なさい」


はいはい、もちろんついて行きますよ。


「だって兎月は私の……」


だって俺は春日の……






「「下僕だから」」



どうも腹イタリアです。


今回で『春日婚約編』完結です。グダグダとよく分からない内容の、心情も読み取りにくくて長ったらしい下手くそな文章でした。シリアスって難しいですよね、なんて言う資格もないぐらいですよ。ここまで読んでくださった方々、読みにくい物語で大変申し訳なかったです。そして読んでくださって本当にありがとうございました。


ぶっちゃけ今回のお話で完結ってことも出来そうですが、そうはならず。まだしつこく続いちゃいます。次からはコメディーに戻りますので、どうかこれからもよろしくお願いします。

そして感想とか意見とかリクエストとか何でもお待ちしておりますぅ!w


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